N市 とあるスーパーマーケット

唯「ねぇー憂」

憂「ん? どうしたのお姉ちゃん……あ」

唯「にへへ。一本買っていってもいいですかね?」

憂「またお酒? お姉ちゃんすごく弱いんだからだめだよ」

唯「一杯だけだからさ。ね?」

憂「んー……約束だよ? あと勝手に飲まないこと」

唯「うん約束! えへへっ、ありがとう!」コトン

憂「わっと……えーっと、これで後は福豆だけかな?」

唯「しいたけは?」

憂「もうあるよ。きゅうりにかんぴょうに……あれっ、たまご家にあったかな?」

唯「あっ、タマゴならないよ。昨日の夜わたしが食べちゃったから」

憂「……そういうのはちゃんと報告してくれないかな?」

唯「えへへっ、ごめんね」

憂「お姉ちゃん。去年と違って今は二人暮らしなんだから、そういうの気をつけなきゃだめだよ?」

唯「そっかぁ、わたし憂と同棲してるんだもんね」

憂「ぅ……もうっ、真面目に聞かないんだから……」

唯「憂てれてるー」

憂「……とにかく、タマゴとあと福豆だね」

唯「あ、わたしタマゴ取ってくるよ」

憂「ううん、お姉ちゃんは豆探してきて? レジのあたりにあると思うから」

唯「そう? じゃわかった、行ってくるね」

憂「いってらっしゃーい」

憂(……さて、タマゴタマゴ)

――――

憂「あ、いたいたお姉ちゃん……って!?」

唯「おういー、豆ってどれくらい買ったらいいのー?」ガサガサ

憂「一袋でいいってば。私たちの家そんな広くないんだから」

唯「そっかー。実家は広かったからなぁ……何袋も買ってたよねぇ」

憂「ほら、棚に戻して」

唯「……んー。お家の話、憂はきらい?」ガサガサ

憂「……お姉ちゃんのせいでしょ。1年も家に置いてけぼりにされたら嫌にもなるよ」

唯「私だって、憂が生まれてくるまで1年ひとりぼっちだったけどなー」

憂「それは……そうだけど」

婆「すまんの、豆とらせてくれんか」

唯「あっはいっ、ごめんなさい」ササッ

婆「仲いいの」

憂「あはは……」

憂「……」

唯「ま、いいよね」

憂「うん?」

唯「これからはいつだってどこだって、憂と一緒だよ」

唯「だからお家のことも、あんまり嫌わないでほしいな……」

憂「……わかってる。わかってるんだけど、ね」

唯「……買うものみんな揃ったっけ?」

憂「うん、そのはず。会計して帰ろっか」

唯「ん。あそこのレジ空いてる」

憂「よっし、行こう」カラカラ

唯「いよっと」ボスン

店員「いらっしゃいませー」

 ピッ ピッ

唯「……」じーっ

憂(また見てる……)

憂「そんなにぴっぴが好きならスーパーでバイトしたらいいのに」

唯「ぴっぴ……?」

店員「ふぷっ」

憂「っ……」カアッ

憂「だって……あれなんて言うのかわかんないもん……」

唯「かわいいなぁーういういー」うりうり


店員「ふ……あ、えっと、こちらお酒なんですが」

唯「あ、わたしこれでもハタチなんですよ」

店員「身分確認できるものはお持ちですか?」

唯「学生証で大丈夫ですか?」

店員「はい、大丈夫です」

唯「んと……」ゴソゴソ

唯「はい」

店員「どうも」

唯「……ぴっぴ」ボソッ

店員「グフッ! げふん、はぁ、はい、お返しいたします」

唯「どもども」

憂「……お姉ちゃん、店員さん困らせちゃだめだよ?」

唯「うふふ、ごめんねぴっぴちゃん」

店員「ふぅっ。お会計4,286円です」

憂「んっと。……はい」

店員「えー、4,536円お預かりします……」

店員「250円のお返しです。ありがとうございましたー」ペコリ

憂「行くよっ、お姉ちゃん」

唯「ほいほーい」

憂「はぁっ……まだ顔熱いよ」ペタペタ

唯「……」ガサガサ

憂「お姉ちゃん?」

唯「うい、早く袋に入れて帰ろう。あの店員さん、ときどき憂のほうチラ見してる」

憂「……いや、女の人だよ? それに見られるのもしょうがないような」

唯「いいから早く行こうって」

憂「……はーい♪」

――――

 小さなアパート 202号室

憂「よいしょ、ただいまー」

唯「うあー、重かった」

憂「お酒の瓶があったもんね。お姉ちゃん大丈夫?」

唯「大丈夫じゃないからこたつであったまるー」スタスタ

憂「そっか。休んでていいよ、わたし恵方巻きの準備するから」

唯「おーう、よろしう頼みます……」

憂「……さてと。がんばるぞっ!」

憂(お姉ちゃんの健康と幸福を願うお料理、手は抜けない!)

憂「……」モクモク

憂「……」モクモク

憂「ふっふーふーふーん」カチャカチャ

憂「すっきすっきーだーいすっきー……」

唯「うい?」

憂「わっ! お姉ちゃんどうかした?」

唯「ねぇねぇ、豆まきしなーい?」すりんっ

憂「ふあ……えっと、ちょっと待って。タマゴ焼いちゃったら、一旦冷ますから……」

唯「うい……」ゴソッ

憂「へ……ちょっと、どこに手入れて……」

唯「……ん。お豆さん探し」

憂「あのね……いたっ!?」ビク

唯「あっ、ごめ……」

憂「もうっ、あっち行ってて!」

唯「ごめんね……」

憂「……いいよ。待たせちゃってる私がいけないんだし」

唯「ごめんなさい……」ショボン

 トボトボ…

憂「……」

憂(ちゅーは良いけど……やっぱりHはまだ)ジュー…

憂(……タマゴ焦げちゃうって)カチャッ

――――

憂(よし。これで下準備はできたし、具材は冷蔵庫に入れておいて)

憂「お姉ちゃーん?」

唯「……うい?」

憂「準備終わったから、豆まきしよ? ……変な意味じゃないけど」

唯「ん……よーし、鬼を追いだすぞっ!」

憂「おー!」

唯「さて、じゃあ豆の袋を……」ガサッ

憂「……お姉ちゃん。なんか少なくない、それ?」

憂「というか……なんでもう開いてるの?」

唯「だっておいしくって……」

憂「これじゃちょっとしか撒けないよ。どうする?」

唯「うぅむ」

唯「大事なとこだけにしよう。両手に5粒ずつ持って。憂も」ガササ

憂「う、うん」

唯「わたしと憂の両手で4ヶ所だけ、大事なところの鬼をはらおう」

憂「なるほど。じゃあまずは……玄関かな」パタパタ

憂「鬼はー外!」パララッ

唯「ほー、憂はそうきましたか。私はまず~」トタトタ

憂「まず?」

唯「憂がいつもいる台所っ! 鬼はー外!」パララッ

憂「わぁ。……えへへっ」

唯「大事な憂には一匹たりとも鬼は近づけないよ!」フンス

憂「じゃあ私は……」パタパタ

唯「ういはー?」

憂「お姉ちゃんがいつもいるおこたの中!」バサッ

憂「鬼は外ー!」パララッ

唯「ほほう、んじゃー私はっ」

憂「うん、うんっ?」

唯「憂と愛をはぐくむベッド!」パララッ


憂「ウフッ! ゲフ、お姉ちゃん!?」

唯「えぇー、何で笑うの憂ー?」

唯「いつもベッドでいっぱいちゅーちゅーするじゃん! 愛の営みだよ!」

憂「だ、でもだって、キスとエッチは……」

唯「違う?」

憂「……と、思うよ?」

唯「わたしは一緒だと思うなぁ」

唯「なんか、少なくともステップで別れてるようなものじゃないかなって」

唯「どっちも憂を愛してるから、したいって思うんだよ?」

憂「……」

憂「なんか、ちょっと勇気出たかも」ニコッ

唯「では」

憂「でもまだ待って!」

憂(……あ)

唯「えへへ、冗談だよぅ。じゃ憂、年の数だけ豆を食べよう」

憂「38個も残ってるかな?」

唯「足りなかったら豆を半分に割って、2個ぶんに数えたらいいんだよ!」

憂「節分をつくったご先祖さまたちが泣くだろうなあ……」


 ポリポリ…

唯「んふふ、おいしぃ~」

憂「だねー。ぜんぜん残ってないけど」

唯「ふふっ、まあ食べたかったらまた明日買いに行けばいいんだよ」

憂「節分に食べるのが大事なのに……」ポリポリ

唯「憂は慣習にうるさいよねー」

憂「う、うるさいかな……」

唯「もうちょっとゆるくてもいいじゃない、ねぇ?」

憂「お姉ちゃんはゆるすぎ。先輩のお酒を断り続けて怒られて泣いたんじゃなかったっけ」

唯「だって、私酔ったら危ないもん! 憂以外の前じゃ絶対飲めないって」


唯「憂だって分かってるでしょ? それは」

憂「そうだけど、……んん、やっぱり嬉しいや」

唯「でしょでしょ~」ごろんっ

唯「もう私って、けなげで最高の彼女だよね」

憂「うん。最高のお姉ちゃん」

唯「ぷふー」ポリポリ

憂「……」パキッ

 ポリポリ

唯「いま何個たべたっけ……」

憂「お姉ちゃんはもう20個以上食べてるから気にしなくて大丈夫だよ」

唯「憂がいま16個だから私は18個ぐらいかな……」

憂「あくまで食べるんだね」

――――

憂「お姉ちゃん、お姉ちゃん」ユサユサ

唯「んあぁ……だめぇん憂ぃ~……」

憂「変な声だしてないで。起きて。恵方巻き食べようよ」

唯「ハッ! 恵方巻き!」ガバッ

憂「いちおうお酒も持ってきたからね」

憂「食べ終わったら、1杯だけ飲んでいいよ」

唯「わかった、いっぱい、ね?」

唯「ほれ、私の横おいでー、うい」

憂「じゃあ失礼して、よいしょっと」

唯「ういー、いらっしゃーい!」ナデナデナデ

憂「ん、えへへ」

憂「材料ちょっと多かったから3本作ったけど、多かったかな?」

唯「3本……1本あまるよ、憂?」

憂「それはお姉ちゃんが食べていいよ」

唯「えーっ、やだよ半分ずっこがいい!」

唯「ん、半分ずつ……そうか、ほぉう」

憂「どうしたのお姉ちゃん?」

唯「ちょっとね。まぁいいから食べようよ!」

憂「あっ、待ってお姉ちゃん」

唯「ほえ?」

憂「こほん。恵方巻きを食べる時はね、目を閉じて、何も喋っちゃいけないんだよ」

憂「口を開けると、せっかく食べた幸せが逃げちゃうんだって」

唯「へー、なおさらだね」

憂「なおさら?」

唯「あぁいや、こっちの話で。じゃあ改めて……」

憂「お姉ちゃん、恵方巻きなんだから恵方を向かないと」

唯「あ、そっか。んーと、南南東だったよね」

憂「うちの窓が真南だから、こっからちょっとだけ左を向いて」

唯「このくらい?」

憂「うん、ちょうどいいと思うよ」

唯「よしっ! では目を閉じて……いただきます」

憂「いただきまーす」


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