……


梓「あれから三日か~」トントントントン

梓「家事にはだいぶなれたね」カチャカチャ

梓「私のお料理好きって言ってもらえた……」


 『えっ!? これあずにゃんが作ったの!? すごい』

 『すっごいおいしいよ~~これでもう外食買い食いから開放される~~』

 『えへー私家事てんでだめでしてー』


梓「ふふっ……唯先輩……平沢唯先輩……私のご主人様? 旦那様?奥様?」

梓「なんか違うな……」

梓「てかほんとにテレビにでてる……有名人なんだ」

梓「早く帰ってこないかな~」ジュウジュウ

梓「今晩のおかずは唯先輩のリクエストでオムライスっ!」

梓「……うれしいなぁ、久しぶりに幸せかも」


「おぅーい、帰ったよー」

梓「あ、はーい!」トタトタ

唯「ん~ただいま~」

梓「お、おかえりなさい! お仕事お疲れ様!」

唯「えへ~今日の収録たのしかったー」

梓「よかったですね!」

唯「ご飯は?」

梓「もうできてますよ。手洗ってうがいしてください」

唯「ねー、その前にさー」

梓「はい?」

唯「ただいまのチューは?」

梓「!! だ、だめです! ただの家政婦ですから!」

唯「ちぇー、ケチー」

梓「もうっ、早く着替えてきてください」

……

唯「んぅ~おいひ~幸せ~、ほっぺた落ちそう」

梓「どもです。あ、ほら、テレビ。唯先輩でてますよ」

唯「え~、照れますなぁ。これなんの番組だっけ」

梓「えっと、波瀾万丈ってやつです」

唯「……」プチ

梓「あれっ! なんで消すんですか! 見ましょうよ!」

唯「い、いいよ~みなくてー。ほらー、ここに生のユイがいるんだよ~」

梓「えー見たいです」

唯「うーん……」

梓「この間のMステは一緒にみたじゃないですか!」

唯「そ、そうだねぇ……」

梓「唯先輩のトークって案外おもしろいですよね。てかキャラ違いすぎ」

唯「素顔になれるのはプライベートだけだね」

梓「じゃあつけますね」


 『シンガー・ソングライターユイの波瀾万丈な人生』


唯「釘付けじゃなくてさ、お話しながらでいい?」

梓「あ、それはかまいませんよ」

唯「今日の収録でね」


 『ユイは19××年、〇〇県〇〇市にうまれ~』


唯「共演したグループがね、おもしろくってさー」

梓「へぇ」


 『天真爛漫な彼女はたくさんの友達に支えられながら、順調にすこやかに育った』


唯「おしゃべり上手なんだよ。私はクールキャラだから相槌うつしかできなくてさ」

梓「ですよね。こんな饒舌なユイびっくりです」

唯「えへへー」

 『しかし、二年前の夏。彼女の身に悲劇が訪れる』


唯「おかしいよねー……」

梓「……」


 『突然の交通事故、最愛の両親と妹を亡くし彼女は絶望の真っ只中にいた』


唯「おかしいよね……」

梓「唯先ぱ……」


 『そんな彼女を救ってくれたのは、いま彼女の生きる力となる音楽そのものであった』


唯「……あはは、やーな番組っ」

梓「唯先輩……あの……」

唯「どうしろっていうの……こんな広い家に私だけ残してさ……ばーか」

梓「うっ……グス……唯先輩」

唯「何であずにゃんが泣くのー……」

梓「ごめんなさい……ごめんなさい、ヒグ」

唯「……」

梓「唯先輩のこと……なにもしらないくせにでしゃばって……」

唯「いいんだよーあずにゃんは悪くないもん」

梓「グス……唯先輩もずっと……一人だったんですか?」

唯「まぁね」

梓「それで、寂しくてあんなとこ行って……うぇぇぇぇええん」

唯「な、泣かないで……もう行かないから! あずにゃん!」

梓「ないてっ、ヒグ、ないですってグス」

唯「私、あずにゃんがいれば寂しくないよ」

梓「唯先輩……」

唯「疲れておうちに帰ったらね、電気ついてて、あずにゃんが笑顔で出迎えてくれる」

唯「お風呂がわいてて、暖かいご飯がある」

唯「私にも、やっと帰る場所ができたんだよ? それだけで嬉しいの」

唯「あずにゃん。ありがとう」

梓「唯先輩唯先輩……っ」

唯「この家も喜んでるよ。ずっと真っ暗だったもの」

唯「それに、あずにゃんが着てくれてる憂のお洋服もね」

梓「でも……私にはっ、こんな大事な服きる資格なんてありませんよぉ……グス」

唯「ありがとう……ありがとうあずにゃん」

唯「あずにゃんは優しいから……人のために泣けるんだね」ナデナデ

梓「……唯先輩、私たちって……」

唯「似たもの同士だったのかな……だから、あずにゃんのことほうって置けなくて」

梓「同情……ですか」

唯「はじめはそうだったのかも。だけどね、聞いて?」

梓「……」

唯「とってもあずにゃんが好き。わがままだけど、あずにゃんに居て欲しいよ。ずっと」

梓「……」

唯「だって私、こんなに暖かい家……久しぶり……グス、もう、手放したくない……!!」

唯「あずにゃんがいないと寂しくて!! うっく……うぇぇぇええええん」

梓「ゆ、唯先輩っ!!」

唯「ごべんで……ごめんね、勝手に泣いちゃって、ずるいよね」

梓「私……私……」

唯「あずにゃんの人生、ヒグ、だもん……好きにしたらいいよ」

唯「それこそ私にはどうこう言う資格なんてないんだから」

唯「でもあずにゃんがいいなら……」

梓「いいですよ」

唯「え……?」

梓「ここに居させてください。私、もう居場所、ここしかないんで」

唯「あずにゃん……」

梓「……私だって……寂しい……寂しかった!」

梓「唯先輩にはじめてあったとき不安でしかたなかった!!」

梓「人生がガラガラと音を立てて崩れていくような……そんな感じ」

梓「だけどそうしないと生きて行くことすら難しかったから……」

梓「……それなのに、唯先輩に手を引っ張られたとき、なんだかホッとしたんです」

梓「唯先輩の笑顔が……妙に離れなくて」

唯「……あずにゃん」

梓「人に優しくされたことってあんまりないから……頭、わからなくなって」

唯「……」

梓「きっと好きになっちゃったんです。そうです。たぶん私惚れっぽいんです」

梓「だから、大好きな唯先輩と一緒に暮らせるなら……これほど嬉しいことはありません」

梓「唯先輩のお世話なんでもします。なんならお金貯めて免許とって、唯先輩を送り迎えだってします」

梓「おねがいします。ここに居させてください。唯先輩」

唯「……うん」

唯「うん! ずっと居ていいよ! ううん、居てください!」

梓「はい!」

唯「あずにゃん!」ダキッ

唯「あったかあったか……あったかあったか」

梓「なんですかそれ?」

唯「心も体も暖かくなるおまじないだよ!」

梓「あったかいです……いままで一番」

唯「わたしもー」

梓「唯先輩……このまま二人で……」

唯「だねー」

梓「幸せになれますかね?」

唯「なれるとおもうよ。私にまかせんしゃい。幸せにしてあげよう」

梓「それ、なんか、プ、プロポーズみたいですね。私からふっといてなんですが」

唯「ん? んーそっかな?」

梓「女の子同士で……ちょっとそれは……てかまだ出会って数日……」

唯「はっはっは、大丈夫だよ。私はそっちの世界では有名な有名なユイさんだから」

梓「うっ……や、やっぱりまだ考えさせてください。少し身の危険を感じました……」

唯「えぇ~ここに居てよ~」

梓「そりゃ居ますけどっ! ずっといますけど……はぁ」

唯「顔赤いよ?」

梓「ちょ、ちょっと想像が膨らんだだけです!! なんでもないですってば!!」

唯「もしかしてあずにゃんの理想は家政婦さんじゃなくてお嫁さんかな!!? いや~ん♪」

梓「ちがいます~っ!!」

唯「遠慮しないで~ほらあずにゃんむちゅちゅ~」

梓「もぉ~なんなんですか!! ……一回だけですよ」


 チュー



お し ま い




梓「唯先輩まだかなーまだかなー」

梓「……」チラッ

梓「十時まで……あと五分ある……」

梓「……まだ五分あるもん」


 『これから十時までに帰れなかったら、たぶんその日はもう帰れない。ごめんね』

 『だからその場合悪いけどあずにゃん一人で先に寝といて?』

 『ご飯は……ごめん。冷蔵庫いれといてくれたら次の日食べるけど……』


梓「はぁ……唯先輩……今日も帰って来ないかなぁ……」

梓「……ま、まだ三分あるもん!」

梓「…………」

梓「…………あっ、そうだお味噌汁あたためなおさなきゃ」

梓「先にお茶もいれとこう!」

梓「……唯先輩」

梓「…………ばか」

梓「あーあ……頑張って作ったのにな」

梓「ハンバーグ、冷蔵庫いれたら固くなっちゃう……」

梓「食べてほしかったな……」

梓「あずにゃんのご飯おいしいって……言って」

梓「帰ってきてよ……唯先輩……」

梓「……っと、ダメダメ。私は唯先輩のお仕事応援するんだもん」

梓「よし、書き置きして寝よ!」

梓「冷蔵庫に、ハンバーグとサラダが入ってます、お味噌汁は、温め直して食べてくださいね、っと」

梓「ふー、また一人の夜がきちゃった」

梓「唯先輩と暮らし始めてもうかれこれ1ヶ月かぁ」

梓「売れっ子ってほんとに大変なんだ……」

梓「私、一体なにしてるんだろう……毎日ひとりでお掃除とお料理と洗濯……」

梓「あ、そうだ。唯先輩の番組録画しなきゃ」

梓「今度ドラマもはじまるんだよね。絶対見る」

梓「唯先輩に役者なんてできるのかな……ふふっ」

梓「そうだよ。忙しいんだから……」

梓「私の、ただの家政婦のわがままなんて聞いてる暇はないよね」

梓「わかってる」

梓「でも、寂しい……」

梓「近くにいるはずなのに……唯先輩の姿をテレビで見るたびに距離を感じちゃう」

梓「所詮、住む世界が違うんだって……」

梓「あーあ、私も何かしようかな……あっ! そういえば求人広告どこいったかな」

梓「よーし! 決めた! またバイトしよう。普通のね」

梓「大丈夫だもん! 時間はたっぷりある」

梓「それで少しでもこの家にお金いれるんだ」

梓「そしたら唯先輩の負担も減るはず……」

梓「いっぱい仕事しなくてすむ……」

梓「いっぱい家にいてくれる……」

梓「そうですよね? 唯先輩……」


……

……


梓「ん、朝……むにゅ」

梓「あれ、なんかあったか……」

唯「スピー……zzz」

梓「あっ、唯先輩帰ってきてたんだ……なんでくっついてるんだろう」

梓「唯先輩、おはよーございます。朝ですよー」ナデナデ

唯「グコー……zzz」

梓「いつの間に帰ってきたんですか? 晩ご飯たべましたか?」

唯「ムニャ……」

梓「はぁ、人の気もしらないでなんて幸せそうな……」

唯「ん……あずにゃ」

梓「あ、おはよーございます。朝御飯たべますか? お味噌汁ありますよ」

唯「きのうはごめんねぇー……ムニャ」

梓「……別にいいですよ。もう慣れました」

唯「おきる……」

梓「まだ眠いんでしょ? ご飯できたら起こしに来ましょうか?」

唯「じゃーそーしてー……うー、昨日の収録、きつかったな……zzz」

梓「……お疲れ様でした、ほんとに」

唯「スピー……zzz」

梓「ファイト、私」

梓「唯先輩はこんなに頑張ってる。だから私も頑張って唯先輩のお世話をする」

梓「よしっ! 朝はお味噌汁とお魚と、たまごを焼こう!」

唯「zzz」

梓「唯先輩待っててくださいね。すぐにおいしいおいしい朝ご飯つくりますから」

唯「zzz」

梓「……」

梓「……かわい」

梓「唯先輩」

梓「……おかえりなさい」ナデナデ

……

唯「でねっ! そんなにたべれないよーって言ってるのにまだ持ってくるんだよ! ひどいよね!?」

梓「そりゃあ晩ご飯たべられませんよね」

唯「私は芸能人さんとは違うんだからさー、ちょっと事務所も気を使って欲しいよね」

梓「てかなんでそんな番組からオファーがきたんですか」

唯「しらないよー、あっでも最近印象変わったねってよく言われるかも。それでかな?」

梓「変わった……唯先輩が?」

唯「うん、きっとあずにゃんに出会ったからだよ」

梓「え? ……もう、またぁ」

唯「なんていうかあずにゃんのため、あずにゃんのため!って思えば仕事に身が入るって言うか」

梓「はぁ」

唯「早く帰りたくなる」

梓「だめじゃないですか」

唯「でへへー」

梓「でへへじゃないです。あ、ほっぺたごはんついてますよ」ヒョイ

唯「お、なんかいまのお嫁さんみたいだねぇ」

梓「えっ、あっ、いやちがいます。私は……家政婦として」

唯「家政婦ってそんなことまでするの? 知らなかった。ねぇそれどこ情報?」

梓「ど、ドラマ……」

唯「あずにゃん、テレビおもしろい? 家にいるときはずっとテレビ見てるの?」

梓「はい。家事しながらテレビみたり唯先輩のCD聞いたり……」

唯「もしかして退屈? ごめんね?」

梓「いえ、おもしろいですけど」

唯「ほんとに……?」

梓「……大丈夫です」

唯「なにか欲しい物あったら言ってよ。ゲームでも玩具でもなんでも買ってあげるよ?」

梓「あ……それなら……」

唯「ほう、何がほしいんだい子猫ちゃん」

梓「アルバイト……したいかなって」

唯「えっ?」


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