テレビ「さぁ、今年もやって参りました!1年に1度のお楽しみプレゼントは~」

つけた番組から陽気な音楽が流れている。

テレビ「●●県▲▲市在住のペンネームAZU.Nさんに決定しました~っ!パチパチパチ!」

梓「」

●●県▲▲市は此処だけど…私はAZU.Nなんてペンネームでこのテレビに応募した覚えは無い。

プルルルルル

それと同時に電話がかかってくる。

梓「はい…」ガチャッ

男『AZU.Nさんのご自宅ですか?』

梓「え?」

男『今年のお楽しみプレゼントの「世界一周の旅」がご当選いたしました』

そんな馬鹿な。応募すらしてないのに当選ってどういうこと?

梓「…あ」

そう言えば小学校の時は懸賞にハマって色んなとこにはがきを応募してたっけ。

でももう何年も前の話だ。

男『商品は近日中に発送させていただきますので。それではよい旅を~』ブツッ



その時あの手紙の文章が頭をよぎる。

この鏡を割ればお客様に幸福が訪れます。ただし割ったお客様の身近な誰かに悪いことがおきます―
他人を犠牲にしてでも幸せになりたい方は鏡をお割りください―

梓「私の身近な人って…先輩達?それともお母さんお父さん?憂と純?」

いや、でも通販で買った胡散臭い鏡だし。

梓「この鏡、インチキ商品だよね。きっと」

そう自分で自分に言い聞かせておいた。
世界一周旅行とやらが当たったのも何かの偶然のはず。


そして憂から唯先輩が入院したと聞かされたのは次の日の朝のことだった。


憂「照明がいきなり落ちてきたの…ガシャーンって。下敷きになったお姉ちゃん、全く動かなくなって…うぅ」グスッ

純「大丈夫だって。きっと唯先輩大丈夫だから、泣きやんで」

純が憂の頭を撫でてる間、私は口をあけてアホ面をしていただろう。

梓「鏡…」

純「ん?」

梓「ごめん憂、純。今日早退するね」

ふらふらと立ちあがりながら鞄を持った。

梓「じゃあね」

純「ちょ、マジで?」

憂「梓ちゃん…?」

梓「先生には何か適当に言っておいて」

私は教室から逃げるようにして出た。
憂の泣き顔を見るたびに心が痛んだから。

梓「きっと私のせいだ…私が鏡を割ったから」

しかしこれだけでは終わらなかった。


Bunsyaka♪

梓「…?」

携帯が鳴ったのでポケットから取る。

梓「お母さんからだ」

ピッ

梓「もしもし」

母『もしもし梓!?おお、お、落ちついて聞いてね?』

そっちが落ちつけ。

梓「何?」

母『お父さんがギターで感電して意識を失ったのよ!』

梓「ええっ!」

小さい頃からお父さんがギターで感電するなんてことは一度も無かった。

母『とにかく、学校を早退してすぐに病院にk』

その時ドンッ、と電話越しに大きな音がした

梓「お母さん?」

ブツッ ツー ツー ツー

梓「…」ポロ

ガシャッ

手から携帯が滑り落ちる。

悪いことが起きるって、一人じゃなかったってこと?



鞄から手紙を取り出しもう一度よく読む。

『この鏡を割ればお客様に幸福が訪れます。ただし割ったお客様の身近な誰かに悪いことがおきます』
『他人を犠牲にしてでも幸せになりたい方は鏡をお割りください』

よく目を凝らして見ると、最初は見えなかった手紙の隅に小さく追伸があった。

『P,S 幸福が大きければ大きいほど犠牲が大きいのも然りです』

世界一周旅行できる分の幸福って…一体どれだけの犠牲が。


考えただけで頭が狂いそうになる。


その日、お母さんもお父さんも帰ってこなかった。



病院に行けば会えるのかも知れないけど怖くてどうしても行けなかった。

梓「……」ガタガタ

プルルルルル

ずっと電話が鳴り続けてたけど、耳を塞いで毛布の中で丸くなっていた。

きっともしかしたら唯先輩やお父さんお母さんの他にも

澪先輩や律先輩やムギ先輩、憂、純…さわ子先生までが酷い目にあってるかも知れない。

プルルルルルル

梓「(逃げたい逃げたいこれは夢これは夢これは夢)」

情けないけど現実逃避しなければ壊れてしまいそうだった。

――

何日たっただろう。
私は電話線を引き抜き、カーテンを閉め切って家に閉じこもっていた。

当然、家に人が来てもずっと居留守をしていた。

梓「……」カチッ

あの日、●月13日から一度も見なかった携帯を開く。


13日 憂
13日 純
13日 憂
13日 澪先輩
13日 律先輩
13日 ムギ先輩
13日 澪先輩
13日 ムギ先輩
13日 律先輩


梓「うわ…着信履歴がすごい」

当然、病院にいる両親と唯先輩からの着信は無い。


14日 憂
14日 純
14日 純
14日 憂
14日 澪先輩
14日 ムギ先輩
14日 澪先輩
14日 ムギ先輩

梓「あれ…」


15日 憂
15日 憂
15日 純
15日 澪先輩
15日 ムギ先輩
15日 ムギ先輩
15日 澪先輩


やっぱり。途中から律先輩の着信履歴が止んでる。

単に面倒になっただけか…それとも

梓「この後はどうなってるんだろ」


16日 憂
16日 憂
16日 ムギ先輩
16日 ムギ先輩


梓「……」

ついに純と澪先輩の着信が止んだ。


17日 憂
17日 憂


ムギ先輩の着信が全員止んで残るは憂のみとなった。


そして


18日 着信はありません


最後の着信が止んでいた。



――

男子高生A「あ、この家…」

男子高生B「ん?この『中野』って人の家がどうかしたのか?」

男子高生A「何でも、『絶対に家から出てこない』女が住んでるって話だぜ?」

男子高生B「へー、引きこもりかよ」

男子高生A「ただの引きこもりのがまだマシだって」

男子高生B「何で?」

男子高生A「朝昼晩ずっと『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ』ってずっと呟いてんだとよ」

男子高生B[うえっ、気持ち悪いなそりゃ]


…ゴメンナサイ


男子高生A「…今何か言った?」

男子高生B「いや何も。それより早く行こうぜ、遅刻しちまう」

男子「お、おう」




梓編、完。



8 ※澪編