外伝 琴吹紬

琴吹紬、ムギちゃん視点で書いてみたいと思います。

いろいろ彼女の性格を考えちゃうんですよね。

原作では、初老と思われる男性執事を怒鳴りつけ、楽器屋の青年店員を脅しています。

おっとりぽわぽわは、仮の姿としか思えません。

中世ヨーロッパじゃあるまいし、いくら上流階級とは言え、初老の男性を怒鳴りつける女子高生はなかなかいませんよね。

貴族然とした女の子のキャラクターはたくさんいます。

身分の違いから人に命令する美少女キャラクターもたくさんいます。

でも、どこか憎めないし、可愛らしいですよね。

しかし、執事を怒鳴りつけるムギのセリフには可愛げがないのです!

普通に、怒鳴っていますから。

澪はムギの本性を垣間見て、完全にびびってしまいます。

ムギは軽音楽の面々にどんな感情を抱いていたのでしょうか?

(人の運命って面白いな。)

紬は自室で、ソファにもたれかかり、目を閉じて回想していた。

テーブルには紅茶とお菓子が用意されている。

アールグレイの琥珀色の水面がゆらゆら揺れていた。

(まさか、私がこんな人生を選ぶなんて夢にも思っていなかったわ。)

現在、紬は全国有数のお嬢様大学に通いつつも、バンド活動に明け暮れていた。

プロになるために。

おかげで、大学の友達とは疎遠になっている。

しかし、それは紬には特に苦痛ではなかった。

ブランド物に身を包み、見栄の張り合いをしているお嬢様達。

安い服を着ていくと、陰でこそこそ言われ、高価すぎる服を着ていてもうわさの的にされる。

紬は、陰口も叩かれず、うわさにもならないくらいの控えめなブランドを注意深く選んで着ていた。

それでも、かなりの高額な衣服やバッグではあったが。

しかし、毎日、違う服を着ていかなければならず、制服だった高校時代は本当に楽だったと懐かしく思う。

そう、その高校時代から続けいているバンド活動・・・「放課後ティータイム」に打ち込みだしてからは、もう服など気にしなくなった。

自分の好きな服ならなんでも良かった。

大学の友達や同級生の視線も気にならない。



もともと、紬の家は飛び抜けた資産家であった。

お嬢様大学の学生といっても、他の生徒とは桁が違った。

父親の会社は、国内大手の楽器屋チェーンを展開しており、その他にも楽器の製造、飲食やリゾートを多角的に経営する一大グループ企業の中核だった。

飛び抜けた資産家の娘であったため、紬は幼い頃から何か、違和感を感じていた。

「斉藤!」

家では父親と母親が、壮年の男を呼び捨てして使っていた。

紬もそれを真似して、物心ついたときから、

「ちゃいちょう、ちゃいちょう」

とその男のことを呼ぶ癖がついてしまった。

その男は幼い紬に呼ばれると、にっこり笑って、

「紬お嬢様、なんでございましょうか?」

と返事をしてくれた。

これは現在でも変わらないのだが、二十歳にもならない自分が初老の男をこんな風に扱って良いものかと時々悩む。

自分が周りとは違う。
私の生活は普通とは言えないと分かり始めたのは小学生も高学年のときからだった。

紬の話は、友達と合わない。

「何をして遊んだ」とか、「どんなテレビを見た」だとか、話がかみ合うことがなかった。

旅行の話題になると、紬は口を噤まざるを得なかった。

初めは無邪気に、

「地中海に行ってきた」

「フィジーに行ってきた」

と、ありのままを話していたのだが、それは友達と距離を生む結果になった。

何か、紬が話すたびに友達との距離が開く。

かといって、自分を偽ってまで友達と過ごすのも苦痛だった。

紬は無口な少女になっていった。

中学生になっても状況は変化しなかった。

しかし、幸いなことに紬のことを理解してくれる良い教師が中学にはいた。

その教師の前では紬は楽に呼吸が出来た。

もし、この教師との出会いがなければ、紬はうつうつとした少女になっていたかもしれない。

紬は、友達は少ないながら、中学では勉学に励んで、進学校の桜ヶ丘高校に入学することが出来た。

紬の親は、紬を溺愛していたが、過度な干渉はしなかった。

「若いうちはいろいろ経験した方が良い」

と、特に進学に対して口を出すこともなく紬の選んだ高校への合格を喜んだ。

紬は入学してしばらくしてから、クラブ活動をしようと決意した。

もう中学のように打ち解けられる先生もいない。

私は自分の力で友達をつくらなきゃ。音楽が好きだった紬は、合唱部に入部することにした。

(合唱部はどこにあるのかしら?)

紬は音楽室に行ってみることにした。

校舎の最上階、放課後になると、人気の淋しい場所に音楽室はあった。

紬は音楽室の扉を開けた。

見知らぬ二人の生徒がそこにいた。

長身で黒髪と猫の目のような大きな瞳の印象的な生徒と、
おでこを丸出して見るからに活発そうな生徒。

紬「あのぉ、合唱部を見学したいんですけど・・・。」

すると、おでこ全開の生徒が、いきなり紬の手をとり、

「軽音楽部に入りませんか!!」

とすごい剣幕でまくし立てた。


見るからに生命力の固まりのようなおでこ全開の生徒は、熱心に紬を勧誘する。

しかし、長身の黒髪の生徒が、

「そんな強引に誘ったら迷惑だろ!」

とたしなめる。

いや、たしなめるどころか、その生徒もまた、強引に入部させれれようとしている最中だったらしい。

二人はかけあい漫才みたいなやりとりをばたばたと続けていた。

紬はその二人に興味を持った。

(なんだかこの二人、楽しそう!)

そして口をついて言葉が出た。

紬「なんだか楽しそうですね、キーボードくらいしか出来ませんけど、私でよければ入部させてください」

この一言が、澪の運命も変えたのだった。

おでこ全開の生徒が

「ありがとー!これで三人だ!」

と勝ちどきを上げた。

「私ももう入部していることになってんのね・・・」

紬の入部表明が澪が律への抵抗を諦めるきっかけとなったのだ。

意外にも、軽音楽部への入部するという意志を示したのは、紬の方が澪よりも早かったことになる。

こうして、紬は軽音部に在籍することとなった。

紬が二人に興味を持ったのは、

(私もこの二人に混ざりたい!)

と感じたからだった。

長身で黒髪の生徒は秋山澪といった。

外見の美しさが、既に他の生徒とは一線を画す個性であったし、物腰もきっちりしており、意志の強さを感じさせる。

そんな澪が律のペースに巻き込まれてどたばたしているのが微笑ましい。

おでこ全開の生徒は田井中律と言った。

ボーイッシュな外見にボーイッシュな性格で、思いのままに行動しているような印象。

二人とも個性的なのだが、この二人が親友らしいことが紬には面白かった。

(こんなに違う二人なのに、親友同士なんだ!)

それからすぐに、平沢唯が入部してきて、軽音部のメンバーが揃うことになる。

紬の学校生活と部活動が始まった。


最後に入部してきた平沢唯はまったく遠慮しなかった。

律も遠慮しない。

紬が家から持参した高級菓子を思う存分平らげる。

唯はいくら食べても太らないらしい。

うらやましい体質だ。

律は四六時中、どたばたと走り回っているのでカロリーの消費が多いのだろうか。

澪はさすがに、控えめだった。

紬に対して遠慮がちなところもあった。

紬には軽音部の人間関係はちょうどバランスがとれていた。

紬にすれば、引きも切らない訪問客のお土産であるケーキやお菓子をあまらせて捨ててしまうのは勿体ないという理由で、せっせと部室に持ち込んでいるのだが、全員が唯や律のようだと、まるで、餌の運搬人のような気分になるだろう。

遠慮されたり、距離を置かれるのも好きではないが、常識人の澪がいてくれて、バランスがとれているような気がするのだ。

紬は、軽音部の友人達が、おしゃべりしたり、食べたり、笑ったり、はしゃいだりしているところを見るのが大好きだった。

紬の両親は忙しい。

子供時代は広い家で紬は独りぼっちだった。

しかし、両親は紬を愛しており、たまに家にいるときは紬を大切にしてくれた。

だから、たまらないほど淋しかったという子供時代ではないのだが、やはり家族との団らんに憧れはあった。

小学校、中学校時代は、他の子供達は紬に異質なものを感じて、距離をとっていた。

紬はプライドが高かったのだろう、自分を押し殺してまで、そういう子供達と一緒に遊びたいとは思わなかった。

そんな風で、子供の頃に身についてしまった習性なのか、積極的に混ざって遊ぶことは出来なかったが、私はこの友人達に受け入れられているという実感が紬の居場所になっていた。

紬はティーセットや、可愛いお皿も持参し、お菓子をお皿にのせ、紅茶を入れ、せっせと働いた。

そして、軽音部の「団らん」を眺めているととても幸せな気分になった。

紬が物心ついてから、こんなに居心地の良い場所は記憶になかった。

軽音部のメンバーといると、穏やかで楽しい気分になれる。

紬の顔からは笑顔が絶えない。

紬は大変な金持ちの一人娘という強烈な個性を持っている。

これは本人の性格からくるものではないのだが、社会的個性というものあるものだ。

人は強烈な個性を持った人間の接遇に戸惑う。

自分とは違う人種とは打ち解けることは難しいのだ。

ほんの幼い頃はまだいい。

しかし、子供も物心が付いてくると、紬の家に遊びに来ていろいろ感じる。

自分の家、自分の生活との比較。

あまりにも桁違いの紬の豪邸に、うらやみ、恐れ、ひがみが生じる。

それはその子供の親にまで伝播してしまうし、学校の教師でさえそうだった。

紬にとっては普通にしているだけなのに、居心地が悪くてしかたがなかった。

教師と言えば、顧問の山中さわ子も、律と唯と同じ属性だった。

生徒の持参する高級菓子を、説教するどころか、生き甲斐にしているようなところがある。

彼女によると、放課後のティータイムはオアシスなのだそうだ。

それは、軽音部のバンド名の由来となった。

軽音部のメンバーは、いや顧問のさわ子も含めて、それぞれが強烈な個性を持っていた。

唯も、律も澪も内面から来る輝きを放っていた。

その最たる唯。

本能だけで出来ているのではないかと思われる唯は相手が誰であれ、いつでもそのままの唯でいれた。

根拠のない自信にあふれている律は、とんちんかんで役に立たないリーダーシップを振り回し、毎度、楽しいハプニングを軽音部に運んでくる。

澪は豊かな知性と向上心と規律を持って唯と律をまとめていた。

紬の家柄など、彼女たちにとってそれほど重要な問題ではなかったのだ。

そしてさわ子は最初こそ、教師然としていたが、いつのまにか、メンバー以上にはしゃぎ回る年の離れた、楽しい先輩になっていた。

そして紬。

実は、紬はその家柄よりも、むしろ本当は内面の方が個性的だった。

これには紬も気付いていたのかどうか・・・。

それはもちろん、環境が育んだ部分もあるが、紬は、プライドが高く、頑固で、ある意味で男性的な面を持った少女だったのだ。

紬は経営者である父親の背中を見て育った。

彼は大企業を一代で作り上げただけ会って、意志が強く、プライドも高かった。

その影響が大きい。

紬の父親は、紬が子供だからだと言って、猫かわいがりするような人物ではなかった。

ありのままの自分を紬の前でも晒していた。

紬の家を訪問する人達、父の部下や、取引先の人・・・下請けの会社の社長やお得意様、それらの人達と父が話をしている様子を見て紬は子供心にさまざまなものを学んだ。

経済力という権力、それにおもねる卑屈な人達、それをかさにきた横柄な人達、難しいことは分からなかったが、感受性豊かな子供時代に、それらを肌で感じたのだ。

世の中の現実。

生き抜いていくことの厳しさ。

普通の女子高生なら、使用人と言えど、初老の男性を叱り飛ばすことは出来ない。

これは幼少時代から面倒を見てくれていた斉藤への甘えという側面が大きいのだが、紬は、斉藤がお金で雇われている以上、職務を全うすべきだという、極めてビジネスライクでドライな考え方をしていた。

お金を払っている以上、雇用者の立場にある紬は斉藤に最高の仕事を求める権利がある。

紬は腹にすねかえて斉藤をしかり飛ばしているわけではないのだ。

執事として至らないと感じたときに、紬は怒る。

執事の斉藤は出来た人間で、紬のそのような態度さえ微笑ましく思っている様子だった。

紬は斉藤からも影響を受けていた。

いつでも物腰が柔らかで簡単には感情を出さない斉藤。

少女時代からの紬を暖かく見守ってきてくれた斉藤。

やはり、紬は斉藤に甘えている面もあるようだ。

そういった訳で、紬は頑固でプライドが高い経営者としての父という男性と、寡黙で物腰の柔らかい斉藤という男性、二人からの影響を受けて育ってきた。

唯のギターメンテナンスのために、紬の父親の会社の楽器屋に行ったときに、メンバーは少しだけ、紬の本性が垣間見ることになった。


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