澪「でもなんといっても酷いのが……」
律「恐れを知らないビックマウスっぷりだよなぁ」
梓「この前も雑誌のインタビューで凄いこと言ってましたよね」
紬「唯ちゃんも憂ちゃんも昔はそんなこと言う子じゃなかったのに……」


……

唯「Per○umeは見ているだけで吐き気がする。歌も踊りもダメ。撃ち殺されるべき」

憂「ミス○ルなんてクソの塊。ボーカルのブサイクはエイズで死ぬべき」

唯「もしも魔法が使えたら? エイベッ○スのアーティストを一人残らずこの世から消すよ!」

憂「ジャ○ーズ? あれはただのゲイのオママゴトだよ。あれならウチのムギ先輩のガチレズの方がいくらかまし」

唯「ドラッグをやるのは毎日放課後にムギちゃんの淹れてくれた紅茶を飲むようなもの」

憂「包丁は常に研いでるよ。料理もするけど、主にはくだらないバンドのボーカリストをこの世から消すためにね。次はお前のバンドのボーカリストを刺してやる!」

唯「最近りっちゃんのデコがまぶしすぎて、ライヴ中にギタープレイに集中できない。だから言ってやった。『おい! そこのファッキンデコっぱちのドラマー!そのクソ演奏を何とかしろよ!』ってね」

憂「梓ちゃんはネコミミの付け過ぎでハゲてきてる。だから『ボーンヘッド』って呼ぶことにしたよ」

唯「澪ちゃんは恥ずかしい歌詞は幾らでも書くくせに、ちゃんとした曲は一人じゃ仕上げられなかった。とんだ誇大妄想狂のダメ巨乳。パイオツが泣いてるよ」

憂「ムギ先輩!? あんなタクアン眉毛のブルジョワレズビアンの話はまっぴらだ!」


……

澪「いくらなんでも……ひどいんじゃないか(好きで胸が大きくなったわけじゃないのに……)」
梓「でも……2人のおかげで今の放課後ティータイムが売れているのは事実です。
  言い返せませんよ(澪先輩はまだマシです。私なんかハゲ呼ばわりですよ)」
律「でも、そうやって外に向けて暴言吐いているウチはまだいいんだよなぁ(ああ、首にならないように練習しないと……)」
紬「最近また2人の間にはへんな緊張感がありますからね(憂ちゃんもレズだと思ってたのに……)」

その後、平沢姉妹擁する放課後ティータイムは、
『今ここにいる』、『巨人の肩の上に立っている』、『異教の化学反応』、
『ほんとのことを信じちゃだめよ』、『キミの魂を掘り起こせ』等立て続けにアルバムを発表。 初期2枚ほどの爆発的な売上は上げられなかったものの、当然のようにチャート1位の指定席を確保。 スタジアム級のライヴもソールドアウトを続け、当代ナンバーワンのロックバンドであり続けた。


……

澪「まぁ……この間も暴言騒動だの姉妹喧嘩だのが絶えなかったけど」
律「この前なんて憂ちゃんが『家事で忙しい』とか言ってライヴに来ないし……。
  おかげで全曲で唯が代わりに歌う羽目になったな」
梓「あれで唯先輩、烈火のごとく怒り狂ってましたね。憂も昔はあんな子じゃなかったのに……」
紬「唯ちゃんも唯ちゃんで、何か嫌なことがあるとすぐに『脱退する!』って騒ぎ出すし……。実際これまででもう3回もライヴツアー途中離脱してますからね……」

それでもなんだかんだいって平沢姉妹は、高校時代と同じように仲良し姉妹なのだ。
その証拠に、何回喧嘩をしようとも二人は最後には仲直りをするし、
憂は原因が何であろうと喧嘩の最後には自分から姉に謝罪し、
唯もまた何度脱退騒ぎを繰り返そうと最後にはバンドに戻ってくる。

唯「やっぱり私には憂がいないとダメなんだね。
  私の書く曲は憂にしか歌えないし、そもそも私は炊事洗濯ができないし」

憂「やっぱりお姉ちゃんは世界最高のソングライターだね。そんなお姉ちゃんの書くファッキン素晴らしい曲を歌えるなんて、ロックンロール・シンガーとしてこれ以上の幸せはないよ」



しかし、姉妹の間に決定的な亀裂が入る出来事が起こる。
その発端は憂が長年の喉の酷使で昔のような極上のボーカルパフォーマンスを行うことができなくなったことだった。

(ライヴ中)
唯「それじゃあ次の曲、『不思議の壁』!」

観客「ウオーーーーッ!!!」

唯「(ジャカジャカ……)

憂「トゥデ~イザゴナビザデ~イ……(Today is gonna be the day……)」

澪「(うっ……!)」
律「(こ、これは……)」
紬「(ひどすぎる……)」
梓「(なんという酷い声……!)」

唯「(ムカムカ……)」

憂にはもはや昔のような清んだ歌声はもはや期待するべくもなく、高音も出なくなっていた。


そしてライヴ終了後の楽屋裏では、

唯「ういー!! うーいー!!」
憂「お姉ちゃん、どうしたの?」
唯「どうしたのじゃないよ!! 今日のボーカル、あれはなに!?」
憂「ちょっと調子が悪かっただけだよ」
唯「ちょっとじゃないよ! ここ最近のライヴでは毎回じゃない!
  そのせいでマスコミに憂のボーカルがなんていわれてるか知ってるの?
  『ゲロ声』だよ、『ゲロ声』!!」
憂「仕方ないなぁ。じゃあ、それ書いたファッキン・ジャーナリストの胸板にエリック・カントナばりのカンフーキックかましに行かないと……」
唯「自業自得でしょ! お酒ばかり飲んだり、喉に負担がかかるような応援団みたいな姿勢で歌ったり……」
憂「お酒はお姉ちゃんも飲むじゃない」
唯「私はギターだからいいの!」
憂「何言ってるの、最近じゃやたら自分でボーカル取る曲を増やしてるくせに。
  『怒りを込めて振り向くな』の恨み、まだ忘れてないよ? もしかしてソロに転向するの? この裏切り者!」
唯「なにを! 憂のばか!」
憂「お姉ちゃんの池沼!」
唯「公式に『体重は誰よりも重い』って書かれたくせに!」
憂「わたしよりおっぱい小さいくせに!」


……

澪「まずい。また取っ組み合いの姉妹喧嘩だよ」
律「ったく、身を挺して止めるこっちの身にもなってほしいよ」
紬「レズビアン同士の愛のあるプロレスごっこならドンと来いなんですけど、ただの喧嘩は見苦しいです」
梓「……とにかく二人を止めましょうよ」

唯「憂なんて私がいなきゃ自分で曲も作れないくせに!
   HTTがここまで来れたのは誰のおかげだと思ってるの!?」

憂「お姉ちゃんなんて私がいなければロックスターになる前に
  グータラニートとして引き篭もり続ける人生だったくせに!」

しかし、その日の喧嘩は、いつもとどこか違っていたのだ。


唯「解散だよ! 解散! HTTはもう終わりだよ!! 憂とはもう一緒にやっていけない!」
憂「こっちこそ、お姉ちゃんにはもううんざり!」

澪「まぁまぁ二人とも……。私たちはアルバムもヒットしてるし、ツアーも大盛況なんだ。ここはひとつ仲良くやって……」
唯「澪ちゃんはわかってないよ!」
澪「うっ……(どうせまたすぐに仲直りして解散なんてなかったことになるくせに)」
律「とにかくさ、今日はライヴも終わったんだし、ホテルに帰ってゆっくり英気を養おうよ」
紬「そ、そうですよ! わたし、美味しい紅茶淹れますんで」
唯「うるさいよゲロドラマー。PVで墓に埋めるぞ」
憂「黙れレズ鍵盤」
律・紬「…………」
梓「(これはどもならん)」

昔は誰もが認める仲良し姉妹だった平沢姉妹。
仲が悪くなったとはいえ、二人を繋ぎとめていたのは間違いなく音楽であった。
しかし憂は在りし日の美声を失い、唯はそんな妹を見限り、ソロ転向を考え出している。
つまり、もはや二人を繋ぐ絆は何もない。
そうなれば、どちらが先に『それ』を言い出すかの時間の問題であったのかもしれない。



そして、大げんかの翌日、とあるロックフェスの大トリに出演予定だったHTTは突然の出演キャンセルをやらかした。
HTTの演奏を楽しみにしていたファンは落胆して家路に着き、昨晩平沢姉妹が大きな喧嘩をやらかし、それがドタキャンに繋がったとの噂がネット上などでまことしやかに囁かれた。

折りしも最新アルバムの『キミの魂を掘り起こせ』が大ヒットを記録し、
シングルカットされた『落下する』が人気アニメ『西のエデン』の主題歌として起用される等、バンドの活動自体は絶好調であった矢先の出来事だった。

そしてその翌日、唯はバンドの公式HP上のブログに己の声明を発表した。



以下、唯の声明。

大切なファンのみんな、今朝、このことをみんなに伝えるのは、心が重いし、とても悲しい。です 
先週金曜、私は日本のロックンロールバンド、放課後ティータイムを辞めざるを得なくなったんです。 
細かい理由はそう重要じゃないし、あげるとしたらいくらでもあります。でも、みんなには知る権利があると思います。 
私にとって、HTTに居続けるということに対する精神的な脅威が耐えられないほどになってきたということを、です。
それにマネジメントやバンドメンバー達の理解が欠けていたから、新しい活動の場を探す以外に選択肢はなくなってしまったんです。

何より先に、ギグの日を待ち続けたのにバンドにがっかりするに終わった先日のフェスに来てくれたファン達に謝りたいです。
謝るだけじゃ足りないよね、わかってる、でも私が出来るのはそれだけなんだよ?

そして、これから開催されるライヴで同じ思いをする人たちにも謝ります。やっぱり、謝ることしかできないです。
どうしてだかわからない、私のせいじゃないのに。
私の調子は完璧だったし素晴らしいギグを見せる準備も万全だったのに。
悲しいことに、他のメンバー達が乗り気じゃなかったの。

最後に、世界中の、全てのHTTファンへお礼を言いたいです。
この数年間は本当に、本当に素晴らしいものだった(この言葉は嫌いなんだけど、今日はこの言葉を使ってもいいと思える唯一の時だよ)。
夢が叶ったんだ! この輝かしい思い出と共に私は生きていくよ。

また他の機会に会おう。楽しかったよ。

本当にありがとう。

さようなら。

HY.

澪「ちょ……脱退なんて聞いてないぞ!!」
律「まぁ……今回もいつもみたいにほとぼりが冷めればすぐに戻ってくるさ」
紬「でもバンドの公式サイトにわざわざコメントまでアップすることなんて今まで無かったですよね?」
梓「もしかして唯先輩はそれだけ真剣だったということなのでは……」
澪「確かに……この間のケンカは今までのとはちょっと違ったような気がしないでも……」
律「おいおい! どうするんだよ? 唯がいなくなったら放課後ティータイムは本当に解さ……」
紬「そ、そんなぁ……」
梓「どちらにせよ、私たちが口を出せる問題ではなくて、これは……」
澪「そうだな……憂ちゃんと唯の問題だ」

しかし、メンバーにとってはそうでもファンにとっては違っていた。
放課後ティータイムからの平沢唯の脱退――当初はいつもの些細な姉妹ゲンカと思われたそれが、
あまりにもマジな事態だと知れ渡るにつれ、ファンの動揺は高まっていった。


そして、肝心の憂はといえば、しばらく沈黙を保ったものの、一度だけ、親しい音楽雑誌の記者にこう語った。

憂「HTTはもう終わったの。これは私達みんなが知っていることだよ。終わったんだよ。
  それは恥ずかしいことだけど、それが人生だよ。私達はずっとよく走ってきた。
  私達はHTTを終えたの。誰も私達のためにそれを終わらせることはできない。
  本当に、それはある種クールなことだったよ。
  音楽的には次のステップを今は考えているし。それが今、私の頭のすべてを占めてるんだよ。
  これから人々はお姉ちゃんのレコードを買うことができるし、私達のレコードを買うこともできる。
  それで、みんな、幸せなんだよ。
  (唯との仲直りについては)それには長い道のりが必要だよね。
  だけど、それが誰に分かるっていうの?」

姉妹の間にしかわからぬ、バンドの、そして音楽に対する互いの気持ち。
そのすれ違いは明らかであり、憂のこの発言をもってして、
平沢姉妹がフロントに並び立ち、
他の凡百のバンドが逆立ちしてもかなわない輝きを放っていた放課後ティータイムというバンドの歴史は終わった。


……

その後の話をしよう。

ソロになった唯は持ち前のソングライティングセンスと、HTT時代も光った歌唱力をいかんなく発揮。
日本の女ニール・ヤングとして君臨。アルバムも売れ、ライヴも確実にアリーナクラスをフルハウスにする集客力を見せつけた。
ただ、いくら成功してもつきまとうのは今は亡きHTTの面影。
「平沢唯の書く曲は平沢憂が歌ってこそだ」と信じるファンは根強く、
何度なく姉妹の復縁説が囁かれるものの、あの天真爛漫だった唯はそのたびに渋い顔で無言を貫いた。

一方、唯を失ったHTTは厳しい道程を歩んでいると言わざるを得なかった。
唯の脱退後も憂をはじめとするメンバーはバンドに残り、
たび重なる協議の結果、『放課後ティータイム』の名は残したまま、
現存の5人のメンバーに新たにギタリストを入れて活動を続けることとした。

しかし、ライヴを行えば……

観客1「ふざけんなー!! 唯を出せーッ!!」
観客2「代役ヘボギタリストなんかいらねえよ!! 唯のいないHTTなんていらねーよ!!」
観客3「憂ーッ!! ゲロ声のくせに調子乗るなー!!」
観客4「澪の在日!!」
観客5「律のデコっぱち!!」
観客6「ムギのレズビアン!!」
観客7「梓のゴキブリ!!」

飛び交う罵声、怒号、非難。
精神を病んで次々に脱退する代役ギタリスト。
そして残ったのは、「死ね!! ファッキンオーディエンスどもが!!」と悪態を吐く憂と、戸惑うその他4人のメンバーのみ。



そして肝心のアルバム制作においても、アマチュア時代にHTTの楽曲を手掛けた澪と紬のコンビが奮闘するものの、
唯の作った名曲群に及ぶことも難しく、売上も徐々に下降線の一途を辿っていた。

憂「私はロックン・ロール・スターなんだ……。
  もうお姉ちゃんがいなくても一人でやっていけるんだ……」

そんな憂の台詞も強がりにしか聞こえず、虚しいだけだった。


そして唯が脱退して数年後まで時は進む。


……

某ライヴハウス――。

憂「トゥナァ~イ アマロッケンロ~ルスタァ~♪(Tonight, I’m a Rock’n Roll Star♪)」
律「(ドンドンシャンシャン」
梓「(ジャカジャカジャンジャン)」
澪「(ボンボンブヘーッ」」
紬「(ギュギュギュエーッ!!)」

小さなステージで演奏するバンドを遠巻きに眺めながら、いい感じにアルコールの回ったチンピラ達がくだを巻いていた。

チンピラ1「おい、ひでえなぁあのバンド。へたっクソな演奏にひでえボーカル」
チンピラ2「それにあのボーカル、『今夜私はロックンロールスターだ』だなんて、どの面下
      げて歌ってるのかねぇ。
      客がたった10人しかいないこんなさびれたライヴハウスで」
チンピラ3「おいおい。そうは言うけどさ。あのバンド『放課後ティータイム』だろ? 
      ほら、昔めっちゃ売れてた。あのイカれた姉妹のバンド……
      姉が確かやめちゃったんだけど」
チンピラ1「ああいたな、そんなバンド。そういやあのボーカルの姉の方は辞めた後もヒット
      曲出しまくりじゃなかったっけ?」
チンピラ3「そうだったけど、最近は姉の方も名前を聞かなくなったなぁ」
チンピラ2「どっちにしろ、あれはひでえバンドだってことにちげえねえ」
チンピラ1「そうだな。何が『放課後ティータイム』だよ。一口飲んだだけで吐き気を催す
      『放課後ファッキン・ゲロ・タイム』だろありゃ」
チンピラ2「ブハハwwwwwwww」



チンピラ達の少し傍には、帽子を目深にかぶり、大きなサングラスをかけた小さな人影が、じっとバンドが演奏するステージを見つめていた。

チンピラ1「モノ好きなやつもいるもんだねえ。しかもあれ、見るからに女じゃん」
チンピラ2「ブハハwwwwこんなクソバンド真面目に聴いてる女なんて、
     軽音楽をカスタネットを演奏する音楽と勘違いするようなとんでもない馬鹿女
     にちげえねえぜwww」

そしてバンドの演奏は終わり、舞台裏では――。

澪「はぁ……ひどかったな今日の演奏も」
律「客も10人しか入ってなかったしなぁ……昔の学園祭以下だよ」
梓「私たち……もう潮時なんですかね……」
紬「唯ちゃんが脱退してからウン年……頑張ってアルバムも作ってツアーもして、
  HTTを維持しようとしたけど、ついにはメジャーレコード会社にも契約を打ち切ら
  れ……」
憂「…………」

豪放なビッグマウスが持ち味だった憂も最近では楽屋で一人俯き、沈黙に浸ることが多くなっていた。


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