―放課後

唯「あずにゃーん!」

梓「(あ、やっぱ中身までは変わって無いんだ)」ヒラリ

いつものように抱きつこうとしたらかわされた。

唯「ぶー、何でよけるの?」

梓「何かその…恥ずかしいじゃないですか…」

唯「え、今更?」

梓「唯先輩がカッコよくなったからですよ!」

紬「昨日までの可愛い唯ちゃんとは正反対ね」

律「何だろ…この親近感」ジーッ

りっちゃんは私にまだ何か腑に落ちないことがあるみたい。


帰り道にあのお婆さんが出没する所に来た。

まだよく分かって無いから、あの扇子の効果を詳しく聞いてみよ。

唯「ここにまた居そうなんだけど…今日は居ないのかな?」

老婆「いらっしゃいませ」

唯「ひゃぁぁっ!」

道理で見つからなかったんだ。

だってお婆さんは真後ろにいたんだから。

唯「脅かさないでよお婆ちゃん」

老婆「………」

唯「あの扇子って結局どういうこと効果があったの?」

老婆「それはお使いになったお客様のみ分かるのでございます」

唯「使ったら、何だか私の雰囲気とか顔つきが変わっちゃったんだ」

老婆「つまりそういうことでございます」

唯「それ答えになってないよ…」

老婆「……」コトッ

『おちる香水 売ります』

唯「……」

今度はこれを販売するつもりなのかな?

老婆「500円でございます」

…やっぱり売る気満々だったんだね。

唯「買っていいのかな?りっちゃんも『ほどほどにしとけ』って言ってたし」

老婆「左様ですか。お客様は他にもいらっしゃるので」

唯「あ、買います!買います!」


唯「ついつい買っちまったぜ…へへ…」

カッコつけてみるものの、自分を殴りたくなった。

唯「結局扇子のことも聞けないままかー」

唯「最初はお金…次は扇子で…今度は香水かぁ」

一体何が落ちるんだろ?


唯「うん、いい匂い」シュッシュッ

憂にもかがせてあげよっと。

唯「うーいー。この香水、いい匂いだよ」

憂「香水?お姉ちゃんまた変なの…を…」

突然ガシャーン!と持っていた皿を落とす憂。

唯「わわっ、早く片付けなきゃ」

憂「…」

ほうきを取ろうと思ったらいきなり憂に強い力で掴まれた。

唯「痛っ!どうしたの、憂?」

憂「好き!」

唯「…は?」

憂「好きだよお姉ちゃん!」ガバッ

強い力引っ張られ、抱きしめられた。

唯「わ、分かった。お姉ちゃんも憂大好きだよ…でもお皿の破片をまず片付けようね」

憂「好き好き大好き!お姉ちゃぁぁぁぁぁぁぁん好き!」

いつものように好きって言ってくれる憂だけど…

今日のは「好き」は普通じゃないと思った。

唯「まさか…おちる香水って」

唯「ちょ、ちょっと一回離して、ね?」

憂「もう二度と離さないからね!お姉ちゃん!」

ダメだ…とりつくシマも無い。

唯「ごめん憂!」バッ

憂「あっ!」

憂を無理やり引きはがし、家から逃げ出す。

憂「どこ行くの!?お姉ちゃぁぁぁぁん!」

唯「(どことなく狂気すら感じる…)」

効果が切れるまで公園の土管の中でじっとしてよう。

男A「おい、見ろよあの娘…」

男B「おほっ」ジュルリ


女A「…可愛い」

女B「…カッコいい」


オタクA「むふーむふー!」

オタクB「まるで二次元…!」ジロジロ

唯「……」

さっきから行く先行く先いやらしい視線を感じる。

男A「ねーねー!お嬢ちゃん!」

唯「(無視…無視)」

男B「待ってよ。つれないな」ガシッ

唯「は、離してください…」

男A「近くで見りゃ更にイイ女じゃん」

男B「ここでヤっちまっていいかな?」

唯「だ、誰…か!」

周りの人々もみんなこの男の人たちと同じ視線をしていた。

こうなったら、自分の身は自分で守るしかない。


唯「えいっ!」プシュプシュッ

男B「どわっ!」

持っていたおちる香水を掴んでいた男の人の目に向かって吹きかける。

唯「(今だ!)」タッ

私は力が緩んだすきに全力疾走で逃げ出した。

オタクA「に、に、逃げたんだな!」

オタクB「おいますよA氏!」


――

男B「くっそ…あの女!」フラフラ

男A「大丈夫か?」

男B「ああ、すまない」

男A「……」

男B「早くあの女追うぞ」

男A「待て。もうあの娘はいい」

男B「は?お前何言ってんだ?」

男A「お前さえいれば…それでいい」

男B「」

ウワァァァァッァァァッ!


――

唯「はぁ…はぁ…っ!」タッタッ

オタクA「ま、ま、待つんだな!」

おっさん「好きだ!ヤらせてくれーっ!」

後ろからは複数の人たちが追いかけてくる。

もう脚が痛いし随分と走っている。

でも止まれば……うう、考えたくない。

唯「はぁ…はぁ…もうやだーっ!」タッタッ

マッチョA「おいアンタ、好きだ!」

マッチョB「あ、俺も好きだ!」

唯「ま、また増えた!」

唯「もうダメ…脚が…ヘトヘトだよ」

オタクB「対象の動きが止まりました!」

これ以上は走れない…終わった。

おっさん「追い詰めたよ~ウサギちゅわ~ん」

マッチョA「そんじゃあ…」

マッチョB「俺達と朝まで…」

マッチョC「フットワークだ!」

唯「こ、来ないで…!」

グイッ

唯「えっ、うわっ!?」

突然前髪の長い、フードをかぶった人に塀と塀の隙間から引っ張られた。

オタクA「ま、待つんだな!」

ガゴッ

オタクA「!?」

太ったオタクさんが入ろうとするも、塀に挟まっちゃった。

オタクB「何やってるんですかA氏!」

マッチョA「早く引っこ抜け!」

オタクA「やめて!ち、ちぎれるんだな!」

?「ここまで来りゃ一安心かな」

唯「……」

男の子みたいだけどフードをかぶってる上に前髪が内外から顔は見えない。

けれど身長は私よりも低い。

唯「あの、ありがとうございました」

?「いいって。気にすんなよ唯」

唯「あれ?何で私の名前知ってるの?」

律「そいつはな、ほら!」パサッ

唯「りっちゃん!…何で鼻栓してるの?」

律「そこかよ」

呆れるりっちゃん。

律「お前のしてる香水は、多分匂いを嗅いだ人を狂わせる魔性の道具だ」

唯「え?おちる香水のこと、知ってるの?」

律「結構前から薄々感づいてたんだ…お前があの婆さんのトコに行ってるって」

律「んで、今日お前をつけてったらその香水買ってたしな」

唯「じゃありっちゃんもあのお婆ちゃんのとこに?」

律「いや、知らないし喋ったこともねぇけど…何か身体覚えてたって言うかさ」

まさか、りっちゃんが「どうも腑に落ちない」みたいなこと言ってたのはことことだったの?

律「とにかくあの婆さんには絶対関わっちゃいけねー!」

唯「わわ分かった!」

りっちゃんに強くいわれうなずく。

律「とりあえずあたしの家で香水を落とそう。家には嗅いじゃった憂ちゃんが居るんだろ?」

唯「何で分かったの?」

律「そうでもしないとお前が外に出てくる理由ないじゃん?」

唯「おお。探偵みたい…」

そこからは誰にもみつからないようにりっちゃんの家へと向かった。

りっちゃんの家のお風呂を借りてると、りっちゃんが外から話しかけてきた。

律「なぁ、唯。聞いてくれ」

唯「ん?なになに?」

律「あたしさぁ、前に変な夢見たんだよね」

唯「夢?」

律「放課後ティータイムの中で、いっちばん最初に老婆にあったのはあたしだったって夢だ」

唯「あのお婆ちゃんに?」

律「おう。最初は便利だなぐらいの気持ちで婆さんから道具買ってたんだけど…

だんだん学校に行かなくなっていってさ、最後にはその道具で聡や澪、唯もみんな殺してしまう夢だ」

唯「…怖いね」

律「今でも思うんだ。あれは本当に夢だったのかってさ」

唯「その、りっちゃんに道具を売ってたお婆ちゃんって」

律「ああ。お前に今道具を売ってる婆さんそっくりだ」

唯「私、みんなを殺したくなんかないよ…」

律「今のお前は一人じゃないだろ?あたしがいるんだから安心しろって!」

唯「そ、そうだね。こっちにはりっちゃんが居るんだもんね!」

律「(夢の中のあたしも協力してくれる仲間が居れば…何かが変わってたのかもな)」

唯「今日は本当にありがとね」

律「気にすんなって。困ったことがあったらいつでも言えよ?」

唯「分かりました!りっちゃん隊員!」

律「そんじゃ、気を付けて帰れよ」


家に戻る道を歩いていると……居た。

老婆「……」

唯「…今日は何も売って無いんだね」

売ってたとしても買う気はもう無いんだけどね。

老婆「……」


この会話が終われば、多分もう二度と話すことも無い。

会話と言ってもほとんど私だけだったけど。

唯「さようなら」

背を向けて歩き出そうとすると、唐突に声をかけられる。

老婆「道具を上手く使うか下手に使うかは…お客様次第。幸せを得るには代償も大きいのです」

唯「えっ?……あれ」

振り返ると既に老婆は消えていた。


最後の忠告は一体なんだったんだろ…。


自分の家の玄関の前に立って深呼吸をする。

唯「…よし!」

ガチャッ

唯「ただいまー!」

憂「あ、お帰りお姉ちゃん。何処行ってたの?」

憂はあくまで普通だった。

唯「えへへ…ちょっとりっちゃんのとこに用事があって」

憂「上着、かけておいてあげるね」

唯「ありがとー、憂」

唯「じゃあ手洗ってくるねー」タッタッ

憂「うん。よいしょ…上着をハンガーにと」

ズシッ

憂「ん?ポケットに何か入ってる…」ゴソゴソ

憂「あ、これお姉ちゃんの香水かな?すごくいい香り」

憂「ほんのちょっとだけなら…いいかな」

シュッシュッ

唯「手洗ってきたよー!ご~は~…ん……」

憂「あ、ごはんだね。分かった。それとこの香水ちょっとだけ借りたよ」

唯「やっぱりごはんはいいや」

憂「……え?」



唯編終了…。
これで一応本編の流れは終了です、



6 ※梓編