梓「と、言う訳で憂にチョコ作りを教えて貰う為に平沢家にやってきました」

純「誰に言ってんの、梓?」

梓「何事にも説明は必要でしょ。純が気にする事じゃないけど」

純「よくわかんないけど、チャイム鳴らすよ」ピンポーン

憂「お待たせ~。用意できてるよ」

梓「お邪魔します」

純「お邪魔しまーす」


憂「どうぞどうぞ」

純「さぁ、どんなの作ろうかなー」

梓「純はジャズ研の先輩に作るんだっけ?」

純「うん。梓もそうでしょ?」

梓「そうだよ」

純「私も澪先輩に作ろうっかなー」

梓「なっ!? 純はジャズ研だけで手一杯でしょ」

純「実際そうなんだよね。余ったら作る事にするよ」

憂「材料は十分あるから大丈夫だよ」

梓「問題は時間だよね。月曜がバレンタインじゃなければ余裕あったんだけど」

純「日曜になってから教えにもらいにきたのがまずかったなぁ」

梓「毎度毎度、泥縄だよね」

純「いやそれ程でもないよ」

梓「褒めてないよ……」

憂「それじゃあどういうの作ろうか?」

純「普通のでいいんじゃないの? 凝ったの作ろうにもタイムアップじゃ切ないし」

梓「まぁそうだけど……やっぱり先輩方は高校最後なんだしさ、豪華なの作ってあげたいじゃん」

憂「ならどういうのがいいのかな。ケーキとか?」

梓「それは去年やったから……うーん」

純「あ、アレいいんじゃない。あのお酒入ってる奴!」

梓「お酒入ってる奴?」

憂「チョコレートボンボン?」

純「そう、それそれ! たまーに食べると美味しいよね」

梓「なるほど、結構いいかも。なんか大人っぽいし」

純「でしょ。あ、でもお酒ってある?」

憂「確かお父さんのウイスキーがあったと思うけど」

梓「勝手に使って大丈夫なの?」

憂「ちょっと電話して聞いてみてくるね。梓ちゃん達は下準備しておいて」

梓「じゃあとりあえずチョコ刻んでおこうか」

純「オッケー」


梓「これも結構……疲れる作業だよね」

純「まぁ、これしないと先に進めないから仕方ないねー」

憂「聞いてきたよー。残り少ないから、全部使っていいって」

純「お、やったね。それじゃあチョコレートボンボンに決定!」

梓「憂、作れるの?」

憂「うん、大丈夫だよ」

梓「チョコは刻み終わったけど」

憂「何か問題あった?」

梓「ウイスキーってどうやって流し込むんだろうって」

純「固めたチョコを半分に割って、くり抜いて入れるとか」

梓「そんな事したら崩れると思う」

純「じゃあパチンコ玉みたいなのをチョコで包んでさ、後で取り出して流し込めばいいんじゃないかな」

梓「パチンコ玉出すときに壊れちゃうよ」

純「じゃあじゃあ、えーっと……えっと……」

憂「あのー……もう準備できてるよ?」

純「ああ、もうちょっと粘りたかった!」

梓「ああ、もう少し遊びたかった」

純「遊ばれてた!?」

梓「それでどうやって入れるの?」

憂「この小さい醤油入れと楊枝を使うの」

梓「それってお弁当とかによく入ってる醤油入れ?」

憂「うん。これにお水を入れて反対向きに楊枝を刺して……冷凍庫で凍らす、と」

梓「なーるほど」

純「え、それでどうなんの?」

憂「えっと――」

梓「はぁ、純は本当鈍いんだから」

純「むっ。何だと、このチンチクリンが!」

梓「なな、身長は関係ないでしょ!」

憂「えっと、話していいかな?」

梓「あ、ごめん憂」

憂「この水が凍ったら、この醤油入れ型の氷ができるよね」

純「うん」

憂「そしたら底をカッターで切り落としてから取り出して、氷をチョコでコーティングするの」

純「氷はどうなんの?」

梓「その為の楊枝だよね」

憂「そう。何か台に刺して、冷蔵庫に入れておけば氷が溶けて」

純「なるほど! 楊枝の穴があいたチョコができるんだ」

梓「それでその穴からウイスキーを入れて完成だね」

憂「そういうこと~」

純「なんだ、結構簡単にできちゃうんだ」

梓「だね。これなら問題なく作れそう」

憂「それじゃあ必要な分だけ凍らせちゃおうか」

梓「私は先輩方の分だけでいいかな。純は……多っ!」

純「え? だって自分でも食べてみたいじゃん」

梓「気持ちは分かるけど……そんなに時間に余裕あるかな」

憂「チョコの量は大丈夫だからいけるんじゃない?」

梓「憂が言うなら大丈夫なんだろうけど」

純「そんじゃ入れまーす」

憂「後の作業はこれが凍った後だね」

純「あれ、じゃあ今は氷が出来るまで待つしかないってこと?」

憂「そうなっちゃうね」

梓「どうしようか?」

純「うーん……あ、今日は唯先輩っていないの?」

憂「今日は澪さんの家に集まって勉強会って言ってたよ」

純「それならさ、この前読んだ漫画の続きを見せてもらっていいかな?」

憂「大丈夫だと思うよ」

梓「純……」

純「何? 別にいいじゃん、待ってるだけなんて耐えらんないわ」

憂「また散らかってると思うから、私も一緒に探すよ」

純「ありがとう。梓はどうする?」

梓「私はここにいるよ。飾り付けとか考えておく」

憂「じゃあまた後でね」

梓「――さて、ああ言ってはみたものの」

梓「チョコ渡すだけなんだから、特に飾らなくても箱に入れておけばいいか」

梓「純にああ言った以上、すぐにあっちに合流するのも癪だなぁ」

梓「どうしようかな」

梓「あ、メール……唯先輩からだ」

梓「何々……『あずにゃん、憂に聞いたけど今日ウチに来てるの? 夜まで待って一緒に晩御飯食べようよ~』」

梓「……勉強会中だよね……?」

梓「まぁ、『確約はできませんけど、帰る前に戻ってきたら考えます』……と。これでいいかな」ピッ

梓「唯先輩達、ちゃんと勉強してるのかな?」

梓「また怒鳴ってる澪先輩の顔が目に浮かぶよ」

梓「このチョコ、皆さん喜んでくれるかな」

梓「どういう反応してくれるだろうか」

梓「まずはいやしそうな律先輩かな――」

~~

梓「――はい、律先輩。チョコレートです」

律「お、なんだ梓。やっと先輩を敬う気になったのか?」

梓「何言ってるんですか。今日は2月14日ですよ」

律「ああバレンタインかー。すっかり忘れてたわ」

梓「これが女子高生の言動ですか……」

律「まあまあ、いいじゃん。別に渡す相手もいないんだしさ」

梓「律先輩がいいならそれでいいですけど」

律「そういう事。それじゃあ遠慮なくいただきまーす」

梓「どうぞどうぞ」

律「むぐむぐ……」

梓「どうですか?」

律「うん、結構美味いよ。ありがとな、梓」ニコッ

梓「……!」

律「うん? どしたー」

梓「なっ、何でもありません! こっち見ないで下さい」

律「ちょっ、何だそりゃ!」

梓「何でもありませんってばー!――」

~~

梓「――という風に」

梓「普段は大雑把でがさつで粗野な感じだけど」

梓「こう、ひょんな事で笑顔を見せられると……中々いいね!」

梓「さ、更に他の人も考えてみようかな」

梓「次はムギ先輩で――」

~~

梓「――はい、ムギ先輩。チョコレートです」

紬「わ~、これってバレンタインのチョコレートかしら? ありがとう、梓ちゃん」

梓「ムギ先輩のお菓子に比べたら、全然大した物ではないですけど……一応手作りです」

紬「梓ちゃん」

梓「はい」

紬「大した物じゃないなんて、全然そんなことないわ」

梓「え……」

紬「梓ちゃんが心を込めて作ってくれたチョコはお金で買える物じゃないの」

紬「美味しいお菓子は一杯あるけど、どれかを選べっていうなら私は断然梓ちゃんのチョコを選ぶわ」

梓「ムギ先輩…………えいっ!」ギュー

紬「ほわあぁぁぁ……あ、梓ちゃん?」

梓「……何も言わずに、しばらくこのまま抱きつかせて下さい」

紬「う、うん」

梓「……ふうっ、すみませんでした。いきなり抱きついちゃって」

紬「ううん、いいの。少し驚いちゃったけど」

梓「あ、あの! ありがとう……です。私のチョコにこんな風に言ってもらえると思ってなかったもので」

紬「それに関しては本心。やっぱり手作りに勝るものはないわね」

梓「ふふっ、そうですね。どうぞ召し上がって下さい」

紬「じゃあいただきます……うん、美味しいわ」

梓「本当ですか?」

紬「本当。梓ちゃんの味がしたもん」

梓「ふふ、それってどういう意味ですか?」

紬「え? えっと、あれ? 私にもよくわかんない」

梓「ぷっ、ふふふっ」

紬「うふふふ」

梓「あはははは――」

~~

梓「――おおおぉ……」

梓「これは……よろしいです……」

梓「いつも笑顔でおっとりぽわぽわのムギ先輩に、真顔であんな台詞言われたら」

梓「そりゃあ私だって感極まって抱きついちゃうよ」

梓「ムギ先輩ってすっごく柔らかくて、いい匂いするんだよねぇ……」

梓「……はっ、いけないいけない」

梓「それじゃ今度は澪先輩かな」

梓「ええっと――」

~~

梓「――澪先輩、チョコレートです!」

澪「今日はバレンタインだっけ。ありがとう、梓」

梓「こちらこそです。拙いですけど、一応手作りなんです」

澪「そうなのか? なんか畏まっちゃうな」

梓「そんな大仰なものじゃありませんよ」

澪「いや、大事に食べさせてもらうよ」

梓「澪先輩……! あ、それにしても」

澪「うん?」

梓「私以外にも結構チョコもらってるみたいですね」

澪「ああ、これ……例のファンクラブの子達からもらってさ」

梓「はぁ……凄い量ですね」

澪「こっちもゆっくり食べさせてもらうよ。ああ、部活の時にでもみんなで食べようか」

梓「いいんですか?」

澪「私一人じゃちょっとキツいし……太ると嫌だし」

梓「あ、すみません!」

澪「いいんだ……気を付けて食べれば……」

梓「み、澪先輩……」

澪「でも梓からのチョコは皆にはあげないよ」

梓「えっ」

澪「独り占めさせてもらう。大事な後輩からの贈り物なんだし」

梓「……!」

澪「何か迷惑だったかな?」

梓「そ、そんな事ないです! 逆です、凄い嬉しいです!」

澪「うん、私も嬉しいよ」

梓「澪先輩……! 一生付いていきます!!」ガシッ

澪「え!? そ、そこまではどうかと……」

梓「いいえ、この手は離しません! せめて今だけでも……」

澪「梓……」

梓「澪先輩……――」

~~

梓「――お、おおおぅ」

梓「イエス、イエス、イエス!」

梓「そして二人はめくるめくファンタジーの世界に……うっ」

梓「しまった、鼻血が……」

梓「……失礼」


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