律「お?お前もアタシとおんなじ気持ちなのか?」
アタシは手を伸ばしてわしゃりと黒猫の頭を撫でようとした

黒猫はまた「にゃぁ」と鳴いて私の手から逃れる様に
コンクリートの床を蹴って塀にとんだ

律「…人見知りの恥ずかしがり屋なんだな、お前も」
黒猫は顔周りを毛づくろいして
そして更に高い塀へととんだ

黒猫は手の届かない所にいた


アタシは行き場のない手を引っ込め
手持ちぶさたになった手をポケットに入れた



ライブ当日
律との待ち合わせにちょっと早めにきた
ソワソワして気持ちが落ち着かな
もちろんライブは楽しみだ

だけどそれ以上に律に会える事が一番楽しみだった

澪(馬鹿…だから期待するな私!)

ライブはもちろん楽しかった
私の大好きな歌手のライブだったし
律と一緒という相乗効果もついて本当に楽しかった
道中一杯話しもした

今年のお泊まり会についてだとか
もう一回皆で海に行くとか
皆で花火大会に行くとか

よく考えてみれば遊ぶ事しか考えてないな
けど、律と一緒ならそれもいいなって

思えたんだ

笑っている律は本当に子供みたいで

そんな笑ってる律が私は大好きで、大切で

だから私は思ったんだ

この気持ちは、ずっと心に閉じ込めておこうって。

私がこんな事をいって、律を困らせたくない
なんてもっともな理由が最初に思い浮かんだけど、それは違う

私は今の律との関係が崩れるのが怖いんだ
離れていってしまうのが

たまらなくこわいんだ

それにこの気持ちは言葉で表す語彙を私は知らない

ただ、恋じゃないと、思う
律に恋をしているんじゃないんだ

愛しているんだ、ずっと、ずっとずっと前から

だから私はずっと、律のそばにいて
ずっと、律のそばで笑っていたい

時刻は6時ごろ、空はすっかり橙色で埋め尽くされていた


……

律「あー!楽しかったー!!」

律「あれ…?雨がふってきた」
澪「ホントだ、…でもこんな小雨程度なら大丈b…」

ザァァァァァァアアァァァアアアァ!!!!

律「めっちゃ降ってきたぁぁぁ!!?」
澪「早く雨宿りしよう律!!」
律「おう!」



~田井中宅~

澪「悪いな、家に上がらせてもらっちゃって」
律「いいっていいって。昔はよくうちに来てたじゃん」

そういって律はタオルを渡してくれた、ふわふわだ

澪「それは小学生の頃の話だろ」
律「ほら、風呂沸かしといたから早く入ってきなよ」
澪「ありがとう」

私は慣れた足並みで律の家の浴室へ向かった

アタシはカチューシャをはずして髪についた水滴を拭いた

律「あ~もぅ雨ウッザ!」

結局大事な事は何も伝えられず
胸の鼓動をいたずらに高鳴らせただけだった

律「昨日言おうって…決めたはずなのにな…」

なぜかあの黒猫が澪みたいに見えて
触れたら
捕まえたら

どこか遠くへいっちゃうんじゃないか、て

思ったんだ

おもむろに携帯を開く
見ているのは澪からきたあのメール

律「愛しています、…か」

その言葉を信じたい
澪の口からその言葉を聴きたい

律「…あー、やっぱ冷房いいなー…涼しい~」

暇だからなんかテレビ見よう
アタシはリモコンの電源ボタンを推した

澪「……ふぅ」
久しぶりに律の家のお風呂に入った
昔はよく二人で入っていたけど
今は一人で入るのにせいいっぱいという大きさだった

澪「こんなにちっちゃかったんだなぁ…私たち」

あの頃は律と同じくらいの身長だったのになぁ…

あの頃の律は今とあんまり変わらずやんちゃで、元気で
皆のムードメーカーで、いつも私を引っ張りまわして
いつも笑わしてくれた、いつも隣にいてくれる
大切な…

澪「駄目だ駄目だ駄目だ!!」

どうしてこうも厄介な感情をもってしまうのだろうか
私は大きくため息をついた

そう、律は友達。ただの、友達

バラエティ番組を見ていると部屋の扉が開いた

澪「風呂あいたぞ」
律「了解!じゃあアタシも風呂はいってくるね」

アタシは小走りで部屋を出た
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ

澪から逃げ出したかったんだ

律「アタシらしくもない…」
階段を下りて浴室へ向かった

律「……はぁ」
風呂あったけぇ…
律(…澪も、…入ったんだよな…)
少し思考回路が変体くさい方向に向かったが
自重した。女として自重した

律「あいつ、あのサイズでこの小さい風呂にちゃんと収まったのかなぁ…」
いや、身長の話だ。澪はデブじゃない。ていうかプロポーションは最高にい

律「一緒に風呂入ってた頃は澪と同じくらいの身長だったのになぁ…」

律「いつから澪は、アタシを追い越したんだろうなぁ…」

昔は何かに対してアタシに助けを求めたのに

高校に上がってから、かな
最初、軽音部じゃなくて文芸部に入ろうとした時ぐらいからなのかな

寂しい

律「なんて、…ガキかアタシは」

いつも玉砕覚悟のアタシがらしくない

律「ホント、らしくない」

律が小走りに部屋を出て行った後
私はなんとなく律が見ていたバラエティ番組をみていた

いや、正確には見てはいなかった
ずっと律のことを考えていた

そういえば律の部屋にも最近は入っていなかった
なんだか前に来たときの事が随分と懐かしく感じた

そんなことを思っているとテレビの話題がふと耳に入った
…どこかの国の同姓愛婚についての話をしていた

男「男が男を好きになるのはどうかと思うけど」
男2「女が女を好きになるのはいいんじゃないかな?」
女「女の子が女の子に恋するとかあり得なぁ~いwww」
女2「マジキモイしwwウザwww」

うん、そうだ。それが、世間一般的な答え。

私のこの気持ちは、世間一般的ではないんだ

だけど
触れられないのなら
手に入らないのなら


もう、抱きしめられないのなら

せめて、律の香りに抱きしめようと思った

運がいいことに律は長風呂する癖(?)がある
このままだと10分はあがってこない

澪(今しか、ないよな…)

私は律のベッドに沈むように横たえ、瞼を閉じた

すごく


すごく、あったかい気持ちになった

なんでだろう

すごくあったかくて、心地がよくて、幸せで
律に抱かれている、そんな情景が思い浮かんできた
もっと触れたい
もっと、もっと傍にいたい

澪「律…っぅ…うぅ…!」

泣いた。私は、泣いていた

律はやさしい目をして私を抱きしめてくれていた

だけど

その姿は段々と霞んで遠くへいった
どんどん律との距離が広がって

澪「まってよ…ひっく…りつぅ…っ!」


会いたいけど、見えなくなった
私の会いたい、あなたが、見えなくなった


やっぱり、一緒に、いたいよ



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