別の道路

キュイイイイイイイイイイン

ガッガッガッ

唯は一歩踏み出すごとにアスファルトに足跡を残しながら走っていた。横を見ると梓がいない。

唯「あ……あれッ?あずにゃんがいない……」オロオロ

唯「もしかして、置いて行ッちゃッたのかな……」

唯「行かなきゃッ!!」ダッ

唯「(待ッてて、あずにゃん!すぐに行くから)」キュイイイイン

~~~~~~~~~~

梓「あッ……あ……」

梓の頭についさっき死んだ人々の顔がよぎった。

梓「(声が出ない。体が動かない)」

ト「許さんッ!」スッ

梓「あッ……」バッ

星人が拳を手の平から鋭く尖った棒を出現させ、梓へ構える。梓は恐怖のあまり顔を覆った。
もうだめだ。そう思った。

キュイイイイイイイン

唯のスーツのポイントが青く輝いている。高音を発しながら唯は星人へ向け、駆けだした。

唯「あずにゃんッ!」ドンッ

唯は全力で星人を突き飛ばした。

ト「ぬオッ!」ズササ

星人が数メートル程吹き飛んだ。通常では考えられないが、そんなことは構わずに唯は梓の元に駆け寄った。

唯「大丈夫ッ?あずにゃんッ!?」

梓「だ……大丈夫です」

ト「許さんッ」ドガッ

星人が唯の背後に回り込み、唯を蹴り飛ばした。

唯「あッ」ズササ

梓「唯先輩ッ!」

倒れた唯を見た梓は銃を握りしめ、ある決意を固めた。

梓「……ッ!唯先輩ッ!逃げてください!私はこの銃で時間を稼ぎます!」

唯「だ、だめだよッ!一緒に逃げなきゃッ!」

梓「いえッ、どちらか犠牲にならなくちゃ逃げれませんッ」

ギョーン

ト「」スッ

撃ってみるものの、やはり簡単には当てることはできそうになかった。

梓「(やッぱり速い……!)」

ドゴォン

数秒のタイムラグの後、不可視のエネルギーがコンクリートの壁を吹きとばした。

梓「早く行ッてくださいッ!」

ト「許さんッ!」ガッ

梓「あッ!」

梓の小さい体は軽々しく持ち上げられてしまった。梓もまた足をばたつかせる。

唯「あずにゃん!」

ト「許さん!許さん許さんッ!!」

星人は手の平から棒を出現させそして勢いよく突きだした。

ズン

梓「か……はッ………」タラタラ

真っ赤な血が星人の腕を伝い流れ落ちる。梓は苦痛に顔を歪める。

唯「あずにゃん!!」

梓「あッ……クッ……!!」

唯「あずにゃああああん」ドンッ

再び唯が星人を突き飛ばした。

ト「ぐ……ぬぬぬ」ズササッ

唯「あずにゃんに………よくもッ……!!」

唯「待ッてて!あずにゃんッ!」キュイイイイイイイイイン

唯の表情は怒りに満ちていた。いつもの笑ってばかりいる顔とは遠くかけ離れていた。
スーツはこれまでに無い程に隆起して、高音を発している。

ト「許さん!絶対に許さんぞおおおおおおおおおッ!」

唯「」スッ

ドゴッ ズン バキィ

スーツの効果で身体能力が極限までに上昇した唯は、軽々と星人の攻撃を避け、一方的に叩きのめした。

ト「ぐおおッ……!」

唯「絶対にッ……!許さないッ……!」

梓「(唯先輩ッて……こんなに喧嘩強かッたのかな……?)」

ドガッ ドンッ ズンッ

唯の怒りの殴打が続く。星人はもはや呻き声すら出せない様子だった。

ト「ゆ……許して……ぐはぁッ」

唯「はぁ……はぁ……」

ト「許ッ……して……はぁ……ください……」

唯「たくさんの人を殺したのに許せる訳ないよ。それにあずにゃんも……」カチャ

ト「あ……あーッああああ」ダダダダ

唯が銃を構えると、星人は声にならない悲鳴を上げて駆けだした。

ギョーン

ト「ああああ……あげぼb」ボン

星人の体が人間と同様に破裂した。

唯「あずにゃんッ!」ダッ

唯「あずにゃん!?大丈夫ッ!?しッかりして!」

梓「(意識が遠のいて行く……唯先輩の声がはッきり聞こえない……)」

梓の目はもう虚ろで光を失いかけていた。しかし、痛みを堪え唯に微笑みかける。

梓「唯…先輩……こそ…大丈夫なんですか……?」

唯「大丈夫だよッあずにゃん!しッかりして……」

梓「私は……もうダメですよ……。さッきの人たちみたいに死んでしまいますよ」

唯「あ……あずにゃん……(そうだッ…どこか病院にッ!)」

唯「私、誰か呼んでくるよッ!」タタタ

梓「……」

梓「(私たちは人に見えないこと……忘れてるのかな……本当にドジなんだから……唯先輩)」

梓「(ここで死んじゃうのかなぁ……さびしいなぁ……)」

梓「(あぁ、お父さん、お母さん、純、憂、澪先輩、律先輩、紬先輩、唯先輩……今まで楽しかッたなぁ……)」

~~~~~~~~~~

唯「はぁ…はぁ……」タッタッタッ

唯「急がないと……急がないとッ……!」

急がねば、梓が死んでしまう。

ジジジジジジジジジジジ

唯「あッ……!」

唯の体が無情にも腕から消えていく。いくら足掻こうともそれは止まらなかった。

唯「そんな……まだあずにゃんが……まだなのにッ!!」

唯「あずny」

ジジジジジジジジジジジ

唯の姿が街から完全に消え去った。

ジジジジジジジジジジジ

誰もいない部屋に唯の体が出現した。

唯「そんなぁ……間に合わなかッた……」

唯「そんな……」バッ

唯「あずにゃんを返してッ!返してよぅ……」ガンガン

唯は力の限り黒い玉を殴った。しかし、何も起こらない。梓は出てこない。

唯「うう……」

ジジジジジジジジジジジ

黒い玉から光線が出た。それは人の頭部を形成していった。それは見覚えのある大好きな髪形。

唯「え……?」

ジジジジジジジジジジジ

梓「唯……先輩?」

唯「あ………ああああ………」

梓「私……トマトの星人に向かッて行ッて……」

唯「あずにゃあああんッ!!!」ダキッ

梓「うわあッ!ゆ…唯先輩」

唯「あずにゃんッ!あずにゃ~ん」スリスリ

梓「もう…」

梓「それしてもどうやッて星人を……」

唯「あずにゃんが刺されたから、無我夢中で闘ッたら倒せたんだよ」

梓「刺された?私がですか?」

梓は目を丸くして聞いている。何かがおかしい。当事者が何も覚えていない。

唯「え~?刺されてたよ?あの手の平から出る、でッかい棒でさ」

梓「そんなこと……あッたんですか?」

唯「え~?覚えてないの?」

梓「いえ…」

チーン それではちいてんをはじめる

ベルのような甲高い音が2LDKの部屋に響く。

梓「それでは…ちいてんをはじめる?」

パッ

あずにゃん(笑) 0点 TOTAL0点

弱すぎ 唯先輩好きすぎ

梓「えぇッ///?/なんですかコレッ!?///」

唯「弱すぎ…唯先輩すきすぎ……」

梓「あずにゃ~ん…そうなのぉ?」

梓「ちょッ……唯先輩までッ!」

パッ

平沢進 3点 TOTAL3点

バカすぎ 運良すぎ

唯「えぇ~?3点だけ~?」

梓「なんの点数なんでしょうか……」

唯「倒した星人の点数かな?」

梓「そうかもしれませんね」

フッ

文字は音も無く消え去った。

唯「消えた……」

唯「でも、また着替えれるから良かったよ~」

梓「まッたく……、ちょッとドアを見てきますから着替えておいてください」

唯「わかッた」

ガチャッ

梓「あッ…開いた……」

梓「唯先輩ッ!ドア開くようになりましたよ!」

唯「着替えるから待ッててね~あずにゃん」

梓「(良かッた……本当に良かッた……これで帰れる)」

梓「(それにしてもどうやッてあのトマト星人を倒したんだろう。あの黒い服になにかあるのかな)」

梓は心から安堵の表情を浮かべた。

唯「お待たせ~。あの服はケースに入れて元の場所に置いておいたよ」

梓「そうですか。では帰りましょうか」

唯「うんッ!」


帰り道

唯「それにしても今日は色んなことがあッたね」

梓「そうですね。車に轢かれたり、死んだり、死んだのにまた死にかけたり……」

唯「あの部屋は何だッたんだろうね」

梓「……唯先輩」

梓の顔色が暗く。唯が呑気に梓の顔を伺う。

唯「どうしたの?あずにゃん」

梓「今日のことは秘密にしておきましょう」

唯「え?なんで?」

梓「みんなに心配をかけるといけないからです。それにッ、死んでわけのわからない生き物と闘ッたと言ッても信じてくれないでしょう」

唯「うーん、そうだねわかッた」

唯はしぶしぶ納得した。本当は憂に死んだことや星人と闘った武勇伝を話したかったのだ。

梓「じゃあ、ここで失礼します」

唯「うん!またねッあずにゃん」

梓「はい、唯先輩」

唯「バイバ~イ」

梓「……」テクテク

梓「…う、オエエエェェ」ビチャビチャ

梓は薄汚れた壁に手を掛け、地面に吐いた。死んでいった人の光景が頭に何度もよぎる。

梓「(怖い……なんであんなことになッたんだろ……)」ガタガタ

梓「(今日は早く寝よう)」タッ

梓は青ざめた顔色のまま帰路についた。


平沢家

唯「ただいま~」

憂「あッ、お姉ちゃんおかえり」

唯「ただいま、憂」

憂「澪さんから電話があッたけど、携帯忘れたの?」

唯「……ううん、買い物に夢中になッちゃッた」

憂い「遅かッたね。買い物楽しかッた?」

唯「うんッ!」

憂「良かッたね」ニコッ

唯「私、ご飯の前にお風呂に入るよ」

憂「じゃあ、用意しておくね」

唯「(そうだよね……心配なんかかけられないね)」

唯は自分の心に留めておこうと決めた。憂に、誰にもこれ以上心配は掛けられない。

ブウウン ブウウン

澪の携帯電話のバイブレーションが机を振動させながら鳴り動く。サブディスプレイには『唯』と表示されている。

澪「もしもし、唯?」

唯「あ、澪ちゃん?着信履歴を見たら、澪ちゃんとりっちゃんで一杯で驚いたよ~。どうかしたの?」

澪「あぁ、数学のノート貸してただろ?ちょッと、勉強をしててさ」

唯「あッ、ごめんね!明日持ッて行くね」

澪「うん、ありがとう(何がありがとうかわからないけど)」

澪「あッ、それでお前たち唯たちは何してたんだ?」

唯「えッ?」

澪「いや、二人とも電話に出なくッてさ。なにか遭ッたのかと……」

唯「あッ、買い物に夢中になッちゃッてさ~」

澪「へぇ、どこに行ッたんだ」

~~~~~~~~~~

唯「じゃあ、またね澪ちゃん」

澪「あぁ、また」ピッ

唯「(また明日あずにゃんと今日のこと話そうッと)」

唯「今日はもう寝ようかな……」

唯「……あれ?」

ふと、手を見て見ると何か奇妙な違和感を覚えた。

唯「家庭科の調理実習で切ッた手の傷が無い……」

唯「転んだ傷も!全部……」バッ

唯「…………」

唯は顔を青ざめて毛布を頭まで掛けてベッドにうずくまった。


翌日の放課後

唯「ねぇ、あずにゃん」

梓「なんですか」

唯「昨日起こッたことッて、やッぱり現実なのかな……」

梓「…………そうじゃないんですか。やッぱり」

唯「傷確かめた?」

梓「え?」

唯「傷だよ」

梓「昨日言ッていた、トマト星人の傷ですか?」

唯「それも、大事だけど傷。ほら……昔の火傷とかさ」

梓「え……」バッ

梓「無い……アイロンで火傷した跡が無いです」

梓は不思議気な顔をして、自分の手を眺める。

梓「あの玉は今までにあッた傷を治すッてことですか」

唯「倒したお礼かな」

梓「でも、もういいんじゃないですか」

唯「え?」

梓「もう私たちは解放されたわけですし」

唯「そうだけど……あずにゃんは気にならない?何の目的でやッてるとかさ」

梓「少しは気になります。けど、もうあんな怖い思いはしたくないですしね」

唯「うーん、そうかなぁ」

唯は腕を組んで唸った。どこか納得できなかったのだ。

梓「そうですよ。私はそう思います。忘れましょう」

唯「うん、そうだね。いつまでも考えててもしかたないね」

梓「そうですッ、その方が唯先輩らしいです」

唯「そうかな……エヘヘ」

梓「はやく部室に行きましょう!紬先輩のお茶が冷めますよ」

唯「うんッ!行こう!」

二人はみんなの元へ歩き始めた。


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