律「何やってんの婆さん?」

老婆「………」

律「こんな路地裏でフリマやってても誰も来ないぜ?」

老婆「………」

あたしが下校途中にたまたま見つけた路地裏にフリーマーケットを開く占い師のような白髪の老婆。

しかも品物は一つだけかよ。
『あらかじめ日記 売ります』と立て札がありその隣に本が一冊置かれてあるだけだ。

律「こんなんじゃ商売にならないだろ」

老婆「………」

律「(喋んないなーこの婆さん)」

律「この売ってる『あらかじめ日記』って何?」

老婆「あらかじめという意味でございます」

律「うお、しゃべった!」

老婆「………」

律「あ、それで…つまりどういう意味?」

老婆「それはお買いになった方だけが解るのでございます」

律「えー…何円?」

老婆「50円でございます」

律「50円って。そんなに安くていいのかよ?」

老婆「高いか安いかは、お客様のお考え次第でございます」

律「(気味悪いババァ。ま、五十円ならいっか)」

律「買うよ」チャリン

老婆「お買い上げありがとうございます」

この日からあたしの運命は狂い始めたんだと思う。

いい意味で。



―律の家


律「つい買っちまったけどこれ何に使うんだ?」

律「日記なんてつけたくねーし…」

律「けど、この『あらかじめ』ってのが気になるぞ」

律「そもそもどういう意味だったったっけ。辞書、辞書と」

ペラペラッ

  • あらかじめ
―前もって何かをしておくこと。

律「…直訳すると前もって日記」

律「えーと、つまり前もって書いた日記が本当になるってか?」

律「へー。すげぇな、未来が思い通りってことか」

律「寝よっと」パチッ


―次の日

教師「えー、で、この公式をうんたらかんたら」

律「(授業だりぃーなー。何か暇潰しできるモンねーかなー)」

律「…あ」

律「(そういや昨日変な婆さんからヘンテコな日記帳買ったんだった)」ゴソゴソ

律「(あった。どうせ何もないだろうけど暇つぶし程度にはなんだろ)」

律「(何て書こうかなー…まずは澪のことでいいか)」

カキカキ

●月▲日■曜日
今日、授業中にあたしのクラスメイトの秋山澪が急に立ち上がって寒いギャグをかました。


律「ブッ…クククッ」プルプル

ホントにやったらどんだけ面白かったんだろ、と思ったその時…

澪「……」ガタッ

教師「ん?どうしました秋山さん?」

澪「あ、アルミ缶の上にあるミカンっ!!!」




唯「み、澪ちゃん…」

律「」


澪「…はっ!?」

ざわ…ざわ……と教室がざわめき出した。

和「ちょっ、どうしたの澪?」

紬「澪…ちゃん?」

教師「秋山さん、どこか具合が悪いのですか?」

澪「え?え?あのっ?」

澪「あ…あっ…そのっ」カァァァ


澪「うわぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁん!!」ダダダッ


唯「あっ、どこ行くの澪ちゃん!?」

律「はは。偶然だよな?」

偶然?いや、待てって。
澪があんなことするわけが無いって昔からの付き合いのあたしが一番分かってるハズだ。

律「…まさか」ゾクッ


唯「…ってことがあったんだよ」

梓「信じられませんよ。澪先輩がそんなことするなんて」

紬「本当なの。私も見たから」

いつもの放課後。そこに澪の姿は無い。
あたしはと言うとムギのお菓子にも手が出ず日記のことばかり考えていた。

唯「りっちゃん何か知ってる?」

律「…へ?」

梓「へ?じゃないですよ。話し聞いてました?」

律「あ、ごめん。聞いてなかった」

梓「澪先輩のことです!」

紬「りっちゃんいつも澪ちゃんと登下校してるから…朝から様子がおかしかったとか無い?」

律「し、知らない」

唯「りっちゃんも知らないんならもうお手上げかー」

結局今日はそのまま帰ることになってしまった。

梓「私と唯先輩はこっちですから」

唯「じゃあね。りっちゃん、ムギちゃん」

紬「またね、みんな」

律「おう」

唯と梓、ムギ、あたしは別々の方向へ帰って行く。
本来ならあたしは澪と一緒なんだけど…。

さわちゃんの話によると澪は早退してしまったらしい。

何でも澪は「身体が勝手に動いた」と言っていたとか。


―公園

律「この日記…いや、偶然だ。やっぱり」

ベンチに座って例の日記を出した。

律「澪もそういう気分だったんだ。そうだな、きっと!」

子供A「パスパス!」

子供B「こっちにも!」

丁度、公園の中央で複数のガキどもがサッカーをしているのが目に入った。

律「……ためしてみるか」カキカキ

●月▲日■曜日
今日、授業中にあたしのクラスメイトの秋山澪が急に立ち上がって寒いギャグをかました。

夕方、ベンチに座っていると足元にボールが転がってきた。
あたしが滑り台に向かってボールを蹴ると、滑り台は跡形も無く粉砕した。

律「これなら…」

ポーンポン

子供A「おねえちゃんボールとってー!」

書き終ると同時に本当にボールが転がってきた。

律「(どうする…蹴るk)」ドキドキ

考えるよりも身体が勝手に動き、滑り台に向かってボールを蹴ってしまう。

子供A「ああっ、どこにとばして…」



その瞬間。

ドンガラガッシャンと幾数もの鉄の塊がぶつかり合い崩れ落ち砂になっていくのを見た。

律「」

子供A「」

子供B「」

子供C「」

子供D「」

子供E「」


気付いたら全力疾走。

律「はーっ、はーっ!何だよ、あれ!」

律「そ、そうだ。あの滑り台の建てつけが…

悪かったっても女の蹴ったサッカーボール程度であそこまで壊れるわけが無いだろ」

律「まさか…信じられねーけど。これ本物?」

手に握る日記に若干の恐怖を覚えつつも好奇心も無くは無い。

そしてあたしは再びあの路地裏へと脚を運んだ。


律「よー、婆さん。えらいもん売ってくれたな」

老婆「……」

律「あぁ?」ジッ

よく見るとまた何か売ってる。

律「…何、これ。ゴム手袋?」

『スーパーな手袋 売ります』

律「ただの手袋じゃん。どの辺がスーパー?」

老婆「お買い上げになるのですか?」

これまた嘘っぽいガタクタだけどあの日記の効力は本物?だった。

律「まだ買うとは言ってないだろ。それよりあの日記のこと…」

老婆「左様でございますか。お客様は他にもいらっしゃるので」

遠まわしに「今買わないと無くなるぞ」って言ってんだろこのババァ。

律「今度は幾らだよ?」

老婆「500円でございます」

財布から硬貨を一枚取り出し婆さんに渡す。

老婆「お買い上げありがとうございます」



律の家―


律「何でまたいらんもん買ってんだよあたし…」

律「スーパーな手袋ってスーパーで買って意味だったんじゃないか?」

買った後にとてつもなく後悔した。しかも日記のこと聞きそびれたし。
今なら通販にハマる梓の気持ちが分からなくもないな。

律「そういや今日の放課後から何にも飲んでないぞ。何か飲も」

そういやペッドボトルの蓋はゴム手袋使えば簡単に開くらしい…憂ちゃんが言ってた。

律「…ペッドボトルの蓋とか簡単に開けるのに使えそうだな」

律「てなわけで装着~」ギュッ

ポケットから出し、腕に手袋をした後ペッドボトルの蓋と腹を指で摘む。

そんでちょっと力を入れただけだ。
いや本当にちょっとだけだぞ?

そんだけだけどペッドボトルは、ものの見事に破裂した。

聡「なになに?!何の音?」

破裂音を聞いた弟がこちらへ来た。

聡「うわ、姉ちゃんビショビショじゃん!」

律「タオル…取ってきてくれ」

なるほど。
スーパーってこういう意味のスーパーなのか。



―翌日の朝

登校途中、いつもの道を変えて違う道から進む。
手にはもちろんスーパーな手袋をつけている。

律「さーて…何かいいのは、と」

律「!」

DQN1「マジだりぃーなガッコー」

DQN2「サボりてー」

DQN3「今日ゲーセン行かね?」

使ってもよさそうな物を探していると、コンビニの入口の前にたむろっている不良が三人。

爺「……」

明らかにコンビニに用がある通行人の邪魔になっている。

律「…おし」ギュッ

スタスタスタ

律「おいお前ら!」

DQN1「あぁ?」

DQN2「何だこのちっこいの?」

律「そんなとこに居たら人様の迷惑だろ!隅っこ行けよ」

DQN3「何言ってだお嬢ちゃん?早く帰ってママのオッパイでも吸ってなさい」

DQN1、2「ぎゃははは!」

律「へぇー」ガシッ

決めた。まずはコイツからだな。

DQN3「お、やる気?」

とりあえずあたしを馬鹿にした奴の胸倉を掴む。

律「おら!」

そんでそのままグイッ、と片手で持ちあげる。

DQN3「うおわ!(このアマなんつーパワーだよ…っ!)」

DQN2「おいてめ、離せ!」

律「うお!」ブンッ

DQN2「ぎゃふ!」

殴りかかってきたもう一人の不良を開いていた右手で薙ぎ払う。

だけのつもりだったが、キリモミ回転しながら5m先まで飛んで行ってしまった。

DQN1「うぐぐ…」ガクガク

最後の一人はもう完全に戦意喪失してるみたいだな。足震えてるし。

DQN3「ぐ、ぐるじい、はなじでくれ」ピクピク

律「うん。分かった」ブンッ

DQN1「うわっ!」ガゴッ

急に仲間を投げられ、受け止めきれずに後ろへ倒れるビビりくん。

律「帰ってママのオッパイでも吸ってろよな」ビシッ

DQN1「は、はい!吸わせていただきます!」

そう言うとそいつはさっきあたしに殴られて気を失ってる男と、胸倉を掴まれてた男を背負い去って行った。

律「(すげぇ…この手袋すげぇ!)」

パチパチパチパチ!!

律「ん?」

いつの間にかあたしを取り巻くようにしてギャラリーができていたらしい。

周りの老若男女があたしに拍手を送っていた。

男「姉ちゃん強いねー!」

女「カッコいいよー!」

爺「ありがとう。助かりました」

律「はは…」

いやあんたら助けるためじゃ無かったんだけどさ。

でもこういうのって、何か気分いーなー!


澪「……」

律「ん?」クルッ

そこの門から誰かが今誰か見てた様な…。


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