和「おはよう唯」

唯「あ、和ちゃんおはよー」

唯「今日も和ちゃんはかっこかわいいねぇ」

和「なによそれ。喜んでいいわけ?」

唯「誇るべきだよ!」

和「ふぅん。あ、それより……」

唯「うんうん……ん?」

唯「はっ!?」

唯(うう、和ちゃんの肩にちぢれ毛が乗っていらっしゃるよ……)

和「それでね、うちの弟たちってば」

唯(本人はまったく気づいてないみたい……)

唯(もしプライドの高い和ちゃんが肩にそんなものが乗っていると知ってしまったら)

和「おかしいわよね~」クスクス

唯(間違いなく、破滅する……)

唯「きっと、明日明後日を気丈に振る舞って過していけないはずだよ」

和「え……? そ、そこまで変なこと?」

唯「変というか……恥というか……」

和「恥!?」

和「そ、そこまでおかしいことだったの? でも、まだ小さな子供なんだし……」

唯(ここはやんわりと教えてあげるか、それともタイミングを見計らって肩に手をのばしてちぢれ毛をはらうか)

和「唯……?」

唯(今だ、このタイミング!)

ポン

和「え……」

唯(さぁ、私! がんばるんだよ! がんばって和ちゃんから穢れという名のちぢれ毛をはらうんだ!)

和(肩に手がっ、唯から同情された……!?)

唯「……」

唯(なかなか取れない……けっこう制服に絡みついてるんだね)

和「ゆ、ゆ……」

唯「だ、大丈夫だよ、和ちゃん。心配しないで」

和「そ、そんなっ!」

和(やだ! なんでそんなに目を逸らしてそんなこと言うのよ!)

唯(な、なんだか和ちゃんがうろたえてる……まさか気づいた?)

唯「ほほほ、ほんとに大丈夫だよっ! 和ちゃんは悪くないんだからっ」

和(えぇ!? なんかそんな言い方だと私が悪いみたいじゃないのっ)

バッ

唯「え、あ!? の、和ちゃん!?」

和「……同情なんていらないわ!」

唯(やっちまったよ!)

唯(ほんとに気づいちゃったんだ、このうろたえ方は普通じゃないもん!)

唯「どっ、同情なんかじゃないよ! 私はただ良心で……」

和(良心で私をここまでじわじわと精神的に痛ぶってるの? 腹黒いとかそういうレベルじゃない!)

和(唯……昔はこんな子じゃなかったのに)

和「……どこで道を踏み外しちゃったのかしら」

唯(うわああああっ。これ完全に自分責めだし始めちゃってるよ! なんか今までの人生否定しようとしてる!)

唯「落ち着いて! 和ちゃん!」

唯「自殺なんて考えちゃ絶対ダメだからね!?」ギュッ

和(やぁー! 遠回しに死ねって言ってるっ!)

和「うわああぁぁんっ」タタタ…

唯「ああ!! 待って、和ちゃんっ!」


……

和「……」ドンヨリ

澪「ど、どうしたの、和?」

和「……は?」

澪「!?」

澪(あの真面目で優しい和が「は?」だって!?)

澪(しかもなんか目が怖い! これ完全に堕ちた目だよ)

和「ああ、澪……。なんだか私疲れててね……」

澪(疲れ……ああ、いつでも真面目で生徒会長な和だってそりゃあ疲れるよね……人の子なんだし……)

和「あー……死ねとか、ふふっ……」

澪「し、死ね!?」

澪(な、なんなんだ!? 和は不良になっちゃった上にいきなり私に因縁つけようとしているのか!?)

和「ねぇ、澪……もし、律が突然変わっちゃってたらどう思う……?」

澪(まさかの律非行フラグ!? 和は律も巻き込んだというのか!)

和「澪も、気をつけたほうがいいわよ……幼馴染の変化に」フッ

澪「り、律ぅ……!」タタタ…


……

唯「うー……和ちゃんってば足速いよぉ」

梓「あ、唯先輩。おはようございます」

唯「ん、あずにゃん? ねぇ、和ちゃん見かけなかった?」

梓「はい? 和さんですか? いえ、見かけてませんけど……どうかしたんですか?」

唯「和ちゃんが一大事なんだよ! このままだと和ちゃんが……」

唯「和ちゃんが……死んじゃうよおぉぉっ、わああぁぁ~んっ!」

梓「え!? 死んじゃうって……一体何があったんですか!」

唯「わああぁぁんっっ、和ちゃんがっ、ちぢれ毛ぇっ!」ビエーン

梓「お、落ち着いてくださいよっ。和さんはちぢれ毛じゃないですっ」アセアセ

唯「ちぢれ毛……たった一本、のせい、でっ、和ちゃんが死んじゃ……うぅ……」グスンッ

梓「そ、それって、和さんがちぢれ毛に殺されてしまうということですか……?」

唯「どうしよう、あずにゃん! きっと私のせいだよ!」

梓「???」

梓(つまり、唯先輩のちぢれ毛が和さんを殺しにかかっている? んん?)

紬「……なんだか凄いこと聞いちゃった」コソコソ



紬「和ちゃん、ちぢれ毛、そして死」

紬「この3つのワードが示すのは一体なに……?」←一部単語しか聞き取れてなかった

紬「唯ちゃんも泣いていたし、これはただごとではないはず」

紬「……ちぢれ毛。つまり陰毛ね。陰毛は基本的に恥部に生えてくるもの」

紬「!!」

紬「わかったわ! きっと和ちゃんの恥部に陰毛が生えてきたのね」

紬「あれ、でもそれって普通だよね? じゃあ陰毛が一本残らず抜けた……とか!?」

律「おー、ムギ。どうしたの? そんなとこで一人で」

紬「陰毛がなくなった……どういうことなの……?」ブツブツ

律「!?」

律(陰毛がなくなったって言ったか今!? む、ムギ……いったいなにが)

紬「あ、りっちゃん! おはよう」

律「おっ、おう!?」

紬「?」

紬「ねぇ、りっちゃん」

律「はい!?」

紬「もし、りっちゃんの大事な部分から大事な毛が全部なくなってたらどう思う?」

律(そらきた!)

律「え、えっと……たっ、大変だよな! そりゃ一大事だ!」

律(わーん! 私のバカバカ! 全然フォローになってないじゃんか!)

紬「そうよね」

律「ああ……」

紬「でも、そうだとしてりっちゃんはそのせいで死んじゃったりする?」

律「はぁ!?」

律(む、ムギ! 陰毛がなくなったことがよっぽどショックなんだな……)

律(しかもこいつ、死ぬ気だよ……!)

律「い、陰毛がなんだってんだ!」

紬「りっちゃん?」

律「……む、ムギ。その、陰毛はなくなっても恥ずかしいことじゃないぞ?」

紬「そう?」

律「ああ!」

律(ここはムギの為に恥を捨てるっ)

律「……ムギ。じ、実は私、陰毛が生えてないんだ」

紬「え」

律(こんなことぐらいでしか励ましにならないだろうけど……死なないで、ムギ!)

紬「そ、それは本当!?」

律「ああ、生まれてこのかた生えたことがない。パイパンガールさ」

紬「そんな……!」

紬(まさかの新事実発覚! なんて日なのかしら! 今日という日は)



タタタ…

澪(律……律はいつまでも優しい律でいてく……ん?)

律「だから死ぬな! ムギ!」ガシッ

紬「え、ええぇー!?」

ユサユサ

澪「ひ、ひぃっ!」

澪(律がムギを脅している!?)

澪「やめろぉー!!」

律「へ?」

ドン!

律「あいたっ!? み、澪! いきなりなにすんのさ!?」

紬「澪ちゃん?」

澪「み、みそこ……見損なったぞ、律っ!」

律「なに!?」

律「意味分かんないよ! なんだってんだ!」

澪「そんな乱暴に話す女の子だったか! お前は!」

紬(別にいつも通りじゃないかな?)

澪「制服だってこんなに着崩して……ええいっ、ブレザーの前を締めろ!」ガシッ

律「い、いたいよ! なにすんだ! や、やめろよっ」ドン!

澪「い、いたっ……!」

紬「りっちゃん!」

律「こいつが悪いんだろ。いきなり変なことしだすから……」

澪「うわあぁ、暴力! 暴力まで振るったな!?」

律「ちょっと押しただけだろ!」

澪「律の……律のばかぁっ」ウルウル

澪「くっ……!」タタタ…

紬(澪ちゃん、泣いてた……これがいわゆる修羅場なのね)

律「ったく、ほんとなんなんだよ……」

紬(そして、その裏で巡るキーワード。和ちゃん、ちぢれ毛、死、そしてパイパン!)

梓「うーん」

憂「どうしたの、梓ちゃん。なにか悩み事?」

梓「あ、憂。実はね」

梓「唯先輩のちぢれ毛が和さんを殺しにくるらしいんだ」

憂「へぇー」

憂「へぇ!?」

憂「ちょっと、さっき言ったことよく思い出して! どう考えても意味不明だよ!」

梓「うん、わかってる。でも唯先輩がそう言ってて……しかもすごく悩んでるみたいで」

憂「えー……」

憂「ていうか! そもそもお姉ちゃんにはちぢれ毛なんて一切ないよっ」

梓「……え?」

憂「私、知ってるもん! 本当だもん!」><

梓「で、でも合宿行ったときのお風呂で私生えてるとこちゃんと見たよっ」

憂「生えてないよ!! ちょっと補正かかってそう見えてただけ!」

憂(だって……私、いつも剃ってあげてるし……)

梓(憂も唯先輩も今日はどうかしてる……)

純「おーっす、二人でなに話してんの?」

憂「純ちゃん……」

梓「純……」

純「いやぁ、今日は髪の手入れにとまどっちゃっててさぁ」モフモフ

梓「あいかわらず……ん?」

梓(ちぢれ毛に和さんが殺される? ……まさか!)

梓「っ!」キッ

純「ん、どったの梓?」

梓(こいつか!!)

ガシッ

梓「じゅ、純! ダメだよ!」

純「え!?」

憂「ど、どうしたの? 梓ちゃん」

梓「人を殺すことは罪が重いんだよ!? ダメ!」

純「ころっ……!?」

憂「あ、梓ちゃん。落ち着いて……」

梓「友達が人を殺そうとしているのに落ち着いていられる!?」ブンブンッ

純「あうっ、あうっ、ゆ、ゆさぶんなぁ~っ」

純「ていうか誰が誰をころ」

梓「すぐに和さんと唯先輩のところにいこう。そして謝ろうっ」

グイッ

純「う、憂~! 助けてぇっ」ズリズリ

憂「わけわかんないよぉ……」


……

唯「はぁ……」トボトボ

さわ子「あら、唯ちゃん。どうしたの? なんだか元気なさそう」

唯「ああ、さわちゃん……」

唯「私ね、大事な親友を救えなかったよ……っ」

さわ子「なにかあったの? 私でよければ相談に乗るわよ?」

唯「うん……あのね、今日和ちゃんの肩にちぢれ毛が乗ってたんだ」

さわ子「ち、ちぢれ……」

唯「で、なんとか和ちゃんが気づかないように取ってあげようとしたんだけど、途中で気づかれちゃって」

唯「そしたら予想通り和ちゃんがショックを受けて自殺を図ろうとしてるの……」

さわ子「ちぢれ毛で自殺……?」

唯「ほら、和ちゃんってプライド高そうだから……そんな和ちゃんの肩にちぢれ毛なんてこの世の汚物の塊のような穢れが乗っているなんて許されないことでしょ?」

さわ子「この世の穢れかよくわからないけど。まぁ、ちぢれ毛が肩に乗ってるのはあんまり嬉しくないわよねぇ」

唯「和ちゃん、まだ死んでないといいんだけれど……」

さわ子「大丈夫よ。和ちゃんは死なないから」

唯「不死身なの?」

さわ子(唯ちゃんだし、ここは元気出させるために)

さわ子「そうよ」ニコニコ

唯「えぇー! びっくりだよぉ~!」

さわ子「だから殺しても死なないし、自殺しても死なないはず!」

唯「でもどうして?」

さわ子「あー……えっと、ほら! あの子生徒会長じゃない! だからよ!」

唯「生徒会長は死なない……!?」ハッ


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最終更新:2011年02月28日 01:02