紬「でも、この紅茶…」

梓「はい。ムギ先輩の好きなやつですよ?」

紬「…最初に淹れるの、それで良かったの?」

梓「いいんですよ。なに言ってるんですか」

梓「もちろん、先輩方みんなに淹れてあげたいですけど」

でもやっぱり。あなただったと思うから。
喜んでもらいたいって、そう思ったから。

梓「ムギ先輩に淹れてあげたいって思ったのがきっかけだったんです」

梓「だから一番最初に、ムギ先輩に。好きな紅茶を淹れてあげようって」

梓「そう決めてましたので」

今までの時間を思い出しながら。
手順は間違えないよう、ゆっくりと。丁寧に。
それと、一番大事なこと。
淹れてあげる相手への思いを込めて。

……よし。できた。

この紅茶を一番美味しく淹れるには。
ううん。正確には、この人が一番喜んでくれるには、ですね。

梓「…お口にあうか分かりませんが」

紬「とんでもない。私が一番側で見てきたんだもの」

紬「梓ちゃんの腕前はちゃんと分かってるつもりよ」

紬「…いい香りね」

とても似合った上品な仕草で。香りを楽しんだ後。
そっと一口。口に運んで。

紬「…これ」

ふふ。やりました。
本日二度目ですね。驚いていただけたようです。

喜んでもいただけてたら、なおのこと嬉しいですけど。

梓「ストレートが一般的みたいですけど」

梓「風味を崩さない程度に、少しだけ砂糖を」

梓「それが、ムギ先輩のお気に入り。ですよね?」

紬「…大正解」

紬「おいしいわ。…本当に」

紬「今まで飲んだことのある紅茶の中で一番よ」

梓「大げさですよ。私なんてまだまだです」

紬「そんなことない」

その蒼い瞳でまっすぐ見つめられて。
その顔は本当に嬉しそうにはにかんでいて。

紬「本当に。美味しかったから。嬉しかったから」

紬「だから。ありがとう。梓ちゃん」

ムギ先輩の言ってたこと。分かった気がします。
それだけで、私も本当に嬉しくなる。
こころがほっとあったかくなる。

梓「喜んでいただけて、私もとっても嬉しいです!」

あなたにそんな気持ちになって欲しくて。頑張りましたから!

梓「ムギ先輩への、感謝の気持ちなんです」

梓「いつも素敵な時間をくれるムギ先輩に」

梓「私たちを支えてくれてるムギ先輩に」

梓「私からの、ありがとう。です!」

ちょっと驚いて、でもそれから。
満面の笑みを見せてくれます。それにつられて、私も。
とびっきりの笑顔をお返しするんです。

梓「それに、色々教えていただきましたし」

梓「ムギ先輩とたくさんお話できて。とっても楽しかったです」

紬「それは私も。梓ちゃんのこといっぱい知れた。嬉しかった」

梓「…でもずるいですよ。こんなに素敵なこと、一人占めしてたなんて」

紬「ふふ。ごめんなさい。でもこれからは、梓ちゃんも淹れてあげられるね」

梓「はい!でも、やっぱりまだまだですし」

あの時間がなくなるのが、なぜだかちょっと寂しくて。
もっと。仲良くなれたら。なんて。そんなことを思ったから。

梓「まだ、私の好きな紅茶、淹れ方教えてもらってませんし」

だからもうちょっとだけ、あの時間を。

梓「だから、もっと教えてください」

おいしい紅茶の、淹れ方を

紬「ええ。喜んで!」

ガチャ

唯「こんちゃ~」

律「遅れてごめんよー」

澪「まったくこいつらは……」

紬「あらみんな。いらっしゃ~い」

梓「みなさんお疲れ様です」

律「おや、またまた珍しい組み合わせ」

唯「最近仲がいいですな~おふたりさん」

律「ねー!怪しいですわよねー」

唯「ね~!これはもしや…」

梓「はいはい。馬鹿やってないで座ったらどうです」

唯・律「バッサリきたー!?」

澪「…あれ、それ。もしかして、梓が?」

紬「ええ!今日は梓ちゃんがみんなに紅茶、淹れてくれるって」

梓「はい。まだまだムギ先輩にはおよびませんが」

梓「皆さんに飲んでいただけたらな、と思いまして」

唯「おお~!あずにゃんすご~い!」

律「梓がねぇ!すごいじゃん!」

澪「わざわざ淹れてくれたのか。ありがとう」

澪「へぇ…。すごくいい香り」

唯「美味しそうな匂いだねぇ~」

紬「梓ちゃんは私なんかよりずっと上手なのよ~」

梓「もう!ムギ先輩!ハードル上げないでくださいよ」

唯「ご褒美になでなでしてあげよう」

梓「終わったらにしてください。すぐ用意しますので」

律「しっかしどうしたんだ?急に色気づいちゃってー」

梓「律先輩もたまには色気づいたらどうですか?」

律「なかのぉー!そんなこというのはこの口かー!!」

梓「いひゃいいひゃい!」

澪「こら律!邪魔しちゃ駄目だろ」

唯「そうだよりっちゃん!おとなしく待ってなさい」

律「唯にはなんか言われたくねーぞ!」

唯「へへ。あずにゃんの淹れてくれる紅茶楽しみ~」

律「でも梓が紅茶淹れられるとはなー」

梓「すごく失礼なこと言われてる気がします」

律「いやいや。本格的なのって難しいんじゃないかなーって思ってさ」

紬「ちょっと練習すれば誰でもできるから、りっちゃんもどう?」

律「いや、私はいかに美味しく飲めるかを突き詰めたい!」

梓「そのためには淹れ方も知っといたほうがいいですよ」

律「いやいや、違うんだよ梓くん」

律「私は出されたものをいかに美味しそうに飲めるかを追求する!」

澪「またこいつは。何いってんだか」

唯「そうだよりっちゃん。つくる人のことを知るのは大事だよ!」

律「その割にはなにもする気がない唯には言われたかない」

唯「ムギちゃんやあずにゃんのお茶なら美味しいに決まってるから大丈夫!」

澪「こっちはこっちで…まったく」

紬「ふふふ。みんな今日も仲良しね~」

梓「…まったく、もう」

なんて言いながらも、きっと私の顔は笑っていて。

さて。それじゃあ皆さんに、紅茶を入れてあげなくちゃ。
今日は、ムギ先輩の好きなこの紅茶。

次はどうしよう?

甘くて美味しいミルクティー?すっきりとしたあの紅茶?
お砂糖たっぷりの、あの紅茶にしようかな?

…あ、そうだ!今度憂と純にもご馳走しよう。
きっとふたりとも驚くよ!

それでみんなが笑顔になったら、きっと私も。とっても幸せ。



おしまい