トイレのゴミ箱に唯先輩の下着を捨ててから、こっそりと出て行く。
 それにしても人がこなかったのは僥倖でした。
 あんなの、誰かに聞かれてたら通報されちゃいます。

梓「すーすーしませんか?」

唯「するよー、今スカート覗かれたら私生きていけないよ~」

梓「大丈夫です。唯先輩は私が死守しますから」

唯「ここが百貨店でよかったよ~」

梓「はい、下着は私が選びますね」

唯「可愛いのじゃないと私はかないからね」

梓「任せて下さいです!」

 下着売り場は4階のイースト館。
 今はイースト館の2階なので、階段か、エスカレーターかエレベーターを使う必要がある。

梓「どうやって上の階に行きますか?」

唯「一番安全なのはエレベーターだよ」

梓「……そうですね」

 エレベーター前で立ち尽くす。こういう時に限って中々やってこないもの。
 唯先輩はむずむずしてるし、私はハラハラしている。

唯「うー、遅いよお」

梓「あと少しで来ますよ」

律「そうだな、あと少しで来るな」

梓「……」

律「ったく、いきなりいなくなりやがって、焦ったぞ」

唯「りっちゃん、後ろで見ててよ~、デートの邪魔禁止だよ」

律「いやな、おまえらがあんまりにも不憫でつい、な」

梓「不憫って、別にそんなことありませんけど」

律「いやだって、すげえ見られてるぞおまえら」

梓「もう気になりませんよ」

唯「あれ? 澪ちゃんとムギちゃんはどったの?」

律「下で待ってる。唯たちが出て行っても見つけられるように」

梓「運いいですね、律先輩」

律「ほんとそうだ。上の階からしらみつぶしに周って疲れた」

唯「私たち、ランジェリー見に行くんだけどりっちゃんも来る?」

律「いや、私は正面口で待ってるから……逃げるなよ?」

梓「もう逃げませんよ」

唯「でもりっちゃんも面白かったでしょ?」

律「少しは……ああそうだ30分程度で降りてこいよー、それ以上待たせたら電話かけるから」

梓「大丈夫ですよ、下着を選ぶだけですから」

 エレベーターが到着したので律先輩とは一旦別れて、4階まで。
 ランジェリーコーナーは意外と広く、品数も充実していた。
 自分の分も買いたいくらいです。

唯「すっごーい! いっぱい売ってるよー」

梓「凄いですけど、ハデなのもいっぱいありますね」

 ガーターベルトやヒモパンみたいのはさすがに遠慮したいです。

唯「あずにゃんあずにゃん!」

梓「どうしましたか?」

唯「ほら、左の方にあるランジェリー可愛いよお~」

 唯先輩がサンプルを手にとって広げる。私の右手も同じように引っ張られる。

唯「あれ? このショーツ、前に穴が空いてるよ~」

梓「そういうタイプなんですよ」

 いわゆる勝負下着。必要性は、あまり感じない。
 私や唯先輩が身に着けるよりかは大人のさわ子先生がつけるべきだと思う。
 あとは無理やり澪先輩辺りに罰ゲームで陥れたり……。

梓「1500円ですか、随分と安いですね」

 デートのセッティングのお礼としてムギ先輩にプレゼントでもするか悩むところです。
 たぶん顔を真っ赤にしてありがとうって言われるかもしれないですけど。

唯「あずにゃん、誰のことを考えてたのかな?」

梓「えっ!」

唯「私以外の人のこと、考えてたでしょ?」

梓「……はい」

唯「あずにゃん、私とのデートつまらない?」

梓「ありえません! 生きてきた中で一番楽しいです」

唯「このランジェリー、ちょっと私には似合わないよね」

梓「そ、そうですよ。こんなのは唯先輩には必要ありません!」

唯「うぅ……あずにゃんは、誰なら似合うかな~って思ってたのかな?」

梓「……澪先輩とか」

唯「澪ちゃん」

梓「ムギ先輩とか……」

唯「ムギちゃん」

梓「さ、すぁ子先生とか」

唯「さわちゃん」

梓「はい、この人たちなら似合うかなあなんて」

唯「……私、これが欲しいよ」

梓「えぇっ!?」

唯「あずにゃんには、私がこういう大人っぽい下着は似合わないって思ってるんだもん」

梓「これは、大人というより変態……」

唯「ふんす! 私だってやればできる子だってことを証明しちゃうもんね!」

梓「変なとこにこだわる人だー」

唯「えーと、これはこのパックの奴でいいんだよね……」

 どうやら、購入することが決まったみたいですが、本当にこんな布面積も小さければ、
 あ、ああ、穴開きタイプの下着をはかれてしまわれるのでしょうか!?

梓「……えへへ」

唯「あずにゃんが不気味だよ!」

梓「さぁ、行きましょう! はきましょう! 見せて下さい! 唯先輩の闘志を!」

唯「え? う、うん」

 レジに持っていき私がプレゼントとして購入。
 店員さんがにこやかに笑っていたのは、手錠を見たからなのでしょうか。
 繋がれた手を見たからなのしょうか。それとも、つらいからなのでしょうか。
 早速トイレに行って、唯先輩に手渡す。
 そうだ、私が……。

梓「唯先輩、片手じゃはけないですよね?」

唯「うーん、そうかも」

梓「私が半分持つので、唯先輩はもう片方を持って下さい」

唯「ありがとうあずにゃん」

 スカートをたくしあげると……ごほっごほっ。
 表現は憚れるです。いや、これは表現してはいけないZONEであることに間違いないです。

唯「あずにゃん、顔が緩みきってるよー」

梓「そ、そんなことありません! 私の顔はキリッとしてます!」

唯「目だけキリッとされても……」

 便器に座らせた後、靴を脱がせ、ショーツタイプのランジェリーを左足、右足と通していく。
 このとき、唯先輩の脚が持ち上がり鼻血ものの光景を目にしました。
 膝を通して、ふとももにまでラメがかすかに光るランジェリーが通っていく。
 このとき、さりげなくふとももを撫でていきます!

唯「あ! あずにゃん、くすぐったいよ~」

梓「すみません、手が滑ってしまって」

唯「そっか~、それならしょうがないよね~」

梓「はい、仕方ないんです」

唯「はきおわったけど、すっごくスースーするよー」

梓「それはそんなに小さい下――」

 ばっさばっさとスカートを持ち上げて風を送る唯先輩。
 っく! 見える! 見えます! 至福なスイーツが見えてしまいます!
 眩しすぎて目がくらんできました……。

唯「のっくだうん? 大丈夫あずにゃん?」

梓「待って下さい。今脳内に画像をキャプチャー中ですから」

唯「ばっさばっさ」

梓「な、名前をつけて別保存です!」

唯「……面白いかも」

 しばらく唯先輩といちゃいちゃしていたら電話のコール。
 律先輩だった。なんと、30分なんてあっという間でした。

唯「それじゃ戻ろうか」

梓「そうですね」

 トイレから出て、そのまま百貨店の外へ。
 ガードレールに腰掛けていた律先輩が手を挙げ、澪先輩とムギ先輩も近づいてくる。

紬「お待たせ、鍵を持ってきたわ~」

澪「後ろから見ててハラハラしたぞ、途中からドキドキに変わったけど」

律「公道で堂々といちゃいちゃされればなー、見てた私たちが虚しくなった」

唯「りっちゃん……私たちは大人の階段をのぼったんだよ」

梓「3段くらいのぼりましたね」

紬「わ、私たちが見ていない数十分で一体なにが……?」

梓「それは秘密です」

唯「うん、秘密秘密♪」

澪「そこはかとなく気になるぞ」

 ムギ先輩が私たちの手錠を外し、鞄の内ポケットに収めた。
 手首にあった重しがなくなっただけで、すごい開放感を得られる。

 だけど――

紬「唯ちゃん、梓ちゃん。もう手を離してもいいのよ?」

澪「ほら、手首が赤くなってるぞ、大丈夫か?」

唯「いいんだよ、私たちはこのままで」

梓「はい」

律「……」

梓「だって、私たちはずっと繋がっているのですから――」

 2009/11/14 16:53
 私は再逮捕された。容疑はハート強奪罪。手錠は赤い糸。
 だけど、私だけが逮捕されたのではない。
 私と唯先輩はお互いにお互いを逮捕し合っているのです。

澪「見えない絆か、甘く響く魂の鼓動が聞こえてきそうだ」

律「いや思いっきり目に見える形で表してるぞ、つか変な表現するな」

紬「幸せそうでいいわぁ」

唯「あずにゃん」

梓「はい」

唯「好きだよ」

 私は答えた。とびっきりの笑顔と甘い唇で。
 好きな気持ち伝えるのは言葉だけじゃない。
 必要なとき、必要以上に伝えることができること。
 それを、ただやっているだけなんです。
 でも、誰だってそうしてるんです。
 好きな気持ちを伝えることの難しさを、頭の中で考え、心で感じて、
 笑って、泣いて、落ち込んで、また笑う。
 今回は、道具に頼ってしまったこともありましたが、私はそれを厭わないです。
 唯先輩はこの世に1人しかいないのですから。
 卑怯でも、運でも、使えること、できることは試す。
 その貪欲さが、人を変えることのできる鍵、なのです。

澪「でも、唯はなんであんなに梓に怒っていたんだ?」

唯「好きだったからだよ。私はね、
  あずにゃんならしないだろうなーってことをされたからびっくりしちゃって」

梓「私は好きだからこそ、その場でちょっと怒られる程度だと思っていました」

唯「あずにゃん、次にケーキのいちごを取ったら、あずにゃんのイチゴを食べちゃうからね」

梓「はい、ぜひお願いします」

律「帰るか……これ以上聞いてたらドラムを無性に叩きたくなる衝動に駆られちまう」

澪「……そうだな、こうスラッピングでベンベーンとベースを弾きたくなるな」

紬「結婚式と披露宴は、ぜひ私たちも呼んでね」

梓「勿論です。律先輩と澪先輩も来て下さい」

律「ご馳走様!」

唯「りっちゃん、おかわりは?」

律「謹んで遠慮させていただきますざます!」

 こんな日々がずっと続けばいい。
 子どもながらにそう思ってしまう。
 だけど、時間は人を変えていくということを私は知っている。
 中学までの私と高校生の私。全然違うから。
 これから大学生になって、社会人になって、何になれるのだろう。
 考え出したらキリがなくなります。
 だから私は、今を精一杯楽しむことにします。
 現在を楽しむためには、未来のことは考えなくていいんです。
 目の前にある幸せを、ありのまま受け入れることが、私の青春なのですから。

唯「あずにゃん、難しいことは考えなくていいんだよ」

梓「どうして唯先輩は私の考えてることがわかるのですか?」

唯「知りたい?」

梓「はい、教えてください」

唯「それはね……ひーみーつ!」

梓「あぁ! そういうとこで隠し事なんてずるいです!」

唯「手を繋げば、それでいいんだよ」

梓「答えになっていません!」

唯「中野あずにゃん!」

梓「は、はいっ!」

唯「私はあずにゃんを逮捕します。容疑、可愛いは正義。
  罰は私とずーっと一緒にいること。問題は?!」

梓「ありません!」

唯「私とあずにゃんは、永遠に、逮捕しあわなければいけないのだー」

梓「永遠に……」

唯「はい、あずにゃん捕まえた!」

梓「た、逮捕されちゃいました……!」

END