梓「赤いリボン…か…」

はぁっと白い溜息を吐く
真冬の寒空の下、梓は考えている

梓「私の気持ちは届くのかな…」

この季節になると少し切ない
バレンタインデーなんて…ただ、切ないだけ

今年のバレンタインデーもチョコを渡そうと意気込んでみても、去年と同じような結果にしかならないと諦めている自分がいて

梓「せっかく勇気を出して渡したのに…」

当の唯先輩は

唯「わーい!チョコだぁ~」

なんて、私の想いには見向きもせずチョコを食べるだけ

唯先輩とは今年で最後
律先輩も澪先輩もムギ先輩とも今年でお別れ
せめて最後に私の想いに気付いてほしい…

梓「ただの私の自己満足なんだけどね…はは」

自虐も笑ってくれる人がいなくちゃ虚しいだけ

梓「唯先輩の笑った顔が見たいな…」

澪「赤いリボン?」

紬「うん。赤いリボンにはね、愛って意味があるのよ」

赤いリボン。ただのリボンにどのくらい意味があるのかはわからないけど

梓「少しでも…唯先輩に伝わってほしいな」

私は赤いリボンを探した
なくてはならないものだと思い込んでいた

澪先輩は律先輩に感謝の気持ちと共にチョコをあげるみたい

梓(ありがとうを言うだけなのに何を緊張しているんですか…私なんて…)

好き。と言ってしまえば楽になれるのに
好き。と言ってしまえばもう今まで通りの関係でいれないかもしれない

私と唯先輩だけの問題じゃない。私のせいで放課後ティータイムまで気まずくなるなんて耐えられない。

梓「辛いですよ…とっても」

唯「じゃあ、私はあずにゃんにチョコあげよっかなぁー」

梓「ほぇ!」

唯先輩は無邪気にそう言った。思わず顔が熱くなった

唯「だって、去年貰ったから。今年は私があげる番だね」

あ…そうだよね。それだけのことだよね。1人で舞い上がっちゃって私って馬鹿みたいだな…

唯先輩は私の気持ちに気付いてない
でも私は気付いてほしい
このままお別れなんて私には耐えられないから

梓「い、いえ。私があげます!」

だから私が伝えなきゃ。怖いけど言わなきゃ。

唯「えー、私があげるー」

梓「私があげるったら、あげるんです!」

唯「ぶーぶー」

頬を膨らませる唯先輩
この見慣れた風景も、もう終わってしまう
私が告白してしまったらこんな平和な時間は永久に訪れないかもしれない

梓(…それでも、好きなんです。先輩)

膨れっ面もいいけれど、笑顔が見たいです
チョコをあげたら笑ってくれるかな。

梓「立花先輩には迷惑かけたな…ほんともう何やってるんだろ私…」

赤いリボンを求めるあまり何も知らない先輩に詰め寄るだなんて…

梓(あ~…思い返すと恥ずかしくなってくるよ…)

そんな私は赤いリボンを求めてお店を彷徨っている
もう夜になりかけの時間帯

梓(早く買って帰らなきゃな…)

梓「はぁ…結局見つからなかったな…赤いリボン」

青いリボンやピンクのリボンはあったのに…

梓「ついてないなぁ…澪先輩は持ってるのかな?」

立花先輩が持ってなかったことメールしておこう

梓「送信…と」

?「送信……ん?」

梓「えっ?あ、律先輩!」

律「よっ!今帰りか?」

律「こんな時間に帰るなんて、ワルだな梓っ」

梓「律先輩こそ、皆さんと一緒に帰ったはずじゃないですか」

律「唯んちにお邪魔してたんだ。夕飯までご馳走になっちゃった」

梓「あ、そうなんですか」

律「憂ちゃんはできた妹だよなー私も憂ちゃんのチョコ食べてみたいな」

梓「憂…もですか」

梓(そういえば、憂も去年唯先輩にチョコをあげてたな…なら多分今年も…?)

律「ん?…ははぁん。梓もか」

梓「へ?な、なにがですか!?」

律「いやいや誤魔化さなくてよろしい。まったく唯はモテモテだよな~うらやまい」

梓「うぅ…り、律先輩だって澪先輩からもらうそうじゃないですか」

律「んー、まぁ澪のも憂ちゃん程じゃないけど美味そうだよな」

梓「!……」

梓「美味そうって……それだけですか?」

律「ん?」

梓「澪先輩がどんな気持ちでチョコをあげるのか…わかっているんですか!?」

もう日は落ちているというのに叫んでしまっていた。去年私の気持ちに気付かずにチョコだけに夢中だった唯先輩と律先輩がかぶって見えたから

梓「先輩には…チョコしか見えてないんですか!?チョコを渡す意味も知らずに!」

律「……」

律先輩に怒鳴るのはお門違いのはずなのに、私は私を止められなかった

梓「はぁ…はぁ…」

律「…梓」

梓「………うぅ」

膝ががくんと地に触れた
私の膝小僧は積もっていた雪に埋もれた

律「ごめんな」

律先輩も私の前まできて膝をついた。私の頭を抱き締めてくれた

律「つらかったな」

先輩の胸は湿っていた。何かと思ったら私の涙だった。今日の私はとことん格好悪い

梓「…もう、大丈夫です」

律「ん、そうか」

何分か過ぎて私は立ち上がった

梓「迷惑かけちゃって、申し訳ないです」

軽く頭を下げる

律「いいさ。一度はやってみたいシチュエーションじゃん?泣いている後輩に胸を貸して私の胸で泣けよ…みたいな」

梓「…ぷっ。先輩に貸してもらう程の胸なんてありませんでしたよ」

律「な!中野~!」

梓「あははっ。じゃあそろそろ私、帰ります」

律「……梓っ!」

律「わかるんだよ、梓」

梓「…え?」

律「澪がチョコをくれる理由…なんとなくだけど」

梓「…どうしてわかるんですか?」

律「そりゃ、澪のことは一番近くで見てきたからな。隠し事があっても大体はわかるさ」

律「私も澪と同じ気持ちだし」

梓「!」

律「梓も大丈夫!あんなにいつもくっついてたじゃないか」

梓「あ、あれは…唯先輩が勝手に…」

律「ははは、そういうことにしといてやるよっ!じゃなっ梓!」

律先輩は慌ただしく走り去っていった

梓「…いいな…澪先輩」

あんなに信頼しあってるんだから

梓「唯先輩も…せめて律先輩くらい気が付く人だったらなぁ」

でもそんな鈍感な唯先輩を好きになったんだから、私が頑張らないといけないんだよね

梓「よし、やってやるです!」

夜の空に誓った




冬の寒い寒い空の下だってのに、なんで私は全力疾走してるんだ?
なんでこんなに寒いのに私の顔は熱いんだ?

律(決まってらい、梓があんな話をさせるからだ!)

あ…私が勝手に話したんだっけ?そんなことはどうでもいいっ

律(あ~なんであんな恥ずかしい話、しちゃったんだろ)

梓がさ。澪のチョコしか見てない!とか言うからさ。それだけは否定しておきたかったんだ

律(たしかにチョコは楽しみだけど…私が本当に楽しみなのは…)

楽しみなのは?

律「い、言わせんな恥ずかしいっ!」

律「た、ただいま…」

疲れた…悶えながら走ってたら帰る道間違えちまったよ!端から見たら完全変態っ!よく補導されなかったな私

聡「ねーちゃんおかえり。遅かったね」

律「あー聡か。お前はお呼びでないんだ、早く寝なさい」

聡「なんだよ…ちぇっ」

弟をしっしっと払いのけ、お風呂場へ直行

律「はぁ…今日は疲れたな…」

明日澪に会ったらなんて声をかけようかな…
からかってみるか?…いや、朝から澪の愛あるパンチをくらいたくはない
なら隠れて驚かしてみるか?…朝から気絶した澪を背負って登校したくはない

律「ん~~……ぶくぶく」

とりあえずいつもより長めにお風呂入ることにした


公園――

律(うぅ…慌てて来たら思ったより早く着いちまった)

律(寒いな…澪まだかなー)

律(…やっぱり澪の奴、ちょっと遅れてるみたいだな…ちょっとからかってやろうかな、うしし)

澪「おーい、律ぅー」

びくっ

律「澪」

あれ?今大丈夫だった?声裏返ってなかった?

澪「遅れてごめん!」

そうだ、からかってやらなきゃな!

律「はっはー、りっちゃん様もさっき来たばっかだぜー」

あれ?

澪「そ、そうなのか?」

律(ほんとは一時間前からいるんだけどな)

澪のそんな顔見たらさ。からかえないよ

澪「えっと、律。これ……」

澪が箱を差し出す

律「これが澪の作ったチョコか、食べていい?」

澪「う、うん」

箱を開け、チョコを手に取り食べる

澪「ど、どうかな……」

そんな不安そうな顔するなよ。澪がつくったものなら例えまずくても残さず食してやるから。このチョコは美味いけどな

律「うん。おいしい」

澪「よ、良かったー」

ホッと胸を撫で下ろす。オーバーリアクションだな。ならオーバーリアクションで返してやらないと

律「ホワイトデーの時に貰ったやつよりも、何十倍のおいしさだ」

声にアクセントをつけてわざとらしく言ってみる

澪「い、言い過ぎだぞ!」

律「ほんとのことだから、しょうがないんだよ」

澪「なんか、嬉しいのやら嬉しくないやら……」

律「も、もっと喜べよ」

澪「ふーんだ」

そして私達は笑い合う

律「そんじゃ、学校に行くか」

今日は澪と手を繋いでいこう。離せって言ったって離してやらんっ

澪「律!」

律「ん?」

振り替えると真剣な眼差しで私を見つめる澪がいた

澪「あ、あの……」

律「どうした?」

あ、そうだった
澪は私に大事な話が…

律(き、緊張する……)

律「とりあえず、肩の力を抜け」

半分は私にも言い聞かせている

澪「うん」

律「ほら、深呼吸」

澪「すぅーはぁー」

律「はい、落ち着いた?」

澪「うん」

律「よし、言ってみ」

私が緊張していた

澪「うん」

律(くるぞ)

なんて返事をしよう!
私もだぜ!とか?
今までずっと澪のことが…とかか?やべっ超恥ずかしい!

澪「律、今までありがとう! そして、これからもよろしく!」


律「……」

律(あ、あれー?)

思ってたのと違ったー!

やっべー!私は今世紀最大の恥ずかしい奴だー!
顔が熱い熱い!

律「澪……」

澪「り、律?」

律「こちらこそ、ありがとうな」

澪を抱きしめる。澪の肩に顎を乗っけて顔が赤いのがばれないように

澪「り、律!?」

おかえしだい。澪も恥ずかしくなれ

律「澪の気持ち、受け取ったよ」

澪「り、律」

やっと落ち着いてきたので身体を離す

律「でもさ、なんでありがとうなんだ?」

告白的な何かと勘違いしちゃったじゃないかまったく

澪「えっと、私は何かと律に頼ってばっかりで……その」

律「それで」

澪「多分、これからも律を頼るかもしれない」

律「なるほど」

澪「それで……その、律に頼りっぱなしなのに、ありがとうも言えなくて」

律「……」

本当に私は恥ずかしい奴だ。澪にこんな気を使わせるなんて
そんなの気にしなくていいんだぜ?私が好きでやってるんだからな

澪「だから、ありがとうを言いたく……うぅー」

律「……」

ポンッ、と澪の頭に手を置く

澪「律?」

律「頼りっぱなしって、それはお互い様だろ?」

頭を撫でる

律「私も、澪に助けて貰ったりするからな。だから、頼りっぱなしじゃないよ」

そうだぜ澪。澪がいなかったら私はけいおん部長を続けられなかっただろう
こんな私を支えてくれる澪がいたからこそ…ムギにも唯にも梓にだって…出会えたんだから

澪「律、あんまり撫でないで……恥ずかしい」

律「誰もいないから、いいじゃないか」

澪「……うん」

律「この先、私は澪を頼ることもあるだろうさ」

澪「うん」

律「私達はお互いでお互いを支え合ってるんだ。それは、悪いことじゃねぇよ」

澪「うん」

撫でるのをやめる。その代わりに

律「だから私もこれから、よろしくな!」

私は手を差し出した

澪「うん!」

澪は手を握った
さぁ、手を繋いで。支え合って。いこうぜ


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