梓「すいません、買い物に付き合ッてもらって」

梓が申し訳なさげに唯に礼を言った。

唯「いいよー私も見たいのあッたし。なにより可愛い後輩の頼みだからねー」ダキッ

梓「あッやめてください!こんな所で//」

唯が梓に抱きつく。顔を赤らめながらもまんざらでもない表情を浮かべる。
唯は唯で構わずに頬を梓に擦りつける。

唯「あずにゃ~ん」スリスリ

唯「あずにゃんは冷たいね~」

梓「もう…」

ブオオオオンッ

車が火花を散らしながら二人に滑り込む。
唯「!!あずにゃん危ないッ!!」ダッ

梓「え……あッ……………」

唯は反射的に梓を抱きかかえた。梓は唯の腕の隙間から車を見つめた。眩いライトが二人を照らす。

ギイイイィィィイイッ ドンッ

凄まじい衝撃と共に二人は吹き飛んだ。痛みは無い。宙を舞う間に様々な事を考えている。これが走馬灯なのだろうか。

二人は目の前が真っ暗になった。

女「きゃああああッ」

男「きゅ……救急車だ!!」

絶叫が現場を駆け巡った。

運「うい~、ヒック」フラフラ

運転手が横転した車から這いずり出てきた。頭を打ったのか、頭部が腫れあがっている。

男2「おいおい、やべえぞ……」

男3「死んでんじゃね?マジで」

男4「おいッ!あんた、何したかわかッてんのか!?」

一人のサラリーマンが運転手に詰め寄る。運転手は酔っぱらっていて、一人で呻いている。

運「あ~!?何だッてんだよ~」

男4「女子高生二人も撥ねたんだぞッ!!」

運「あ~ん?どこに女子高生なんかいるんだよ?」

男「あそこだよ!!…ッてあれ??」

運「俺は横転しただけだッつーの!」ドンッ

男が二人が倒れている場所を指差したがそこには誰一人いない。運転手は怒りに任せ、男を突き飛ばした。

女「さッきまで確かにいたのに……」

ジジジジジジジジジジジ

女は訝しげに、二人が倒れていた周辺を見渡した。しかし、二人の体どころか血の一滴も見当たらない。

二人は煙のように姿を消し去った。


ジジジジジジジジジジジ

梓「あッ………!!」バッ

梓「…………あれ?」

気がつくと梓は見知らぬマンションの一室で一人頭を抱えていた。突然の出来事に梓は戸惑いの表情を浮かべた。

梓「(ここどこだろう?見覚えがないけど……)」

梓「(私たしか車に轢かれて……死んだのかな)」

不安が梓の胸を覆い始めたその時

ジジジジジジジジジジジ

光線から唯の姿が出現した。光線は絶え間なく動き、唯のシルエットを現していく。

唯「はッ………危ないあずにゃん………!!」バッ

唯は思わず梓を抱きしめたが、ふと辺りを見ると見覚えの無い部屋だと気づく。

唯「………あれ?」

唯「ここどこだろう……?」

梓「唯先輩ッ!!」ダキッ

梓は思わず唯に抱きついた。

唯「おおうッ!?あずにゃん!?」

梓の思わぬ行動に唯は焦った。しかし、優しく抱きしめた。

梓「私たちさッき車に轢かれましたよね」

唯「そうだよね。私たち車に轢かれて…」

二人の頭に車の姿が浮かんだ。轢かれた直後の反転するような視界も鮮明に覚えている。

梓「ここがどこなのかわかりますか?」

唯「ううん、知らない。紬ちゃん家の別荘か何かかな?」

二人はどこかもわからないマンションの一室にいた。

梓「(いや……それ以前にどうやってここに運ばれたんだろう)」

唯「何だろう~この黒い玉」スタスタ

梓「何ですかそれ……気味が悪いですね」

振り向くと、部屋の中央にバランスボール大の黒い玉が置かれていた。
玉は黒光りしていて不気味なようにも見える。唯が玉に手を摩るとヒンヤリと冷たい。

唯「そうかなぁ、ツルツルして気持ちいよ?」

梓「ここから出ましょう」スッ

唯「えぇ~?」

梓「この部屋に未練があるんですか……」

唯「あずにゃんはノリが悪いな~」スリスリ

再び唯が梓に抱きつく。しかし、梓がそれを制止させ唯を止めた。

梓「やめてくださいy……あれ?」

唯「どうしたの?あずにゃん」

梓「いえ……ドアノブに触れなくて」ツルッ

梓とドアノブに触れようとしても見えない壁のようなものが生じ、触れないでいた。

唯「あッ、本当だ~」ツルッ

梓「ベランダの窓はどうでしょうか」

唯「開かないよ~」

梓「こんな事ッてありえるんでしょうか……」

唯「でも実際に起こッてるよ」

梓「……」

唯「でも私たちなんで生きてるんだろうね?」

梓「そうですよね……確かに轢かれたはずなのに」

ジジジジジジジジジジジ

黒い玉から再び光線が放出される。

梓「あッ……黒い玉から光が出てますよ」

唯「本当だ~」

梓「人の形になっていきますね」

ジジジジジジジジジジジ

女「……あれ?」

女2「ここどこ?」

女3「………」

三人のOLらしき女性たちが現れた。先程の唯と梓同様に困惑して辺りを見渡している。

唯「人が出てきたッ!」

女「あの……ここッてどこですか?」

女が訝しげに梓に訊ねたが梓は首を横に振った。

梓「私たちも知らないんです。車に轢かれて、気が付けばここにいたんです」

女2「ホントにッ!?私たちもバスが横転して、気が付いたらここに……」

女1「もしかしてここって天国?」

女2「そうなのかな……私たち死んだッてこと?」

唯「ねぇ、あずにゃん。私たち本当に死んだのかな?」

不意に唯が梓に尋ねる。しかし、梓にはわからなかった。

梓「……」

ジジジジジジジジジジジ

唯「また来たよッ!!」

ジジジジジジジジジジジ

男「え?」

男2「ここは一体……?」

男3「あれ?さッきまで車にいたんじゃ……」

DQN「あ?んだここは?」

四人の男が現れた。どうやらガラの悪そうな一人を除いては友人のようだ。

男3「俺たち、さッきまで車にいたよな?」

男「あぁ、俺が運転していたら前からダンプが」

DQN「あぁ!?お前らまさか交差点のワゴンか?」

男「あぁ?お前まさかあのダンプの運転手か?」

DQN「あぁ、だッたらなんだよ?」

男2「てめぇッ!!」

DQNが男2の服を乱暴に掴んだ。

梓「(ここに居る人は全員直前の記憶が死ぬ直前……やっぱりここは……)」

あーたーらしーい あーさがきたー

テープのような不気味な音を立てながらラジオ体操が流れ始めた。

梓「」ビクッ

唯「おぉッ!?」

それ いっち にい さん

唯「いまのなんだろう」

梓「ラジオ体操じゃないですか?」

唯「へ~聴いたことないや」

全員が黒い玉を取り囲んで眺めてたその時に、玉に文字が現れた。

パッ

やさい星人

特徴
つよい、吐く

好きなもの
やさい

口ぐせ
残さず食べろ 送ッてヤル

梓「あッ、何か文字が……」

梓「…やさい星人?本当になんなんでしょうかここ……」

唯「なんか、カッコイイね」

DQN「なんだこれ?星人?バカじゃねーの?」

DQNが玉に悪態をついた。OLや男たちも表情から察するにほぼ同様の感想らしい。

男3「てめぇ達は今からこの方をヤッつけて下ちい?」

男2「こいつを倒せッてか。楽勝じゃね?」

全員が顔を見合わせて、不安げな表情を浮かべている。

DQN「俺は帰るからな」ツルッ

DQN「なんだこのドア?開かねえぞッ!?」ツルッ ツルッ バンッ

男がいくら蹴ろうがドアは開かなかった。廊下でDQNが奇声を発した。

男「完全密室か……」

男が怯えながら呟いたその時

ガシャン ドン

漆黒の玉の両脇が二つに開いた。中には銃と思われる物が掛けられている。

唯梓「玉が開いたッ!?」

女2「何コレ……銃?」

DQN「……」スッ カチッ

DQNが引き金を引いたが何も発射されなかった。

DQN「なんだやっぱオモチャじゃねーかwwwww」

DQN「しかも、中に人がいるぞ。キメェ裸かよ」

玉の中には酸素マスクを装着した裸の男が座っている。どうやら生きているようだ。

唯「見て見て~あずにゃん。私の名前が書いてあるよ~」

唯が梓にケースを見せつけた。どうやらケースには名前が刻みこまれているらしい。

『平沢進(笑)』

梓「なんですか?そのスーツケース……進ッて、本当に唯先輩のケース何ですか?」

唯「絶対そうだよ!でも、『進(しん)』ッて誰だろうね」

梓「『進(しん)』じゃなくて『進(すすむ)』じゃないですか?」

梓「え~?そうなのかな~」

DQN「………んだよ、デコトラッてよ」

男がケースを蹴り飛ばした。顔にはいらだちの表情が浮かんでいる。

唯「あずにゃんのも見つけたよッ!」

梓「あ………ありがとうございます」

唯に差し出されたケースを梓が受け取った。

『中野』

梓「(私だけそのまま……)」

男3「何コレ?黒のタイツかなにか?」

男2「さすがにこれは無いな。ダサい」

DQN「んだよこれッ!誰が着るかッつうの」

唯「なんかコレカッコイイね!」

梓「どこがですか……」

スーツを開けると黒い全身タイツのような服が入っていた。体の一定の部位にレンズ状のポイントが点在する。

唯「ちょッと着てみようかな~」タッ

唯がスーツケースを持って廊下へと走って行った。

梓「あッ唯先輩!…………」

梓「(それにしてもこの銃………本物みたい)」スッ ガチャ

掛けられている銃を手にとって見ると、玩具とは思えないような出来栄えだった。

梓「(長い方は意外に軽いなぁ……)」

突然、黒い玉の表示が変化した。

パッ

行って下ちい

女3「きゃああああああ」

女3が女1の頭を指しながら絶叫した。

女1「どうかしたのッ?」バッ

女3「あ…頭が………」スッ

女1の体が頭部から消えていく。

ジジジジジジジジジジジ

DQN「」ドタバタ ドン

DQNは前が見えないためなのか壁に何度も衝突していた。

男2「あッ…お前も……」

男「え?あ、本当だ……」

ジジジジジジジジジジジ

みんなが部屋から消えていく様子を見て、梓はただならぬ不安に駆られた。

梓「唯先輩ッ!……まだ着g………」

やがて、梓の姿も部屋から完全に消え去った。

ジジジジジジジジジジジ

~~~~~~~~~~

唯「あずにゃ~ん、どうかなッ?」バッ

誰もいない部屋で唯の声が虚しく響き渡る。

唯「……あれ?みんないない……」

唯「どうしよう……あずにゃんが消えちゃッた」オロオロ

いくら捜しまわっても梓どころか誰もいない。唯はリビングと廊下を何度も行き来した。

唯「あずにゃん……死んじゃッたの……?うえーn」

ジジジジジジジジジジジ

~~~~~~~~~~

律「なぁ、澪」テクテク

澪「なんだ?」テクテク

律「唯からメールの返信が来ないんだけど」

澪「気付いてないだけじゃないのか?」

律「電話してもでないんだよ」

律は携帯を持つ手を振りながら訴える。

澪「あッ!そういえば、二人とも買い物に行くッて言ッてた」

律「へぇ~仲良いな。あいつら」

澪「じゃあな、律」

律「おぅ、また明日」

律は手を振って背中を見送った。

澪「あッ、唯に数学のノート貸したままだった。忘れるかもしれないから電話しよッと」

PRRRRRRRR

澪「(出ない……家の方にかけてみよう)」

PRRRRRRRR

憂「もしもし」

澪「あッ、秋山ですけど」

憂「あッ、澪さん。こんばんは」

澪「こんばんは。今家に唯ッているかな?」

憂「いえ……梓ちゃんと買い物に行くッてメールがありましたけど、まだ帰ッていないんですよ」

澪「そうなんだ、ごめんね。ありがとう」

憂「いえいえ」

澪「まだ帰ッてないか。梓に聞いてみるか」

PRRRRR

澪「でない……二人とも買い物長いなぁ」

澪「律に聞いてみよう」

PRRRRR

律「もしもーし」

澪「あッ、律。まだ唯と梓帰ッてないみたいなんだ」

律「まだ帰ッてないのか!?」

澪「うん」

律「またいつもみたいに……ッて梓が一緒だからそれはないか」

澪「………」

二人はその時は何一つとして疑ってはいなかった。


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