数日後 澪宅!

唯「おじゃましまーす」

澪「いらっしゃい。さて唯、今日は私は先生だから、澪ちゃんって呼んじゃダメだぞ」

唯「はーい」

澪「はいはのばしちゃダメですよ、唯ちゃん」

唯「わ……は、はひ」

唯(澪ちゃんに唯ちゃんって呼ばれちゃった……なんかドキドキする)

唯「先生おはよーございます」ぺこり

澪「唯ちゃん、おはようございます」

唯(きゃーきゃー!)

澪「さて、今日はひらがなのお勉強をしましょうね」

唯「澪ちゃん、私ひらがなくらい書けるよ~」ぶー

澪「唯ちゃん、地に戻らないでくださいね」にこっ

唯「ふ、ふぁいっ!」

唯(すごい……完璧になりきってる!)

唯(そして澪ちゃんの先生スマイル……素敵だよぅ)

澪「これが、『ゆ』の字です」

唯「ふむふむ」

澪「唯ちゃんはゆのつく言葉、言えるかな?」

唯「はいはーい!」

澪「言ってみて」にこっ

唯「ゆとり教育!」

澪「数字のお勉強をしましょう」

唯「はーい!」

澪「これ、いくつかな?」

唯「2つ!」

澪「2つあるもの、ほかに言ってみて」

唯「乳首!」

澪「歌を歌いましょう!」

唯「はーい!」

澪「唯ちゃんは歌いたい歌、あるかな?」

唯「レット・イット・ビー!」

澪「……もっとかわいい歌にしましょうね。森のくまさんとかぞうさんとか」

唯「じゃあ、ふわふわ時間!」

澪(唯……!)

澪「はい、手を合わせてー」

唯「いーたーだーきーます!」

澪「いただきます」

唯(澪ちゃんちのご飯、おいしい)

唯(そういえば、澪ちゃんのおとーさんやおかーさんは何やってるんだろ?……はっ!)

澪ママ「……」にやにや

唯(見られてる!)

唯(我に返ってみるとこれ……すごく恥ずかしい!)

澪「唯ちゃん、好き嫌いしないでちゃんと食べましょうね」

唯(澪ちゃん澪ちゃん、黒歴史ぶっちぎりの行為がおかーさんに見られてるよ!)

澪「ほら、あーんして」

唯(いやちょっと待って思いっきり笑われてるよぅ)

澪「あーん」

唯(いやああああああ!!)


午後!

澪「散歩に行きましょう!」

唯「はーい」

唯(無の境地とは、こういうことでしょうか。私のなけなしの羞恥心は、とうに失われてしまいました)

澪「出発!」

唯「しゅっぱーつ!」

唯(あの頭よくてクールな澪ちゃんが、こんなにノリノリになるとは、誰に想像できたでしょうか)

唯「今日はいいお天気」

澪「唯ちゃん、あそこの枝にカタツムリがいます」

唯「おお、本当!かわいいなぁー」

澪「唯ちゃんも、自分のペースでゆっくり歩きましょう」

唯「はーい」

唯(澪ちゃん、優しいなぁ。いい先生になるだろうなぁ)

唯(というか、もう先生になれるんじゃないかな?……そうだ!)


一時間後……

澪「今日はこれでおしまいです」

唯「先生さようなら」

澪「唯ちゃん、さようなら」

唯「……」

澪「……お」

唯澪「終わったあああああ!」

澪「ふー、疲れた。でもあんまり緊張しなかったな。唯、ありがとう」

唯「どういたしまして!澪ちゃん、すごくいい先生だったよ!」

澪「ほ、本当?」

唯「うん!今からでもきっと先生になれるよ!」

澪「あ、ありがと……」

唯「そこで、なんだけど」

澪「?」

……

澪「模擬授業?」

唯「そう!りっちゃんとかムギちゃんとかあずにゃんにも生徒になってもらって、簡単な算数とか国語やるの!」

澪「私がやりたいのは幼稚園の先生なんだけど……」

唯「小学校の先生のスキルがあっても、問題ないでしょ?」

澪「……確かに」

唯「やってみようよ。澪ちゃんは教えるのうまいし、軽音部のみんなの前なら恥ずかしくないでしょ?」

澪「……うん、やってみる!唯、今日はいろいろとありがとう!」

唯「楽しみに待ってるね」


翌日!

律「……なるほどな。少しずつ人数を増やして、慣れていくわけか」

唯「協力してくれるよね?」

律「あったり前よ!かわいい澪ちゃんのためだぜ!」

紬「いいわぁ、私小学校に戻りたいってたまに思うの~」

唯「りっちゃん、いつもみたいに寝たり漫画読んじゃダメだよ?」

律「お前こそな!」

唯「てへへ……」

紬「でも、梓ちゃんにも知らせておいた方がいいんじゃないかしら?」

律「そうだな。私から伝えておくよ。えーと、ケータイどこだっけ?」

姫子「律ー、ちょっといい?」

律「お、何なにー?」

……


当日!

梓「こんにちは……あれ?なんですか、この机の配置」

唯「おー!あーずにゃーん!」

梓「にゃっ!?……だ、抱きつかないでください!で、これなんなんですか?」

唯「えっ、覚えてないの?今日は澪ちゃんの模擬授業なんだよ?」

梓「は、はぁ?」


梓「えーっ!そんなの聞いてないですよ!」

紬「……りっちゃん」

律「あちゃー」

唯「まあまあ、とりあえず座って」

梓「冗談じゃありませんよ!また練習できないじゃないですか!」

唯「あ、あずにゃん落ち着いて……」

梓「これが落ち着いてられますか!」

律「……やれやれ。ところで憂ちゃん」

憂「はい?」

律「どうして憂ちゃんがここに?」

憂「どうもあの先生は信用ならないので。保護者参観です」にこにこ

律「……は、はぁ……」

律(あの着替え事件、まだ根に持ってるのか)

がちゃ

紬「あら澪ちゃん、いらっしゃ……い」

澪「こ、こんにちは。みんな、せ、席についてください……」


唯「おお!澪ちゃんがスーツだ!」

律「いつの間に!」

さわ子「私のお手製よ!」

律「出たー!」

さわ子「何よぅ、人をお化けみたいに。現職の教師の立場から、いろいろとアドバイスしてあげるの」

澪「あ、あ、ありがとうございます……」

唯(澪ちゃん、あがってる……大丈夫かなぁ?)

澪「そ、それでは、一時間目の授業を始めたいと思います」

唯律紬「はーい」

梓「……」むすっ

澪「そ、それでは。プリントを見てください……」

憂「先生。私の分のプリントがありません」

澪「えっ……で、でも、保護者の方のプリントは用意してなくて……」

憂「親は素人だから授業に介入するな。保護者には授業に参加する権利を与えない。あなたはそうおっしゃるわけですね?」

澪「ち、ちがっ……そういうわけでは……ございません」おろおろ

唯(澪ちゃん、がんばって!)

澪「……えーと、それでは、今日はかけ算の九九について」

憂「先生。これは一年生の授業ではなかったのですか?」

澪「い、いえ。明確に決めたわけでは……。」

憂「九九は二年生の分野ですよ。あなたは故意に生徒に無理難題を押しつけています」

澪「は、はあ……」

梓「……」がたっ

澪「中野さん、授業中に立ち歩かないでください」

梓「トイレ行ってきまーす」

澪「え……ど、どうぞ」

澪「……ミカンが二個入った袋が五つ。これが2×5というわけです。わかりましたか?」

唯律紬「はーい」

梓「わかりません」

澪「ど、どこがわからなかったのかな、中野さん?」

梓「先生、お水飲んできまーす」

澪「え……ど、どうぞ……」

唯(……まずい)

澪「この問題、解けた人はいますか?」

紬「はーい」

唯「はいはい!」

澪「琴吹さん、どうぞ」

紬「8です」

澪「正解です……なんでしょうか、平沢さん」

憂「先生。今のはうちの子の方が手を上げるのが早かったはずです。なぜ琴吹さんを当てたのでしょうか」

澪「……」

唯「う、憂。もういいから……」ひそひそ

憂「生徒をえこひいきするなど、教師としてあるまじき態度と思われます。違いますか?」

澪「あ……あ……」

梓「……バカバカしい。私、練習してますね」

澪「な、な、中野さん……今は音楽の時間じゃ……」

梓「♪~」ジャカジャカ

憂「話になりませんね。唯、転校の手続きを取りにいきますよ」

澪「……ッ!」

ガチャバタン!

紬「あ、澪ちゃん!」

律「澪!」

唯「澪ちゃん、待って!」

澪「……はぁ……はぁ……」

澪「私……ダメだ……先生なんて、むいてないんだ」

澪「……う、ぐ……」じわっ

唯「澪ちゃーん!」

澪「……ゆ、い」

唯「ごめんね澪ちゃん、私が模擬授業なんかやろうって言ったから!」

澪「……ううん、唯は悪くないよ。私が教師に向いてなかっただけなんだよ」

唯「そんなことない!そんなこと言わないで!」

澪「私、どもりっぱなしだし、ひいきするし、生徒には愛想尽かされるし……最低だよ。教師失格だよ」

唯「そんなごど、いうなあ!」

澪「!?」

唯「わ……わだし、うれしかった、もん!みおちゃんの、じゅぎょー!とってもやざじくて、ていねいで!」ポロッ

澪「唯……」

唯「だ、だがら、さいてー、とかいうなあ!やめる、なんでいうなあ!うわああーん!!」ボロボロ

澪「ゆ、唯……泣かないで……」なでなで

唯「うえっ!うっ、う゛う゛う゛ー!」ボロボロ



「そうね、なかなか丁寧だったわね。だけどまだまだね」


澪「さ……」

唯「さわちゃん……ぐすっ」

さわ子「澪ちゃん、あなたに足りないもの、わかる?」

澪「えっと……教え方、ですか?」

さわ子「いいえ。……まあ、教え方もまだまだ未熟だったけど。それ以上に大切なものが、あなたには欠けてるわ」

澪「な、なんですか?」

さわ子「……気迫、かしらね」

澪「気迫、ですか」

さわ子「そうよ。躾の悪い子供やモンペを黙らせるには、それなりにドスがきいてないとダメなのよ」

唯「ほうほう」ぐすっ

さわ子「私も昔は苦労させられたわ。タチの悪い連中やクレーマーなバカ親に」

澪「どうやって対処したんですか?」

さわ子「ちょっと眼鏡外して……睨みきかせるだけよ」

唯澪「……」ぞくっ

さわ子「連中、所詮は威勢だけの犬コロよ……こちとらデスデビルのメンバーだったんだ、ナメられてたまっかよ」

唯「……あ、あー!なるほど!すごいね、澪ちゃん!時代は気迫だよ!」

澪「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない……」

さわ子「……はあ、まだまだね」

さわ子「とにかく!始めてもいないうちから諦めるなんてつまらないわよ!しっかりなさい!」

澪「先生……ありがとうございます」

唯「あれー?でもさわちゃん先生、教師になってからは過去を封印するとか言ってなかったっけ?」

さわ子「さーて、戻るわよ。みんな心配してるわ」

唯「スルーされた!」

ガチャ

紬「あ、澪ちゃん!」

梓「澪先輩、すみませんでした!私、イライラしてて、つい……」

律「私が悪かったんだ。梓に報告するのを忘れたから……ごめんな」

憂「澪さん、ごめんなさい。私、こないだのことで澪さんのこと勘違いしてて……」

澪「……みんな」

唯「……澪ちゃん」

澪「おほん!さて、練習するぞ!」

律「澪!」

澪「教師になる前に、まずは文化祭ライブだ!」

憂「……お姉ちゃん」

唯「なーに?」

憂「私も聴いていっていい?」

唯「いーよ」

憂「あ、ありがとう!……ごめんね」

澪「唯、急げー。始めるぞ!」

唯「わあっ、澪ちゃんが気迫だ!」



終わり