再開された直後。
 律先輩が無言で『ポーション高杉』を二枚出し、即座に唯先輩が撃沈した。


 ここまでの成績

 律 7
 澪 4
 唯 8
 憂 2
 梓 5
 和 3

律「All members pass?(全員パスでいいのか?)」

 カタコトだなー。

澪「yes」

和「yes」

憂「yes」

唯「yeah」

梓「yes」

律「Please turn me for a long time!(長い間私を回してください)」

澪「ぶふぉっ!」

和「く、ふふ」

憂「……ふふ」

梓「……」

唯「?」

 ずっと私のターン!と言おうとしたんだろうか。

紬「澪ちゃん、和ちゃん、憂ちゃん、アウトー」

 なんてことだ。
 このゲームは、頭が悪い方が有利ではないか。
 唯先輩に至っては、多分律先輩が何を言ったのかすらわかってないし。

おしおきされた三人が戻り、ゲーム再開。

 律先輩の出したカードは、『2』。
 『2』……だと?

律「……」

 ニヤリ、と笑みを浮かべる律先輩。

紬「りっちゃん、アウトー」

律「えええええ!?」

律「今のはそういう笑いじゃなくて、ほら、勝ちを確信してほくそ笑んだだけ……いってええええっ!」

 見事な自爆です、律先輩。

澪「……く、ふふ」

紬「澪ちゃんアウトー」

澪「いや、今のは仕方ない」

 さわさわ

澪「ひっ!……もう、なんなんだよこの罰ゲーム!」

 律先輩が『2』を出したところから再開。

律「All members pass?(全員パスでいいんだよな?)」

唯「fuck」

梓「……」

澪「……」

憂「……」

和「……」

律「Is there someone?(誰かいるかー?)」

唯「shit」

梓「……ふふっ」

澪「……く、ふふ」

憂「……っ!!」

和「……ふふ」

紬「梓ちゃん、澪ちゃん、憂ちゃん、和ちゃん、アウトー」

澪「唯!お前意味わかって言ってんのか!?」

憂「わ、私耐えましたよ、今!?」

紬「だーめ♪」

 さわさわ。
 木霊する少女達の悲鳴。

 再び再開。
 律先輩が出したカードは、『A』

澪「(律の手持ちは残り五枚……強いカードから捨てて革命上がりか……?)」

 ていうか、律先輩手持ちカード強すぎませんか?
 『ポーション高杉』二枚に、『2』を一枚、『A』が一枚って。

 『A』の後出せるのは『2』か、『ジョーカー』のみだが……。
 あれ? そういえば、このトランプ、ジョーカーないのかな?

和「(Aから捨てるということは、2で追撃されてもそれを返せるカードを所持しているということ、かしら?)」

憂「(律さんが革命狙いなら、ジョーカー出されることを承知で、弱くなる『2』を捨てておいた方が得策……)」

澪「……」

和「……」

憂「……」

 沈黙する三人。
 私はそもそも、2もジョーカーも持っていないので、出しようが無い。

唯「(誰も出さないのかな?)」

 ここで、憂が『2』を出した。

律「(勝ったな)」

律「It's your defeat(お前らの負けだぜ)」

 バシィッ!
 律先輩は、その上に一枚のカードを叩きつける。



         _,, 、 --- 、_
        , -'´__, -‐'´丶: : :丶
      ,i'´ ̄  ヽ:. :. :. :.ヽ: : : ヽ
     /、´ `   \:. :. :. :.ヽ: : :',
    y_、 !   -- 、   ヽ:. :. :. :. \:}
   /=‐'  y_、、 ヽ  ヽ:. :. :. :./ハ!
  i´ /   ´ ‐ヾ‐     ゞ:. :./:./:::}
  Vゝ、_ 、         シ -‐=く::::ノ
  }rュェ、 l        〃 ,__ソ ノミ
  |゙==ゝ,       /´,、 __ ィ´ゝ
  {丶   ノ     / /ミ
  ゝ=z‐ '_ ,      /´
    /´ー -     __, イ

スッテーン・コ・ロリーン[Steen kou rorin]
(1872~1962 インド)



梓「……」

澪「……」

和「……」

憂「……」

唯「……」

 え?これジョーカー?

律「……」

唯「……ふふっ」

紬「唯ちゃん、アウト~♪」

唯「いや、あの……絵札と一緒の柄だし。さっきのポーカーでこの人いなかったし」

 必死に突っ込みにまわる唯先輩。
 正直、かわいい。

澪「く……ふふ」

紬「澪ちゃんも、アウトー」

澪「ああ、もう!唯!ポーカーで居なかったとか言わなくていいだろ!?」

 ここまでの成績

 律 8
 澪 8
 唯 9
 憂 4
 梓 6
 和 5

紬「唯ちゃん、リーチよ?」

唯「もう笑わないもん」

 三度、再開。
 ジョーカーを出した律先輩の手持ちカードは四枚。
 これはおそらく、革命だろうと思う。
 微妙なカードばかりの私にとっては、結構助かる。

 思ったとおり、律先輩は、四枚のカードを突きつけた。


律「Revolution!!YEAH!!」

 出されたカードは、『4』が四枚。
 律先輩はこれで一位抜けし、強弱が反転する。

澪「(上がったのが律で助かったな)」

 澪先輩の出したカードは、A。

和「……」 

 和先輩の出したカードは、ググレカス。
 分かってはいても、この絵札を不意に出されると結構来るものがある。

憂「……」

 続いて、憂がポーション高杉を出したので、

梓「……」

 私がナガレワ・ロスをそっと重ねた。

唯「……!」

 さあ、ムリせずに笑ってください、唯先輩。

梓「your turn, Ms. Yui」

 そう言って、私は優雅にレモンティーを口に含み、余裕を見せつける。

唯「I am stupid」

梓「ぶふぉっ!」

 思わぬカウンターパンチが返ってきてレモンティー吹いた。

澪「……ふふ」

和「……くっ」

律「……ふ、あははは!」

紬「梓ちゃん、澪ちゃん、和ちゃん、りっちゃん、アウトー」

梓「あの、唯先輩。そういうのやめてもらっていいですかね?」

 I'mを丁寧にI amって言ってるところがまた手ごわい。

唯「ほえ?」

律「お前なー、意味わかってないのか?」

唯「ほら、なんとなく知ってる単語を」

澪「知ってるだけで意味はわかってないのな……」

 さらに木霊する少女達の声にならない叫び。

 ここまでの成績

 律 9
 澪 9
 唯 9
 憂 4
 梓 7
 和 6

 唯先輩独走かと思いきや、肉薄してきた。
 何気に私もやばい。

 なかなか進まないカードゲームが、再開される。

 唯先輩がナガレワ・ロスを覆い隠すように10を捨てる。
 よくやったと言わざるを得ない。
 ……いや、ナガレワ・ロス捨てたの私だけど。

 澪先輩が9、和先輩が8、憂が7と順当に捨てていき、私も6を重ねる。

 続いて、唯先輩が5と4を飛ばして3を捨てた。

 強さが逆転しているので、ジョー……スッテーン・コ・ロリーンを除けば最強カー……ド。
 スッテーン・コ・ロリーン……。

梓「……く、ふふっ」

紬「梓ちゃん、アウトー」

澪「どうした梓、思い出し笑いか?」

梓「すみません、ちょっとジョーカーの名前がツボりました」

唯「ふはは……」

紬「唯ちゃん、アウト♪」

唯「あ。……笑っちゃいけないの忘れてた」

 紛れも無くステューピッドだよあんた。

 連行される私と唯先輩。

紬「梓ちゃんも夢の十回が見えてきたわね」

 さわさわ。

梓「にゃぁっ!?」

 冷静に考えると、これ普通に訴えていいレベルのセクハラですよね?

紬「唯ちゃんは10回目なので、おしおきレベルパワーアップよ」

唯「えー、なんか嫌だな……」

 一足先に開放された私は、その場にとどまり、唯先輩の罰を見届ける。
 ムギ先輩は、唯先輩のスカートの裾を摘むと、その素敵な花園に顔面を突っ込んだ。

唯「ちょ、ちょっとムギちゃ――」

憂「アァイ ディドゥ ストップゥ スタァァティングッ!!」

 その刹那。
 カタコトで『私は止まり始めました』と行動に矛盾する言葉を発しながら電光石火の如く飛来する一陣の風。
 琴吹家所有図書館より発生したハリケーン『ウイ』が私の正面を掠め、
 三人のエージェントを薙倒し、ムギ先輩を押しのけて、
 唯先輩のスカートの中の楽園へまっしぐら。

憂「ふああああんっ!!」

 もうだめだこの子。

唯「え、ええええ!?憂!?」

憂「ハッ!? いや、クンカクンカあの、これは……」

 とりあえずスカートの中から顔を出してから喋れ。

律「……」

澪「……」

和「……」

 ぽかーん、と口をあけて見ているギャラリー達。
 横たわるエージェント。
 本棚に頭からめり込むムギ先輩。

 三文字で表現するならカオス。時空を超えたのはダオス。

梓「……」

 私も動揺しているらしかった。

憂「違うの、ハグハグ。お姉ちゃん」

唯「いや、あの……、うい~……」

憂「お姉ちゃんがクンカクンカひどいことされるって思ったら、ハァハァ体が勝手に……その」

唯「う、うい、あのね。……恥ずかしいから、まずは……離れて欲しいんだけど」

 頬を赤らめながら、弱々しくスカートを押さえて抵抗する唯先輩。
 それでもスカートの中から顔を出さない憂選手。
 転んでもただでは起きない淑女っぷりは賞賛に値する。

 そしてなにより、その体勢で会話を続けてる二人はとてもシュールだった。

梓「く、……ふふ」

紬「梓ちゃん、アウト!」

 復活はええ!?
 ていうか、これだけ収拾つかなくなってるのに、続けるんスか!?
 まじっスか!?

 ようやく、意識を取り戻したギャラリーにより、憂は楽園から現実へと引き戻され、
 ムギ先輩が、事態を収めるべく、マイクを手に取った。

 この至近距離でマイクいらねえだろ。


紬「ごめんなさい、やりすぎました」 

 気まずくなるかと思っていた平沢姉妹は、特に何事も無かったかのように会話をしていた。
 以下、仲直りの軌跡。

憂「ほっんとうに、ごめんなさいお姉ちゃん!」

唯「いいよ~ういー。 憂は私を助けようとしてくれたんだもんね」

 違うと思います。


 結局。
 また憂に暴走されても困るので、
 以後の罰ゲームはセクハラ以外で行うという条約がムギ先輩と私の間で密に結ばれた。

 そんなワケで。
 私がハリセンでしばかれるところから、ゲーム再開となった。
 あ、しまった。墓穴を掘ったかもしれnスパーーーン!!

梓「うにゃああっ!?」

 いてえ!

 ここまでの成績

 律 9
 澪 9
 唯 10
 憂 4
 梓 9 ←
 和 6

 優勝どころかブービー賞タイじゃねえかよ。

梓「……なんかもう、大貧民どこまでやったか記憶にないんですけど」

澪「……ああ、うん。私もだ」

和「唯が3を出したところよ」

律「おおー」
唯「おおー」
梓「おおー」

 冷静だなぁ、鼻眼鏡。

 もう何度目かわからないけれど、再開。

唯「ええと、じゃあ出せる人いないなら私からだよね?」

 そうですね。

紬「唯ちゃん」

唯「ほい?」

紬「アウト♪」

唯「わ、笑ってないよ!?」

紬「ノンノンノン」

唯「Oh...」

紬「No No No No No No No No No No」

唯「カレー CHOPPiLi ライス」

律・紬・梓「TAPPULi!!」

 あんだけ収拾つかなくなった後なのに、ノリいいなぁ、みんな。

澪「……(乗り遅れた)」

紬「唯ちゃん、English Pleaseよ♪」

 心なしかムギ先輩のキャラが変わってきた気がする。

唯「そうでしたっ!!」

 ぶっちゃけ私も忘れてた。
 連行される唯先輩。今度はハリセンの刑に処されるのだ。

紬「いくわよー」

唯「こ、こいっ!」

紬「せーの!」

 スパーーン!

唯「い゛でっ!!」

爽やかな罰ゲームに変わった、『笑ってはいけない勉強会』は
 もはや何一つ勉強なんかしていなかったが、
 この後も更なる盛り上がりを見せ、私も憂も、ムギ先輩を含めた先輩達も
 思い思いに、この馬鹿らしいゲームを満喫しているようだった。

 終始最下位を直走った唯先輩と、ブービーが定位置になった私による激戦が繰り広げられたかと思えば、
 食事時についに笑いの限界を向かえた律先輩が、華麗な追い上げを見せ、澪先輩が巻き込まれて、じゃれあっていた。
 トップ争いは冷静な和先輩と、姉の為にがんばる健気な憂の二人に絞られ、
 私は18時くらいに勝負を投げた。


 そして22時前、いよいよゲームはエピローグを迎える。

紬「みんな、お疲れ様。勉強会はこれでおしまいよ」

律「な、長かったぁ~」

和「勉強、殆どしてなかったけれどね」

澪「まぁ、たまにはいいんじゃない? それなりに楽しめたし」

和「……そうね。唯も楽しそうだったし」

唯「りっちゃん、お尻痛い」

律「ああ、私もだ……」

澪「唯と律は笑いすぎなんだよ」

唯「でもでも、あずにゃんも同じくらい笑ってたよ?」

澪「梓は殆どお前が笑わせてただろ」

唯「だってぇ~。あずにゃんかわいくてさぁ」

梓「もう、反論する気力もないです」

唯「あ~ず~にゃぁぁん♪」

 ぎゅっ。
 これが、戦いを終えた後の達成感というやつだろうか。

 ずっと気を張っていた為か、
 一ヶ月ぶりくらいに思える唯先輩のスキンシップがとても心地よく感じる。
 私にとっては、このスキンシップこそがご褒美なのかもしれない。

梓「にゃぁ……」

 思わず声が漏れた。

紬「さて、それじゃあ最終的な順位を発表するわね」

紬「各自思うところがあるとは思うけど、勝負は勝負。 罰ゲームは罰ゲームよ」

 ムギ先輩はそう言って、成績表をホワイトボードに貼り付けた。

 最終成績

 1位   憂 15
 2位   和 19
 3位   澪 27
 4位   律 43
 5位   梓 44
 6位   唯 47

憂「やったよ、お姉ちゃんっ!!」

唯「がんばったね、ういっ!!」

 がしっ!
 キラキラエフェクトを周囲に撒き散らして、抱き合う姉妹。
 ついさっきまで姉のスカートに顔をつっこんでいた妹の所業とは思えない。

澪「結局、ご褒美も罰ゲームも、平沢家で行われるんだな」

律「まぁ、いいんじゃないか? あの二人、幸せそうだし」

 なんで爽やかに締めようとしてんだこの人たち。

律「梓も惜しかったな」

梓「嫌な言い方しないでくださいよ。私も律先輩も、最下位じゃなかったことを喜ぶべきなんです」

 そして心の中で唯先輩にごめんなさい。

和「でも単純に、お尻叩かれた回数は、律が一番多いのよね」

律「んぁ!? そういわれてみればそうだな……。なんだろう、この釈然としない――」

律・梓「お尻の痛み」

澪「ハモるなよ」

 そう、この類稀に見る名勝負が私たちに残した大切なモノ。

 ――それは、お尻の痛みに他ならなかった。


梓「もう二度とやりませんからね!?」


おわり。