誰も居ない部室で一人、茶をすする。

澪「…不味い」

長椅子には松葉杖があり私の右脚には包帯がぐるぐる巻きにされていた。

澪「やっぱりムギのお茶が一番おいしい」

澪「早く元気になってくれないかな…みんな」


ある日を境に放課後ティータイムは崩壊していった


唯は現在、頭に怪我をして入院中。
電話で「大丈夫だよ!」と言ってる分心配はないだろう。

梓はいきなり不登校になった。
最初は律、ムギ、憂ちゃんと鈴木さんに協力してもらい一緒に梓の携帯に頻繁にかけてみたんだが全く繋がらず。

律は帰り道で落盤事故に巻き込まれ意識不明の重体に…いつ回復するか目星はつかないそうだ。

ムギは突然、家庭の事情とやらで休学している。「学校に来る暇が無くなった」と。

憂ちゃんは姉と同じく照明で頭を怪我して入院。
病院生活は「お姉ちゃんと一緒だから寂しくない」らしいけど、あの家の照明を変えることをおススメする。

鈴木さんも大怪我で学校に来てないらしい…。


律が病院に搬送された次の日、私も階段から落ち右足を骨折した。
と言っても唯と律の見舞いに行った病院での出来事だったのは不幸中の幸いだった。


結局私も入院することになったのだが処置が早かったおかげで少しのリハビリで退院できた。

澪「すごい泣いてたな私…今思うと恥ずかしい」

ガチャ

和「やっぱり居たのね、澪」

澪「和か。唯の見舞いはいいのか?」

和「この後行くから、何か伝言があればと思ってね」

澪「私も行きたいんだけどな…」

松葉杖が無ければ自由に動くこともできない。
階段の上り下りだけで汗だくになるのに。

和「まずは脚を治すことを考えて」

澪「うん。ありがとな」

澪「そうだな…『部室で待ってるぞ』とでも言ってくれ」

和「分かった。確かに伝えておくわね」

澪「頼んだよ」

和「それじゃあ、私行くね」

澪「ああ、またな」

バタン

澪「じゃ、私も帰ろっかな」

松葉杖と鞄を持ち部室を後にする。

愛用のベースは荷物になるから持ってきてはいない。

澪「(だいぶ松葉杖も使いこなせるようになったぞ)」カツン カツン

最初は学校を車で送り迎えしてもらっていたが、慣れてきてからは自分で行くことにした。

澪「いい運動にもなるしな…ん?」

反対側の歩道橋の階段の下に、木箱の前に座っているお婆さんが見えた。

澪「あの人、占い師かな」

占い師なら私達の今後でも占ってもらおうか。

そう思って信号を渡りお婆さんが居る階段の下へと行った。

澪「あの、お婆さん占い師ですか?」

老婆「……いいえ」

澪「あ、すいません…間違えました」ペコリ

どうやら期待とは違ったようだ。

澪「?」

『人生やり直す時計 売ります』

頭を下げた視線の先、木箱の上にはカレンダー付きの腕時計が置いてあった。

澪「珍しいですねこの時腕時計」

へー、カレンダー付きで目もりが24まであるんだな。

老婆「三千円になります」

澪「あ、別に買う気は…」

いや、でもこれだけの多機能付き腕時計で三千円って安いよな。

いつか腕時計買おうと思ってずっと買わないままだったしいい機会だ。

澪「やっぱり買います」

老婆「お買い上げありがとうございます」



―澪の家


勉強を終え、暇になった私は歌詞の続きを作っていた。

みんながもう一度全員揃った時に演奏しようと思って書いている歌だ。

澪「とは言ったものの…中々いい歌詞が出来があがらないな」

自分で書いた歌詞にもう一度目を通す。

『人生がもしやり直せるのなら、今度はもう失敗などしない。運命を変えるのは私次第』

澪「…あ」

そう言えばあのお婆さんから買った時計の前に「人生やり直す」って書いてあったぞ。

澪「本気にしてるわけじゃないけど…もし本当に戻れるなら」

腕時計の時間とカレンダーのダイヤルを唯が怪我する前の日に合わせる。

澪「戻りたいな。あの日まで」

――

気がつくと私は部室に居た。

澪「……え?」

右足も治ってる…松葉杖も無い。

ガチャッ

梓「こ、こんにちは」

澪「!?」

不登校だった梓が申し訳なさそうに部室へと入ってきた。

澪「あず…!」

唯「あずにゃん!」ガタッ

律「またお前が来なくなるかもって、みんな心配してたんだ」

紬「ごめんね。今日からはもっと真面目に取り組むわ」

梓「いえ、私が悪いんです。皆さんに私の考えを押し付けてしまってすいませんでした」

唯「いいんだよそんなこと!あずにゃんが来てくれればそれで!」ギュー

梓「くすぐったいですよ唯先輩」

澪「…あ」

この光景は見覚えがある…。
確か梓が私達を罵倒した次の日の放課後だ。


携帯を見るとやっぱり私がダイヤルをセットした日だった。

そう、この日を境にみんながバラバラになっていったんだ。

澪「信じられない…この腕時計の力なのか?」

どうやら腕時計を使う前の記憶は引き継がれているらしい。

紬「お茶入りましたー」

律「おっし。今日は食ったら練習するぞ!」

唯「おー!」

梓「はい!」

澪「……」

一見平和に見えるが私はこの後起こる全ての災いを知っている。

澪「(絶対に変えてやるんだ…この先の未来を)」

しかしそうは決意したものの、簡単に変えることはできなかった。

唯は再び照明の餌食になり、梓は不登校に。そして分かっていたのに律の落盤事故で入院。

澪「間に合わなかった…」

唯には「照明を取り替えろ」と再三に忠告したが防げず。
梓には再び連絡とどかす。
律を呼びとめた時には、もう遅かった。

やっぱりこれは変えられない運命なのだろうか。

澪「次は私が骨を折る番か…」

またあの痛いのを味合わなければならないのか。いやだなー。

澪「待て…あの時私が右足を折ったのは見舞いに行ったからだ」

つまり『もし』行かなかったら?


澪「痛ったああっ!!ぐぉぉぉ!!」

紬「だ、大丈夫澪ちゃん!?」

すると今度は学校の階段で骨を折ってしまった。

澪「(どうしても運命からは逃れられないと言う事か…)」

私は救急車に搬送されながら考えていた。

澪「(痛い…死ぬ…本当に死ぬ…どうにかこの痛みから抜け出す方法は)」

澪「!」

まさかと思い、腕時計のダイヤルをもう一度あの日にセットする。


――

澪「……」

思った通り、右足の痛みが消え去った。

ガチャッ

梓「こ、こんにちは」

唯「あずにゃん!」ガタッ

律「またお前が来なくなるかもって、みんな心配してたんだ」

紬「ごめんね。今日からはもっと真面目に取り組むわ」

梓「いえ、私が悪いんです。皆さんに私の考えを押し付けてしまってすいませんでした」

唯「いいんだよそんなこと!あずにゃんが来てくれればそれで!」ギュー

梓「くすぐったいですよ唯先輩」


戻ったはいいがどうすればいいんだ。
私達がバラバラになる運命は変えようが無いって自分自身で証明したじゃないか。

澪「いや…未来は無限大なんだ。変えられないなんてありえない」

律「何だいきなり。それ新しい歌詞か?」


それからは何度も救おうとし、何度も失敗した。
代償と言ってはアレだがそんな事を繰り返す内に少しずつ分かっていったことがある。

まず、唯が入院した時点でほぼ暗い未来は決まったようなものだ。
唯だけが入院して梓と律が救われるってことは無かった。

そしてどんな形であれ、必ず災難がやってくる。


ここまで過去を繰り返しても回避不可能と来ると…もう呪いの領域だ。

誰かが私達に呪いをかけているのか、それとも私達の内の誰かが『不幸になる』物を持っているのかの二択。

そう、例えばこの不思議な腕時計を売ってくれた『老婆』から買った物とか…。

実際に私はお婆さんから買った腕時計で何度も時間旅行をしているわけだしな。ありえない話じゃない。

ベッドに横になり独り言を呟く。
因みに時間は私が一番最初に戻したあの日よりも一日前の夜だ。

澪「常識に考えて前者は無いとして…問題なのは後者か」

澪「誰がその『不幸になる』道具を持っているかなんだけど」

澪「怪しいのはいつも一番最初に怪我をする唯か急に不登校になる梓だな」

律とムギの線も捨てきれないが…憂ちゃんと鈴木さんもありえなくはない。


澪「疲れた…」

いくら時間を永遠に巻き戻せても、精神的疲労までは戻せない。

澪「明日だ。明日で必ず終わらせてやる」



律「みおー、あっちにアイス屋あるから唯に買ってってやろうぜ!」

澪「でも唯…まだ安静にしてなくちゃ駄目なんだろ?」

律「それなら病室の冷蔵庫にでも閉まっておけばいいじゃん!」

澪「…んー、そうだな」

律「そんじゃレッツゴー!」タッ


アイス屋へと駆け出す律。

澪「あ、待って…よ」

突然ピシッと私の前ににヒビが入った。

澪「!」

私は本能的にそのヒビから逃げた。

だけど、そのヒビはしだいに広がっていき律に近付いていく。

澪「逃げろ律っ!」

律「は?」

遅かった……律は何が起こったか分からないという表情で暗闇に落ちて行った。


澪「りーーつーーっ!!」ガバッ

チュンチュンと雀の鳴き声が耳に入る。

澪「……夢?」

もう空はすっかり明るくなっている。

澪「最悪の目覚めだ…」

今日やることは

みんなの荷物の仲に変な物が無いか調べることだ。

でも何て言って見せてもらおうか…。


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