――――

唯「ムギちゃん、今日はありがと~」

梓「ごちそうさまでした」ペコ

紬「いえいえ、こちらこそ、色んなお話が聞けて楽しかったわ~」

唯「じゃあまたね~」パタパタ

 タッタッタッ……

紬「……あの! また、遊びにきてね、いつでも待ってるから」

唯「うん! 絶対行くよ~」

梓「(紬さん、なんだか寂しそうだな)」ペコリ

 ――月コロニー 市街地!

梓「はぁ……結局渡せなかったなぁ。でもまだ食べられるし、明日こそは……」テクテク

 ドンッ!

梓「わぁっ、す、すみません!」

純「いったー、って梓ぁ!?」

梓「純!」


 ――――

純「いやぁー、まさか月で梓と会うとはねぇ、セブンでは全然会えなかったのに」

梓「お互い忙しかったからね、純は休暇?」

純「そうだよ、日帰りだけど、月って行ったことなかったし、一度来てみたかったんだよねー、梓は?」

梓「わたしは、ちょっと色々あって、トイボックス、あっ回収船も今メンテナンス中だからしばらくこっちにいるの」

純「ふーん、そうなんだ。でもどうせ長い休みなら地球に帰ったりすれば良いのに。わたしなんか早くもホームシックで、離れてみるとわかるんだよねぇ、家族の有り難みが……あぁ、長い休みほしいなぁ」

梓「……」

 ――月 ウィークリーマンション!

純『じゃ、またね。今度セブンでご飯食べようよ』

梓「はぁ、地球かぁ……」

 ゴトッ

梓「あっ」

梓(家を出るときなんとなく持ってきちゃったけど、まだ一回も触ってないや……なんで持ってきちゃったんだろ、ギターなんか)

 ――翌日 月の病院!

梓「よし、今日こそは……っ! 失礼します!」

紬「あら、梓ちゃん、いらっしゃい」

梓「紬さん! って、みなさん、何してるんですかぁ!?」

律「おー、梓、遅かったな」

唯「あずにゃんやっほ~」モグモグ

澪「……おいしい」ゴクゴク

スフレ食べたらお腹痛くなってきた。ちょっとトイレ長くなるかもしれない…


紬「梓ちゃんもお茶いかが?」

梓「あ、おかまいなく、って違いますぅ! なんでみなさんそろって唯先輩の病室でお茶してるんですか!」

律「ったく、梓はうるせーなぁ、せっかくの午後の優雅なティータイムが台無しじゃないか」

澪「律と一緒に唯のお見舞いに来たら、紬さんがこれからお茶する、っていうから、ご一緒させてもらったんだよ」ホッコリ

紬「うふふ、唯ちゃん脚ケガしてるから歩くの大変だろうと思って、ティーセットもってきたの~」

梓「そ、そうなんですか(このテーブルやら椅子も全部紬さんが一人で……?    病人、なんだよね?)」

律「ほらほら、梓も座った座った、ムギのお茶は美味しいんだぞー」

梓「知ってます!(はぁ、またタイミング逃しちゃったなぁ。このままじゃ唯先輩退院しちゃうよ……あっ、いやそれは良いことなんだけど……)」

紬「うふふ、はい、どうぞ~」カチャッ

梓「あ、いただきます(でも、紬さんもみなさんも楽しそうだし、まぁいっか)」

律「にしても、こう女だけでお茶飲んでだべってると学生時代に戻った気分になるなぁ」

澪「そうだな、高校のときなんかは、放課後になるとよく喫茶店にたまってたなぁ。あの喫茶店、まだやってるのかな……」

紬「二人は幼なじみなのね~、素敵ですね~」キラキラ

唯「わたしだって、和ちゃんという幼なじみが!」フンス

梓「変なところで張り合わないでください」

澪「和といえば、この間和が今年の社内演芸大会どうするの、って言ってたな」

唯「!」

律「もちろん出場するよなー! 今年こそは優勝目指そうぜ!」

梓「なんですか、その演芸大会って?」

澪「そっか、梓は知らないんだったな……」

さわこ「社内演芸大会っていうのはね、年に一回我がテクノーラ社が開催する大会で、有志の団体がそれぞれの芸を披露してその優劣を競うものなのよ」

梓「へぇー、って! さわこさんいつの間に!」ガタッ

澪「」

律「本当神出鬼没だなぁおい」

さわこ「あら、失礼ねぇ、出来る上司としては部下のケガを見舞うのは当然じゃない」

紬「ぁあ~」キラキラ

さわこ「それで、演芸大会は出席でいいのかしら? よければわたしが申し込んでおくけど」

澪「でもなぁ、今年は唯もケガしてるし、練習の時間も足りないんじゃないか?」

唯「大丈夫だよっ! なんとかなるよ! 絶対出場決定だよっ!」フンス

梓「でも、先輩たちなにやるんですか? (なんとなく聞かなくてもわかる気がするけど)」

唯「バンドだよっ!」フンス


 ――――

さわこ「それじゃあ、出場届け出しておくわねー」マタネー

律「とは言ったものの、実際どうするかぁ、唯はしばらく月から出られないし、楽器もセブンに置きっぱだしなー」

梓「……」

澪「私は持ってきてるぞ、ベース。他の楽器もさわこさんに言えば送ってもらえるんじゃないか?」

律「じゃあ残る問題は、練習場所か」

紬「……はいっ!」キョシュ

唯「はい、ムギちゃん!」ビシッ

紬「私、良い場所を知ってます!」

 ――病院 地下!

唯「ほぇ~……」

澪「こんなところがあったんだなぁ」

紬「ふふふ、秘密の場所なの、夜眠れないときなんかここで良くキーボードを弾いたりしてるの~」

律「おぉ、これか」

 ポロン♪

唯「ムギちゃんキーボード出来るんだぁ!」

紬「えぇ、独学だからあんまり上手には弾けないけど」テレテレ

唯「ねぇねぇ、じゃあさぁ、ムギちゃんも一緒に出ようよ~、演芸大会!」

紬「えっ?」

律「お、いいねぇー。三人編成だとどうしても音にボリュームが出ないからなぁ」

澪「確かに良い考えだけど、紬はテクノーラの社員じゃないし、大丈夫なのか?」

唯「なんとかなるよ! こっちには和ちゃんとさわちゃんがついてるんだもん!」

梓「……」

紬「私、友達とバンド演奏するのが夢だったの~」キラキラ

唯「で、あずにゃんは何の楽器ができるの~」

梓「あ、わたしですか? わたしは……(って! 自然な流れすぎて思わず言っちゃうところだった!)わたしは、なにもできません」

唯「じゃあギターやろうよギター! ギターならわたし教えられるし~」

律「って、教えられるほど上手くないだろ」

唯「む! なにをぉ~」プンプン

 ワイワイ

梓「(やっぱ気まずい……今日はもう帰ろう)あの、わたし今日は失礼します」タタタッ

唯「あっ、あずにゃ~ん」

 ――――

 ――唯の病室の前!

梓「」タタタッ

梓(はぁ、わたしって嫌な子……家から離れたくて宇宙にまで来たのに、全然昔と変わってない)

 唯のベッドにクッキーの包みを置いて立ち去る梓。

 ――二日後!

梓「はぁ、結局昨日は丸一日部屋から出てないや」グデー

梓「……今日は、どうしようかなぁ」

 ――月の病院!

梓「結局来ちゃったけど……」

律「なぁーにやってんだ! 梓!」ガシッ

梓「うわっ! り、律先輩、おどかさないでください!」

律「だってぇ、梓の背中が驚かせて欲しそうにしてたから」

梓「なんですか、それ……もうっ」

律「唯んとこ行くんだろ、早くいこーぜ」

梓「わわっ、押さないでください!」

律「ゆーいー、遊びにきたぞー」

梓「……失礼します」

唯「あっ、あずにゃん、りっちゃん!」ジャカジャカ♪

梓「! (あ、ギター……)」

唯「さわちゃんに頼んだら早速持ってきてくれたんだよ~、うぅ~んギー太ぁ」スリスリ

律「あたしのドラムセットも届いたぜ! くぅ~っ早く叩きてぇー」ウズウズ

唯「久々のライブだもんね~、腕が鳴るよ!」フンス

律「こうしちゃおれん! ドラム叩いてくる!」タタタッ

梓「あっ、律先輩!」

唯「~♪」ジャカジャカ

梓「あっ、うぇ、えっと……今日は紬さんは一緒じゃないんですか?」

唯「ん~、なんか検査があるんだって~」ジャカジャカ

梓「そうなんですか……」

 ジャカジャカ~♪

梓「……」

唯「あっ、あずにゃ~ん、この間ここにクッキー置いていってくれたのあずにゃんでしょ~

梓「あっ、それはぁ……」

唯「ありがとね~、あずにゃん! おいしかったよ~」

梓「あっ……いえ。……唯先輩は、ギター好きなんですね」

唯「えへへ~」ジャカジャカ

梓「……いいなぁ、そういうの」ボソッ

唯「でも、あずにゃんもギター好きだよねぇ」

梓「えっ?」

唯「だって~、初めて会ったときあずにゃんと握手したら、指がプニプニだったもん」

梓「!」

唯「だからね~、ずっと思ってたんだぁ、いつかあずにゃんと一緒に同じステージに立ってギター弾きたいなぁって」

梓「唯先輩……(なんで。なんで、いっつもふざけてて、自分のこともままならないはずなのに……ちゃんとわたしのこと見ていてくれる)」ポロポロ

唯「でもしばらく練習サボってたから指動かなくなっちゃったよ~、って! あずにゃん!? どうしたの? どっか痛いの?」オロオロ

梓「っうぅ、なんでもっ、ないです」グスッ

 ぎゅっ

唯「いいこいいこ~」ナデナデ

梓「(わたしは……わたしは……)」グスッ


 ――――

 ――地下室!

  ズンズンジャカジャカ~♪

澪「ふぅ、だいぶ揃ってきたな。今の、いい感じじゃなかったか?」

梓「そうですね、でもまだ律先輩は走り気味です。気をつけてください」

律「うんうん、って、なんでお前は上から目線なんだっ!」

唯「ふぁ~、つかれたぁ、ムギちゃんおやつ~」ダラー

紬「はいはい、ただいま~」シャランラー

梓「唯先輩はまだ傷が治りきってないんですから、無理しないでください。本番で良い演奏ができなきゃ台無しですっ!」

唯「うぅ~、あずにゃんがこわいよ~」

澪「じゃあ、今日はここまでにしよう」

律唯「「はーい」」

紬「おつかれさまでした~」

律「じゃあ、ムギの部屋でお茶にしよーぜっ!」

唯「おぉー! りっちゃんナイスアイディア」グッ

澪「もう面会時間とっくに過ぎてるぞ。部外者がいつまでもいたら、迷惑だろ」

唯「えぇ~、そんなぁ」

紬「大丈夫よ、私の部屋には面会時間なんてないから~」

澪「えぇっ、そうなのか?」

紬「でもその前に、みんなを招待したい場所があるの」


 ――――

 ――地下通路!

唯「海!? 月に海があるなんて知らなかったよ~」

律「月の海って……(ムギのやつ五人分のボンベを一人で担いでる……)」

澪「でも、大丈夫なのか、こんなの勝手に使って」

紬「えぇ、本当は大人の人にバレると怒られちゃうんだけど、今日は特別」ニコニコ

梓「大人の人って、みんな大人じゃないですか」

紬「私、十二歳なの。言ってなかったかしら~」

梓「へぇー、十二歳」

唯梓澪律「「「「って、えぇえええええ!?」」」」

紬「私ね、ルナリアンなの、月生まれの月育ち」

唯「でもでも、ムギちゃん見た目はわたしたちと全然違わないよ」

澪「聞いたことあるぞ、低重力の環境で育つルナリアンは普通の人よりも発育が早いって。そのかわり筋力や内臓器官が弱くて地球の重力には……あっ、ごめん」

紬「うふふ、いいのよ」

梓「……親を恨んだりはしないんですか」

澪「おい! 梓!」

梓「だって!」

紬「そうねぇ、小さいときは恨んだりもしたわ。なんで私は学校に行ったり、友達を作って一緒に遊んだり、そういう普通のことができないのかって」

梓「……」

紬「でもね、やっぱり私は月での生活が大好きなの、いろんな土地や国から来る人と出会ってお話しして、それに今は素敵な友達もできたし……」ニコッ

唯「ムギちゃん……」

紬「地球がどんなに良いところでも、ただそこで生きているだけでは意味ないもの」ニコッ

梓「……」

紬「さぁ、エアーロックが解除されたわ。ようこそ、私の海へ」

 プシュー

唯「わぁ~」

律「すっげーーー」タタタッ

唯「あっ、りっちゃんズルい~」タタタッ

梓「二人とも、そんなにはしゃいだら危ないです!」

澪「うぅ~、私も行くぅ~!」タタタッ

梓「澪先輩まで……」

紬「うふふ、梓ちゃん、どう? 私の海!」

梓「えっ、えぇ……(わたしにはただの砂漠にしか……あっ!)」

 梓の目に、夏のビーチで戯れる四人の姿が映る。

梓「(……そっか、場所は重要じゃないんだ、大切なのは、自分が……どうしたいかなんだ)」


 ――――

 ――数日後 地下室!

唯「完治しました!」フンス

律「おーし! これで練習に本腰入れられるな」パクパク

澪「お菓子食べながら言うな」ポカッ

紬「うふふふふ」

唯「本番まで、気合い入れてがんばるよーっ!」

澪律紬「「「おーーーっ!」」」

 ガチャッ

梓「おーっ」ボソッ

唯「あっ、あずにゃん!」ダキッ

梓「遅れましたけど、わ、わたしもみなさんと一緒に……バンド、やらせてください!」

澪「梓……」

紬「あらあら」

律「ムギのキーボードに梓のギター、これで優勝は間違いない!」

梓「律先輩は、もっとドラム練習してください」

律「なにをぉ~!」

紬「あの~、ところで、バンドの名前ってなんでしたっけ?」

澪「そういえば、特に決めてなかったなぁ」

唯「バンド名なら決まってるよ~」

律「どうせ唯と愉快な仲間たち、みたいのだろ~」

唯「む! そんなんじゃないよ~!」

梓「じゃあなんなんですか?」

唯「ごほん、えっとね、バンド名は……」



 ――社内演芸会 当日!

司会「……前大会優勝、アルヴィンド・ラビィさんによる宴会芸でした」

 パチパチパチ パチパチパチ

司会「続きまして、デブリ課社員による、バンド演奏です!」

唯「いくよ、みんな」ガシッ

律「よっしゃー!」

澪「あぁ!」

紬「私、円陣組むの夢だったの~」

梓「やってやるです!」

司会「それではどうぞ! 放課後ティータイムの皆さんです!」



 おわり 






最終更新:2011年02月24日 02:55