澪ちゃんには、りっちゃん。
私には、あずにゃん。
ムギちゃんは、私達を優しく見守ってくれてる感じ。
私達をぱっと見たら、そう思うかもしれない。
唯「……私、澪ちゃんが好きなんだよ」
澪「だっ、だから、何なんだよ……」
唯「独占、してよ……澪ちゃんが私を独占してくれたら、私も澪ちゃんを独占出来るから、だからっ」
……ああ、私、ズルい。
こんなに難しいことを、澪ちゃんに決めさせようとしてる。
本当に、ズルいよね。
澪「……あのさ、唯」
唯「うん」
力も気持ちも入ってない声だよ。
……やっぱり駄目だったかな?
まあ、今までの私の行動を考えると、信用してもらえなくて当たり前なんだけども。
澪「私には、ちょっと、私が唯を独占するっていう状況が想像出来ないんだよ」
唯「……そっか。ごめんね、変なことゆっちゃって」
澪「ん……」
駄目、だったみたい。
抱き着いたまま眠っちゃうくらい安心出来る人で、そんでもっていつでもどこでも抱き着きたくなっちゃう人って、そうそういなかったのになあ。
唯「じゃ、じゃあ、私……帰るね。お説教はあとで……失恋の傷が治るまで、待ってね」
澪「……待て」
唯「んう?」
澪「しっ、失恋したなんて、勝手に決めるんじゃないっ!」
唯「……へ? ……ほええ!?」
まるで、タックルみたいに。
私が荷物を拾おうとしてたところに、澪ちゃんが飛び付いてきた。
澪「唯ぃぃっ!」
ばたん、と私が尻餅をつく音。
でも澪ちゃんはしっかりと私の腰に腕をかけてて、その力は段々強くなってきてる。
唯「み、澪ちゃん……?」
澪「んぅ……ゆ、唯っ! 寂しいこと言うなぁ! 私だって唯が好きなんだからぁ!」
唯「んくっ」
澪「あ、あの……き、気持ちが一方通行だと思うな!」
唯「んぅ……み、澪ちゃん……?」
澪「わかってたよ、唯の気持ち! でも私、こんな恥ずかしがり屋だから! 自分の思い込みかもって考えたら、何も出来なかったから!」
唯「うん……」
澪「勇気、出せなくって……本当に、唯が私を好きだって思えるまで、何も出来なかったんだよ……!」
制服越しに、お腹の辺りがじわじわと熱くなってくる。
湿った感じが広がってきて……ああ、澪ちゃんってば泣いちゃってるんだ。
唯「……澪ちゃん。大丈夫、っていうのも変かな……私、誰よりも澪ちゃんが好きだよ……だから、泣かないで?」
澪「ん、ぐす……っく、ゆ、唯……?」
唯「うん、いきなり独占欲ってのは、澪ちゃんには難しかったかなあ」
澪「ん、んぅ……?」
誰よりも欲しい、抱き締めたい、自分以外の誰にも抱き締めて欲しくない。
私はこんな感じだけど、きっと、澪ちゃんの考えてる独占欲とあんまり違いはないと思う。
唯「えいっ」
澪「ふぷっ!?」
唯「私、澪ちゃんも好きだけど、澪ちゃんのおっぱいも同じくらい好きだから……澪ちゃんにも、私のおっぱいを好きになってもらえたら嬉しいな」
ぎゅって、澪ちゃんが私を抱いてくれたように、優しく。
澪ちゃんの顔を真っ正面から、私の胸の谷間に埋めるように。
ちょっとズレてても構わない。澪ちゃんがその気でいてくれるなら、きっと。
唯「んうー♪」
澪「む……んぅ、ふう……」
唯「……澪ちゃん。苦しくない?」
澪「ふぁ、だ、大丈夫……だよ……」
無意識なのかそうでないのか、ふにふにと、私の胸に顔を押し付けてきてる。
澪ちゃんってば、かぁわいいんだぁ。
澪「んっっ、んにゅ……ゆぃ……唯のおっぱいも、やっぱり気持ちいいよぉ……」
唯「ん。でも、私は澪ちゃんの方がおっきくて、感触もいいと思うけど」
澪「……大きさじゃないんだよ。感触も。要は、相手が誰か、ってことじゃないのかな」
小さく呟きながら、澪ちゃんはまた私の胸を堪能するように、ふるふると顔を左右に振ってみたり。
こりは……ちょっと、気持ちいーかも。
唯「んっ、んんぅ……澪ちゃん。あんまりそうされると、変な気分になっちゃうよ」
澪「……ごめん。でも、もうちょっとだけ、こうしていたいんだ」
唯「いいよ、このくらい我慢するから……そのうち我慢出来なくなっちゃいそうだけどね」
澪ちゃんにこうやって甘えられるの、気持ちいーだけじゃなくって、とっても嬉しいよ。
私の気持ちが全部伝わったわけじゃないんだろうけど、少しでも伝わったっぽいからね。
唯「澪ちゃん。私、澪ちゃんが大好きだよ。女の子として」
澪「……私も。唯のことが、好き……こうして、抱き着いてると……幸せな気分になる……」
それはきっと、私と同じ気持ちだよ?
でも、澪ちゃんはまだ、この気持ちをまともに受け入れられないと思うから。
唯「えへへ。可愛い、澪ちゃん」
澪「んなっ!? あ、あっ、私は……別にそんなつもりじゃっ!?」
……ほら、離れちゃった。
すごく残念だけど、仕方ないかな。
唯「澪ちゃん……お説教、する?」
澪「……いや。明日にしよう。また明日、居残りしてくれないか」
唯「うん。明日もいーっぱい抱っこしてあげるね?」
澪「お、お、お説教だってば!? 明日こそは必ずするからな!」
唯「はいはい。んじゃ、今日は遅いし、もう帰ろ?」
澪「ああ……」
澪ちゃんが荷物を背負うのを見ながら、私も帰る準備をする。
この調子なら、しばらくの間はお説教されなさそうだね。
唯「ねぇ、澪ちゃん」
澪「うん?」
唯「大好き」
澪「ひゃあ……!?」
うわ、ぼんって顔を真っ赤にしちゃって。
これじゃ、私の気持ちを全部伝えるのは難しそう。
澪「あ、う、あぅ、はうう……」
唯「んっと……ほら、澪ちゃん。そろそろ私達も帰ろうよ」
澪「ぁぅ……」
固まって動かない澪ちゃんの手を取って、部室を出る。
その時、ものすごく小さな声で、澪ちゃんが呟いたのが聞こえた。
澪「わ、わっ、わわわ……私も……好きだよ、唯……」
恥ずかしがりーの澪ちゃんにとっては、すっごく勇気がいることだったと思うんだよね。
握ってる手にも力が入ってて、緊張してるのが伝わってきてるし。
でも、だから、私は、照れながらこう答えた。
唯「えへへへ……ありがと、澪ちゃん。嬉しくて泣いちゃいそう」
澪「そっ、それはそれで困る!」
唯「じゃあ泣かないよ!」
澪「なっ、何だよ、からかうなよぉ……全く、唯は……」
からかってなんかないよ。
澪ちゃんが困るなら、どうしても我慢出来ない時にしか泣かないよ。
だけど、今がその時だから……泣いてもいいよね?
澪「おっ……おい、ちょっと、唯!? いきなり泣き出すなよ!?」
唯「んっ、ぐす……嬉し泣きだよ。澪ちゃんのせいだからね」
澪「ん、もう……唯は、本当にズルいよな……」
うん、寝てるふりして起きてたのとか、ズルいことはしたけど、今はどのズルのせいなのかわかんない。
ぽろぽろ涙を零していると、澪ちゃんがさっきみたいに私を抱き締めてくれた。
おっきくてやーらかい、ふにふにの胸に。
澪「泣くなよ、唯……その、これが独占欲ってやつかもしんないけど……泣いてる唯は、見たくないんだっ」
澪ちゃんの方から、ぎゅうぅって私を抱き締めてくれてる。
……嬉しい。
嬉しくって、どんどん涙が溢れそうになってくるけど、澪ちゃんを困らせたくない。
唯「ぐすっ……んぅ、ふぅ……じゃ、じゃあ、澪ちゃん。こうして毎日抱き締めてくれる?」
澪「そ……それは……そのぉ、えーと……」
唯「ふにゅむにゅ、んうっ……約束してくれたら、泣き止むよ。澪ちゃんが抱き締めてくれるなら、私の独占欲も有頂天だよ」
澪「意味わかんないけど……いっ、いいよ。今みたいに、他人にバレないような場所でなら、え、えっと、えええと……」
唯「私を独占してくれる?」
澪「……唯が、他の誰にも抱き着かないって約束してくれるなら」
唯「お。澪ちゃんも出てきたみたいだね、独占欲」
澪「私は約束する。だから唯も、私以外には抱き着かないって約束してくれ」
おお……おおお。
澪ちゃんにしては大胆な発言だね。
私を澪ちゃん専用にしようっていう! これは告白と判断……しちゃいけない、よね……まだ……。
唯「うん、約束する。澪ちゃんも必ず守ってね!」
澪「当たり前だろ」
唯「それと、その、ね……不束者ですが、よろしくお願いします……」
あれ、何だかほっぺが熱いですよ?
澪ちゃんに抱き着いたりおっぱいに顔を埋めたりしてたのに、改めて意識したら、やたらと恥ずかしいですよ?
澪「うん……こちらこそ、よろしく。唯」
唯「ん……」
や。
あれ、ちょっと。
繋いでる手がすっごく熱くて、握ってると恥ずかしいのに放したくないとか、これどういう感覚?
思わずぴくっと引いちゃうと、澪ちゃんが強く握り返してきたり。
唯「んっ」
澪「……ど、どっか寄って帰ろう、唯。少し寄り道しても平気だろ?」
唯「う、うん」
……はあ。
私の方が澪ちゃんより照れて恥ずかしくなっちゃうなんて、思ってもみなかったよ。
澪「……なぁ、唯」
唯「なっ、何かなっ!?」
どうしよう。
乙女ちっくな期待に頬を染めるのは、本当なら澪ちゃんの方だったハズなのに。
澪「帰る前に、もう一回だけ、その……」
唯「も、もっかいだけ、何っ!?」
澪「そのぅ……唯を抱っこさせてくれないかな。すぐ済むから」
唯「いいけど、すぐ済んじゃうんだ……ちぇ」
でも、抱っこしてもらえないよりは嬉しいに決まってる。
だから私はまた荷物を下ろして、澪ちゃんの胸元にすがりついた。
ぎゅ、って優しく、私の背中を抱き締めてくれる。
唯「……はー。やぁらかいしあったかいし、気っ持ちいーよぉ」
澪「唯、何だかさっきよりも可愛い感じだな……」
唯「うにゅ……うん、澪ちゃんありがと……」
澪ちゃんこそ、すごく綺麗な笑顔で笑ってるよ。
これからは、もっと素敵な表情を見せてくれるのかな?
……なんて思ったら、もう胸のどきどきは止まらない。
唯「ね、澪ちゃん」
澪「うん、何だ?」
唯「今の私、さっきまでの……澪ちゃんに『好き』って言う前の私と、ちょっと変わっちゃったみたい」
澪「……あんまり変わってないように見えるけど」
うん。
澪ちゃんの胸にふにふに甘えて、ぎゅーって抱き着いて、やってることは同じだよね。
でもね、やっぱり違うんだよ。
唯「私、自分が『澪ちゃんの彼女』になれたんだなって思うと、どきどきして、ほっぺが熱くなって……ぎゅむっ!?」
顔っ……顔が、澪ちゃんが急に腕を強めるから、本気で埋まって息がっ!?
澪「わ、私だって同じだっ! すごく恥ずかしいけど、でも、ここで頑張らないと、二度とチャンスがないかもしれないって!」
ぎゅううううう。
唯「もがもがもがっ」
澪「だ、から、本当は私、恥ずかしすぎて気が遠くなりそうだけど……勇気出して、唯にも私の気持ちをしっかり伝えなきゃって思うから!」
唯「もがっ……んも……もふう……」
タップ、タップだよ澪ちゃん。
そろそろ、息が、おっぱいの感触は気持ちいいんだけど、呼吸が続かなくなっちゃう。
澪「あっ……ご、ごめん、唯! つい力が入っちゃって……」
唯「は、はう……はぁ、はぁぁ……んもー、澪ちゃん。ちょっぴりお花畑が見えちゃった……」
澪「ごめんってば、唯……私が悪かったよぉ」
別に怒ってないし、息苦しかったけどその分気持ちよかったからいいんだけど。
おろおろ慌てふためく澪ちゃんの姿が可愛くって、私はまた抱き着いちゃって。
唯「んぎゅーう♪」
澪「ふあ!?」
唯「だいじょーぶだよ、澪ちゃん。わざとじゃないってわかってる。澪ちゃんの気持ちも聞かせてもらったし」
澪「そ、そっか……」
唯「でも、抱っこの仕方を覚えてもらわないと、また胸で窒息させられそう……」
澪「ん……だから、それはごめ……んむっ!?」
えいっ、と。
澪ちゃんの肩の上に腕を組み替えて、今度は私の番だよ。
唯「……こんな風に、優しくぎゅってするの。思いっきり抱き締めると相手が苦しがるから、力加減が大事」
澪「うん……」
唯「んでね、こおやって髪にすりすりしたり……これも、相手の反応を見ながらね?」
澪「相手、か……唯は誰にでも抱き着いてたからな、抱っこはお手のものか」
唯「もお澪ちゃんにしか抱き着かないし、抱っこもしない。それに……これは、まだ誰ともしたことないよ?」
ちょっと腕を緩めて、何かと不思議そうに上を向いた澪ちゃんの唇を狙って。
ちゅ、って。
澪「んっ……!?」
唯「ん……え、えへへ。私の初モノのお味は如何だったかな、澪ちゃん」
澪「ふわぁ……唯と、唯の……ふぁーすときしゅ……♪」
ど、どおやらお気に召していただけた模様です。
でも、調子に乗ってもっとしたら、それは逆効果なのです。
唯「わかってくれたかな、澪ちゃん?」
澪「……うんっ」
きゅっ、って今までで一番優しい抱き締め方をされる。
ほんの一瞬だけど、キスしちゃったせいで、澪ちゃんの瞳が乙女ちっくになってるよ……。
澪「唯ぃ……んんむむ、にゅむにゅむ……いつも、こんな幸せな気分になってたの?」
唯「抱っこする側とされる側、どっちが幸せかは、お互いの気持ちによるんじゃないかな」
澪「……じゃあ、私は今、最高に素敵な抱っこをしてもらってるわけだ」
唯「抱っこを甘く見ないで欲しいかな!? こんなのまだまだだよ、澪ちゃん!」
澪「ふぇ!?」
そう、こんなのは抱っこの中でもほんの初歩でしかないんだから。
私だって真の抱っこ道を極めたわけじゃないけど……澪ちゃんとなら、きっと。
唯「素敵な抱っこに必要なのは、相手を想う気持ち。つまり、私が澪ちゃんを今よりもっと好きになれば……」
澪「……もっと、気持ちのいい抱っこをしてもらえる、ってことか?」
唯「ちっちっち、それじゃあ駄目なんだよ、澪ちゃん」
澪「えっ?」
唯「ほんとの抱っこはね、するのもされるのも、お互いにすっごーく気持ちーモノなんだから」
澪ちゃんの方から『私を抱っこしたい』って言ってきたのも、それに目覚めたからだと思うよ?
そうでなきゃ、恥ずかしがりーな澪ちゃんが、自分から言い出せるハズないもんね?
澪「で、でも、私……さっき、唯を窒息させそうになっちゃって……」
唯「さっきはさっきだよ。今は……どうかな、澪ちゃん?」
私に甘えてる澪ちゃんも惜しいけど、私だって澪ちゃんに甘えたい。
だから、自分がこんな風に抱っこしてもらえたら嬉しいな、って感じで澪ちゃんを抱き締める。
澪「……ん。きっと、唯を苦しがらせたりしない。唯が気持ちよくなれるように抱っこする」
今度こそ、澪ちゃんの胸を堪能出来そうです。
声の調子と表情を見て、私はすっかり安心して。
唯「じゃあ、お願いね。澪ちゃんはおっぱい大きいんだし、ぱふってするだけで、誰でも気持ちよくなれるんだから」
澪「うん……でも、やっぱりさ」
また腕を組み替えながら、澪ちゃんがひと言だけ呟く。
澪「唯だって、結構……おっぱい大きいじゃないか」
これに関しては、私はきっと、ずーっと文句を言い続けるんだろうなって思った。
~おしまい!~
最終更新:2011年02月08日 21:31