~ぶしつ!~
唯「え? やっぱり、澪ちゃんのおっぱいは同じ女子から見てもおっきいよ~?」
澪「で、でもさ? 唯だって、こう……見た目で、大きい方だってわかるんだからさ。私をそんな風に言うのは何か違うんじゃないかな」
澪ちゃんの視線が、私の胸元に向けられる。
遠慮がちに、恥ずかしそうに、ちらちらと。
唯「そんなことないよ。澪ちゃんに比べたら、富士山とチョモランマくらいの差があるよ!」
あ、私のおっぱいが富士山みたいって誤解される例えだったね今の。
でも、澪ちゃんには私の言いたいことは伝わったみたい。
澪「そっ……そんなに差はないと思う、けど……」
ああ。
やっぱり、伝わってた。
澪ちゃんは私の胸元から、自分の胸に目を向けて溜め息をつく。
唯「差、あるよ」
澪「……はあ。だから、唯が言うような差はないんだってば」
そういう澪ちゃんの胸を、改めて眺めてみる。
……やっぱし、おっきいよ。
唯「測ってみようか? どっちがおっきいか」
澪「え?」
唯「どうせ、澪ちゃんの方が大きいと思うけどね」
メジャーは手元にないけど、その代わりに交換したばっかりの、あとは捨てるだけの弦を引っ張り出す。
これじゃ足りないかもしんない、って思いながら、手に取って澪ちゃんへ近付いていくと。
澪「や、やあっ!? そんな、食い込みそうなのは嫌だぞぉ!?」
あり。
メジャーが一番いいけど、糸か何か持ってたらよかったね。
生憎と、今日は持ち合わせがありませんので。
唯「痛くしないよ。ただ当ててみるだけだよ?」
澪「嫌だって! 見るからに痛そうじゃんか!」
そっと当てれば、大丈夫だと思うんだけどなあ。
でも、おっぱいって乱暴にすると痛いし、何とかして優しく澪ちゃんの胸の大きさを測るやり方を考えないと……。
唯「……あっ」
澪「あっ? て、何だ?」
唯「抱き着いてみればいいんだ! 少なくとも憂との違いはわかるもんね!」
澪「いやその理屈はおかしくないかっ!?」
抱き着いてみてから、こう、ふにゅっとしてる具合とか柔らかさとか比べてみればいいじゃなーい。
私ってば、ナイスアイディーア。
澪「ちょっ……おい? 駄目だぞ? 駄目ったら駄目なんだぞ、唯?」
唯「えっへっへー……いいじゃん、澪ちゃん? 別に揉むわけじゃないんだから」
手で触って実際に大きさを把握出来れば一番いいんだけどね。
でも、軽く抱き着くくらいにしておかないと、澪ちゃんに本気で嫌がられちゃうし。
というわけで、ぎゅーっと。
澪「ひゃんっ!?」
唯「んぎゅーぅ♪」
あ、やっぱし柔らかい。
私なんて、澪ちゃんのビーズ入りクッションみたいな胸と比べたら、まるでテニスボールだよ。
唯「んう……んにゅ、ふにゅう……」
澪「あ、あぅ、唯ぃ……もっ、もおいいだろ? 満足したろ?」
唯「まーだー。澪ちゃん、あったかいし……気持ちいーし……♪」
離れたくないよ。
満足もしてないよ?
だからもっと、ぎゅうって。
澪「んぅっ……あ、唯……駄目だってばぁ……」
唯「……やっぱ、澪ちゃんのおっぱい、大きいよ。ぷにぷに具合が全然違うもん」
澪「……そ、そうなの?」
唯「うん。ムギちゃんもなかなかだけど、澪ちゃんの方が……何ていうか、気持ちいーし、ずっと抱き着いていたい感じ?」
澪「そう、なのか……ん、とっても恥ずかしいけど……あれだぞ!? みんなが来るまでだからな!?」
あ。
お許し、いただいちゃいました。
唯「……えへ。それじゃ、遠慮なく……んにゅううっ♪」
ぎゅむむっ、ってね。
やっこくてあったかくて、澪ちゃんはやっぱり気持ちいいよ。
澪「ふあ……や、約束だからな、唯……みんなが来るまで……すぐ離れてくれよ?」
そんなことを言うくせに、澪ちゃんは私の髪をなでつけてくれます。
手付きは優しくて、心地よくて、約束守りたくなくなっちゃう。
唯「澪ちゃんは優しいねぇ」
澪「……何となくだよ。頭なでたのは」
多分、もうすぐ誰かが用事を済ませてここへ向かってる頃だと思う。
けど、それまでは澪ちゃんに甘えさせてもらおう。
あったかくて、やぁらかくて、心地いい温もりに。
澪「全く……唯は年相応になれよ。そろそろ『子供っぽい』じゃ済ませられなくなるぞ?」
唯「んふ……じゃあ、その限界まで甘えちゃう。だって、澪ちゃんに抱き着いてると最っ高に気持ちいいんだもん」
澪「んっ……」
今、澪ちゃんがびくって震えた。
本気で嫌がってるみたいじゃないし、私を離れさせないってことは……いいってことだよね。
唯「みーおちゃん♪ んにゅにゅっ、澪ちゃーんっ♪」
澪「ん……仕方ないなぁ、唯は」
なで、なでりと覚束ない手付きで私の髪をなでてくれる。
それを何度も繰り返されるうちに、気持ちよくて、にゅむっと眠気に襲われる。
唯「ふぁ……んぅ、澪ちゃん、私……ちょおっとだけ、お昼寝したいかも……」
駄目だぞ、って言われるかと思ったのに、澪ちゃんは。
澪「……ちょっとだけだぞ。誰か来たら、すぐ起こすからな」
唯「うん……んにゅむ……ん……」
目を閉じて、寝息っぽく呟く。
そうすると澪ちゃんは、まだ私は眠っていないのに、自分から抱き直してくれたりして。
澪「もう、ちゃんとしないと滑って落ちるだろ……落ちて痛がったら、私が悪者にされるんだからな」
だったら、ソファーにでも運んでくれればいいのに。
澪ちゃんは、椅子に座ったまま私を抱っこしたまま、ぎゅってしたまま。
澪「全く、唯は……」
小さく溜め息をつくように呟いて、私をまた、ぎゅってしてくれるのでした。
~そのご!~
律「あらあら。熱烈でございますことね?」
澪「からかうなよ。唯がふざけて抱き着いてきて、そのまま寝ちゃったんだよ」
紬「眠ってしまうくらい、澪ちゃんのおっぱいがふかふかな感触っていうことよね?」
梓「……先輩がた、不潔です」
実は既に起きてるし、全部聞こえてるんだけどなあ。特にあずにゃん、酷いなあ。
私、りっちゃんやムギちゃんの胸でもほんわか出来るし、あずにゃんだって、ぺったんこで感触は寂しいけど、不思議と幸せ度はMAX近いんだよ?
紬「お茶の準備をしたら起きるかしら」
律「あー、有り得るな。頼む、ムギ」
梓「今日のお菓子が何か、まだわかりませんが……甘い匂いで飛び起きるんじゃないです?」
むむむむむ、しっけーな。
危うく本気で寝ちゃいそうなとこを我慢して、意識を保っている私ですぞ?
紅茶はともかく、お菓子の匂い如きにつられるなんて……。
紬「今日はチョコケーキなの~」
律「チョコ!」
澪「……チョコ?」
ううっ。
みんなして、そんなに反応しなくてもいーじゃん。
梓「チョコケーキですか……ほぅ……♪」
目を閉じてるから、どんなケーキなのかわかんない。
うう。
でも、澪ちゃんに抱っこされてる感触だって捨てがたいよぉ。
澪「唯は寝てるみたいだし……みんなで分けて食べちゃおうか」
唯「澪ちゃん酷いっ!?」
律「おー、起きたな」
唯「……はっ」
澪「約束だったよな、唯。みんな集まったから、もう離れてくれよ」
そんなの、澪ちゃんが先に破ったじゃない。
『みんなが来たらすぐに起こす』って言ってたのに、ね。
唯「ケーキ食べたらまた抱き着いてもいい?」
澪「駄目だめ、おふざけはお終い。食べたら練習しなきゃ」
唯「練習が終わってからだったら、いいの?」
澪「いい悪いの問題じゃなくって……ああもう、みんな! 面白がってないで何とかしてくれぇ!」
……あり、私の背中に回ってた澪ちゃんの腕が緩んじゃった。
みんなに見られて恥ずかしさが限界になっちゃった、かな。
律「よしよしよーし、唯。ちちっち、ちっ、ケーキはこっちだぞ~」
紬「ふふふ……ふ、くふっ……す、すぐ紅茶淹れるわね」
私を犬猫みたいに扱おうとするりっちゃんはともかく。
ムギちゃん、そこまで残念そうな笑顔っていうのは、私この歳まで生きてきて初めて見たよ。
梓「……ええと、私は……私は……」
ああ……そのおろおろ葛藤してる表情は堪らなく可愛いけど、無理しなくていいんだよ、あずにゃん?
律「へーぇ? 梓はどうやって愛しの唯先輩の気を惹くつもりなんだ?」
澪「律、からかうなよ。唯も梓もそんな気は全然……」
梓「さ、さあ、唯先輩! 今日は特別に、三分間だけ自由に抱っこさせてあげますっ!」
ぬぁ!? 何ですと!?
唯「三分も自由にしていいの!? 聞いたよ、みんなも聞いたよね!?」
思わず、がばぁって飛び起きちゃう。
梓「にゃっ!?」
私の勢いに、びくうって肩を震わせるあずにゃん。
でも、立ち上がろうとする直前に、ぎゅっと身体を捕らえられた。
澪「……唯の、浮気者」
唯「ふあ……」
他のみんなには聞こえないように、耳元でぼそっと。
澪ちゃんにそうささやかれて、何だか毒気みたいなものが私から抜けてく。
澪「唯。部活が終わった後、ちょっと残れ。今日という今日はお説教してやるからな」
唯「うっ、うん……ごめんなさい……」
完全に出鼻をくじかれちゃって、でも、澪ちゃんは私の手を引きながら立ち上がってくれた。
私が調子に乗りすぎたから、怒ってるのかな。
でも、それならぎゅっと握ってる手の説明が付かないよね。
律「うわ、やっちゃったな唯。こえー。キレた澪こえー」
澪「うん? 別に私はキレてないぞ? 律」
律「おひょう!? そっ、そうだよな、優しい澪しゃんはキレたりしない! 怖くない!」
りっちゃんに向けられた微笑みは、間近で見るとそれはそれはもう……。
澪「唯も、な? 聞き分けてくれるかな?」
唯「はいいっ!」
声はものすごく優しかったのに、私は思わず気を付けしながら返事をしたり。
梓「……ほっ」
あずにゃんは、自分でも三分間無制限抱っこ一本勝負は無茶だったと思ってたらしくて、あっち向いて胸をなで下ろしてるし。
ムギちゃんはティータイムの準備で忙しそうにしてるし。
律「いいか、唯? 澪の説教の間はふざけないで真面目に聞くんだぞ? じゃないともっと怖いからな?」
唯「う、ん」
私の指定席に座ろうとすると、りっちゃんが深刻そうな表情で忠告してくれた。
今の澪ちゃんの顔、私とりっちゃん以外、誰も見てなかったのかなあ。
……あ、何故かトンちゃんが壁の方へ必死に泳いでいってる。
もう水槽の端っこで進めないのに、変だねえ。
~ぶかつしゅうりょう!~
梓「はー。久々にまともな演奏をした気がします」
律「そうだな。久々でもこんだけ演奏出来るあたしらって、マジで才能あんじゃね?」
梓「だったら毎日もっと真面目に練習するべきです!」
紬「うふふふ。ごもっともだけど、私はそろそろ帰らないと家の者が心配するから~」
私と澪ちゃん以外のみんなが帰る準備を済ませて、ドアを開ける。
律「じゃあな、唯! ご愁傷様!」
梓「それでは、唯先輩、澪先輩。また明日」
紬「うふふふふふふふふふ。もしよかったら、あとでお話聞かせてね?」
ばたむ。
唯「…………」
澪「…………」
みんなより時間をかけて弦を拭いたり、指板やフレットの手入れをしてみたり。
うん、単なる時間稼ぎにしかならないってことは、充分わかってるんだけど。
澪ちゃんは本当にお説教をするつもりなんだか、私より先に帰る素振りがない。
唯「やー……弾いた後は、きちんと拭いてあげないとねえ? すぐ錆び錆びになっちゃうもんねえ?」
澪「そうだな」
……ああ、神様。
どうして澪ちゃんも、私の行動を読んでいるかのように同じくお手入れしてるんでしょうか。
……うん、ベースだって仕組みはギターと同じだから、お手入れの仕方も同じで当たり前なんだけども。
唯「……ふう。それじゃお疲れ様、澪ちゃん!」
ギー太をケースに仕舞って、カバンを拾って緊急脱出!
……しようとしたら。
澪「待って、唯」
唯「……うん」
澪ちゃんの真面目な声に呼び止められて、足が止まった。
澪「まず、ひとつだけ教えて欲しいんだけど」
澪ちゃんもベースを仕舞って、帰り支度は万端。
なのに帰らないのは、幼馴染みのりっちゃんさえも恐れさせるお説教を私にする為……だよね。うん。
今日はいきなりちょっとやりすぎたかも。
唯「なっ、何かな、澪ちゃん?」
澪「あ、あのさ、変なこと聞くかもしれないんだけど……」
唯「うんっ!?」
ギー太のケースと、カバンを握る手に力がこもる。
何か、変な汗をかいちゃってるかもしんない。
けちょんけちょんに叱られちゃったら、どうしよう……って。
澪「……唯は、誰でもいいのか?」
唯「……ほへ?」
澪「いやいや! 今のは言い方がおかしかった! 忘れてっ!」
あれ?
お説教とか、怒ってるとか、そういう雰囲気じゃない……よ?
むしろ恥ずかしがってるような、乙女ちっくな香りがする。
唯「澪ちゃん?」
澪「うう、うっ……その、唯は……抱き着けるなら、誰が相手でもいいのか、って……そう聞きたかったんだ!」
……そりゃあ私、隙あらば誰にでも抱き着いてる感じだけど。
好きな人にしか、しないよ? 出来ないよ?
りっちゃんも好きだし、ムギちゃんも好きだし、あずにゃんも好き。
勿論、澪ちゃんは……だーい好き。
唯「澪ちゃん、もしかして……どくせんよく?」
澪「なっ……」
唯「えへ……もしそうだったら、いいよ。澪ちゃんが私をそーゆー目で見てくれてるんなら……」
澪「んっ、そ、そーゆー目、って」
唯「『私以外に抱き着くな』って、ゆって。そしたら私、もう澪ちゃんにしか抱き着かないから」
澪「い、や、そんな話をしたいわけじゃなくって……大体、独占欲なんて私は全然……」
唯「……私は澪ちゃんに独占欲。澪ちゃんも私を独占欲……だったらいいなあ?」
荷物を置いて、ゆっくりと澪ちゃんの下へ進む。
澪ちゃんは恥じらって目を伏せて、でもちらちらと私の顔を見ながら、自分で自分の身体を抱き締めてる。
澪「んぅ……わ、私は……その……」
唯「もし、澪ちゃんが私を独占したかったら……来て、澪ちゃん」
さっきは、まぁ、約束っていうには大袈裟だったけど……ずっと抱っこしててもらったから、今度は私がする番だよね。
そんな気持ちを込めて、両腕を大きく広げる。
澪「う……あ、う……あう……」
唯「おいで、澪ちゃん。さっき澪ちゃんがしてくれた分、お返しに私も抱っこしてあげる!」
澪「ゆっ、唯っ……いや、抱っこがどうこうじゃなくって……」
唯「私、色んな人に抱き着いてるけど……私にも、独占欲はあるんだよ?」
澪「……ん、くっ」
澪ちゃんは、まだ色々と言いたそうだったけど。
全部飲み込むように、喉を鳴らす。
唯「私は、澪ちゃんを独占したい」
澪「唯っ!?」
最終更新:2011年02月08日 21:30