紬「お茶淹れたわよ~」

唯「やった~!」

律「待ってました!」

澪「全く…。今日は飲んだら練習するからな」

梓「ホントですよ、もう」

紬「まあまあまあまあ。とりあえず一息つきましょう」

紬「はい、梓ちゃん」

梓「どうも。ありがとうございます」

紬「みんなもどうぞ~」

律「ふっふっふー」

唯「ふっふっふ~」

梓「…なんですか二人して」

唯「いや~。嬉しそうだな~ってね」

律「なんだかんだ言っても楽しみですものねー」

梓「そりゃそうでしょう。せっかく淹れてもらってますし」

梓「ムギ先輩のお茶は美味しいですから」

梓「でも。私はこの後ちゃんと練習しますので」

唯「ああん、あずにゃんのいけず~!」

律「いけずー!」

澪「もう。少しは梓を見習えよ」

いつもと変わらない軽音部の風景。
知らない人が見たら何をしているのかと思うでしょう?
実際私も初めはそう思いましたから。

いわゆるティータイムです。
お茶を飲んで、お菓子を食べて。みんなでおしゃべりして。

繰り返しますが、私たちは軽音部です。
練習ですか? ええ、しますよ。
……率先してお茶を楽しんでいる約二名様がやる気を出した時くらいは。

別に非難しているわけではありません。私だってお茶は楽しみです。
それに、この空気といいますか、これが私たちのやり方なんです。

ティータイムは私たちにとって、とっても大事な時間で。

だから、私も。紅茶を淹れてあげたいなって。
いつからか、そう思ってたんです。

澪「ごちそうさま」

唯「今日もムギちゃんのお茶は美味しいね~!」

紬「ふふ。ありがとう。喜んでもらえて私も嬉しいわ」

紬「じゃあ片付けしちゃうわね~」

梓「お手伝いしますよ。ムギ先輩」

紬「あら。ありがとう」

唯「おっ!あずにゃんえらいね~」

律「梓は本当にできた子や」

澪「お前らもたまには手伝ってやれよ」

澪「二人とも、私も手伝うよ」

梓「お気になさらず。澪先輩もゆっくりしてて下さい」

澪「梓にだけやらせるのも悪いよ」

梓「私もいつも手伝ってるわけじゃないですし」

梓「今日は後輩の顔を立てると思ってください」

梓「次の機会には、澪先輩にお願いしますよ」

澪「…そうか?そこまでいうなら、今日はお願い」

澪「梓はいい子だな」

ふっと頭に暖かい感触。
ちょっと大きくて、弦楽器をいじる人間特有の硬さを感じる手。
澪先輩の手が、私の頭を優しく撫でてくれます。

梓「…えへへ」

澪「よしよし」

紬「あらあら素敵♪」

紬「紅茶の淹れ方?」

梓「はい。教えていただきたいなと思って」

お手伝いをしながら、ムギ先輩に聞いてみました。

紬「紅茶に興味があったなんて嬉しいわ~」

梓「いつも美味しくいただいてますから。ありがとうございます」

紬「いいのよ~。気にしなくて」

とは言っても、ムギ先輩の持ってくるものは高級品だ。
家で飲むような安物の紅茶とは、なんというかすべてが違います。
お礼の一つでも言いたくなるものです。

梓「できたら、私も淹れてみたいなって」

紬「まあ!じゃあ今度、みんなで紅茶淹れてみよっか?」

梓「あ、えと。できたら二人でやりたいんですけど……」

紬「あらあら。うふふふ」

梓「…どうしたんですか?」

紬「いいわよ~。じゃあ皆にはナイショで」

紬「時間があるときに、二人で練習しましょうか」

変な勘違いをされている気がする。
いや、この笑みはきっとしていますね。
主に乙女の妄想的な意味で。

紬「梓ちゃんのお相手はだれなのかしら~」

梓「…そういうのじゃないですよ」

梓「きっと、ムギ先輩の考えてるのとは、ちょっと違うと思います」

紬「ふふ。じゃあそういう事にしておきましょうか」

嬉しそうな先輩を見てると何だか変に否定するのも悪い気がします。
……私もムギ先輩には甘いものです。

――――

それから、私たちは二人になれるときに、密かに特訓を始めました。

紬「それじゃあ始めるわよ」

梓「はい!先生!」

紬「あら、先生だなんて。…ちょっといいわね~」

ぽわぽわ~。なんて効果音が実に似合います。
妄想モードに入ってしまわれました。

まあ、邪魔するのも悪いですし、可愛いのでしばらく見ていましょう。

紬「…はっ。いけないいけない」

梓「おかえりなさい。先生」

紬「…こほん」

紬「一口に淹れ方っていっても、茶葉によって適している方法も違うの」

梓「部室にもけっこういっぱいありますよね」

紬「うん。だからよく使う何種類かの淹れ方を教えるね」

紬「じゃあ、最初はこの茶葉からいきましょうか」

紬「これは唯ちゃんが好きなやつね」

梓「やっぱり皆さん好みがあるんですね」

紬「ええ。まあ、聞いたわけじゃないんだけどね」

紬「これを飲んでる時が一番嬉しそうかな~って」

流石というかなんというか。
まずはこういった気配りが大事なのかもしれません。

梓「勉強になります」

紬「あらあら。まだ初めてないわよ?」

梓「いえ。大事なことを教えてもらったような気がします」

紬「これはミルクティーにすると美味しいの」

紬「唯ちゃんに入れてあげるのは、砂糖をちょっとだけ多めに」

梓「…なんというか、イメージにぴったりですね」

紬「そうね。優しくて温かい唯ちゃんにぴったりかも」

紬「その人の性格も出るのかしら?」

梓「どうなんでしょうかね?」

本格的な紅茶は淹れる手順もけっこう色々あって。
恥ずかしながら、今まで適当に淹れてた私では知らないことも多かったです。

慣れた手つきでてきぱきとこなしていくムギ先輩。

なんだか魔法みたいだなぁって。
ふと、そんなふうに思いました。

ほとんどムギ先輩にやってもらいましたが
なんとか初めての一杯が出来上がりました。
甘そうないい香りがします。

紬「これで唯ちゃんも大喜びよ!」

梓「でも、まだまだ一人できちんとはできそうにないですから」

紬「じゃあこれからも練習あるのみね」

梓「はい。またお願いします!」

紬「淹れてあげるの楽しみね~。ふふふ…」

ムギ先輩はまた何だか上機嫌です。…妄想してますね?

紬「やっぱりゆいあずはいいわよね~」

梓「…なにいってるんですか」

紬「いいのいいの」

紬「いっつもくっついてるじゃない」

梓「唯先輩が勝手に抱きついてくるだけですよ」

紬「でもすっごく嬉しそうよ?」

梓「まあそりゃ、嫌じゃないですけど…」

梓「そんなに傍から見て嬉しそうにしてますか?」

紬「ええ。とっても!」

梓「目標はポーカーフェイスになること。にします」

紬「恥ずかしがらなくてもいいのに」

紬「でも、唯ちゃんはいいな~」

梓「どうしたんですかいきなり」

梓「…もしかして、ムギ先輩もあんな風にしたいんですか?」

紬「えへへ。実は」

梓「もう…暑苦しいだけですよ?」

紬「いいじゃない。スキンシップ。とってもいいわよ!」

紬「肌を触れ合わせるのって、親愛の証だと思うの」

梓「そんな大げさな…。まあ、仲がいい証拠だとは思いますけど」

紬「でしょ! だからもっとみんなとスキンシップしたいんだけどな」

梓「していいと思いますよ?ムギ先輩なら誰も嫌がったりしませんって」

紬「そうかしら…?」

梓「はい。私だったら嫌がりませんよ。絶対」

紬「あらあら!ほんとに?」

なんだろう。いますっごく恥ずかしいことを、サラッといった気がします。

梓「ええ。だから、その」

梓「抱きしめたくなったら、ご自由にどうぞ」

って、これ冷静に考えたらすっごい恥ずかしいこと言ってるよね!?

紬「ふっふっふ~」

紬「あ~ずにゃ~ん!」

梓「にゃああ!?」

早速抱きつかれました。
なんといいましょうか。あったかくて。柔らかくて。
優しそうないい匂いがしました。

紬「ふふ。梓ちゃんすごく抱き心地がいい」

梓「抱き心地…ですか。そんなにいいですか?」

紬「ええ。とっても!」

紬「唯ちゃんがいつも抱きついてるのも分かるわ~」

梓「…そうですか。ありがとうございます」

私も、抱かれ心地が良くて、すごく気持ちいいですよ。
……なんて言葉が出かかりましたが。
その瞬間すごく恥ずかしくなったのでやめておきました。

そのかわりに…

梓「私なんかでよければ、これからも」

梓「その、お好きなようにどうぞ」

紬「ありがとう。梓ちゃん」

ぎゅっと。少しだけ抱き寄せられます。

子供みたいに嬉しそうな顔をしてるムギ先輩。
それにつられて、私も自然と笑顔になります。

…この笑顔が見れるなら、安いもんです。

唯先輩とは、感触も、匂いも、違ったけれど。
優しくて、暖かくて、どこか似ているような。

二人とも、そんな人だからでしょうか?
似たもの同士なのかなぁって。
朧気に、そんなことを考えていました。

紬「唯ちゃんは誰にでもこんな風にできて、ちょっと羨ましい」

梓「あの人にはもう少し遠慮というものを学んで欲しいです」

紬「いいじゃない。あれが唯ちゃんらしさよ」

梓「まあ、そうですけど。誰かれ構わず抱きついたりは…」

梓「…なに笑ってるですか?」

紬「梓ちゃん、ヤキモチ?」

梓「…!!そんなんじゃないです!」

紬「照れなくてもいいのに~」

梓「そんなんじゃないんですってばぁ!」

こんな変なところまで、ちょっと似ているみたいです

――――

紬「じゃあ今日はこれね」

梓「これ私もけっこう好きですよ」

紬「これはりっちゃんが好きなやつね」

梓「へぇ。律先輩はこれなんですか」

紬「あら、ちょっと意外そうね」

梓「言っちゃ悪いですが、律先輩のイメージじゃなかったです」

紬「そう?わたしはりっちゃんらしいかな~って思ったけど」

梓「珍しく意見の相違が出ましたね」

紬「…ふふ。それにしても」

梓「??」

紬「梓ちゃんはりっちゃんには割と遠慮がないというか」

紬「気兼ねなく接してるよね」

梓「そうでしょうか? …まあ、言われてみるとそうかも知れません」

梓「変に気を使ったりとかは、ない気がしますね」

紬「そこがりっちゃんのすごいところよね~」

梓「…そうですね」

梓「気を使わせないようにしようって、そういう風に気を配ってくれてるというか」

梓「そういう人なんだなってのは、何となく分かってきました」

紬「そうね~。だからかしら」

紬「りっちゃんはいいなーって。思う時があるの」

梓「ムギ先輩が……ですか?」

紬「私は、そういう風にするのが得意じゃないみたいで」

紬「梓ちゃんだってそうでしょう?」

梓「え…?」

紬「りっちゃんに対するみたいに、私と接しようとは思わないでしょ?」

梓「あ……。その。まあ、確かにそうですね」

紬「誰にでもくだけて接してもらえる。そういう空気を作り出せる」

紬「そういう優しさって、いいなぁって」

紬「私には、難しいかな…って。たまに思っちゃうから」

言いたいことは分かります。律先輩はそういう人で。
ムギ先輩は、そういう関係に憧れみたいなのを持ってるみたいです。

でも、だからって。寂しそうな顔しないでください。

梓「いいんじゃないでしょうか。違ってても」

紬「…梓ちゃん?」

梓「律先輩は律先輩。ムギ先輩はムギ先輩で」

梓「ただ、優しさのカタチが違うだけなんですよ」

梓「優しさであることに変わりはありません。ちゃんとみんな分かってるはずです」

梓「それはどっちが良い悪いとかじゃないんだって、私は思います」

梓「お二人とも、私にとっては優しくて、いい先輩ですから」

梓「他の皆さんだって!接し方が違ったとしても」

梓「ちゃんとムギ先輩に心を許してるはずですよ!」

私だってそうです。皆さんだってそうに決まってます。

梓「だから、ムギ先輩は今まで通りでいいと思います」

梓「無理して変わったりしても、それは。ムギ先輩じゃなくなっちゃいます」

私はそんなの、なんか嫌です。

紬「…あ~ずにゃ~ん」

梓「にゃ!?」

また抱きつかれてしまいました。
あったかいです。あと、やっぱり気持ちいいかもしれません。
…自分で思ってる以上にこういうの好きなんでしょうか?

紬「優しいのね、ほんと」

梓「そんなことないです。分かったような気になって」

梓「生意気なこと言ってるだけですよ。きっと」

紬「それでも、ありがとう」

梓「…私でよければ、何でも話してください」

梓「聞くくらいなら。出来ますので」

梓「あ、それと。抱きつきもサービスしますよ」

紬「あずにゃんは優しいね。いいこいいこ」

梓「もう…。ほんとに唯先輩みたいですね」

その日に淹れた紅茶は、飲み慣れた中の一つ。
さっぱりしてて、爽やかな香り。
きっと、誰の口にも合うような、そんな紅茶。

なんとなく、律先輩っぽいかなって。
初めて、そんなふうに思いました。

……

紬「うーん。そうねぇ…」

梓「どうしたんですか?」

紬「りつあず!とかはどうかしら?」

梓「…はい?」

紬「いいコンビだと思うんだけど?」

梓「はあ? …なんと答えたらいいんでしょうか?」

紬「ああ!あずりつ!の方がいいのかな」

梓「そういう意味じゃないです…」

ムギ先輩がそういう趣味があるみたいってのは聞いてましたけど。
やたら引っ張りますね。
律先輩と、私。そんなにいいものなんでしょうか?


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