――……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
 イヤダイヤダ イヤナノニッ!!!! ホントハホントハ シニタクナイノニ!!!!! シニタクナカッタノニ!!!!!!!!

澪(うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ)

 ウルサイウルサイウルサイ ウルサイウルサイウルサイ ウルサイウルサイウルサイッ

澪(うるさいって、言ってるだろっ)

 ウルサイッテ イッテルダロッ

澪(……律の声が、ききたい)

 リツノコエガ キキタイ

澪「ああああああああああああああああああああああ!うるさいなっ!! ゆっくり眠れないだろっ!!」

 ユックリ、ネムレナイ、ダロッ

澪(なんだよ、もう。うるさいって言ってるのに耳障りな声だな。……たすけてくれ)

 タスケテ クレ




 タスケテヨ    …リツ

澪「あぁ………うるさいよ」ブツブツ

澪「うるさいうるさい、うるさいよ」ブツブツブツブツ

 ウルサイ ウルサイ ウルサイヨ

澪「お願いだから黙ってくれ。頼むから、私の真似をしないでくれよ……」

 ゼンブ オマエ ノ コエ ダヨ

澪「律の声だけ聴きたいのに」

 ツチ ノ シタカラ、キキツヅケテ
 ソレデ ワタシ ハ マンゾク ナノカ?

澪「もっともっと、律と話していたい」

 シンダクセニ

澪「死んだら何も望んじゃいけないの!? 律と話す事すら、望んじゃいけないのかよ!」

 ダッテ リツ ハ マダ イキテルジャナイカ

澪「……」

 ミチヅレ ニ スルカ?

澪「……え?」

 リツ ガ キカセテクレタ カイダン ニ ヨクアルダロウ?

澪「あ、あぁあ……あ……」

 シニン ガ ダレカ ヲ コロス ハナシ

澪「嫌だっ!」

 ホントウニ?

澪「……本当、だと、思う」

 ……。

 ……。

澪「な、なんだよ。言いたい事があるなら言ってくれよ!」

 アシタ モ リツ ハ クルヨ

澪「ああ、来るだろうな……」

 ウレシイナ
 ウレシイナァ!

澪「嬉しい……と、思う」

澪(少なくとも生きてた時の私は、何だかんだ言って律と一緒に居るのが楽しかったし嬉しかった……らしい)

澪(殺したい程好きだったかどうかまでは、覚えてないけれど)





 ぼやけていく。
 身体を失ったこの身体は、この感情は、滲んで、ぼやけて――全てを忘れてしまいそうだった。


―ぶかつご!―

律「むーぎー、今日も澪の分とっといてくれた?」

紬「……え、ええ。もちろんよ」

律「あ、他のより大きめに切ってくれたか? 澪は太りたくない癖に甘いの大好きだからなー」

紬「……」

律「……ムギ?」

紬「りっちゃん、今日も澪ちゃんのお墓参りに行くの?」

律「ん? ダメか?」

紬「ううん……」

紬「きっと、澪ちゃんも喜んでるわ」

律「ははは」

律「『きっと』じゃないよ。あいつ、毎日喜んでくれてるぞ。ムギのケーキはやっぱり美味しいって」

紬「……」

紬「……そう言って貰えると私も、嬉しいわ」

紬「澪ちゃんによろしくね」

律「おーう」

 ガチャ、バタン

紬「……」

紬(あれから数カ月)

紬(放課後ティータイムには大きな大きな穴が空いたまま)

紬(きっと、塞がる事はない大きな穴にりっちゃんは吸い込まれたまま)

紬(私はただ……ケーキを用意する事しか出来ない)

紬(それが悔しくて悔しくて――かなしい)

紬「……りっちゃん」…グスッ


 ……ガチャッ

紬「!?」

唯「……やっほー」ゲッソリ

紬「唯ちゃん……!」タタタ…ッ

唯「およよ?」

紬「……」…ギュー

唯「……えへへ。どーしたの、ムギちゃん?」ナデナデ

紬「……唯ちゃんと会うの、ひさしぶりね」

唯「あはは。やだなぁ、たった一週間ぶりでしょ?」

唯「大体、教室じゃ毎日あってるじゃん」

紬「う、うぅ……」

唯「ムギちゃん、ないてるの?」

紬「ぐす、えっぐ、うぇ、うぅぅ……」

唯「ムギちゃん」ナデナデ

唯「……だいじょーぶだよぉ」

唯「きっと、放課後ティータイムは、このけいおん部は、だいじょーぶ……だから」

紬「ゆ、い……ちゃん」

唯「私も……だいじょぶ、だから」グシュ…ッ


―ろうか!―

梓「律先輩っ」

律「おー、梓か。今から澪のトコ行くけど、一緒にどう?」

梓「……律先輩、最近おかしいですよ」

律「へ? どこが?」

梓「どこがって……」

律「私はどこもおかしくないぞ? もしそう思うなら具体的に言って貰わなきゃ分かんない。私、馬鹿だから」

梓「……あんなに否定してたのに、半分馬鹿にすらしてたのに、事あるごとに澪先輩みたいな歌詞書いて来て」

律「ははっ。だーかーらー、それは澪が作ったんだって。私が書く訳ないだろう、あんなメルヘンな歌詞」クスクス

梓「他にも今日は澪先輩とあんな事を喋った、こんな事を喋ったってメールして来て」

律「澪が送って良いって言った内容しか送ってないぞ? そんなに変な事書いてないだろー?」

梓「……っ」

律「梓こそおかしいじゃないか」

律「最近部活に来ないで何やってんだよ。あんなに真面目だったのに」

梓「ぁ……」

梓「……ごめん、なさい」

律「澪が居ないからってさぼるなよー。毎日毎日、私とムギだけだからさぁ、練習にならないよ」

梓「ごめんなさい。ごめ、ぐすっ、ごめんなさ、い」

律「お、おいおい。泣かなくても良いって。怒ってる訳じゃないしさ」ワタワタ

梓「りつせんぱい……」ポロポロ…

律「だー! だから泣くなって! 大体、唯も来たり来なかったりだしさ」

律「まぁ、ギターも……ベースも居ないのはきっついけどさ」

律「……はは、は」

梓「……っ」グシグシッ!

梓「律先輩」

律「ん?」

梓「明日は……明日は、必ず行きますからっ! だから、待ってて下さいね。放課後に、いつもみたいに音楽室でっ!!」

律「……ああ、そうだな。唯にもメールしとく。明日は必ず来いよって」

律「そだ。ムギにはいつもよりも、もっともっと、すっげぇケーキ持ってくるようにお願いしとくなっ」ヘヘッ

梓「……。……はいっ」




律(あーあ。澪も、墓場から出られれば良いのになぁ)

律(そしたら皆で一緒に遊んだり演奏したり出来るのに)

律(前みたいに、ずっと――)



―ぼち!―

 かぁ かぁ がぁ

律「こらっ! しっ、しっ! あっちいけっ」

 がぁっ、かぁ、かぁー!

律「……あー。昨日のガト―ショコラがカラスの餌食に」

澪『そりゃあケーキを野ざらしにしてたらそうなるって。いつもの事じゃないか』

律「だから、これは澪のケーキだって!」ムキー!!

澪『ははは。カラスもムギのケーキの味が分かるみたいだな。すごく美味しそうにがっついてたぞ』

律「はぁ、これだから害鳥は……」イライラ

澪『カラス相手に本気で怒るなよ……。どうせ私はもう何も食べられないから丁度良いじゃないか』

律「澪、今日は紅茶林檎のケーキだぞー……って、あれ? 澪?」

澪『律』

律「おーい、みおー?」キョロキョロ

澪『律。私、やっぱり、律と一緒に居たい』

律「みーおー? どこだー? 居るんだろー?」

澪『律の声が聴きたい』

律「み……みおー?」

澪『律と、もっと、話して居たい』

律「隠れてないで出てこいよー!」

澪『律を道連れに出来たら、ずっとずっと一緒。
  ずっと、それこそ永遠に律の声を聴いて律と話し続けられる』

律「……どこにいるんだよ」

澪『これが、忘れそうだけど、まだちゃんと覚えていられた気持ち』

律「おーい、澪ぉ……?」

澪『だから』








澪『だからお別れだ、律』


澪(火葬の時に脳味噌ごと置いてきたせいか、世界はどんどん歪んでぼやけていく)

律「そ……そうだ、澪!」

澪(私は今まで気づけずにいたけれど……死んだ時、他にも大切なモノを色々置いてきてしまったらしい)

律「今日のケーキは格別だったぞー?」

澪(それは多分取り戻せないし)

律「すごく美味しくって」

澪(これからもどんどん色褪せていく)

律「唯も梓も来ないし、ムギも食欲ないみたいだったから、私、食べすぎちゃって」グスグス…

澪(その前に私は行くよ)

律「流石の私も太っちゃうかもなー! あははー!」

澪(全てを忘れる前に消えてしまおう)

律「あは……は……なぁ、澪。隠れて脅かそうとでも思ってるのか? 私にドッキリ仕掛けるなんて百年早いっつーの……」

澪(死にたく無かったのに死んでしまったんだし……)

律「スポンジに挟まった角切りの林檎が甘くって甘くって……澪も、きっと、気に入る、から……だからさ……」

澪(消えたく無くても、消えてしまえる筈だから)

澪(大体、律って殺しても死にそうもないしな)クスッ

澪(だから私の方が折れてやるよ)

澪(そろそろお迎えが来る)

澪(墓の泥から透明な黒い腕が幾筋も幾筋も)

澪(絡みつく不気味な腕は、案外温かかった)

 ぐぐっ ずぷり

澪(引きずり込まれていく。 世界の奥へと吸い込まれていく。
 律が遠くなる。 どうしようもないほど、とおくなって いく)

 ずぷり ずぷり ぐちゃぐちゃ

澪(やっぱり もっと いっしょに いたかった しにたくなかった
 べーす、どうするんだろ みんな、どうなるんだろ

 りつ すき だよ

 ごめん すき     だった――……)


 ……――ずるり

律「そうだっ。明日な、久々にけいおん部員全員で部活出来るかも知れないんだ!」

律「あーあー、澪がこれ以上ふざけて隠れてるんなら仲間外れにしよーかなー?」

律「しよーかなぁー……?」…キョロキョロ

『          』ぐぐっ

律「なんだよもー。……もう降参っ。私の負けっ。はいはい、参りましたよー」

『        』ずぷり

律「おぉーい、みーおーちゅわーん。ほんとのほんっとーに仲間外れにしちゃうよー?」

『    』ずぷり、ずぷり

律「強情張るなよー! 本当は寂しい癖にぃー!」

『 』ぐちゃぐちゃ

律「澪の事ならぜーんぶお見通しなんだからなっ。

『』 ずるり……――

律「――っ」ピクッ

律「み、お……?」

律「まさかジョーブツしちゃったのか?」

律「……まさか、な」

律「おい、居るんだろ!? 降参って言ってるじゃないか!!」

律「負けたよ、私の負けだよ。降参だってばっ!」

律「……だから、出てきてよ、澪」

律「こんなの、堪えられないから……っ」

律「ばかばかばかばかっ!」

律「心配させといて、勝手に死んで、昨日まで一緒に居たのに今度は消えて……っ」

律「だいっきらいだっ。澪なんてきらいだっ」ポロポロ

律「――澪のばかぁ!」ポロポロ

 ふわっ

律「あ……」

律「……雪?」

律「あは……」

律「……はははっ、本当に降っちゃったな」

律「ほら、澪。雪だぞ、雪」

律「……澪」


……
………


「あー、ムギ。今日はケーキ要らないわ」

「え?」

「ほんと!? じゃありっちゃんの分もーらい!」ヒョイッ

「お、おい、こら! 唯っ!」バッ

「えー、要らないって言ったじゃん」

「私は食べるよ。要らないのは……――」

「……。……そう、分かったわ」

「むー……。要らないって言ったのに取り上げられたー……」

「先輩ったら、食い意地張り過ぎですよ」

「えー、でもでもぉ……」

「唯ちゃん、一切れ余ってるからあげるわ」

「ム、ムギちゃん、そのケーキは……」

「ちょっと、せ、先輩っ!?」

「あー、良いんだ良いんだ。唯、遠慮せずに食べて良いって。







 多分、もう、要らないからさ」







 あれからどれだけ経ったのか。
 消えた私にはそれすら分からないけれど。

 けいおん部は徐々に明るさを取り戻し始めていた。
 私は居ないけれど、案外どうにかなるものらしい。

 まぁ、これは皆が頑張ったお陰だけど。 

「けいおん部、再出発だな。――なぁ、澪」

 誰にも聞こえないくらい小さな声でそう呟き、律は窓から空を見上げた。

 それでも私には聞こえてるよ、律。
 良く頑張ったな。今の律、ちゃんと部長してる感じがするぞ。


 だけどな、どうして空なんて見上げてるんだよ?

 いくら生前メルヘンな歌詞ばかり書いてたからって、私が空の上なんかに居る訳ないだろう。

 天国なんて信じてるのか? なんだ、案外律もロマンチストだったのか。

 もちろん、私は、律の傍にだって居ない。




 私は 骨壷の中に居るのになぁ
 私は 重く冷たい墓石の下にうずくまってるのになぁ
 私は 仏壇の写真の中に閉じ込められているのになぁ
 私は 墓場の泥に埋もれて どろどろに腐り果てている途中で、

 だけど、それは、私の望んだ結末、で、

 私は 私は わたしは わたし、は わたし私私わたしは……――――あれ?


 りつって、だれだっけ?


【おしまい!】