(私が一番「放課後ティータイム」を好きになって、みんなを引っぱっていく。)

律や唯がマイペースでも、紬を取り巻く世界が変わっても、梓がまだ高校生でも。

(不安や不満を言い出したらきりがない。もう私たちだけの音楽室もない。でも一番大事なのは、こうして「放課後ティータイム」のメンバーは心を一つにすることが出来るってことだ。)

(私の夢はこのメンバーで武道館でライブをすることだ。)

澪の中に一つの強い意志が生まれた瞬間だった。

唯「私も澪ちゃんと一緒に武道館に行くよ!」

梓「武道館・・・かぁ。でも、このメンバーなら行けそうな気がします。」

律「ぃよぉおし!燃えて来たぞ!それなら、例の音楽事務所との話しとかも、もっと真剣にしなくちゃな!」

紬「わ、私は・・・。」

みんなが紬を見た。

紬は他のメンバーと少し事情が違う。

紬をとりまく環境は他のメンバーと違いすぎる。

紬はどう思っているのだろうか?

紬はうつむいてしまい、なんとなく気まずい沈黙が流れた。

澪「ムギ。ムギが嫌だって言っても私はムギを連れて行くからな!」

澪は穏やかだが有無を言わせない口調で言った。

紬は澪の言葉にはっと顔を上げた.

紬「は、はい!」

紬の顔が明るくなる。

何かが吹っ切れたようだ。

澪は紬ににっこりと笑いかけた。

人に依存するのではなく、期待するのでもなく、尻を叩いて言うことをきかすのでもない、人を引っぱる力。

あの日の律が私を軽音部に引っぱってくれたこと。

先日、唯が私に・・・して・・・くれたこと。

誰に言われたのでもない、二人は自らの意志で澪の運命を変えた。

本当にやりたいことがある人間は人の運命さえも変えていく。

人は人と出会い、変わっていく。

強い意志を持った人間が運命を切り開いていく。

ムギと離れたくない。

ムギのキーボードが私は好きだ。

もっとムギのことを私は知りたい。

だからムギも連れて行く。

例え、ムギが文芸部の入部届けを書いていたとしてもね。

人はなんとなく集まるのではない。

いや、たまたまだとか、ある期間はそういうこともあるだろう。

しかし、人はそれぞれ事情を抱えていく。

それでも気持ちを一つにして集まるには、強い意志を持った人間が必要なのだ。

(それを私がやる!)

相手の顔色ばかりを伺っていては駄目だ。

もっとみんなと一緒にいたい。

もっとバンドを続けていきたい。

自分のしたいこと、やりたいことのためにはときには強引さも必要だ。

そのかわり、私に出来ることは全てやろう。

誰のせいにもしない。誰も恨まない。

私自身が決めたことだから。

私自身の夢だから。

どんなに困難が待ち受けていても頑張ってみせる。

澪は自分の中に生まれた強い意志が自分を変えていくであろうことを予感した。

全能感とまでは当然いかないが、なにか得体の知れない自信が沸き上がる。

そしてそれは澪だけが焦ってしゃかりきになっても駄目なのだ。

私のやるべきことはみんなの気持ちを一つにすること。

そうすれば、律がいる。唯がいる。紬がいる。梓がいる。

絶対に大丈夫。みんなの力を合わせればやれるはず。

律「よっしゃー!じゃぁ、みんなで武道館目指して頑張っていこうかぁ!」

「おーっ!」

みんなで声を合わせ、誓い合う。

戻って来た。

私たちの軽音部。

私の大好きな場所。

私の一番大切なもの。

これからの活動を頑張っていこうと気持ちを確かめ合うと、メンバーは和気あいあいと雑談を始めた。

近況報告や思いで話しに花が咲く。

その中で澪は穏やかな気持ちで思いを巡らす。

自分の中で収拾がつかなかった唯との出来事にも触れることが出来た。

(こ、細かいことはいい。私は唯によって目を開かされた。ちょ、ちょっと劇薬だったけど・・・。)

そう考えると、あの出来事も必要だったのかも知れない。

どうにか受け入れることが出来そうだった。

(そうだな。唯のやることはめちゃくちゃだし、何考えてるか分かんない時があるけど、私を変えてくれた。私は唯が好きだ。大切な友達なんだ。)

ありがとう、唯。

私、唯と出会えて良かったよ。

澪は唯にこの気持ちを伝えたくなった。

何か簡単な一言でもいい。

唯には分からなくてもいい。

ただ、何か一言、唯に話すんだ。

澪「ゆ、唯、あのさ・・・」

澪は唯の方へ身体を向けた。

唯「あずにゃん!その服、かっわいいね~!元気してた~?」

梓「あ、ありがとうございます。私は元気ですよ・・・、ちょ、ちょっと唯先輩!」

唯は梓に頬ずりしようとしていた。

唯「あずにゃん、久しぶりに会うとやっぱ可愛いね~、ほら、にゃ~って言って、にゃ~って!」

梓「言いません!」

唯「あ~ん、冷たい!ほら、捕まえたーっ!!」

梓を捕獲した唯は口をちゅーの形にして梓にせまる。

梓「ゆ、唯先輩!ちょ、やーっ!!やめて下さいよ!み、澪先輩!助けて下さい!」

澪はテーブルの上に置いた両手の拳をワナワナと震わせながら唯を睨みつけていた。

唯が澪の視線に気付く。

唯「澪ちゃん、どったの?」

ぼかっ!ぼかっ!ぼかっ!!

唯の頭にたんこぶの三重の塔が姿を現した。

唯は目をぐるぐる回してテーブルの上に伸びてしまった。

唯「ひどいよ~澪ちゃん・・・」

澪を見上げながら弱々しく抗議する唯。

律「お・・・、おおう!今日のツッコミは厳しいな、澪。」

律でさえ、二重の塔はあっても三重塔のたんこぶはつくられた記憶がない。

あまりのつっこみの厳しさに律の冷やかし方も少し戸惑っている。

澪もひりひりする自分の手に息を吹きかけながら、

一瞬の自分の激情が信じられなかった。

(わ、私・・・!)

梓「み、澪先輩、ありがとうございます。」

梓は「助かった」と安堵の表情で唯の隣から澪の隣の席へ移動して来た。

梓「もうっ!唯先輩、私、澪先輩のとなりに座りますから!」

澪は自分の激情の正体にうすうす気付いていたが、認めたくなかった。

素直になるっといっても受け入れ難いことも有る。

澪は梓に優しい気持ちになれなかった。

(わ、私、梓に嫉妬してる・・・!)

澪は知っている。

実は梓が唯のことを大好きなことを。

梓は澪に対して尊敬を抱いていて、頼りにしている。

「一番憧れている先輩は澪先輩です。」と言ってはばからないが、彼女が一番、好きな先輩は唯であった。

本人は認めたがらないだろうが、他人の目から見ると梓の唯に対する態度は分かりやすいくらいだった。

要するに、澪同様、素直じゃないだけなのだ。

軽音部では梓が一番、澪に似ている。

まじめで責任感が強く、いつも向上心に溢れていて融通が利かない。

そしてかなりの恥ずかしがりやだった。

唯に抱きつかれるのが嫌なのではなく、恥ずかしいのだ。

他のメンバーが見ている前では唯に抱きつかれたときの拒絶反応は激しい。

(でも、梓も二人っきりで唯に抱きしめられたら・・・梓だって・・・はっ!私、何を考えてるんだろう?)

その時、澪は思った。

(良かった・・・!唯なんかを好きになってしまわないで)

澪の中では「唯のことはかなり気になってはいたが、まだ好きになってはいない」ということだった。

(こいつは男だったら、働かないわ、浮気するわで、絶対女を幸せにしないタイプだな。なのに不思議な魅力があって・・・!こんな奴は女の敵だ!)

まだまだ澪は唯との関係に悩まされ続けねばならないようだった。




終章 琥珀色の刻

その晩、澪は机に座り詩を書いていた。

これからの放課後ティータイムに相応しい曲。

武道館を目指す為の新曲。

何度も書いて何度も消しゴムで消す。

澪の格闘は深夜まで続いた。

現実なのか幻想なのか。

あれから随分時間が立ったような気もするし、つい昨日だったような気もする。

ステージへ向かう律、唯、紬、梓、澪。

舞台袖から彼女達が現れると、大歓声とまばゆいばかりの光源が浴びせられる。

唯がいきなりマイクをハウらせて、焦っている。

律がいっちょやったるか!と気合いを入れている。

紬は微笑みながら、キーボードの感触を確かめている。

梓は一度深呼吸をしてギターのネックを握りしめる。

澪はベースを軽く唸らせてから、このライブの第一声をあげた。

澪「今晩は!放課後ティータイムです。では、一曲目、私たちのデビュー曲、琥珀色の刻!聞いて下さい!」

律「ワン、ツー、スリー、フォー!」

梓のリフで始まるオープニング曲。

唯がふんわりと歌い出す。

セピア色の

廊下と教室

飴色にたゆたう

水面(みなも)は

紅茶(アールグレイ)

不協和音の

おしゃべりと

心たちが織りなす

ハーモニー

昨日と少しずつ違う明日

立ち止まらない今日だから

今、この刻時(ドキドキ)を

大切に 奏でているの

そうでしょう?

琥珀色の宝石に

閉じ込められた

思い出は

とてもきれいだけど

決して触れることは

出来ないのね

色鮮やかに

動き出したなら

何一つ欠けることなく

続いていく

終わらない

私たちの音


琥珀色の刻~memories of amber~

作詞 秋山澪 作曲 琴吹紬

演奏 放課後ティータイム

G&Vo 平沢 唯
G 中野 梓
B 秋山 澪
Key 琴吹 紬
Dr 田井中 律







一曲目から鳴り止まない歓声。

「放課後ティータイム」のライブは始まったばかりだ。 <完>



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14 ※外伝 唯視点