そして朝――

澪「あー、寝坊したぁー!!」

慌てて着替える。

只今の時刻、七時半。

澪母「澪ちゃん、ご飯は?」

澪「いらない!」

澪母「あらそう、ちょっと待っててね」

母親はリビングへ向かう。

澪「ママー、急いでるのに!」

澪母「これ、忘れちゃダメでしょ」

それは澪が作ったチョコが入った箱。

澪「あっ」

澪母「昨日、頑張って作ったもんね。ここで忘れたら、苦労が水の泡よ」

澪「あっ、ありがとう……」

澪母「はいはい。でも、急いでるんでしょ?」

澪「そ、そうだった」

慌てて靴を履く。

ガチャ!

澪「行ってきまーす」

澪母「行ってらっしゃい。車には気をつけるのよ」

笑顔で見送る。


澪母(ちゃんと、渡せるといいわね)

澪母(ママ、応援してるわ)


公園――

澪(あっ、律がいる! うぅー、なんか遅れたことバカにされそう)

澪「おーい、律ぅー」

律「澪」

澪「遅れてごめん!」

律「はっはー、りっちゃん様もさっき来たばっかだぜー」

澪「そ、そうなのか?」

律(ほんとは一時間前からいるんだけどな)

澪「えっと、律。これ……」

チョコの入った箱を差し出す。

律「これが澪の作ったチョコか、食べていい?」

澪「う、うん」

箱を開け、チョコを手に取り食べる

澪「ど、どうかな……」

律「うん。おいしい」

澪「よ、良かったー」

律「ホワイトデーの時に貰ったやつよりも、何十倍のおいしさだ」

澪「い、言い過ぎだぞ!」

律「ほんとのことだから、しょうがないんだよ」

澪「なんか、嬉しいのやら嬉しくないやら……」

律「も、もっと喜べよ」

澪「ふーんだ」

律「そんじゃ、学校に行くか」

澪(そ、そうだ。律に言いたいことが……)

澪「律!」

律「ん?」

澪「あ、あの……」

律「どうした?」

澪(き、緊張する……)

律「とりあえず、肩の力を抜け」

澪「うん」

律「ほら、深呼吸」

澪「すぅーはぁー」

律「はい、落ち着いた?」

澪「うん」

律「よし、言ってみ」

澪「うん」

澪(言うぞ)


澪「律、今までありがとう! そして、これからもよろしく!」


律「……」

澪(い、言えたー)

律「澪……」

澪「り、律?」

律「こちらこそ、ありがとうな」

澪を抱きしめる。

澪「り、律!?」

律「澪の気持ち、受け取ったよ」

澪「り、律」

身体を離す。

律「でもさ、なんでありがとうなんだ?」

澪「えっと、私は何かと律に頼ってばっかりで……その」

律「それで」

澪「多分、これからも律を頼るかもしれない」

律「なるほど」

澪「それで……その、律に頼りっぱなしなのに、ありがとうも言えなくて」

律「……」

澪「だから、ありがとうを言いたく……うぅー」

律「……」

ポンッ、と澪の頭に手を置く。

澪「律?」

律「頼りっぱなしって、それはお互い様だろ?」

頭を撫でる。

律「私も、澪に助けて貰ったりするからな。だから、頼りっぱなしじゃないよ」

澪「律、あんまり撫でないで……恥ずかしい」

律「誰もいないから、いいじゃないか」

澪「……うん」

律「この先、私は澪を頼ることもあるだろうさ」

澪「うん」

律「私達はお互いでお互いを支え合ってるんだ。それは、悪いことじゃねぇよ」

澪「うん」

撫でるのをやめる。

律「だから私もこれから、よろしくな!」

澪「うん!」

律「いい返事だ」

律は空を見上げた。

律「雪、降りそうだな」

澪「そうだな」

律「澪、なんなら私に永久就職するか?」

澪「えっ?」

律「ふふっ、なんでもなーい!」

澪「律、今のどういう意味だよ!」

律「だから、なんでもないって!」

澪「気になる、教えろ!」

キーンコーンカーンコーン

律「澪、やばい遅刻だ! さわちゃんに怒られる!」

澪「そ、そうだな! でも、さっきのこと後で教えろよ!」

律「なんのことか、りっちゃんは忘れちゃったぜー!」

律は走り出した。

澪「待てぇー!」

澪(ふふっ、ありがとう律。これからも、よろしくね)


空から雪が降って来ていた。

しかし、春の足音はそこまで来ていた。

もちろん、二人にも――


律「みーお、置いてくぞー」

澪「待ってよー、りぃーつぅー」



おしまい!




最終更新:2011年02月12日 01:24