――ひと月後 トイボックス!
梓『回収完了しました、これから収納作業に移ります』
律「あいこぴー」
澪「うん、梓もだいぶ慣れてきたみたいだな」
――宇宙!
梓「よし、固定完了っと、そっちはどうですか、唯先輩」
唯「……」ボーッ
梓「唯先輩!」
唯「わぁっ! びっくりしたなぁもう~、いきなり大きい声出さないでよ~、あずにゃ~ん」
梓「唯先輩がちゃんと返事しないのがいけないんです! それよりそっち側、固定できましたか?」
唯「え~っと、はい! 出来ました!」フンス
梓「もうっ、しっかりしてくださいよ」
――トイボックス!
律「唯のやつ、梓の足引っ張ってんじゃないかぁ?」
律「おーい唯、後輩に叱られてんなよー」ハハハ
唯『む! りっちゃんまで失礼な!』プンプン
澪「……」
――デブリ課
律「へへーん! いただきっ!」ガッ
唯「あぁ~、りっちゃんそれわたしのお菓子~」
律「早い者勝ちだよーっと」ヘヘヘ
澪「走り回るな」ポカッ
ウィーン
澪「お、和、珍しいな、ここに来るなんて。さてはまた律が……」ギロリ
律「あたしは何もしてない! 多分」
和「こんにちは、みんな」
唯「あ、和ちゃ~ん」
律「えぇっと和さん、ワタクシ何か提出し忘れてる書類でもありましたっけ……?」
和「そうそう、って、今日は違うわ、ちょっと唯、借りて良いかしら」
唯「へ? わたし?」
連れたって出て行く二人 ウィーン
梓「今のって?」
澪「あぁ、梓は初めてだったな。今のは管制課の真鍋和、いつも私たちの仕事を手伝ってくれてるオペレーターで、唯とは幼なじみでもあるんだよ」
梓「そうなんですか(どこかで聞いたことある声だと思った)」
律「……そっか、もうそんな時期か」ポツリ
澪「……あぁ」
梓「?」
――通路!
和「唯、今年は陸に降りてみない? ご両親にも全然会ってないんだし、あなたが顔出したらきっと喜ぶわよ」
唯「うん~、でもぉ、わたしには宇宙をキレイにするというお仕事が」テヘヘ
和「仕事って……あなたこの三年間、検診以外でセブンの外に出てないじゃない。有給だって無傷のまま残ってるんだし」
唯「う~ん」
和「……それに、資料課の人から聞いたけど、まだ探してるんですって?」
唯「……」
和「別に諦めろとは言わないわ、でも少しは自分のことも大切にしてほしいの」
唯「……うん、じゃあ考えておきます」ヘヘ
和「唯」
――デブリ課
梓「……ふぅ」
ウィーン
さわこ「あら、梓ちゃん、まだ残ってたの?」
梓「はい、ちょっと報告書の作成を」
さわこ「偉いわねぇ、あら、でもそれって唯ちゃんの仕事じゃなかったかしら?」
梓「そうなんですけど、私がやらせてほしいって頼んだんです。一日でも早くみなさんの役に立ちたいので」
さわこ「(あぁ、なんて健気でかわいいの……もう我慢できないわ、ちょっとくらいならつまみ食いしてもいいかしらいいわよね)」ハァハァ
梓「ちょ、なんで息を荒くして近づいてくるんですか!?」ササッ
さわこ「ちょっとだけ、ちょっとだけだから、ね? ね?」ハァハァ
梓「もう、いい加減に……してくださいっ!」ポカッ
梓「それより、聞きたいことがあるんです、唯先輩のことで」
さわこ「(はっ! これはまさか恋の悩み! 恋愛相談!?)」メガネクイッ
ポカッ!
梓「最近、仕事中妙にぼーっとしてるというか、それ以外ではいつも通りなんですけど、他のみなさんもなんだか変な感じで……」
さわこ「……そうねぇ、これは私の口から話すことではないかもしれないけど……」
――回想! 高高度旅客機「アルナイル8型」 キャビン
唯『わぁ~、見てみて憂ぃ~、地球がみえるよ~、真っ青だよ~』
憂『本当だね~』ニコニコ
唯『あ! そうだ!』ゴソゴソ
憂『?』
唯『じゃ~ん! 誕生日プレゼントです!』フンス
憂『……これ』
唯『えへへ~、開けてみてよぅ』
憂『わぁ、可愛いリボン! でも、なんか悪いよ。月旅行にも連れてってもらってるのに、プレゼントまで……』
唯『憂にはいつもお世話になってるからね~、たまにはお姉ちゃんらしいことしてみました!』
唯『いつもありがとうね、憂』
憂『お姉ちゃん』ジワ
唯『えへへ~、じゃあわたし売店でアイス買ってくるね~』
憂『えっ、それなら私が……』
唯『いいからいいから、憂はゆっくり宇宙を満喫しててよ~』タタタッ
憂『あっ、お姉ちゃん!』
唯『?』
憂『ありがとう、お姉ちゃん』
唯『/// すぐ帰ってくるから~』タタタッ
宇宙空間を漂う一本の小さなネジが、秒速8kmという速さでアルナイル8型に接近する。
――現在!
梓「アルナイル8型事故、確かあの事故からスペースデブリが問題視されるようになったって……」
さわこ「唯ちゃんは、その事故のあった旅客機に乗っていたのよ、妹さんと一緒にね」
梓「!」
さわこ「デブリが衝突したキャビンは滅茶苦茶で、妹さんは行方不明……唯ちゃんは偶々席を離れていて助かったそうよ」
梓「っ! ……そんな」
――ISPV-7(セブン)内 居住スペース!
唯「♪~」ジャカジャカ
さわこ『もうすぐ、事故から四年経つの』
梓『……(そんな、そんなヒドいことがあったのに、なんで唯先輩は宇宙にいられるんだろう)』
――数日後 宇宙!
梓「……」ボーッ
律『おーい、梓、聞こえてるか? ぼけっとしてんなよ』
梓「あ、はい! じゃなくて、あいこぴいです!」
唯「りっちゃ~ん、こっちは回収終わったよ~」
律『お、早いなぁ、じゃあ梓の方を監督してやってくれ』
唯「ほ~い」
――トイボックス!
澪「(唯は元通りになったみたいだな、和のおかげか。でも今度は梓の様子が……)」
梓『こっちも積み込み完了です! これから帰投します』
律「よし、最後まで気抜くなよー」
――宇宙!
唯「じゃあいこっか、あずにゃん」
梓「はい! (唯先輩、今日はいつも通りだ、よかった)」
唯「!」
唯の瞳が真っ暗な空間に浮かぶ何かを捕らえる。
律『っと、ちょっと待て二人とも! フィッシュボーンの進路軌道に小デブリ群が接近してる、通過するまでその場で待機しとけ! ゆーこぴ!?』
梓「あいこぴいですって、唯先輩! どこ行くんですか! 戻ってください!」
唯のフィッシュボーンはふわふわと進んでいってしまう。
律『おい! バカ! 唯! すぐにそこを離れろ!』
唯の手が何かを掴む。その瞬間、小デブリ群がフィッシュボーンごと唯を飲み込む!
澪律『『唯ーーーーーっ!』』
梓「うそ、先輩が……そんな」
澪『イヤ、イヤァアアアアア!』
律『くっ、ダメだ! 唯のやつ意識を失ってる! おい澪! 喚くな! しっかりモニター見ろ! 絶対唯を見失うな! 梓! しっかりしろ! お前が助けるんだ!』
梓「あ、あいこぴいです!」
澪『高度が下がって……あぁ、ダメだ、大気圏に』ガクガク
――――
唯『(ここは、どこ? あったかくて、眠くなっちゃうよ)』
お姉ちゃん、お姉ちゃん 起きて、お姉ちゃん
唯『うぅ~ん、憂? えへへ~、憂ぃ~、あったかあったか』
もう、お姉ちゃんったら
唯『憂い~寂しかったよ憂ぃ、わたし、憂がいないとなにもできないよ』ポロポロ
よしよし、大丈夫だよ だって、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなんだもん
唯『うぅ~、憂ぃ』ポロポロ
ほら お姉ちゃん もう起きて みんな待ってるよ
――――
梓「唯先輩!」ガシッ
唯「あっ」
ありがとう、お姉ちゃん
唯の手にはリボンが握られている。
梓「捕まえました! 律先輩! 離脱誘導えおお願いします!」
律『上昇……道……っ! ……あずっ……』ザザザーッ
梓「律先輩、律先輩!? くっ、自力で、自力でやってやるです! うわぁあああああっ!」
――翌日 月の病院!
唯「えへへ~、心配おかけしましたぁ」
梓「本当です! わたしだって危なかったんだから! 唯先輩といると、命がいくつあっても足りる気がしません」プリプリ
律「いやぁ、でもたいした怪我じゃなくてよかったなぁ(梓の生命力には驚かされたけどな……)」
澪「」フルフル
律「みーお、いつまで怯えてんだぁ?」
澪「お、怯えてなんかいないっ! 私は、ただ、心配で心配で……よかった、本当によかったぁ」グスッ
梓「先輩……」
唯「澪ちゃん……よしよし」ナデナデ
梓「……」チラチラ
律「澪先輩ばっかりズルいですぅ~、わたしもなでなでしてほしいですぅ~」
梓「っな! 何言ってるんですか、変なこと言わないでください!」
唯「もぅ、あずにゃんは素直じゃないなぁ~……ありがとね、あずにゃん」ギュッ ナデナデ
梓「にゃぁ///」ポォー
梓を撫でる唯の手首には、ちょっと汚れた憂のリボンが巻いてある。
澪「やれやれ」
律「よーし、せっかく月に来たんだし、飯いこーぜ、飯!」
唯梓「「おー!」」
梓「って先輩はダメです、入院してるんですから大人しくしててください」
唯「えぇ~、そんなぁ~、しどい」ガーン
あははははー
――二日後 月の病院!
梓「(唯先輩はちょっと目を離すと何をしだすかわからないから、わたしがしっかりしなきゃ!)」テクテク
ウィーン
梓「唯先輩、お見舞いにきました! 今日のお土産は……っていない!?」
――――
唯「……それがね、あずにゃん、って子なんだけど、すっごくかわい~んだよ~」
??「あらあら、うふふ」
唯「猫耳で~、ツインテールで~、あ、でも怒るとちょっと恐いんだぁ」
??「唯ちゃんのお友達はみんな素敵な人たちばかりなのね、ぜひ会ってみたいわぁ~」キラキラ
唯「うん! 今度紹介するよ~、って、噂をすれば!」
梓「」キョロキョロ
唯「お~い、あずにゃ~ん!」
梓「! 唯先輩、どこに行ってたんですか! 勝手にいなくならないでください!」
唯「ひぇ~、あずにゃんが怒ったぁ」
??「あらあら、ふふふ」
梓「あっ、こちらの方は……」
唯「この子はムギちゃん! この病院に住んでるんだよ~」
紬「琴吹紬です、初めまして~」キラキラ
梓「(綺麗な人……っていうか、病院に住んでるってなに?)あ、中野梓です! 唯先輩がお世話になっています」ペコ
唯「これからね~、ムギちゃんの部屋でお茶するんだぁ、あずにゃんもおいでよ~」スリスリ
梓「人前でくっつかないでください/// もうっ」カァー
唯「えぇ~、ってことは人前じゃなければいいのかなぁ~」スリスリ
梓「///」
紬「あらあらあらあら」キラキラキラ
――紬の病室
梓「こ、これは……(病室っていうか、おしゃれな喫茶店!?)」
唯「おぉ~~~!」
紬「私、お友達とお茶するのが夢だったの~、さ、どうぞ~」
唯梓「「おじゃましま~す」」
紬「今お茶いれるわね、二人とも座って待ってて~」カチャカチャ
梓「は、はい」ポケー
唯「ん、あずにゃ~ん、それなぁに?」
梓「あ、これはっ、なんでもありませんっ!」ササッ
唯「えぇ~、気になるよ~」
梓「き、気にしないでください!」サササッ
唯「ちぇ~、あずにゃんのいけずう~」プイッ
紬「おまたせしました~、お菓子もあるから良かったら召し上がって?」コトッ
唯「わぁ~、おいしそ~」ヒョイ パクッ
梓「い、いただきます(こんな高級そうなお菓子の前で手作りのクッキーなんかだせないよ……)」
唯「んまーい! こんなおいしいお菓子食べたことないよ~」ムシャムシャ ゴクゴク
紬「あらあら、喜んでもらえてよかった~、お茶もお菓子もたくさんあるから、どんどんおかわりしてね」ニコニコ
唯「おかわり!」フンス
梓「せ、先輩! お行儀悪いですっ」
紬「はい、どうぞ~、梓ちゃんもおかわりいかが?」
梓「あっ、はい……いただきます///(うぅ、おいしい)」
最終更新:2011年02月24日 02:56