和「ひだまりLiving」
平沢家
和「こんにちは。」
唯「こんにちは、和ちゃん!」
憂「いらっしゃい。」
私にとっては、自分の家と同じくらい馴染み深いこの家は、今日も暖かい空気に包まれていた。
受験を終えた三月のあるひと時、勉強の重圧からの束の間の解放を約束された私がいた。
唯「和ちゃんは何か用事とかあるの?」
和「ううん、特に何も。」
唯「そっか、じゃあゆっくりしていってね!」
和「そうさせてもらうわ。」
憂「お茶淹れたよ。」
和「ありがと、いただくわ。」
憂の淹れたお茶を飲み干す。
体の中から広がる熱が私をやさしく包む。
唯「和ちゃん。」
和「何?」
唯「こっちに来てみなよ。すごく暖かいよ!」
和「唯、床に寝転がるのはみっともないわよ…」
唯「え~、気持ちいいのに~」
床にだらしなく寝ころぶ唯。
床には窓から入ってきた日の光でひだまりができていた。
あそこで寝転べば確かに気持ちよさそうだ。
唯「和ちゃんもゴロゴロしてみようよ~」
和「私は遠慮しとくわ…」
憂「お姉ちゃん、何してるの?」
唯「ここ、暖かくて気持ちいいよ!憂もおいでよ。」
憂「どれどれ…ホントだ、あったかい!」
憂も床に寝ころんだ。
普段は真面目な憂も、こういう様子を見ると、やっぱり唯の妹なんだと感じられる。
唯「ほら、和ちゃんも。」
和「わ、私はちょっと…」
憂「遠慮しないでよ!和ちゃん。」
和「憂まで…」
姉妹は私をひだまりの中へと誘う。
昼食を食べた後だからだろう。
眠気に襲われる。
和「仕方ないわね…ちょっとだけよ。」
唯「わーい、やった~!」
憂「それじゃあおいでおいで!」
和「はいはい…」
結局、リビングのひだまりに我が身を預けることにした。
唯と憂は嬉しそうに私の分のスペースを空けた。
唯「の~どかちゃん♪」
憂「和ちゃん、あったかい!」
和「もう…」
さっそく抱きついてきた姉妹。
ちっちゃいころから全然変わっていない。
二人とは幼稚園で出会ってから、小学校、中学校、高校と一緒の道を歩んできた。
でも、「三人一緒」ももうすぐ終わる。
大学は別だから。
私は家を出て、少し離れた場所で独り暮らしをするつもりだ。
今の今まで近くにいたこの姉妹ともしばしのお別れ。
これから私は、二人とは別々の道を歩んでいくのだろう。
そう言えば、唯も一人暮らしをするらしい。
あの唯が自ら進んで一人暮らしをするなんて…
高校に入りたての頃の唯の様子からは、とても考えられなかった。
軽音部のみんなと出会い、唯は本当に成長した。
そして「みんなと一緒にいたい」という一心でN女子大に合格した。
これからもきっと、私の想像をはるかに超えた進歩を成し遂げていくのかな?
和「ねえ、唯。」
唯に呼びかけてみた。
しかし反応がない。
寝ている。
実に幸せそうな寝顔だ。
憂も同じく、すやすやと眠っている。
そろそろ私も眠くなってきた。
幸せ者の姉妹に抱きつかれながら、今はこの暖かなひだまりの中で眠ることにする。
おしまい
最終更新:2011年03月02日 22:18