憂「んんーぁん、んんー!!」
憂が全身でぎゅっと、お猿さんの子供みたいにしがみつく。
頭の中には「憂、可愛い」しかなくて、
それさえも言葉にできずに体をこすりつけて、キスをするだけ。
この胸を圧すような熱い熱い愛は、きっと10分の1も憂には届いていない。
せめてあと少しでも届けたいと、胸同士をくっつける。
唯「んいっ……」
憂「んんーん、っ!」
鼻息が苦しそうだ。舌でちろちろ舐めながら、息を吹き込んであげる。
憂「んっ……!」
唯「ぁ、ん……」
憂から息が送り返される。
憂の身体を巡り巡って帰ってきた空気を肺の奥へと吸いこむ。
そして再び、私の息を憂にあげる。
憂「うぁ、んんー……」
憂が身をよじり、体をびくびく痙攣させる。
逃げるようにタイルに手をついて、けれどボディソープで滑って動けないようだ。
諦めたように、憂も一緒になって歯茎をぺろぺろ舐めはじめた。
少し頭が重たくなってきたのを感じる。
鼻呼吸に戻して、舐めることに集中する。
憂「ん、んんっ……!!」
傷口につばをつけるように、丁寧に舐めていく。
憂の腕が痛いほどに抱きしめてくる。
唯「ういっ……」
憂「んむっ、あ、おねえああぁあぁ!!」
最後まで口を塞いでいたかったけど、一瞬の隙にくちびるが離れ、憂が叫んだ。
私にしがみついて、何かに怯えるみたいにびくっ、びくっと震えると、
やがて床に両手両足を落として、力なくへたれた。
唯「うい。ん」
くちびるを突き出す。
憂は弱々しい瞳で私の顔を見ると、
すぼめたくちびるを小鳥みたいにちゅっ、ちゅっとくっつけてくれた。
唯「かぁわいい、憂」
頭を撫でると、憂が目を閉じる。
唯「まだちゅーしたいの?」
憂「……うん」
恥ずかしげに憂は頷いた。
唯「じゃ、お風呂の中でちゅーしよ。風邪引かないように」
憂「そだね」
シャワーを出して、体についた泡を落とす。
落としながら、大事なところに手をやって、軽くだけこすっておく。
それからお尻だったり腋だったり足だったり、あまりこすり合えなかった所にもお湯を当て、
しっかりお互いに手で洗ってから湯船につかった。
お風呂では私が後ろから憂を抱きしめる形で憂に乗ってもらった。
それで私は憂にのしかかるようにしてちょっと体を伸ばし、
憂に振り向いてもらってくちびるを合わせた。
浮力があるお湯の中だからできる体勢だ。
唯「はむ……ちゅ、ちゅ」
憂「んれっ。す、ちゅぷ」
憂はまだ懲りていないようで、私の口に平気で舌をつきこんでくる。
私もそれに応えて感じさせてしまおうとするのだけれど、
結局憂と一緒に気持ちよくなって、二人で湯船の中で夢中になってキスをしていた。
お風呂からあがるころには既に日付が変わっていて、
私たちはいそいそとベッドにもぐり、くちびるを重ねると眠りについた。
翌日は休日といえど、憂とのデートの予定だったのだから、なるべく早く目が覚めたかったのだ。
憂も寝ている私にちょっと激しいキスを仕掛けてきたりもせず、おとなしく眠っていた。
その寝顔があまりに可愛いので舌を差し込んでみたけれど、
憂は舌をぺろりと舐めただけで起きてくれる気配はなく、
私は少しいじけながら、抗議として舌を入れっぱなしにして眠ることにした。
――――
翌朝、窓から入ってくる日差しに目を開く。
唯「……ん」
昨晩眠った時と同じように、私は憂と抱き合っていて、
くちびるは唾が乾いて貼りついてしまっていた。
カラカラになった舌が、同様の憂の口の中を擦る。
さすがに痛くて、舌を引っ込めた。
唯「……」
まだ眠っている憂の寝顔を見つめ、唾液を出していく。
舌を濡らしつつ、憂を仰向けに寝かせて覆いかぶさる体勢になる。
右の頬がペリペリ言った。
どうやら涎で憂の頬とくっついていたらしい。
舌で憂のくちびるをこじ開け、つばを垂らしていく。
そのままではむせるので、舌を叩いて憂の目を覚まさせる。
憂「んー……?」
唯「おふぁよ、うい……」
憂「……ん、おふぁお、……ちゅ」
ねぼけた顔でくすりと笑い、憂は小さく喉を鳴らす。
憂がじわっと温かくなったかと思うと、口の中が湿り気を持ち始める。
憂は私の舌を押し返すと、乾いたくちびるをぺろりと舐めた。
貼りついたくちびる同士が剥がされる。
唯「ぁむ、ちゅっちゅ」
離れた後、いくつかキスをしてからベッドに転がる。
唯「ふへぇ……映画だっけ」
憂「うん。それでアイス屋いってお買いもの」
布団を持って起き上がる。
憂がかぶっていた布団もめくれて、一瞬冷たい風に憂が体を震わせた。
唯「うむ……ぁ」
時計を見ると、11時を過ぎていた。
憂とキスして寝ると眠りが深くなりすぎていけない。
普段は目覚ましをかけておくと憂が気付いて起こしてくれるが、
休日だといつも10時間以上眠ってしまう。
唯「けっこう寝ちゃったね」
ベッドから降りて、「のび」をする。
憂「あ、ほんとだ。ちょっと急がないと、買い物やる時間なくなっちゃうかな?」
唯「うーむ……」
目的の映画館まで行くのが早くて40分。電車の都合が悪いともっとかかる。
映画は短くて90分。移動時間も考えて、2時間考えておくのがいい。
ご飯を食べて、おしゃれもしなきゃいけないから出発までの時間もかかる。
あまりゆっくり買い物をする余裕はないかもしれない。
憂「早く支度しよっ?」
唯「そだね」
家に居ようと外へ出ようと憂と一緒にいられるのは同じだけれど、
せっかく遊びに出るのだからキスだけでなく楽しいことをしたい。
私は、元わたしの部屋へ向かい、今日の服を選ぶことにして、
憂にはお昼ご飯を作ってもらうことにした。
――――
ご飯のあと、シャワーを浴びてさっぱりする。
ゆっくり洗いっこしている時間は無いので、ひとりずつサッと体を洗う。
キスをしながら体を洗ってもらうのに慣れているとは言っても、特に寂しくはない。
シャワーを浴びて髪を乾かしていると、憂が控えめにドアを叩いてきた。
唯「おー、なにー?」
憂「ねぇお姉ちゃん、これ私が着るの?」
唯「うん、そだよ。変だった?」
とびきり可愛いのをセレクトしたつもりだったけれど、お気に召さなかっただろうか。
憂「こ、このスカートさぁ……」
ポーズを変えて確かめているのか、とんとん床が鳴る。
憂「短いし、薄すぎない? ちょっと動いただけでふわふわって上がっちゃうよ」
唯「可愛いでしょ?」
憂「かわいいけど……見えちゃうじゃん」
唯「なにが?」
憂「そんなしょうのないことわざわざ言わせようとしないの」
ドアの向こうで憂がちょっとむくれた。
唯「あは、ごめんごめん。……でもだいじょぶだよ、スカートの中は見えないから」
憂「見えるって、これ」
唯「大丈夫。鉄壁だもん」
憂「……?」
髪を乾かし終えて、私も畳んでおいた服に着替える。
ドアノブに手をかけて開ける。
唯「おぉ、可愛い可愛い!」
憂「う……でも、ちょっと寒いかも」
唯「ほんとに?」
太ももをさすってあげると、廊下に立っていたせいもあってか肌は冷たい。
唯「今の時間で寒いってなると、帰る時には大変だね」
憂「うん……お姉ちゃんのタイツ借りていい?」
唯「しょうがないなぁ……履いてきたらもうすぐ出かけちゃお」
バッグを持ち、玄関で憂が履き替えてくるのを待って、手を繋いでドアノブを持つ。
憂「あっ」
唯「ん?」
憂が声をあげたので、振り返る。
唯「……ん、ちゅ」
くちびるが押されて、ひとくち下唇を食べられた。
憂「えへへ。行こっか」
唯「……く、油断した」
始めたころは、くちびるを合わせるだけのキスを1日に1度するだけだった。
けれどその数は加速度的に増えていって、すぐに数え切れなくなった。
唯「もう。行くよ」
だからここでキスされるのは当たり前なんだけれど、
何故かそれを予想していなかった。
私はいったい何を慌てているんだろう。
――――
電車を乗り継いで、片田舎から大都会へと旅をする。
駅から出ると、桜ケ丘よりも人はうんと多くて、自然と憂の手を強く握る。
唯「うい、はぐれてない?」
少し体が離れた気がして振り返る。
憂「ちゃんといるよ、お姉ちゃん」
憂はにこりと笑って私の腕まで抱きついてくると、体を伸ばして私のくちびるを狙ってきた。
唯「あっ、んむっ」
また反応できずに唇を奪われてしまう。
電車の中でも何度か不意打ちでキスをされた。
今日は憂にキスされてばかりだ。
しかも、そのどれにもまともに反応できていない。
映画館で座席にかけたら、存分にキスしてやろうと思う。
もちろん今回の目的は映画を見ることなので、上映が始まったら止めなければいけない。
そのあたりが悩ましいところだ。
映画館に辿りついて、映画のポスターとにらめっこする。
唯「うーむ……」
なるべくキスしたくならない映画。
ドキュメンタリーとか、動物との感動モノだとか。
意外と気をつけなきゃいけないのがアニメで、まず洋画はみんなアウト。
憂「あっ、これは?」
憂が指差したポスターでは、ふくふくの仔犬が笑っていた。
大文字のタイトルは「ニャアニャア、小鳥さんだよ」。
唯「……うぉ」
りっちゃんでも白けるレベル。
唯「こういうのって……最後に死んでお別れだったりするよね」
憂「うん。でも……今日はそういうのを見れるように頑張るんじゃないかな」
唯「……たしかに」
私たちが恐れるのはそこだ。
恐ろしいから、それをごまかすためにキスをしている。ような、フシがある。
私は何かに怯えてキスをするんじゃなく、
ただ憂を愛して、それが我慢できなくなることで憂にキスをしたいのだ。
唯「見てみよっか。上映時間はどうかな」
憂「うーんと、意外とすぐ……わ、15分前だよ!」
唯「えっ、急がないと!」
大慌てでチケットを買い、ポップコーンとコーラも忘れず仕入れる。
なにもキスが目当てで映画館に来ているわけではないのだ。
上映ホールに駆けこみ、席に着く。
映画が始まるまでキスをするつもりだったけれど、息が切れてそれどころではない。
席はほとんど最後列の端っこで、客入りも悪いからキスをするにはもってこいだけれど、
今はまだ待つべきだ。
キスなら家に帰ってから100回でも1時間でもやればいい。
そう自分に言い聞かせる。
憂「ふぅ……」
先に憂の息が整った。
憂「急ぎ過ぎちゃったね」
唯「えへへ、そだね……はぁ、ふ……」
映画が始まるまでは、ちょっとの間隔があった。
やがて私も息が整う。
唯「うす暗いね……」
ホールを見渡して言う。
夕方の日陰のように暗く、ぼやけている。
憂「うん……」
憂はぎゅっと私の手を握った。
唯「がんばろね、憂。映画に集中したら大丈夫だから」
憂「……」
答える余裕もないようで、私の手を固く握っている。
唯「無理だったらちゅーしていいからね。ゆっくり慣れていこ」
憂「う、うん、がんばる……」
ポップコーンをひとつ摘まみ、憂の口に運んであげようとし、やっぱり自分の口に入れる。
憂「お姉ちゃん?」
唯「ぁぐ」
舌で一回転させて塩味を舐めてから、指でつまんで取り出す。
そして憂の口もとへ運んだ。
唯「これを食べて頑張るのじゃ」
憂「ぁ……あむっ」
私の指まで食べる勢いで憂はポップコーンを食べる。
憂「……つめたい」
憂が呟くと、ホールがさらに暗くなった。
前の席が見えるか見えないかというほど暗くなり、スクリーンが黒く光る。
唯「……」
私も手を握り返し、ポップコーンを口に押し込んだ。
他の映画の宣伝を挟み、やがて本編が始まる。
唯「……」
映画はあらすじをナレーションして始まった。
最終更新:2011年03月02日 19:53