唯「むぎ!!」
ムギちゃんはいつも通りの笑顔で微笑んでいた。
やっぱりムギちゃんは最後までいつものままなんだな。
紬「みお!!」
ムギちゃんは笑顔のまま綺麗な音を残し消えていった。
最後の声をかけられた澪ちゃんは泣いていた。
でも演奏は今までで一番、りっちゃんとぴったり息の合った演奏だ。
私、あずにゃん、りっちゃんと目配せした。
りっちゃんは澪ちゃんに笑顔で返していた。
澪「りつぅっ!!」
澪ちゃんも卒業することができた。
りっちゃんは澪ちゃんが卒業した瞬間に泣き出してしまった。
でもドラムの音は力強いままで、まるで誰かに何かを伝えているようだ。
律「うぉぉぉぉぉあずさぁぁぁ!!!」
力強くドラムにスティックを叩きつけ、大きな笑顔でりっちゃんも卒業した。
ついに私とあずにゃんの二人だけになってしまった。
もはや客席は完全に静まり返り、私たちの演奏だけが響いている。
目配せをするとあずにゃんは楽しそうに泣いていた。
だいじょうぶです――あずにゃんの顔はそう言っているような気がした。
梓「せーのっ!!」
『『『『ゆい!!!!』』』』
私のソロ。
みんなの姿はもう見えないけど演奏は聞こえてくるよ。
ムギちゃんのキーボード、澪ちゃんのベース、あずにゃんのギター、りっちゃんのドラム。
唯「けいおん!大好き――――」
…………………
……………
………
…
新しく…生まれ変われたら…みんなとの約束、絶対に守らなきゃ…
澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、あずにゃん、さわちゃん……
それから…もし、また私に妹ができたら…うんと優しくして今度こそ絶対に守ってあげよう……
それから…それから…またギターを始めるんだ…きっと……また…ギー太と……
…それから……それから……
…なんだっけ…………?
もう思い出せないや―――――
…………………
……………
………
…
「…わぁ!左利きなんだ!すごーい!」
「ひっ」
「みんなー!すごいよー!左利きだよー!」
「うぅぅ……」
「なにかいてたのー?」
「……」
「…どうしたの?」
「……はずかしい…」
「うーん…じゃあさ、お友達になろうよ!」
「お友達…?」
「うん!お友達どうしならはずかしくないでしょ?へへ」
「……」
「…だめ?」
「ううん…いいよ…」
「やった!じゃあ今から私たち、お友達だね!私の名前は―――」
…………………
……………
………
…
「お姉ちゃん!起きて!朝だよ」
「…おはよー……」
「はい、これ今日の用意。ご飯できてるから早く着替えて降りてきてね」
「うぃ~……」
うーん、高校生か……
せっかく高校生になったんだし、なにか新しいこと始めたいな……
…なにか……そう、なにか―――
…………………
……………
………
…
「こねー……」
「もういいだろ…私は文芸部に……」
「あのー…」
「きたぁ!!入部希望の人!?」
「えっと…合唱部に……」
「お願い!軽音部、今月中に四人集まらないと廃部になっちゃうんだ!入部して!!」
「こら…無理やり誘うなよ」
「…なんだよ!あの時の約束は嘘だったのか!!」
「……約束…」
「…捏造…すんなっ!」
「あだっ!!」
「ふふ……」
「あぁ…ごめん……」
「いえ…楽しそうだな、と思って。私でよろしければ是非入部させて下さい」
「ホントに!?やったぁぁ!!」
「ありがとう!…えっと……」
「はい、私の名前は―――」
…………………
……………
………
…
なにか新しいことを始めたくて軽音部に入部届を出したけど、怖い人だったら嫌だし、やっぱり辞めさせてもらおう……
「君だよね!?入部してくれるっていう子!」
「ごめんなさい!実は辞めさせて下さいって言いに来たんです!」
「え……」
「本当にごめんなさい……期待させるだけさせておいて……なんて謝ったらいいか……」
「…そっか……じゃあさ、最後に演奏だけでも聞いていってよ」
「演奏、してくれるんですか?」
「うん!……よし、やるか!ワン、ツー!」
どうしてだろう……演奏はバラバラで全然上手じゃないのに…すごく楽しそう……
「ふぅ…どうだった?」
「あの…なんだかうまく言えないんですけど……あんまりうまくないですね!でも…すごく楽しそうで……」
私も……一緒に―――
…………………
……………
………
…
「この写真…先生だよね?」
「うっ…なんでわかったの……」
「へーまさか先生にこんな過去があったとは……」
「うぅ…お淑やかなキャラでいこうと思っていたのに……」
「バラされたくなかったら顧問になってください!」
「はぁ…わかったわ」
「やったー!」
「もう…私が顧問になったからにはビシバシいくわよ―――」
…………………
……………
………
…
どうして……?
…どのバンドも軽音部より上手くてすごいのに、どうしてあの四人だとすごく良い演奏になるんだろう……
私も…私も……あの中に入れたら……きっと―――
…………………
……………
………
…
ねぇ、あたし。あの頃のあたし。
心配しなくていいよ。すぐ見つかるから。
あたしにも出来ることが、夢中になれることが、
大切な、大切な、大切な場所が―――
「けいおん!!だいすきーー!!」
おわり
最終更新:2011年02月05日 04:25