「いよいよ、明日…ね」

 ふと彼女がつぶやく。私は

 「そうだねぇ、でもきっと素敵な式になるよ!」

 と返した。すると彼女は

 「ふふふっ、…そうね」

 と目を細めて笑う。…きれいだと素直に思った。

 いよいよ、明日。

 私達の式も、りっちゃんとみおちゃんのみたいに、

  素敵な式にしようね。…紬。


―――――――――――――――――――


 今日は紬と唯の結婚式。

 「和ちゃ~ん、かっこいいよ~」によによ

 憂、私は着せ替えのお人形じゃないのよ。

和「ねえ、憂。なんで私タキシードなの?」

憂「だってかっこいいんだもの~」にやにや

和「………スーツとってくるわ…」

憂「え~」ぶー

 この子、最近になって姉に似始めたわね。…要注意。

ー・-・-・-・-・-・-

 タクシーで会場までは約30分。…あと10分ってとこだろうか

 隣に座る婚約者はきょろきょろと落ち着かないようだ。


和「憂?どうしたの?そわそわして…」

憂「い、いやね?お姉ちゃん、ちゃんとできるかなって…」

和「なに、そんなこと?」くすくす

憂「そっ、そんなことなんて酷いよ!ばか!」

和「だって紬がついてるじゃない。…あなたに私が居るように」

憂「……そうだね、私の方が馬鹿だったよ!」

和「あなたは優しい子よ…私が隣に居る限り、ね」

憂「ふふっ、和ちゃんは詩人さんだね」くすっ

和「あら、作家先生に褒められちゃったわね」

憂「…うん」

 握った憂の手は、ほんのり汗ばんでいて、

  この世のなにより、温かかった。

ー・-・-・-・-・-・-

 会場の門をくぐり、玄関ホールを目指して歩く。

 この手はまだ、離さない

 「おっ!アツいねぇ!お二人さん!」

 やたらテンションの高い声。

 ホストみたいな髪形をした、私の同僚。

和「律、あなたねぇ…」

憂「おはようございます!律さん!」ぺこっ

律「おう!おはよ!…真鍋さんとこの奥さん?」にやにや

憂「り、律さん!?」かあっ

和「はいはい、そこまで。…律、澪は?」

律「あいつは唯の髪をセットしてる。憂ちゃんも行ってきな!」

憂「はい!」たたたた

和「あ…私も…」

律「あーあー!和はダメ!澪曰く嫁さんズ以外は立ち入り禁止なんだと!」けらけら

和「あら、そうなの?」くすっ

律「ま!一服しようや!」

 律はいつもの太陽のような笑顔で私に缶コーヒーと煙草を差し出す

和「ありがと。…ところでほかの人たちは?梓や純も来るんでしょう?」

律「おう!だから私が待ってるってわけよ!」にかっ

和「ふふっ、そう」

 「うおおお!やっぱでっかいねー!ここ!」

 「馬鹿!恥ずかしいでしょ!…ああもう!スーツは着崩すなって何度も…」

律「おっ!バカップルの登場かぁ?」けらけら

和「あなたが言えたことじゃないでしょう…」

 「あ!おーい!律さん!和さん!」ぶんぶん

 「えっ!…あ」

律「あははは!おーい!」ぶんぶん

和「相変わらず落ち着きのない子ねぇ」はぁ

純「お久しぶりです!…おおお!律さんの髪カッコいい!」

律「だろぉ!?嫁の自信作なんだ!」ふんす!

梓「じゅーんー…」ごごごごご

純「ひいィっ!あじゅさ!ちゃんと着ますから!」

梓「…ふん。律先輩!和先輩!おはようございます!」

和「ふふふっ、おはよう」

律「おはよ!梓!…ほんとにバッサリいったんだな」

梓「はい!さすがに邪魔になってたんで…」

律「私はロングの梓も好きだぜ?」

梓「澪先輩と同じだからでしょう?」くすっ

律「まあな!」あははは


 暖かい空気が流れる。でも、やっぱり

    憂の方が、…暖かい。


―――――――――――――――――――

 二人しかいない控室。

 私は真っ白な燕尾服に袖を通す。

  最愛の人が選んだ、花婿衣装に。


 「…お嬢様」

 「なあに?、斎藤」

 「綺麗に…なられましたな。…お美しゅう…なられました」

 「斎藤…」

 「私には子がおりません…どうか、どうか今だけ…お許しください」

 斎藤の両の腕が私の肩を抱く

 すっかり白くなった髪が頬に触れる

 「…斎藤?」

 「……綺麗になったな…紬よ…」


  紬。 彼は確かにそう呼んだ。

  どんな時も主従の関係を守り続けた彼が―――


   わたしを、娘と、そう呼んだ


 ありがとう、斎藤。…私の、もう一人のお父さん。

             私は、幸せになります。


――――――――――――――――――――



 「よし!完璧だ!」

 澪ちゃんが高らかに声をあげた。

 「おねえちゃん…綺麗…」

 憂がうっとりと呟く

 馬子にも衣装、意味はよくわかんないけど、多分、今の私。

唯「えへへ…ありがと!澪ちゃん、憂!」

澪「ふふふっ、すっごく綺麗だ!唯!」

憂「ほんと…きれ…う…」

唯「憂…」

 憂の目から涙がこぼれ落ちる

唯「憂…泣かないで?」

憂「うん…大丈夫…感動しちゃって…」

 えへへ、と憂が笑う

唯「式の時用の涙、とっときなよ?」

憂「…もう」くすっ

 よかった。 笑った。

澪「ふふふっ、なんか思い出すなぁ」

 澪ちゃんが自分の薬指を見ながらしみじみと言う

唯「澪ちゃんたちの式、綺麗だったなぁー」

澪「ん…ありがとう。…じゃあ、私はこれで」

憂「ありがとうございました!澪さん!」

唯「ホントだよ~ありがと!」

 くすりと笑って、澪ちゃんは部屋を後にした

唯「………」

憂「………」

唯「…お姉ちゃん、先に幸せになるからね?」

憂「…うん!」

 ありがと、憂。
         次は、憂の番だからね。

――――――――――――――――――――――


 「律!だらしなく座るんじゃない!」

 「うえーい」

 「ほんとに律先輩は…ほら純も!」

 「「うえーい」」

 「「こんの馬鹿(律・純)!」」

 「あ…あははは…」

 「まったく…もう…」

ー・-・-・-・-・-・-・-・-

 馬鹿の馬鹿な行動をたしなめるのにも疲れた頃、アナウンスが響く

 『皆様、これより、新郎が入場されます。カメラをお持ちの方は、撮影しやすいところへ、移動なさってください』


 『新郎、入場』

 ファンファーレとともに、扉が厳かに開く

 激しいフラッシュの光と拍手の中を

 白い燕尾服を纏ったムギ先輩が、一歩、また一歩と歩みを進める

 美しくも凛々しい金の髪を揺らして。

 祭壇に上がったところで、此方に向き直る。

 …いいなぁ 私も、いつか


 ぎゅっ


 横に座る純の手を握る

 純は特別驚くこともなく、握り返してくれた


 …純、  期待して…いいよね?

ー・-・-・-・-・-・-・-・-

 眩しい 目がくらむ

 リハーサルと本番では、祭壇の上からの景色が全然違う

 あ…澪ちゃん、泣いてくれてる…

 さわ子先生も…

 お母様も…お父様も…

 っ… だめだめっ! 泣くな、私…

 あ…りっちゃん…

 りっちゃんが…なに?  …わ・ら・え?かな?

 …ふふふっ ありがとう

 『新婦、入場』

 き、きたっ!


 扉が再び開き、光の中を歩んでくる  愛しい人

 私も愛しい人へと近づく。

 彼女のお父さんと目が合う。泣きながら笑ってらっしゃる

 解ってます。必ず、必ず幸せにします


 彼女の手をとり、祭壇へ向かう

 ああ 私はなんて幸せなのだろうか――――

ー・-・-・-・-・-・-

 汝、琴吹紬は 平沢唯を妻とし 良き時も悪しき時も 富める時も貧しき時も

 病める時も健やかなる時も ともに歩み 他者に依らず

 死が二人を分かつまで 愛を誓い 互いを想い 互いにのみに添う事を

 神聖なる婚姻の契りのもとに…


 誓いますか?


 なにを迷う必要があるか     


    誓います


 ここに、指輪の交換を―――――


 私のお給料だけじゃ、そんなに良いものは用意できなかった

 それでも、最高の愛情を込めた

 私の愛が一番綺麗なんだ と彼女は、

 唯は そう言ってくれた


 それでは誓いのキスを…


 「唯、…幸せね…」

 「うん…幸せ…すっごく!」


 今日ここに、私達は 


    結ばれた



    おしまい



3 ※おまけ律澪編