店員「本当によろしいんですか?」

紬「ええ。最近このお店には迷惑かけてばかりだから」

総額だと恐らく30万相当の損害が出ているはずだ。

店員「分かりました。それでは、まずは店の裏の掃除をお願いできますか」

紬「はい」

ここは父の経営する会社の系列の音楽店。
私は今日から一週間このお店での手伝いを申し出た。

何故なら、ここには世話になりっぱなしだったので何かお礼ができないかと思いついた結果だ。


紬「ほうきととちりとりを持ってと…」

エプロンをして店の裏のドアから路地裏に出る。

紬「ようし、頑張ろ」

老婆「……」

紬「ん?…あれ、誰かいるんですか?」

横を見ると笑ったような顔をしたお婆さんが座っていた。

老婆「……」

紬「こんなとこに座ってたら風邪ひいてしまいますよ?」


老婆「……」

紬「あの。今からここでお掃除をするので、勝手ながら少しだけ移動しててもらえないでしょうか?」

老婆「……」

困ったことに無視をされてしまった。

紬「(どうしよう…。何とか言って退いてもらわないと)」

紬「あの!おねが…」

『聞けるブレスレット 売ります』

そう書かれた札の横にブレスレットが置いていた。

紬「…これ、御商売されているんですか?」

老婆「はい」

紬「(喋った!)」

老婆「……」

紬「この商品のお値段はどのくらいに?」

老婆「千円でございます」

千円ぐらいならいいかな。

紬「珍しそうなんで買いましょう」

紬「因みにこの『聞ける』って?」

老婆「それはお使いになった方だけが分かるのでございます」


変な言い回しをするお婆さんと思いつつ千円札を渡す。

老婆「お買い上げありがとうございました」

紬「あ、そうだった。お婆さん!」

顔を上げるとお婆さんはどこにも居なくなっていた。

紬「……疲れていたのかしら」

しかし『聞ける』ブレスレットは確かに私の手の中に握られている。

どういう意味での『聞ける』なんだろう。


答えは翌日、その買ったブレスレットをはめて学校に行った時に分かった。

通学路でサラリーマンの人とすれ違う。

サラリーマン『仕事だるいなー』

紬「…?」

今の独り言だったのかな?

すると今度はおじいさんとすれ違う。

おじいさん『いい天気じゃのう』

声をかけられたと思って返事を返す。

紬「はい。今日は一日晴れるそうですよ」

おじいさん「…はて?どうして私の考えたことがお分かりになったのじゃ?」

紬「えっ?今『いい天気』だっておっしゃってたから」

おじいさん「思いはしたが口には出しておらんぞ」

おじいさん「変なお嬢さんだ…ほっほっほ」

そのおじいさんは笑いながら去って行った。

紬「何だったんだろう。今の」

電車に乗ると、いつもは静かな電車が多くの声でにぎわっていた。


『学校休んで寝てたい』

『何やってんだよコイツ。これじゃずっとクリアできないじゃん』

『やっぱり怒ってるかなー怒ってるよなー』

『今日の会議はっと…』

『今日も帰りに居酒屋でパーっとやるかな』

紬「(みんな今日は随分と独り言が多いわ)」

駅から降り、学校に向かっている時に私とすれ違う人は全員独り言を言っていた。

紬「独り言言わなきゃいけない法律でもできたのかしら…」


学校の門に入ると、周りに居た生徒全員がみんな独り言を呟いていた。

女子『昨日ガラス割っちゃったけどバレてないよね?』

女子『誰にも見られてなかったし』

紬「……」

そんなことをわざわざこの場で言ってのけていいのかな?
もし先生か誰かが聞いてたりしたら怒られちゃうのに。

何かがおかしいと思いつつ教室へ入る。
話声がいつもの数倍に聞こえるのは気のせいでしょうか。

唯「あ、ムギちゃんおはよう」

私が入ってきたのを見つけた唯ちゃんが挨拶をしてくれる。

唯『今日はどんなお菓子を持ってきてくれたのかな』

紬「それは放課後までのお楽しみね」

唯「えっ」

紬「…どうかしたの?」

唯「い、いや、楽しみにしてるね」

唯『何で分かったんだろう。顔に出てたのかな』

紬「え?だって今、自分で…」

そう言った途端、唯ちゃんの顔が青ざめていくのが分かった。

唯「ごめんムギちゃん!私トイレ!」

紬「あっ!」

唯『何で何で?ムギちゃん読心術の達人だったの!?』

紬「読心術なんて習ったことすらないよ?」

いい終わる前に唯ちゃんは教室から出て行った。

紬「読心術って心を読むことって昔聞いたけど…」

心を読む?

――

おじいさん「…はて?どうして私の考えたことがお分かりになったのじゃ?」

おじいさん「思いはしたが口には出しておらんぞ」


女子『昨日ガラス割っちゃったけどバレてないよね?』

女子『誰にも見られてなかったし』


唯『何で分かったんだろう。顔に出てたのかな』

――

聞けるのブレスレットってひょっとして…心の声、つまり真実を聞けるブレスレットってこと?


何だか急に恐くなってきた。

紬「(もうこのブレスレットは取ろう)」

取ろうとしてみたものの取れなくなっていた。

紬「な、何で?」

どんなに強く引っ張っても取れない。

紬「(嘘…私、このままずっと人の心の声を聞きながら生きていかなきゃ駄目なの?)」

そんなの嫌だ。きっと精神が壊れてしまう。


私は来る日も来る日も耐え続けた。
聞きたくもない言葉を何度も聞きづけた。

耳を塞いでも聞こえてくる言葉にはもう、うんざりしていた。

しかし、ある日下校している途中私の運命は180度変わった。

『助けて…助けて…』
『暗い…おなか減った…』

紬「?」

助けを求める声。

その声を頼りに行くと声の主は行方不明で誘拐されていた子供達だった。

とあるアパートの一室で犯人が部屋を出て行った後、私はすぐさま琴吹家の使用人を呼び子供たちを保護した。

それからまもなくして犯人は捕まった。


警察署の表彰式において、このブレスレットの力が初めて役に立ったのだと気がついた。


それからはただ、耐えるだけの生活ではなくこの力を何かに生かせないかを考え実行に出た。


どんなポーカーフェイスでも相手の心を読めると言うのは大きい。

確かにあの時は絶望感しか無かったけれど、今は違う。

ギャンブルやトランプゲームで運だめしの物以外は全戦全勝。

スポーツのアドバイザーでは相手の動きが手に取るように分かるし。

スパイや犯罪者の検挙にも大きく援助できた。

喋れなくなった子たちへのボランティアも行った。

やがては動物の心さえも読めるようになっていった。




唯「あ、またムギちゃんの記事載ってるよ」

澪「ムギのお茶が飲みたいな…もう懐かしい味のように思える」

律「あいつのお菓子食べねーとやる気でねーよな」

梓「ムギ先輩のお茶とお菓子が私達の原動力だったんですね…」

――

紬「はーっくしょん!!」

うう、風邪かな…。




ムギ編終わりです。
どう考えてもムギは不幸には転がらないような気がしたので。



11 ※純編