先輩たちが卒業しちゃってから一ヶ月。
この一ヶ月は新歓ライブの準備で何かと忙しく、我を忘れて練習に打ち込んでたから忘れてたけど。
それもひと段落ついて、改めて先輩たちがいなくなった部室を見渡してみると・・・・
一人でいるわけでもないのに、何だか寂しさが込み上げてくるようで・・・・
純 「練習終わりーっと。さぁ梓。かえろぉ?」
梓 「うん・・・・」
憂 「どうしたの、梓ちゃん?」
梓 「ううん。なんでもないよ」
憂 「なんでもないって顔じゃないけれど・・・・ どうかしたの?」
純 「ははぁ、わかった!新歓も終わったのにまだ入部希望者が来ないもんだから、たそがれちゃったなぁ?」
梓 「違うよ。いや、ま。それもちょっとはあるけど・・・」
純 「んじゃ、どうしたってのさ」
言えないよなぁ。
先輩たちと会えなくって、超さみしいよー!なんて・・・
憂 「じゃ私こっちだから。また明日ね」
純 「あいよ、おつかれー」
梓 「純、おじさんみたい。じゃあね、憂」
憂 「あはは。ケンカしないでね?それじゃー」
梓 「行っちゃったね。さ、私たちも行こう」
純 「うん。ときに中野クン。君、今わたしに何と言ったね??」
梓 「純おじさん」
純 「にゃろー!」ぐりぐり
梓 「あきゃっ!痛い!ごめ、ごめんって!モップが!モップが髪にからまる!!」
純 「それで?」
梓 「え?」
純 「梓ちゃんは、なんで元気がなかったのかな?」
梓 「何のことだか、さっぱり分からない」
純 「とぼけっぷりが中途半端ですよ。つか、気づかないとでも思ってた?」
梓 「もしかして純って鋭かった?」
純 「まったく」
梓 「じゃあ、純の勘違いだよ」
純 「なわけないでしょ。ここ数日ずっとそんな感じだし。一緒にいりゃ気がつくって」
梓 「鈍い純の勘違いじゃない?そういえば”鈍”と”純”って字、なんだか似てるよね」
純 「お前のツインテールをモップにしてやろうか?」
純 「私だけじゃなく、憂も心配してたんだよ」
梓 「うん、ちょっとだけ元気がなかった」
純 「あっさり認めた!?」
梓 「憂に見破られていたなら、誤魔化しは効かないからね」
純 「なんだろう、この気持ち。寂しいような切ないような」
梓 「ごめんね」
純 「まぁ良いけど」
梓 「あっさりしてるね」
純 「そこが私のいいところ」
梓 「浅漬け並みのあっさりさだね」
純 「褒めてんの?けなしてんの?」
梓 「先輩たちがさ。いなくなっちゃって、今までは忙しくってセンチになってる暇なんてなかったんだけど」
純 「ふむ」
梓 「落ち着いたら、急に部室がガランとしてる気がして。おかしいよね。純や憂も来てくれてるのに」
純 「ふむふむ」
梓 「なんでだろ。練習はしないし人に変なあだ名つけるし。ずーっと頭を悩ませてきた先輩がね」
梓 「いざいなくなったらさ、物足りなくて。周りの景色まで殺風景に見えてきちゃって」
梓 「おかしいね」
純 「寂しいのか」
梓 「だね。認めたくはなかったけど」
純 「会いに行ったら?」
梓 「へ?」
純 「新歓終わってちょっとは余裕もできたんだし、先輩たちも入学からしばらく経って落ち着いたでしょ」
純 「会いに行ってきなよ。唯先輩に」
梓 「え?な、なんで唯先輩?」
純 「え?」
梓 「え?」
純 「だって・・・ 唯先輩でしょ?」
梓 「もしかして純、鈍くない?」
純 (変なあだ名をつけてたの、唯先輩だけだったじゃん。自分で言っておいて・・・)
純 「ま、まぁ・・・ 梓が思ってるほどには鈍くなかったってことだね」
梓 「すごいね、純。見直したよ。私の中での株が上がったよ」
純 「ずいぶん低かったんですね。今までの私の評価って」
梓 「とはいえ、忙しくないかなぁ。迷惑にならないかなぁ」
純 「迷ってる暇はないと思うけどなぁ」
梓 「なして?」
純 「なしてって、相手は花の女子大生だよ」
梓 「言い方がいちいちオジサンっぽい・・・」
純 「女子大生といえば、夢のキャンパスライフ!そこでの出会い!合コン!夜の街!ホテル街!ベッドの上!ぷはーっ、よかったぜ」
梓 「イメージが偏っていませんかね、純さん」
純 「まぁまぁ。新生活には誘惑がいっぱいって事だよ。早く連絡しないと、先輩が彼氏を作っちゃうかもよ」
純 「そうなったら、それこそもう梓をかまってる暇なんて無くなっちゃうんだから」
梓 「まさか、唯先輩に限って。それに先輩たちが入ったのは女子大だよ?女子高の三年間でも何もなかったのに・・・」
純 「だからさぁ、新しい環境は人を変えるんだって」
梓 「そんな・・・そんな・・・」
純 「それにさー。共学から進学してきた人とも当然しりあうじゃん?」
梓 「あ・・・」
純 「友達の横のつながりで、それ合コン!やれ交際!そく妊娠!なんて事も・・・」
梓 「あ・・・あ・・・」
純 「グズグズしてたら、次に来た連絡が”私たち結婚しました!”だったって事も・・・!!」
梓 「うえ・・・うえ・・・」
純 「お正月には赤ちゃんの写真入年賀状が送られてくるぞーー!」
梓 「い、やぁあーーー!」
純 (面白いやつだなぁー)
梓 「やだやだ。電話するー!」
純 「おう、ガンバレ」
梓 (携帯ピポパ)
ぷるるるぷるるる かちゃ
唯 「あ、あずにゃん!久しぶりぶりー」
梓 「乱れた私生活は許しませんからねぇえ!!!」
唯 「!?」
かちゃっ つーつーつー
梓 「次の土曜日に会いにいってきます」
純 「うむ、よくやった」
梓 「じゃ、ここで」
純 「うん、また明日ね」
梓 「うん。あ、えっとさ、あの・・・純?」
純 「ほいさ?」
梓 「ありがとね、背中押してくれて」
純 「ウジウジじめじめな梓なんて、らしくないからさ。唯先輩から元気をチャージしてもらってきな」
梓 「チャージマン梓だね」
純 「そうだね」
梓 「流さないでよ」
純 「低予算アニメで止め絵ばっかだったけど、何気に一枚絵は良作画が多かったよね」
梓 「だからと言って、話を膨らませないで」
梓 「じゃ本当にここで。またね」
純 「うん、また」
純 「・・・・・」
純 「・・・・はぁ、私も人がいいなぁ」
純 「好きな人が側にいないのと、側にいても想いが通じないのと」
純 「どっちがましなんだろう。ね、梓・・・」
土曜日!!
唯の家の最寄り駅!!
梓 「ここで良いんだよね、降りるところ・・・あ」
唯 「うぉーい!あずにゃんーーーー!!!」
梓 「うぁ、大声で叫びながら、向こうで手を振ってるのは・・・///」
唯 「私はここだよーーーー!!!」
梓 「はうぅぅ・・・・ 唯先輩、恥ずかしいから大声は・・・あ、走ってきた」
唯 「あずにゃーーーーーーん!!!!」
がし!ぎゅうううううう!!
梓 「うぁぁぁぅ!急に抱き・・・ちょ、人目!人目がああ・・・・」
唯 「卒業してから初のあずにゃん分補充ーっ!」
梓 「離れ・・・ ちょ、離れっ!!」
唯 「満タンになるまで、ちょーっと待ってね。あずにゃん分タンクが今にも底を尽きそうなんだから!」
梓 「タンクって、何ですかそれ・・・ と、とにかくここでは離れてください!」
ぺちん
唯 「あふんっ! あぅ、あずにゃんのいけずぅ」
到着 唯の部屋!!
唯 「ここが私の部屋だよー。さ、入って入って」
梓 「お邪魔します・・・」
梓 「へー・・・・」
唯 「どうしたの?」
梓 「いえ、けっこう片付いてるなって思って」
梓 「先輩のことだから、もっと雑然としてるのかと思ってました」
梓 「足の踏み場がなかったり、汚部屋になっちゃってたり。ふふっ」
唯 「あずにゃんの中の私って、そんなイメージなのー?」
梓 「今日で少しだけしっかり者にレベルアップしたです」
唯 「もう、相変わらず辛口だなぁ。女の子は辛口より甘いのが好きなんだからね」
唯 「というわけで、あまーいお茶を煎れてくるよ。ちょっと待っててねー」
梓 「はい、すみません」
唯 「お待たせー♪ さ、二人きりだけど、久々のお茶会をしよう!ケーキもあるからね」
梓 (ピクン)「ケーキ!!」
唯 「イチゴのショート、好きだったよね。あと、紅茶はロシアンティーです」
梓 (ごくり・・・)
唯 「これまた甘いジャムを入れて飲むんだよ。今日は甘いもの祭りだ!」
梓 「唯先輩、いっつもこんな甘いものばかり食べてるんですか?」
唯 「うん。甘いのだーいすき♪」
梓 「もう、ダメですよ。いくら一人暮らしだからって、好きなものばっかり食べてちゃ病気になっちゃうです」
唯 「若いんだから平気だよー。食べた分は全部エネルギーになっちゃうもん」
梓 「甘い!アマアマですよ、唯先輩!認識まで甘党になっちゃダメじゃないですか、もう」
唯 「ケーキ頬張って幸せそうな笑顔で言われても、説得力はお留守だよー?」
梓 「あぅ・・・だって、美味しいんだもん!」
唯 「あずにゃんと食べるケーキはおいしいなぁー」
梓 「な、なに言ってるんですか、もう・・・」
梓 「・・・でも、ふふ」
唯 「なぁに??」
梓 「ちょっと安心しました。唯先輩、いつもの唯先輩だ」
唯 「んー?」
梓 「あのですね、純が変なことを言うから、それで心配になっちゃって」
唯 「純ちゃんはなんて?」
梓 「実は・・・」
…
唯 「あははは」
梓 「そんな笑わないでも。本当に心配しちゃったんですから」
唯 「ごめんね。でも、ありがと。くすくす」
梓 「別に・・・」
唯 「すねちゃった?」
梓 「知りません」
唯 「あのね、心配なんか要らないよ?」
梓 「私の心配なんて、よけいなお世話ですか?」
唯 「じゃなくてね。あのね、あずにゃんが嫌がることは私、絶対にしないから」
梓 「それって・・・」
ぎゅっ
梓 「あう。唯先輩・・・?」
唯 「さっきさせて貰えなかった、あずにゃん分の補給」
ぎゅうう
唯 「再開っ」
梓 どきどき
梓 (唯先輩、暖かい。それに顔がすごく近い)
梓 (先輩の吐息が・・・ ケーキの甘ったるい匂いが私の鼻先に・・・)
唯 「あずにゃん・・・・」
梓 「はい・・・」
唯 「二人きりだね」
梓 「うわっ」
さささっ
唯 「えー、なんで離れちゃうのー?」
梓 「すみません。あまりにベタな事を言われたので、とっさに・・・」
唯 「むぅ」
唯 「まぁいいや。ケーキの続き食ぁべよーっと」
梓 「え?」
唯 「え?」
梓 「いや、やけにあっさり引き下がるなと」
唯 「一日はまだまだ長いからね」ニヤリ
梓 「ああ、そういうことですか」
最終更新:2011年02月20日 01:33