「せーんせいっ!」

「……あら、もう来たの?」

「つれない言い方だよぉ」

「言ってた時間より1時間も早いじゃない」

「待ちきれなくて……エヘヘ」

「まったく、しょうがないわね」


「それにしても、この雪にはびっくりしたよ!」

「こんなに積もるとは思わなかったわね」

「子供なら大はしゃぎで駆け回るところだよ」

「そうね」

「ねえねえ、あとで校庭に雪だるま作らない?」

「やめときなさい」


「今日はまだたくさん仕事あるの?」

「あと30分くらいかかるから、部室でも覗いてきたら?」

「後輩達は頑張っておるかね」

「とりあえずティータイムは伝統になってるわね」

「それは多分さわちゃんのせいじゃないかな」

「否定できないわ」


「あ、メール。りっちゃんからだ。せんせいによろしくだって」

「……みんなは元気にしてる?」

「うん、それなりに忙しいけど、みんな相変わらずだよ」

「まさかあんたたちがプロデビューしちゃうなんてね」

「私もびっくりだよ。人生なにが起きるか分からないもんだね」

「他人事みたいな言い方ねえ」

「相変わらず、あずにゃんに練習しろって怒られるよ」

「練習しなさいよ」


「ねえねえ、この紙袋なあに?」

「ああ、生徒から貰ったチョコレートよ」

「うひゃぁ!大人気だねえ、せんせい」

「……生徒に慕われるのは嬉しいことね」

「じゃあ、私からのチョコはいらないかなぁ」

「ニヤニヤするのやめなさい」


「お仕事お疲れ様でした!」

「それじゃ、部室行く?みんな喜ぶわよ」

「そうだね、3年の子は卒業しちゃうし、顔見てこよう」

「毎年後輩の学園祭ライブを見に来るなんて、ほんとマメね」

「ここが私たちの音楽の原点だからね!」

「そうね」


「ねー、せんせい」

「……なあに?」

「どうしてこの学校の先生になろうと思ったの?」

「そうね……。地元っていうこともあるけど」

「ふーん」

「ああ、もうひとつ」

「んー?」

「あの校庭の桜が好きだから、かしらね」


「あ、これ、来週出る新譜」

「貰っていいの?」

「もちろんだよ!早く聴いて欲しいもん」

「ありがとう、今夜早速聴かせてもらうわ」

「ライブも決まったから、今度チケット送ります!」

「楽しみにしてるわ」


ユイサン,アリガトウゴザイマシタ!!
「こちらこそ、お茶ごちそうさまー。受験がんばってね」

ソレジャシツレイシマス!
「気をつけて帰るのよ」

「あの子たちから見たら、私ももう大人なんだねえ」

「大人だし、尊敬するOGね」

「なんだかくすぐったい気持ちだねえ」

「私から見れば、まだまだ子供だけどね」


「今日はね、憂が豆乳鍋を作ってくれるんだよ!」

「あら、いいわね」

「ね、一緒に食べようよ?」

「私も行っていいの?」

「当たり前だよ!むしろ断るなんて許さないよ!」

「じゃあお邪魔するわ。戴き物の日本酒、持って行こうかしら」

「おお~いいね~。しっぽり雪見酒だねえ」

「ちょっと舐めただけで寝ちゃう子が何言ってるの」


「今日は車?」

「この雪だから、歩いてきたわ」

「じゃあ、久し振りに一緒に下校だね!」

「そうね」

「何年振りだっけ」

「5年振り、ね」


「高校卒業して、もうそんなに経つんだねえ」

「ほんと、あっという間ね」

「私たちが付き合い始めて、もうそんなに経つんだねえ」

「……学校でさらっとそういうこと言うの、やめなさい」

「えへへ、ごめーん」

「まったく」


「思い出すなあ。卒業式の日、私が告白して」

「まだ続けるの?」

「私、あの時が人生で一番緊張したよ」

「そう」

「OKくれたとき、ほんとに嬉しかった」

「……そう」

「まさか両思いだったなんて思いもしなかったんだもん」

「そうなんだ、じゃあ私職員室行くね」


「ちょっ、待っ!せんせい!おいてかないで!」

「……ねえ」

「なに?」

「そのせんせいっていうの、もうやめて?」

「えー、なんで?だってせんせいだもん」

「恥ずかしいのよ、唯にそう呼ばれるの」


マナベセンセイ、サヨウナラ
「あ、はい、さようなら。雪道気をつけてね」

「まなべせんせい、人気者ぉ」

「……やっぱり今日行くのやめようかしら」

「あっちょっ、今のなしなし!憂も楽しみに待ってるから!」

「そうね。憂に逢いに行けばいいのよね」

「ひどいよ和ちゃん」


「まあでも、まだ唯からチョコもらってないし、行ってあげるわ」

「えへへ~」

「じゃ、帰りましょうか」

「ねえ、和ちゃん。帰り道手繋いでいい?」

「いいわけないでしょ」

「ちぇーっ」


「ねえ、和ちゃん」

「なあに?」

「和ちゃんがこの学校の先生になってくれて、私嬉しかったんだ」

「どうして?」

「んー、うまく言えないんだけど……」

「……」

「ここには、いろんな宝物が詰まってるから、かな」

「……そうね」


「うう、寒いねえ」

「日陰歩かないように気をつけなさい」

「わっ、ととっ、ひぃっ」

「……腕、組んでいいわよ」

「えっ、いいの?」

「今にも転びそうで見てられないわ」

「……えへへ、ありがとう」


「まったく、いつまでたっても手の掛かる子ね」

「ねえ、和ちゃん」

「なあに?」

「大好き」



「…………まったく、あんたって子は」



おしまい