こんなことになるならば憂を修学旅行に連れて行くんだった……。
 そんな今更過ぎる後悔をして泣き咽び床をどんどん叩いていると、ふと憂が立ち上がる気配がしました。
 そしてまもなく憂の両腕で強く抱きすくめられ、耳元で「落ち着いて」と囁かれました。

唯「ぐすっ……ういぃ……!」

憂「もう……お姉ちゃんが変なこというからさっきまで怒ってたのどうでもよくなっちゃったよ……」

 そうだ、わたし、謝りに来たのに……。

唯「ごめんねええ……ひっ……ごめんういぃぃ…………」

 とことん自分勝手です、こんなんじゃ愛想をつかされるのも仕方ありません。
 しかし憂はそんなわたしを抱きしめて、頭を撫でて落ち着かせてくれるのです。
 なんという母性でしょう、お嫁にもらいたい。

 そしてゆっくりと憂の口が開きます、「聞いて」と一言、ついに真実を話してくれるようです。
 今は姉として最低限、憂の告白を聞いてあげなくてはいけません、あぁ、うぅ。


憂「……お姉ちゃん、あの毛はね、別にその、下の毛とかじゃなくて……純ちゃんの髪の毛なんだよ」

 …………………。
 ジュンチャンノカミノケ?

唯「……はえっ?」

憂「だから、友達の鈴木純ちゃんの髪の毛、お姉ちゃんたちが修学旅行いってる間に、梓ちゃんと三人でお泊り会したんだよー」

 あ、あぁ純ちゃんの髪の毛……。

 いえしかし女の子だからといって油断はしちゃいけません、性別は関係ないのです。
 純ちゃんがおまたをまさぐって憂のまくらもとにちぢれ毛を残していった可能性も否めなくありません。
 そして女の子同士という可能性もまた否めないのです。

唯「あの、うい……、ところでだけど、三人でどういう風に寝たの?」

憂「えっと……純ちゃんがベッドで先に寝ちゃって……梓ちゃんとわたしが下に布団敷いて寝たんだったかな」

唯「つまり……一緒のベッドでおねんねしたわけではないと……」

憂「うん、布団も足りてたしねー」

 ……ひとまず安心です。
 もし三人でみだらな行為をしていたら、どうなっていたことか……。
 しかし純ちゃん、聖域とも呼べる憂の布団に易々と上がるなんて……!
 ぐぬぬ。

憂「純ちゃんってクセっ毛がすごいんだよー、朝起きたらひどいことになってて、直してあげるのにも一苦労だったんだー」

唯「……!」

憂「差し入れでドーナツもって来てくれたんだけどね、純ちゃんったら全部一口ずつ口つけちゃって」

唯「……!!」

憂「しかたないからわたしと梓ちゃんが全部食べたんだけどね、うふふー」

唯「……!!!」

 ……純ちゃんなんなの。
 クセっ毛直してもらうのもドーナツ余して憂やあずにゃんと間接ちゅーするのも、全部わたしがやりたかったのにぃ!!

 よろしい、ならば戦争です。
 わたしはこれから復讐の鬼になります。

 純ちゃんめ……!


 翌日。
 今日は振り替え休日もあけ、登校日となりました。

 愛しのあずにゃんとも久しぶりに会うことができます。
 ああわたしはなんと年下に恵まれていることでしょう。
 憂にあずにゃん、とってもプリティーな娘たち、わたしの両腕両脚が今すぐにも抱きしめんと動き出してしまいそうです。

 ちぢれ毛の件ではわたしも相当わたしも焦りましたが、放課後はあずにゃん分による堪忍袋の緒の補修を行う事にしましょう。

唯「あっずにゃーん!!」

梓「わぁっ?!」

 後ろからがばっと抱き着いて頬をすりすり、おぉおぉ抵抗しちゃってかわいい。
 くんくんすんすん。ああ、あずにゃん分。万歳。

唯「あずにゃん、わたしたちがいなくて、寂しかった?」

梓「なっ……! べ、別に、逆に静かでちょうど良かったです!」

唯「またまたあ、寂しくてわたしの家に泊まりに着てたんでしょ? 知ってるよおっ」

梓「それは、憂が寂しがってたから……」

唯「ほうほう……共にわたしがいない寂しさを紛らそうと……かわいいねぇっ」

梓「ち、ちがいますっ!」

 ああ全く、なんて可愛い子たちなのでしょうか。

純「あ、こんにちは唯先輩」

唯「……ふんっ」

 でました、にっくき純ちゃんです。
 わたしが不在のときを狙って、この泥棒猫は、憂とあずにゃんにツバつけていたのです!

梓「……唯先輩?」

純「? 梓、昼休み終わっちゃうよ? 早くお昼ご飯食べようよー」

唯「……わたしもご一緒していいかしら?」

梓「なんですかその口調……」

唯「油断大敵なんだよ……」

 すでに闘いは始まっているのです。

 教室の中では憂が待っていました。
 わたしの登場に驚いていたようですがそこはそれ、憂とわたしは相思相愛ですから、一緒にお昼ご飯くらい、むしろいままで食べてなかったほうがおかしいというものです。

 しかしやはり周りの視線が集中して注がれます。けいおん部の平沢唯といえばちょっとした有名人です。ふふん。
 純ちゃんにはちょっと大人でかっこいいわたしを見せつけ格の違いというものをわからせてあげる必要がありそうです。

唯「あ、あの、ごめんなさい、ここの椅子借りていいですか……?」

二年「あ、いいっすよー」

唯「あ、ありがとうございましゅ……」


 ヒソヒソ

  ウイチャンノオネエサンナンカカワイイネー
       ショウドウブツッポイヨネー

                   ヒソヒソ

 ううぐ……。


 違います、見せ付けるべきはそんなところじゃないのです。
 どちらがより憂とあずにゃんとらぶらぶか、その勝負なのです。

純「ほい、梓」スッ

梓「ん、ありがと」チュー

唯「!?」

 な……、回し飲み……?
 ジュースの回し飲みです! 唾液交換です! こ、公然と、見せ付けるようにやってのけるなんて……。

純「はい、憂も」

憂「ありがと純ちゃん、んー」チュー

 は、ハレンチ極まりないです、若者の性の乱れがこんな身近で起こっているなんて……!

純「唯先輩も、飲みます? バナナ豆乳、美味しいですよ」

唯「うっ」

 バナナ豆乳。
 いいえ、それは憂とあずにゃんの唾液の混じった聖水です。バナナソイミルクなどではありません。
 刺激的過ぎる甘美なその液体にわたしも思わず手が出てしまいそうになりますが、敵の施しを受けるわけには……!

 ……くやしいでもおいしい。

唯「……ありがと純ちゃん」

純「どういたしまして」

 にこっと笑顔ではにかんで、ストローをくわえる純ちゃん。
 魂胆が見え見えです、わたしを懐柔しようとしてもそうは簡単にはいきません。

純「あー、やっぱ昼休みのバナナ豆乳は最高だなー」

 そういって純ちゃんがストローを鳴らした瞬間、彼女の表情にわずかなかげりが見えました。
 まさかこの子……この場にいる全員の唾液を狙って……!?

 だとしたら、恐ろしい子です……!

 いえ、それよりも、そうするとこの子はどんなハレンチ少女なのでしょう。
 容量の少ないバナナ豆乳を太っ腹にも全員に回し飲ませる、これはまず間違いなく唾液を回収するため他なりません。

 憂やあずにゃんばかりか、まさかわたしまで、狙われてる……?

 そう考えるとなんだか妙にどきどきしてきました、動揺させる作戦かもしれません、どうゆうつもりなのかもわかりません。

 いつの間にかわたしは、狩る側から狩られる側になっていたようです。

憂「お姉ちゃん、そういえば弁当持ってきてないんじゃない?」

 はっ。

唯「う、うん、昼休みは二人に会うために時間空けたかったから、早弁しちゃって……」


梓「まったく……放課後おなか空いても知りませんよ?」

唯「ムギちゃんのお茶があるからだいじょーぶだよー」

憂「お姉ちゃん、卵焼き分けてあげるー」

唯「えっいいの?」

梓「しかたないですね、わたしもプチトマトを」

唯「ありがとーごぜーます……ありがとーごぜーます……!」

 おかしいな、憂の卵焼きは甘く作ってくれてるはずなのに、なぜだかしょっぱい味がしました。

 情けない姿を晒しているのは間違いありませんがしかしそこは、転んだらただじゃ起きない不屈の精神で、いちゃいちゃらぶらぶすることにしましょう。

唯「ういー、あーんしてー」

憂「はい、あーん♪」

 あーんもぐもぐ、おいしーい。
 さぁ純ちゃん、見なさいこれがわたしと憂のらぶらぶっぷり。
 嫉妬の炎に妬かれ豆乳のパックを握りつぶしている様子がありありと浮かびます。

純「梓ー、わたしにもプチトマトちょうだいよー」

梓「しかたないなぁ、はい純、あーん」

唯「!?」

 信じられないことにあずにゃんはプチトマトを指で摘んで純ちゃんの口まで運びます。
 ダメ、あずにゃん。その子はとんでもないハレンチ娘、指で摘んであーんなんてしたら、指ちゅぱされちゃうよ!

 ああわたしが憂の卵焼きを咀嚼している間にも、確実にその距離は縮んでいきます。

 かくなる上はわたしがあずにゃんのプチトマトを奪い取るしかありません。
 不可抗力で指ちゅぱしてしまってもそれは仕方のないことなのです。
 膳は急げというじゃないですか。スピードがつけば制動するための距離も大きくなるのです。
 だから第二関節くらいまで指ちゅぱしてしまっても仕方ないことなのです。

 ごくり。口内の卵焼きを飲み下して、あずにゃんの指をちゅぱちゅぱするべく、わたしは身を乗り出しました。








 平沢唯、17歳。
 ファーストキスを奪われました。








純「……///」

唯「……///」

 横からあずにゃんの指にちゅぱつこうとしたらやわらかいものにあたって、
 ほほうこれはこれはさすがあずにゃんの指、はむはむ柔らかいなぁおいしいなぁ、でもあれ?あずにゃんの指ってギターやってるからぷにぷに硬いはず……
 と思ったらこれです。
 見事に舌まで這わしてしまいました。

憂「え、えっと……」

梓「あの……」

 なんということでしょう、不可抗力とはいえ二人の前で過激な大人のちゅーをしてしまいました。

純「あ、あの……わたし気にしてませんから///」

唯「う、うん……///」 


 顔が腫れ上がってしまいそうなほど熱くほてって、そのせいか余計に外野のヒソヒソ話が聞こえてきます。


 ヒソヒソ

  ネェミタミタ!? イマジュントヒラサワセンパイガー
       ミタミタ! キスシテタヨネー
    ジョシコウヲブタイニシタ、センパイコウハイノキンダンノコイ!? ミタイナ! キャー

                           ヒソヒソ



梓「ちょ、ちょっとみんな……」

憂「違うよみんな、今のは事故で……!」

梓「そうだよね? 純、唯先輩!?」

純唯「う、うん……///」


3
最終更新:2011年02月15日 01:04