「お誕生日おめでとう、お姉ちゃん!」

「おめでとう、唯」

「憂も和ちゃんもありがとー!」

11月27日0:00

今日はお姉ちゃんの18歳の誕生日です。

夜にはまた軽音楽部のみなさんを呼んでパーティをするのですが、まずは日付が変わる瞬間に私とお姉ちゃん、和ちゃんの三人でささやかなお祝いをしています。

「はい、じゃあプレゼント」

和ちゃんのプレゼントの包みは何やらずいぶん大きいようです。

「わあ、ありがとう!開けていい?」

「ええ、もちろん」

お姉ちゃんは逸るようにがさがさと包み紙を乱雑に除けていきます。

そして箱に書いてある品名を見て、それまで輝いていたお姉ちゃんの表情が凍りつきました。

「和ちゃん……なにこれ?」

「なにって、書いてあるじゃない。ヘルシーオイルバラエティギフト」

「……これじゃお歳暮だよぅ」

私としてはとても助かるのですが、確かに女子高生同士が誕生日プレゼントとして贈るものとしてはちょっと、いやかなり変わっているかもしれません。

「あら、お気に召さなかったかしら」

「そんなことないけど……だって和ちゃんからのプレゼントだもん」

「そう言いつつ、明らかに落ち込んでる顔よ。そうね……何か欲しいものはある?」

「うーん……和ちゃんが欲しい!」

「……はぁ?」

お姉ちゃん、それは中々の爆弾発言だよ。

言われた当事者の和ちゃんもぽかんとしています。

「明日……じゃないか、今日、軽音楽部のみんながうちに来る前にデートしよ?」

「ああ、そういうこと……わかったわ。まあデートという言い方もどうかと思うけれど」

どうやら、お姉ちゃんは和ちゃんと二人きりでお出かけがしたかったようです。

そういえば、最近あんまり和ちゃんと一緒にいられなくて寂しいとこぼしていたことがありました。これもちょうどいい機会でしょう。

「やったー!楽しみだなあ」

「はいはい、それならもう寝なきゃね」

「楽しみすぎて寝られないかも!」

「そしたら寝不足でデートよ。どうせするなら万全の状態で楽しみましょう?」

「えへへ……うん」

さっきは突っ込んでいた割に、ごく自然に和ちゃんもデートって言っちゃってます。

そして自分で言い出したにもかかわらず、和ちゃんの口からデートという言葉を聞くとお姉ちゃんも照れて赤くなっています。相変わらず可愛いです。

「じゃあさじゃあさ、一緒に寝ようよ!」

「まあ、今日一日くらいはあなたの言うこと聞いてあげるわ」

「わーい、これで和ちゃんは私のものだね!」

だから、爆弾発言だってば。

最早和ちゃんはスルーしています。幼馴染だけあって、お姉ちゃんの扱いに関しては流石熟練しています。

「それと、憂も一緒に寝よ?三人で寝るなんて久しぶりだし!」

とはいえ、思わぬところで恩恵に与れたので、爆弾発言大いに結構です、はい。

― ― ― ― ―

「お姉ちゃん、ご飯できたよ」

「あ、あと五分……」

「もう、今日は和ちゃんとデートなんでしょ?早く起きなきゃ」

「デート……そうだよデートじゃん!待ち合わせに遅刻しちゃうぅぅ!」

そう言いながら寝ぐせだらけの髪をなびかせどたどたと居間にお姉ちゃんが駆け込んできます。

「まだ寝ぼけてるみたいね。私はここにいるわよ」

「あれ、和ちゃんなんでここに……あ、そっか……」

「やっと正気を取り戻したみたいね」

和ちゃんは呆れたように溜息をひとつ吐き、えへへと頭をかきながらお姉ちゃんも朝食の席に着きます。

「で、今日は行きたいところとかあるの?」

「え、えーっと…うーん……」

焼き鮭に箸をのばしたままお姉ちゃんが考え込みます。

どうやら特に何も考えてなかったようです。

和ちゃん、溜息ふたつ目。

「じゃあ、散歩がてら買い物でもどうかしら。何か改めてプレゼントも選びたいし」

「えっ……悪いよ、そんな」

「細かいことは気にしないの。いつもお小遣いをすぐに使い切るあなたと違って、私はちゃんと貯金してあるの」

「ぐぬぬ、痛いところを……でも、せっかく貯金してあるのに私のために……」

「もう少し計画性を持ちなさいな。それに、貯金はいつか大切な時に使うためにしていて、それが今だと私は思った。それだけよ」

「うぅ……和ちゃーん!大好き!」

それを聞いて感極まったようにお姉ちゃんが和ちゃんに抱きつきます。

我が姉ながら、いい幼馴染をもったものです。

はいはい、と相槌を打ちつつ、今度はお姉ちゃんの頭を和ちゃんが撫でます。

さて、朝から仲がいいのは結構なのですが……

「二人とも、早く食べなきゃご飯冷めちゃうよ」

― ― ― ― ―
「じゃあ、いってくるねー!」

「皆が来るまでには戻るから」

「うん、いってらっしゃい」

お姉ちゃんたちを玄関でお見送り。パタンと玄関のドアが閉まると行動開始です。

こんな素敵なイベント、見逃すわけにはいきません。さっそく尾行です。

早起きして予め用意しておいた帽子にサングラス、マフラーとマスクに厚手のコートを装備します。これできっと誰も私だと気がつかないはずです。

さあ、では見失う前に早く追いかけましょう。

商店街へと向かう道を辿っていると、案外まだ遠くに行ってなかったようで、すぐに二人の後ろ姿を発見しました。

どうやら、お姉ちゃんが和ちゃんの腕に絡みついていて上手く歩けないようです。時折何やら話しているようですが、ここからでは聞こえません。

ここは危険を冒してでも近づくことにします。
きっと大丈夫、私ならできる!

「そんなにひっついたら危ないじゃない、歩きづらいわよ」

「だってせっかくのデートだもん、和ちゃん分を補給しなきゃね」

ああ、近づいたとたんこれです。
やっぱりいかなるリスクと引き換えにしようと会話の聞こえる距離を保たなくてはならないと確信しました。

二人は結局腕を組んだまま、商店街に並ぶ店のひとつへと吸い込まれていきました。あの店は……確か雑貨屋さんだったかな?

気づかれないように気配を消しつつ私も続けて入店します。
周りのお客さんが一瞬ぎょっとした顔で私を見てきますが、そんなこといちいち気にしてられません。嗤われようと罵られようと蔑まれようと、私は私の正義を貫いて見せます。

と、いけない。
自己の世界に没頭しているうちに二人は少し離れたスペースに移動してしまいました。あそこはアクセサリーコーナーだったはず。アクセサリーとはいっても基本的に女子高生向けの比較的安価なものが中心です。

「あ、これ欲しい!」

そのコーナーの一角で、歓声をあげてお姉ちゃんが何か手にとりました。
あれは、もしかして……

「ペアリング?」

「うん、和ちゃんと私でおそろい!」

お姉ちゃんはそれを満面の笑みで和ちゃんに差し出して見せます。

シンプルな、ちょっとお姉ちゃんらしからぬ大人びた印象を受けるシルバーのリング。

「確かに素敵だけど……ペアリング、ねえ」

「私とおそろい、いや?」

自信なさげに上目遣いでそんなことを尋ねるお姉ちゃんを見て、いやだと言える人間がいるでしょうか。いや、いるはずもありません。

そして、いかにクールとはいえ和ちゃんも人間です。

「……わかったわよ。あなたの誕生日だし、今日はわがままを聞くって言っちゃったからね」

「やったあ!」

「でも、あんまりあなた好みのデザインとも思えないけど」

確かに和ちゃんの言う通りで、お姉ちゃんはどちらかといえばもう少し可愛らしいもの方が好きだったはずです。

「えへへ、和ちゃんがこれを着けたらすっごく似合うだろうなあって思って」

「あなたへのプレゼントなのに、私に似合ってどうするのよ」

「私がいいって言うんだからいーの!」

「まあ、贈られる相手がいいと言うのならなら構わないけど」

そう言うと、どこか困ったように、でもちょっと笑みを浮かべながら、和ちゃんはリングを手にレジへ向かおうとします。
しかし、お姉ちゃんが和ちゃんと腕を組んだままで立ち止まってしまったため、結局和ちゃんもその場に留まらざるを得ません。

「ちょっと待って、半分は私が出す!」

「あのねえ、これはあなたのための誕生日プレゼントなんだから……」

「私が着ける分は和ちゃんが、和ちゃんが着ける分は私が、ね?」

「……お金はあるの?」

「こんなこともあろうかと、来月のお小遣いを前借りしてきました!」

「それは威張ることじゃないわよ。それに、来月分を月をまたがないうちに使い切っていいの?」

「私だって、和ちゃんが大切だもん。今が大切な時だもん!」

「……そこまで言うなら止めないわ」

クールにあしらっているように見えますが、和ちゃんはどこか嬉しそうです。
普通の人が見てもわからない程度の表情の違いですが、幼馴染ならわかります。今のように遠くから見つめていても分かったのは少し誇らしい気分です。

もちろんお姉ちゃんもそのあたりは分かっているはずで、あんな風にあしらわれながらも機嫌が良さそうです。とはいえ、和ちゃんと一緒にいるときにお姉ちゃんが不機嫌なほうが珍しいのですが。

無事会計を済ませ店を出ると、二人は商店街を離れます。
向かう先は、どうやら私たちが子供のときよく遊んでいた公園のようです。

公園に着くと、二人並んでブランコに腰かけます。
きいきいと軽くブランコを揺らして楽しそうにしているお姉ちゃんも可愛いです。

「ねえ和ちゃん、早速指輪着けてみようよ」

「はいはい」

「まずは私が着けてあげるね!」

「なんだか気恥ずかしいわね」

そう言いながらも、和ちゃんは右手を差し出します。
とりあえずお互いに着け合いっこするのは和ちゃんも自然に受け入れているあたり流石と言わざるを得ません。

「そっちじゃないよぉ……指輪は左手の薬指なの!」

「それは婚約指輪でしょう」

「そうだよ。ねえ、和ちゃん……昔した約束覚えてる?」

「……『私、大きくなったら和ちゃんのお嫁さんになるね』」

「覚えててくれたんだ。流石は和ちゃんだね」

「忘れるわけないじゃない」

「えへへ、嬉しいな」

「それで、今になってどういう風の吹きまわしよ」

「……もうすぐ、卒業しちゃうからさ。和ちゃんは違う大学に行っちゃうし、今を逃したら、ずっとプロポーズできない気がして」

たどたどしく、それでも誠意をこめて訥々と話すお姉ちゃんを、和ちゃんは目をそらさずに見つめます。

「和ちゃんは馬鹿みたいって笑うかもしれないけど、和ちゃんと離れ離れになっちゃうのが不安で、怖くて……何か形として残るものがほしかったんだよね」

そこまで言葉を紡ぐと、耐えきれなくなったようにお姉ちゃんの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちました。

「本当、あなたは馬鹿ね。私があなたを笑うはずがないでしょう?」

そこまで言うと、和ちゃんは自分の鞄からリングの包みを取り出しました。

「ほら、左手かして」

そして、お姉ちゃんの手を取り、その薬指にリングを通します。
お姉ちゃんはついに声をあげて泣き出します。

「和ちゃん……大好きぃ……」

「私もよ、唯」

そして今度は、お姉ちゃんの番です。
涙をぐしぐしと拭い、和ちゃんの左手を握ります。

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

そう涙声で言いながら、お姉ちゃんは九十度の礼をします。

「はい、喜んで」

そして、和ちゃんの返事を聞いたとたんに、ぱあっと嬉しそうに顔をあげます。
その極々簡潔な返事のひとことひとことを噛みしめるように、ゆっくりと、リング交換を完結させました。

それからはしばらく照れたようにもじもじしていたお姉ちゃんでしたが、急にはっと何かに気付いたような表情をした後、この上なく真剣な、そしてこの上なく緊張した顔つきになって「式」の手順を進めました。

指輪交換の後といえば、最早相場は決まっています。

「真鍋和さん、あなたは健やかなるときも、病めるときも……ええっと、なんだっけ……と、とにかく、永遠の愛を誓いますかっ?」

「はい、誓います」

「で、では、その……誓いの……キ、キスをっ!」

「はい」

そうして和ちゃんは幸せそうに笑い、二人の顔はゆっくりと近付き、そして――――




――――――これ以上は、野暮ってものですよね?




永遠の愛を誓い合っているであろう二人に背を向け、気づかれないように公園を離脱します。

今からパーティの準備をして間に合うか少し心配ですが、あの二人の幸せのお裾わけがあるから私も頑張れます。

こんな最高の誕生日を、私が台無しにするわけにはいきません。

改めて、お姉ちゃん、おめでとう!



以上です。長々と失礼しました。



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