唯「んー、おいふぃ♪」

憂「おいしいね~♪」

 憂がアイスを半回転させると、今度は私がペロペロと舐め、憂がかじった。

憂「ん~♪」

 ほっぺたを押さえた憂の表情が幸せそうでちょっと嫉妬するけれど、

 私はあれ以上の顔をさせられるのだ。

 怒る必要なんてない。

 憂も反対側からぺろぺろと舐め、溶けたぶんをすする。

 舐める範囲をわざと大きくして、憂と舌をぶつける。

 冷たい感覚は、普段のキスでは得られない。

憂「お姉ちゃん、鼻にアイスついちゃってるよ」

唯「えっ、ホント? とってー」

 憂がちょっと首を伸ばして、私の顔に接近する。

 冷え冷えの舌が、私の鼻をぺろりと舐め、くちびるがちゅっと吸っていった。

唯「ん、ありがと。……あれっ、憂も」

 指にアイスを乗っけて、憂のくちびるに塗りつける。

憂「んっ……」

 憂が持っていたアイスを横によける。

 服が汚れる心配もない。遠慮なくくちびるにしゃぶりつく。

憂「はっん、……っ!」

 くちびるを舐められるのも憂は結構好きで、

 憂をえっちな気分にさせたいときはくちびるを舐めてやるといいのだ。

憂「はぁ、ぁむ、ちゅっ」

 案の定、離れようとした唇に憂は吸いついてくる。

唯「どしたの憂? アイスがついてただけだよ?」

憂「ん、う、もうっ……」

 アイスが元の位置に戻ってきて、むくれたまま憂は再度口をつける。

唯「えへへ。ぺろ、ぺろ……」

 アイスはだいぶ量が減って、丸まってきた。

 舌ももう普通に触れあっているけれど、気にせずアイスを舐め続ける。

 憂の舌はいくらか私に激しいキスを求めるような動きをしているが、相手にしない。

憂「んぅー……ぺろ」

 悩ましげに憂はぶー垂れる。

 冷たくて、アイスをいっぱいにまとった憂とのキスは普通においしい。

 口の中まで攻め込んで、ほっぺたの裏側なんかの冷たさも味わってみたいけれど、

 それはアイスがもう少し減るまで我慢だ。

憂「ぺろっ、ぺろ……」

唯「んー、じゅっじゅ」

 コーンよりも下までアイスが減っていく。

 口の中がきんきんに冷えている。

 そろそろ、もういいだろう。

唯「……うーいっ」

 甘えた声を出して、憂の頭に手を伸ばし、撫でてあげる。

憂「ん……おねぇちゃん」

 ほとんどコーンだけになったアイスが退けられる。

 さっきまで絡め続けていたせいか、憂の舌先から白い唾液が垂れている。

 まずはそれに吸いつき、くちびるを重ねて舌を押し返す。

憂「はっ、んぐ」

 憂の口の中は冷蔵庫みたいにひんやりしていた。

 アイスなんかよりずっと舐めたかったほっぺたの内側に頬をこすりつける。

憂「ん、んむっ」

 かまって、と言いたげに頬のところへ憂の舌がやってくる。

 舌の裏側を舐められて、つい腰が動く。

唯「んい……」

 そんなに構ってほしいなら構ってあげよう。

 ただしお姉ちゃんの遊びには最後まで付き合ってもらいますからね。

憂「はぁ、んん……♪」

 ひんやりした舌同士を絡めると、憂は幸せそうな声を漏らす。

 目を薄く開ける。

 一生懸命に舌を絡めているときの憂の顔は本当にかわいくて、何度見ても胸がきゅんとする。

 憂にこの顔をさせられるのも私だけ。

 こんなに可愛い憂の顔を快感に歪ませられるのも私だけだ。

唯「ん、ちゅぅちゅ、れろっ」

憂「はふ、ちゅちゅぅちゅ……ふぁん、ぅ」

 舌をぴちゃぴちゃさせたいのを我慢していたせいか、

 それとも公共の場だからか、舌が冷たいからか、憂がいつもより早く喘ぎを漏らす。

憂「はぁん、んっ……ひょっほ」

唯「れ、じゅうぅじゅちゅ……れぅれろ」

 大きな快感が恥ずかしいのか、憂がちょっと慌てるが無視して舌でじゃれついていく。

 裏に忍ばせて持ち上げて落とし、舌先で表を塗りつぶすようにこすり、

 上あごに逃げたり、また襲いかかったり。

 憂の体がぴくぴく震え、時折大きく椅子がガタンと言う。

憂「ら、ぁめっ、待っ……おねえひゃ、いっひゃうから、いふってばぁ!」

唯「んー、うい~……かわいいよぅ」

 何年キスしていると思っているのだろう。

 憂がいっちゃいそうになっていることくらい分かっている。

 おかしな主張をしているから、無視をして攻め続ける。

 口の中はすっかり熱くなってしまっていた。

憂「んん、は、くちゅ……ちゅ、ちゅぅ……!!」

 憂が自らのくちびるを塞ぎこめるように、私の舌に強く吸いついた。

 テーブルの上に、コーンがぼとりと落ちる。


憂「っぅ、ぷは……ぇ」

 仰け反るように離れた私と憂の間に、唾液の糸が伝う。

 憂の激しい吐息に揺れて、すぐぷつりと切れてしまった。

唯「ういー、いっちゃったね?」

 コーンを拾い、ひと口かじる。

憂「……はぁ、は……って、らいもん……」

 ろれつが回らないなりに、憂はどうにかそう言う。

唯「うそつき。ほら憂、コーン落としたでしょ?」

憂「……?」

唯「見てごらん、ここ。握りしめた跡が見えでしょ?」

憂「う、うん」

 ようやく姿勢を直して、憂はこくりと頷く。

唯「知ってるぅ、憂? 憂ってね、いく時……」

 耳にくちびるをつけ、その続きをささやく。

憂「あ……ぁ」

 離れると、憂は顔を真っ赤にしていた。

 そして慌てて私の手からアイスのコーンを奪い取ると、

 一気に口に押し込んで噛み始めてしまった。

 コーンの中に残っていたアイスが惜しいところだけど、

 憂の照れた顔が見れただけ、その程度のアイスをくれてやる価値はある。

憂「も、もう出るよ!」

唯「ほいほーい♪」

 憂に押し出されて、アイス屋を出る。

 前に立っていたビルの時計で、もう4時を回っていることを知る。

唯「……どうする憂?」

憂「へ?」

唯「もう4時だし、今からお買い物してたら帰るころには暗くなっちゃうよ」

憂「あー……」

 憂も時計を見上げる。

唯「欲しいものがあるならいいけど……」

憂「ううん、今日はもう暗いのはやだ」

 映画館での出来事が尾を引いているみたいだ。

 言われて、私もチクリと胸に痛みが走った。

唯「じゃあ、もう帰ろっか」

憂「うん。駅は……」

唯「あっち、あっち」

 憂を連れて、駅に向かう。

 暗くなる前に帰らないと、途端に家に向かうのが大変になる。

 私が初めて憂にキスをしたのも、空がうす暗んできた時間だった。

 だからだろうか、私も憂も、暗くなるとキスが欲しくなってしまう。

 いや、欲しがっているのではない。必要になってしまうのだ。

 電車の中から、赤色に染まっていく太陽を見つめる。

 こてん、と憂の頭が肩に乗る。

 疲れたようで、眠ってしまっていた。

 私まで寝ては乗り越して夜になってしまうので、

 明るいほうの空を眺めて、電車が街に帰るのをじっと待っていた。

唯「……ん?」

 憂の髪から、塩の匂いがかすかにした。

唯「……」

 ポップコーンはどこへ消えた。

 バッグの中に入れた覚えはない。

 アイス屋に行く時は憂が手に持っていて――

唯「っく……」

 あそこのテーブルに置いてきたのだ。

 晩ご飯のあと、一粒ずつ憂に口移ししてもらう予定だったのに。

 あんなところで最後までちゅーをして、慌てさせるんじゃなかった。

 どうにも今日はままならない一日だった。

 私のペースに持ち込めたと思ったのに、こうしてばちも当たった。

 私がどんな悪いことをしたというのだろう。

 いまだに「憂とのキス依存症」から抜け出せないのがそんなに悪いことだとでもいうのだろうか。

唯「はぁ……」

 仕方ない。

 帰ったらたくさん憂とキスをしよう。

 そうすれば心も晴れる。

 私は眠っている憂のあごを持ち上げ、そっとくちびるを近づける。

憂「……ん」

 まだ、アイスの甘い味がした。

唯「……あ」

 キスは今のうちに満足するぐらいしておいたほうがいいかもしれない。

 明日はあずにゃんが部活があるとかなんとか言っていた。

 あまり夜遅くまでキスをしすぎるとすっぽかす可能性がある。

 いや、すっぽかしてもいいかもしれない。

 憂のくちびるを吸う。

憂「んー……?」

 もぞもぞと憂が身をよじる。

 そして、ぺろぺろと私のくちびるを舐めてきた。

唯「ぁ、ん……」

憂「んー、あむ、ちゅちゅぅ」

 起きているのかいないのか、寝ぼけた調子で抱き着いてきて、憂がくちびるを吸ってくる。

 幸せな時間がまた始まった。

 はたして明日、きちんと部活へいけるだろうか。

 そもそも今、きちんと桜ケ丘で電車を降りられるだろうか。

 こうして頭をよぎったということは、きっと大丈夫なんだろう。


 安心して、憂の頭を撫でて、もうすこしキスを強くしてもらう。

憂「はむ、ちゅ、きゅちゅううぅ」

唯「ふぁ、ん、んぃ……」

 きっと今日は、私が憂に甘える日だったのだ。

 憂がお母さんやお父さんをつとめる日で、だからポップコーンはなくなったのだ。

 上のくちびると下のくちびる。

 二つのくちびるで、優しさを感じる。

 まもなく、桜ケ丘――。

 無機質のアナウンスがした。


  終わり。