和「…どうしたの律?」

律「…え?の…和…?」

和「泣いていたの?」

律「な…泣いてなんか…!」ゴシゴシ

和「嘘おっしゃい、顔がぼろぼろよ」

律「……うわああああん!和ああああ!!!」

律が私に抱きついてくる。私は彼女を胸で受け止めた。

律「ひっぐ…和…」ポロポロ

和「………」

…その体はとても小さくて、普段の彼女からは考えられない程かよわく思えた。
彼女にもこんな一面があったのか…と考えてしまう。

和「…それで、一体何があったのよ?」

律「…澪が唯と付き合うって」グスッ

和「…?前から付き合ってるじゃない」

律「違うよ…それは澪の嘘なんだよ…」

和「え…?じゃあ唯は…」

律「…今まで誰とも付き合ってなかったよ」

和「ちょっと待って…唯が私と別れたのって、澪のことが好きだからじゃ…」

律「…違う、それは私が…」

和「え…?どういうこと…?」

律は私に全て話してくれた。
律が唯を揺さぶったこと、それは律が澪のことを思ってやったこと、なぜなら澪は唯のことを好きだったからということ、
その為に私と唯が別れる方が都合がいいからということ…
そのことを律は全て話してくれた。

和「………」

律「ごめんなさい…ごめんなさい…!」ポロポロ

和「…そんなに怒ってないわよ。謝らないで」

律「でも…私のせいで…!」

和「…もういいのよ、どうせ過ぎたことなんだから」

私は律を責める気など少しもなかった。
…なぜなら、あの時の唯の「疲れた」というのは唯の本心だと知っているからだ。
なのに律を責めたところで一体何になるのか。
私達はどのみち、別れる運命だったのだろうから…。

和「それより、律はどうして泣いていたの?」

律「唯と澪が付き合うって聞いて…それで…」ポロポロ

和「…あなた、澪が好きだったのね」

律「…そうなのかな?私は澪が唯と付き合えるならそれでいいって思ってたのに…今は嫌だよ…」

和「それが、律が澪を好きだってことなのよ」

律「…そうなのかもしれない。澪ぉ…寂しいよぉ…うわああああん!!!」ポロポロ

和「………」

…律と私は同じなんだ。本当に好きなのに、相手に直接自分の本当の気持ちを伝えられない。
それは、私達が素直じゃないから。

私は、急に律が自分のことの様に感じられた。
そして、優しくその体を抱いてあげた。

律「和……」

和「あなたは私と…同じね」

律「………」

和「………」

私達はしばらくお互いの体を抱き合っていた。
こうすることで、お互いの弱い部分を埋めあえる…そんな気がしたからだ。
やがて律も大分落ち着いてきたらしく、私から体を離した。

和「どう、落ち着いた?」

律「うん、ありがとう和…」

和「どういたしまして、あなたはこれからどうするの?」

律「…どうもしないよ、澪のことはもういいんだ」

和「…そう」

どうやら律は澪のことを諦められたらしい。
なぜならその眼には悲しみがもう宿っていないから。
律は強いんだな…私は未だに心のどこかで唯を諦め切れないでいるのに…

和「なら私は生徒会室に行くわ…それじゃあね」

律「あ…和!…どうもありがとう」ニコッ

律がはにかんで笑う。私はそのしぐさに少しドキッとしてしまった。
少し火照った顔を隠すように、私はトイレを後にした。

それからというもの、律は何かと私に懐く様になった。
最初は澪と唯が付き合ってる為、律も結局は寂しいのかと思っていたのだが…

律「の~ど~か~!」

和「………」

律「和ー!なんで無視すんだよー?」

和「…ちょっと、あまりべたべたしないでよ」

律「いいじゃん別に!腕組むくらいさー」

和「…はぁ、まあいいわよ…」

…どうやらそれだけじゃない気がする。
どうしてこんなに急に懐く様になったんだ?


―次の日

律「和ー!一緒に帰ろうぜー!」

和「…まぁいいわよ」


―また次の日

律「和ー!一緒にトイレ行こうぜー!」

和「ちょっと!そんなこと大きな声で言うことじゃないでしょ!」


―またまた次の日

律「和ー!えへへ…ぎゅー!」ぎゅっ

和「…抱きつかないで、周りが見てるでしょ」


―またまたまた次の日

律「和ー!えへへ…ちゅー♪」

和「ちょっと!顔を近づけないでよ!」

…やっぱりおかしい、何がって全体的にだ。最初はただのスキンシップだと思っていたことが徐々にエスカレートしていっている。
そもそも友達にキスを求めるなんて普通じゃない。キスっていうのは普通は好きな人と…………ん?
………まさか律って、私のことが…?

そう考え事をしていた時、いつもの様に勢いよく教室の扉が開かれる。
この開け方だけで誰だかわかる……間違いない、これは……

律「和ー!一緒に帰ろうぜー!」

和「………」

律「…?どうしたんだよそんな顔して?」

和「…いや、私も大分わかってきたんだなって」

律「なにがだよ?」

和「いや、なんでもないわ…それより一緒に帰りましょうか」

律「おう!」

いつもと同じ帰り道、私達はいつものように二人並んで歩いていた。
だが、いつもと違うことが一つ…それはいつも騒がしい律があまり喋らないことだ。
一体何かあったのだろうか?さっきまではあんなに騒がしかったのに…

和「………」

律「………」

…気まずい。何か話しかけなきゃ…どんな話題でもいい何かないか…?
私が話題のことで考えていると、代わりに律が口を開いた。

律「…なぁ和」

和「な、なに?」

律「…驚かないで聞いてくれるか?」

律がいつになく真剣な表情をしている。
…いや、この類の顔は前に見た。

和「どうしたの?そんな真剣な顔をして」

律「大事なことなんだ…実はさ…」


……

いつものように帰り道を歩いていた私達、しかしいつもと違うことがおきた。
それは…

澪「なぁ唯、キスしてもいいか?」

唯「…え?」

澪ちゃんがキスを迫ってきたことだった。恥ずかしい話だが私達は一度も手をつないだことがない。
それなのにいきなりキスだなんて…順序が違うんじゃないか?
私があれこれと考えていると澪ちゃんが私の肩を掴み、真剣な表情で見つめてきた。

澪「…私さ、唯のことが本当に好きなんだ。でも時々唯は和のことを考えてるよな」

唯「それは…」

…確かにそうだ、実のところ澪ちゃんと付き合ったのだって和ちゃんのことを忘れたいからだ。
でも私はそれで初めて気がつく、私は何があっても和ちゃんの隣にずっといたいって。

澪「…私が好きならキスをしよう、でも和が好きなら…私は諦める」

唯「………」

澪「さぁ、選んでくれ」

なんて言えばいいんだろう。私は自分の為に澪ちゃんを利用したんだよ?
それなのに今更和ちゃんがいいだなんて…それはあまりにも自分勝手すぎる。
私はどうすれば…

唯「………」

澪「…ははっ!唯は本当に分かりやすいな!」

唯「え…?」

澪「わかったよ、私と別れよう唯」

唯「私まだ何もいってないよ…?」

澪「それでもわかるよ、お前は顔にすぐ出るからな。それに…」

澪「唯は私の大好きな人なんだ…考えてることぐらいすぐにわかるさ!」

唯「……!」

澪ちゃんは目に涙を溜めながら笑っていた。その笑顔は誰が見たって作り笑いだと分かるほどに痛々しくて…
私はこんなにも愛されていたんだと改めて思い知ることになる。
それなのに私は自分のことばかりで…一度も澪ちゃんと向き合ったこともないじゃないか。
そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、気づけば私は泣いていた。

唯「…ごめんなさい、ごめんなさい!」ポロポロ

澪「泣くなよ、私は唯に笑っていてほしいんだから」

澪「ほら、早く和の所に行ってやれよ」

唯「…うん、ありがとう澪ちゃん」

澪「いいよ、和と仲良くな」

唯「わかった!そうだ澪ちゃん」

澪「ん?なん…」

私はそっと澪ちゃんに口づけした。
私たちが付き合っていたことには変わりはない。これが私なりの恋人に対する最後のケジメだ。

澪「な…なななな…!」

唯「今までどうもありがとう、これからも澪ちゃんのことは大好きだよ!」

澪「…それが恋人に対しての言葉ならどんなに良かっただろうな」



……

律「私…和のことが好きなんだよ」

…そうだろうと思っていた。今までの律の態度を見れば誰だってわかる。
でも私は、今でも唯のことが好きなんだ。

律「だから…その…私と付き合って下さい!」

和「…ごめんなさい」

律「…わかったよ、あ~!やっぱり駄目だったか!」

和「随分あっさりしてるわね?」

律「…告白する前からさ、こうなるだろうなぁとは思ってたんだよ」

和「どうして?」

律「だってさ、和は今でも唯のことが好きなんだよな」

和「それは…」

どうして分かったんだろう。そんなに私の考えてることはわかりやすいのだろうか?

律「とか考えてるだろ?」

和「うっ…」

…図星だ。

律「くっ…あはははは!和はわかりやすいなぁ!」

和「悪かったわね…わかりやすくて」

律「でも和の考えてることが分かるのは、多分私と唯だけだろうな」

和「えっ?」

律「だってさ、私達は和のことが好きなんだから。好きな人の気持ちはなんとなく分かるよ」

和「でも、私には唯の気持ちがわからなかった…」

律「それはさ、和が唯のことをちゃんと見ようとしなかったからだよ」

和「………」

たしかにそうかもしれない。私は今まで唯をちゃんと見ようとしたことなどなかった。
だから私達は別れたんだろう。いつも自分のことばかりで、あの時唯のことをもっと考えてあげていたら…

律「とか考えてるんだろ?」

和「うっ…」

…図星だ。

律「…とにかくだ、今すぐ唯のところへ行ってやれよ」

和「でも律は…」

律「私はいいんだよ。無理してまで一緒にいてほしくない、好きな人にはいつも笑っていてほしいからな!」ニコッ

和「……!」

…今わかった。あの日、律を抱きしめたときから私達はお互い救いあってきたんだ。
それはお互いの弱い部分を埋めあったから、私は今もこうして律に救われている。

和「ありがとう律…、大好きよ」

律「はは…なんだか照れくさいな」

和「ねぇ律…」

律「なんだ…よ…」

私は律の体を優しく抱いてあげた。あの日と同じように。

和「無理しないで…、最後ぐらいは甘えていいのよ?」

律「最後って…嫌な言い方するなよ…」

和「………」

律「…和…ありがとう…大好きだよぉ…!」ポロポロ

和「私も大好きよ…律」

律「うん…!」

律の体温が私の体に伝わる。もちろん私の体温も伝わっているだろう。
私達はもう大丈夫。だって、全て埋めあえたんだから。

律「…もうそろそろいけよ、唯が待ってるぞ」

和「えぇ…それじゃ…」

律「あ…和!」

和「なに?」

律「私達さ…これからも友達だよな?」

和「…違うわ。私達は親友よ」

律「親友か…、へへっそうだな!ほら行ってこいよ、私の親友!」

和「言われなくても行ってくるわよ」

私は駆けだした、唯を探す為に。


……

唯「じゃぁ行ってくるよ!」

澪「おう、和と仲良くな」

唯「うん!言われなくても大丈夫!」

私は駆けだした。和ちゃんを探す為に。

和「唯…!唯…!」

唯はどこにいるんだろう?居場所などわからない、ただあそこに行けば唯に会える気がした。
私は走る。あの場所を目指して。


……

唯「和ちゃん…!」

和ちゃんはどこにいるのかな?居場所なんてわからない、ただあの場所に行けば和ちゃんに会える、そんな気がした。
私は走る。あの場所を目指して。


……

和「唯!」

…返事は帰ってこない。ならここは違ったのか?
唯が他にいる場所、あとは家…?
とにかく無駄足を踏んでしまった。早く唯に会いに行かなくちゃ、
あって私の気持ちを伝えなくちゃ。
私が踵を返したその時

唯「和ちゃん!」

私の探していた人が目の前に現れた。

和「唯…、なんであんたもここに?」

唯「あんたもって、和ちゃんも私のことを?」

和「えぇ、ここに来れば唯に会える気がしたから」

唯「なんだ、私もだよ」

和「そうなの、私達って考えることは同じね」

唯「うん♪だって幼馴染だもん」

和「…ねぇ唯、話があるの」

唯「私もだよ…」

和「私から言うわね、私今まで唯の気持ちをあまり考えたことがなかった」

唯「…それは私もだよ、和ちゃんなら別れたってまたやり直せるって思ってた、でもそれこそが和ちゃんを思ってなかった証拠」

和「…私達、またやり直せるかしら」

唯「うん、やり直せるよ。私はやり直したい…」

和「私も…やり直したい…!また唯と一緒に手をつないで歩きたいよ…!」ポロポロ

唯「なんだぁ…和ちゃんも同じこと考えてたんだね…よかった…!」ポロポロ

唯「和ちゃん…もう一度言うね?私と…」

和「私からも言わせて…唯、私と…」

唯和「付き合って下さい!」

和「…返事は?」

唯「言うまでもないでしょ、和ちゃんは?」

和「言うまでもないわ」

唯「あはは、私達両思いだね♪」

和「えぇ…本当のね」

中学の時の唯の告白、あの時の私の返事はとても簡単なものだった。
それは、付き合うっていうことが良く分かっていなかったから。
それと、唯のことをずっと昔から好きだったから。その頃の好きと今の好きでは全然違う。
私は今、唯が大好きなんだから。だから今私は付き合うことの意味をちゃんと理解できる。
そう、だってこれが付き合うってことなんだから。

唯「そういえば、どうして和ちゃんは私がここにいると思ったの?」

和「さぁ、どうしてでしょうね。そういう唯は?」

唯「私もわかんないや、でもここにいるって思ったんだ」

和「そう、でも驚くわよね。私達別れたところでまた付き合うんだから」

唯「そうだね、これって運命なのかもよ?」

和「この教室が?それとも私達?」

唯「両方だよ、運命が重なったんだよ」

和「そういうものなのかしら?」

唯「そうだよ、さぁ和ちゃん一緒に帰ろう」

和「えぇ、そろそろ帰りましょうか」

私達は久しぶりに手をつないで帰った。
唯の手の温もりが懐かしい。
この温もりを毎日感じていた頃の私は、いつも唯に甘えていたっけ。

唯「えへへ♪和ちゃんと手を繋げて嬉しいなぁ」

和「私もよ、ねぇ唯…」

唯「なぁに?」

和「私はこの手を二度と話さないから…唯も離さないでね?」

あの頃と同じで私はまた唯に甘えている。
でもこの関係も悪くないよね、唯。

唯「もちろんだよ♪」

…私は今も唯に依存している。
この依存症は決して治ることはないだろう。



和「唯依存症」     ~おしまい~