なんちゃってエピローグ。律視点。
500円玉を入れ、ボタンを押す。
顔写真付きのカードをかざして、商品とおつりが落ちてくる。
手を伸ばして、両方を取った。
英字の書かれた箱と、10円玉と50円玉が1枚ずつ。
わたしが買い始める前は、もっと安かったんだよな。
もっとも、子どもの頃なんて300円でおつりが返ってきた。
よく父さんのおつかいで買いに出た。
おつりはやる、って言われるから、適当に駄菓子を買ったのを覚えてる。
タバコは身体によくないらしい。
でもさ、遅かれ早かれみんな死ぬんだ。
なら少しでも好きなものを選んで、自分で死因作って命を全うする。
その方が、幸せじゃないか?
だからわたしは、肺がんで死ねたら本望だよ。
限りが何となくわかる毎日の中で、時々あいつのことを思う。
そうして死ねたら、幸せだよな。
そうそう、このカード。
みなさんご存知、タスポだ。
この顔写真って、どんな写真でもいいらしいぞ。
友達は大好きなアイドルの写真で作ったくらいだ。
性別、明らかに違うのにな。
アニメキャラとかでも出来るのかな?
誰か試してみろよ。
わたしのこの写真だって、未成年の時のだ。
黄色いカチューシャがトレードマークだった、高校生時代。
未成年にタバコを買わせないためのものなのに、変だろ?
この頃、好きな奴いてさ。
…まあ、この頃よりずっと前から好きだったんだけど。
運命の相手、なんて言っちゃいたいくらいだよ。
泣き虫で、怖がりで、なのに強がりで。
その辺の男がすれ違うたび、そいつが振り向くような綺麗な子。
そう、女の子だったんだ。
わたしと同じ、女。
少なからず悩んだよ。
自分のこの気持ちはなんだろ、ってな。
でもとまらなくて、それまでの全部失ってもいいって思うようになって、告白した。
すると「笑いたいのに、変なの」って、泣きながら笑ったんだよ、あいつ。
それから4年間、一緒に暮らして。
誰よりも幸せだったよ。
人前では、恋人らしいことなんて1つも出来なかったけど。
その分同じベッドで喘いで果てて、そんな毎日だった。
でも、わたしから別れたんだ。
離れるのが怖くなったんだ。
離れること自体が、じゃなくて。
離れた場所でさえ、あいつを縛り付けることが、かな。
あいつにはきっと、わたしは荷物になる。
あいつ自身がそう認めなくても、周りにはそうなるよな。
何で結婚しないんだ、なんて親に言われてみろよ。
「わたしには律が居るから」なんて、言わせるのか?
一人娘、愛情いっぱい育てられたんだ。
孫の顔も見せてやれないで、女と人生を共にする。
きっと、生きた証も残せず何してんだって思われるよ。
わたしはいいよ、弟居るし。
不孝な姉を持った弟には悪いが、その分孝行してやってくれって任せられるし。
でもさ、あいつは、澪は違うだろ?
まあさ、何て言うか。
結局はわたしのわがままだよ。
あいつには幸せになってほしい、なんてカッコつけただけ。
本当は、それらすべてを受け入れる自信がなかったんだ。
祝福される恋愛して、結婚して子ども産んで。
手に出来るかもしれない幸せの代わりになんて、なれなかった。
あいつの人生ごと背負うなんて、わたしの背中じゃ足りないものだった。
ただ、それだけ。
まだわたしは、あいつと暮らした部屋で生活してる。
あいつの思い出と、タバコの煙に満ちたあの部屋で。
独りじゃ広すぎる、あの部屋で。
消えていく煙をぼーっと見ては、
明日の今頃はどこに居るんだろう、なんて、思いながらね。
本当に終わる。
最終更新:2011年02月15日 22:59