第十話 終局!

ブオンケは、後衛として撃ち漏らしの討伐を行っていた。
そこに、前衛艦オケブインから通信が入る。

艦長「MSがかなり消耗した、すまないが後退するまでの間二機貸してくれ。」

和「了解、ゲルググを二機回します。コードネームはドラムス01とベース01です。」

純「ドラムスチームは、オケブインの掩護をお願いします。」

律「分かった!」

和「鈴木伍長、HQに連絡して、オケブインを早く下げるように頼んでもらえる?あとこの状況では難しいと思うけど、一応予備機とパイロットの有無も聞いてあげて。」

純「了解しました。 HQ、HQ・・・聞こえますか、HQ!」

和「どうしたの?」

純「…HQ、応答しません…。」

和は、背中にヒヤリとしたものを感じた。

和「呼びかけを続けなさい!」

純「HQ!聞こえますか?HQ!」

律「和、オケブインのMS隊が全滅した!私等だけじゃ支えきれないぞ!」

和「ギターチーム、オケブインの増援に向かって!」

唯「わかったよ、和ちゃん!」

純「HQ!応答願います!HQ、こちらブオンケ、HQ!」

和が前を見ると、あれほど整っていた戦線が、ところどころ破綻し始めているのが見えた。
HQと通信できないのは、自分たちだけではなさそうである。
ただ単に、通信関係のトラブルか…
はたまた、特殊部隊が潜入して、破壊工作を行ったのか…?
原因は色々考えられるが、それを考えるのは和の仕事ではなかった。

律「和、すまねえ。オケブインが…」

和「オケブインが、沈む…」

前衛艦が、爆発光を煌めかせながら四散していく。
戦線にあいた小さなその穴から、連邦軍がわらわらと入り込んでくる。
ブオンケは、その穴を埋めようと前へ出て行く。

和「補給中のトヨサトに連絡して、早めに戦線復帰してもらって!」

純「了解! あ、HQ応答しました。 え…総帥が戦死!?」

和「なんですって!?」

純「事後の指揮は、キシリア少将に引き継がれるそうです!」

和には、何が起こったのか理解できなかった。
ただ、この一瞬の指揮の空白が、取り返しの付かない損害を生み出したことだけは、確かだった。

フィールドの一翼を担う大型艦が、爆散するのが見える。
木星連絡船ほどの大きさだ、爆発が起こるたびに、外壁がきらきらと宇宙空間に舞っている。

純「ドロワ、撃沈。連邦軍が要塞にとりつきつつあります!」

和「このフィールドの要が…でも私たちは何としても、ここを死守するわよ!」

純「トヨサト、合流します。」

和「助かったわ。補給に下がることは出来なくなったけど、これでなんとか盛り返せる!」

純「え…どうして!?」

和「鈴木伍長、どうしたの?」

純「グワデンから入電、我、キシリア少将に従うを潔しとせず。戦線を離脱する、我に従う艦は…」

和「何言ってるのよ!敵前逃亡じゃない!!」

和「力を合わせれば勝てるのに、どうして勝手な行動をし始めるのよ!!ふざけないでよ!!」

和は、一気に絶望の淵に立たされた。
この戦いは、負ける。
考えてはいけないことが、脳裏にちらつき始めた。

澪と、はぐれた。
オケブインが沈んだ直後、連邦軍が押し寄せてきて、気がついたら見失っていた。
律は、押し寄せる連邦軍に阻まれて、澪を探すどころでは無くなっていた。

律「澪、私から離れるなって、あれほど言ったのに…」

律は、正面の敵を見据えて、腹を決めた。

律「こいつらを何とかして、早く澪を見つけてやらなきゃな。」

落ち着きを取り戻す。すると、今まで気づかなかったことが見えてきた。
敵の動きが、読める。
攻撃してくるときは、不快な、ザラリとした肌に触れる感触がある。
律は、その感覚に従って、ゲルググを動かした。
三機のジムが、律に飛び掛ってきた。

律「一機目、左!」
ビームが、ジムのコックピットを貫いた。
背中に殺気を感じる。

律「後ろ!」

シールドの縁で殴りつけ、距離を取る。
その隙に、ビームナギナタを発振した。
もう一機が、下から迫る。

律「見え見えなんだよ!」

下から来たジムを、斬りつける。
爆風をシールドで防ぐ。
そうしている間も、さっき殴って距離をとった残りの一機が背後に迫るのを、律は手に取るように感じていた。

律「三機目!貰った!!」

反転してコックピットを斬りつける、また横から殺気を感じた。
飛び退ると、ボールが低反動キャノンを打ち込んできた。

律「邪魔だ!」

ビームライフルに持ち替え、打ち落とす。
自分を囲む敵はいなくなった。

律「すげえ!敵が見える!火事場のバカ力だぜ!!」

こちらから、攻める。
律は余計な回避軌道を取らなくなった。
一直線に飛び、弾が来る時だけ、弾かれたように避けた。
新たに三機を、落とした。
敵は左肩に「け」と書かれたゲルググを見ると逃げるようになっていた。
律の周りに、ポッカリと敵のいない空間ができた。

律「澪!今行くぜ!!」

律は澪の居場所を感じ取った。ひとりで怯えているのも分かる。
合流しようとした瞬間、澪のいる方向から何かの圧力のように強烈な殺気を感じた。
反射的に、回避する。
今まで律がいた場所を、ビームが貫いていた。
敵は、見えない。

律「誰だかしらねえが、澪に近づくんじゃねえ!」

澪のゲルググをパスして、まだ見ぬ敵機の方向に飛んでいく。
殺気、かわそうと思ったが、寒気がして、やめた。
律が避けようと思ったその場所に、ビームが飛んできた。

律「こいつは、やる!」

敵が見えた。ジムではないようだ。
コンピュータがデータを照合する。
モニター上に文字が浮かぶ。
RX-78-2、確かに、そう読める。

律「よりによってガンダムかよ、厄介だな…」

律「でも今の私になら、倒せる!ジム二個小隊をやったんだ!」

ビームを射って、距離を詰める。
正確な射撃を、三発かわされた。

律「遅い、貰った!!」

律のゲルググは、ライフルをナギナタに持ち替えて、突進する。
ガンダムはライフルを持ったままだ。
倒せる、そう思った。が、いつの間にかガンダムはサーベルを発振してナギナタをはじいていた。

律「なんだこいつ、動きが異常に早い…」

少し距離が開くと、ガンダムはパッ、と手品のようにライフルに持ち替える。
律のゲルググは素早いガンダムの武器交換について行けない。
ナギナタを持ったまま紙一重でガンダムのライフルをかわす。
もう一度、斬りかかる。
モニターから、ガンダムが消えた。

律「下かっ!」

律がゲルググを半回転させると、サーベルを構えたガンダムがモニターに映り込んだ。


長い、一瞬だった。
モニターの形がひしゃげ、ピンクの光が入り込んで来る。
律は、その光に見とれていた。

ぱちぱち、光がはじけて、すごくきれいだな…

それは、初めてライブハウスで演奏した時の照明を思い起こさせた。
澪の大好きな、ピンクの光。

その光のなかに、自分がいた。
いや、澪も、紬も、唯も梓もいる。

演奏を、しているようだ。その場所に、律は見覚えがあった。

ズム・シティのコンサートホール。
いつかはここでライブをやろう、と目標を立てたその場所だった。

未来の、私たち。律はそう思った。

私たち、夢を叶えるんだ。近い将来、あそこでライブが出来るんだ!
そうだ、今の私にならこの光景を見せてやれる。澪に教えてやるんだ。
きっと、喜ぶぞ。

でも、体が動かない。精神はこんなにも自由なのに、体って奴は、どうしてこうももどかしいんだ。

体が、熱くなってきた。さっきからピンクの光が私の体を突き刺すように抜けていく。
そのたびに、ちょっと体がだるくなる。

でも大丈夫、澪の大好きな色が、私に悪さなんてするはず、ないから。

でも、いそがなくちゃ、   きっとまにあわない

みおに   この こうけいを   みせたい

おちついて  いきをすって  ただひと こと   よべ ば  い い  ん   だ


          み     お


声になる前に、律の体は蒸発していた。


澪「りぃつううううぅぅぅぅっ!!」

律が、目の前で死んだ。
ガンダムとの戦闘は澪の目では追い切れなかったが、終わるときはあっさりとしていた。
簡単に、ハエでも叩くようにコックピットを貫かれたのだ。
ガンダムは、澪のゲルググを無視して要塞に向かおうとしている。

澪の頭に、血が上った。

澪「お前…なんてことしてくれたんだ…」

ビームライフルを放つ。躊躇せず、本気で狙った。
ガンダムは、澪に背中を向けたまま、それをかわした。
澪は、ガンダムに突進しながら、撃ちまくる。

澪「律は、いいヤツだったんだぞ、それを、こんな簡単に殺しやがって…」

澪のビームは、後ろ向きのガンダムにことごとくかわされる。

澪「小学校の時から、ずっと私を支えてくれたんだ!軍に入った時だって、辛いのを我慢して、一生懸命リーダーシップを取ってくれたんだ!!」

攻撃は、かすりもしない。

澪「こいつ…後ろに目があるのか?…分かった、お前人間じゃないだろ!だからそんな平然と人が殺せるんだ!」

澪「お前はそうやって、一体何人殺してきたんだよ?相手がMSなら、人じゃないとか思ってるんだろ!」

澪「この人殺し、人殺し、人殺し!!!」

ガンダムが、不意にくるりと半身をこちらに向けた。

澪「あ」

光が見えた。

澪は、しまった、と思った。


肩に「け」とマーキングしてあったゲルググのパイロットは、紛れもなくニュータイプだった。
たまにこんなふうに、戦いの中で急速に力を伸ばすパイロットがいる。
アムロ・レイはそういう危険なパイロットを積極的に排除することにしていた。

アムロ「こいつ、まだカンに腕が付いてきていないな…やれるぞ!」

マグネットコーティングを施したガンダムの動きに、「け」とマーキングのあるゲルググは付いてこれない。

アムロ「いただき!」

ゲルググのコックピットを、ビームサーベルで貫いた。
音楽が、聞こえた気がした。


その場に、もう一機、「い」と書いてあるゲルググもいたが、こっちはたいした事がなさそうなので無視することにした。
弾の無駄だからだ。
この程度の腕なら、そのうち戦功が欲しい味方機が、ハイエナのようによってたかって墜とすだろう。
何もわざわざアムロが、墜とすことはなかったのだ。

だが、程なくしてそいつが後ろから射ってきた。

アムロ「何故出てくる?そんなにやられたいのか!?」

アムロは、後ろの邪魔な敵機を落とした。

すぐにその二機のことは、忘れた。


……

律と澪が、死んだ。
唯は、それをはっきりと感じていた。しかし、気に留めている暇は与えられなかった。
二隻のサラミスがMSを随伴して、突進してくる。

唯「あの二隻を何とかしないと、ブオンケがやられちゃう!」

梓「私たち二機だけで、対艦戦ができるんですか?律先輩たちを呼ぼうにも、はぐれちゃってどこに居るかわかりませんし…」

唯「あずにゃん行くよ!足止めくらいなら、できるかも…」

その時、5条のビームがサラミスを貫くのが見えた。
別の方向からも同じようなビームがもう一隻を貫く。

梓「味方機?…すごい。」

どこからか、手足のないMSが現れる。
先程サラミスを撃沈した二つのビーム砲がその機体に吸い込まれ、MSの両手となった。
足は、どこにもないようだ。

唯「あれ…ジオングだ…」

唯は、ジオングになんとも言えない不快さを感じていた。

梓「あそこに行って、一緒に戦うです!!」

先程のサラミスの随伴機がジオングにまとわりつく。
梓はジオングを援護しようと突進した。

唯「あずにゃん待って!危険だよ!あの人、まだサイコミュに慣れてない!」

梓「でも、囲まれてる味方を見過ごす訳に行かないです!!」

梓のゲルググがジムに斬りかかる。その時だった。

唯「あずにゃん、危ない!!」

梓のゲルググは、大きく態勢を崩した。斜め後ろから五条のビームが抜けて、ジムを破壊した。
態勢が崩れていなかったら梓もビームに焼かれていただろう。

梓「唯…先輩…?」

振り向くとさっきまで後ろについていた唯がいなくなっていた。
代わりに薄く立ちこめるガスと、MSの破片が散らばっていた。

梓「唯先輩、どこ行ったんですか?…唯先輩!!」

ジオングも、もうどこかへ行っていた。

シャア・アズナブルは焦っていた。

シャア「情けない!ガンダムを見失うとは!!どこだ、奴は!?」

ジオングによって、シャアのニュータイプ能力は飛躍的に高められていたが、敵が多すぎてガンダムを捕えきれなくなっていた。

敵艦を沈めると、随伴していたMSが攻撃してきた。

シャア「ええい、邪魔だ!!」

有線サイコミュで周りを囲んでいるジムを墜としていく。
そのさい、僚機をかばった味方機を巻き添えにしたことにシャアは気がつかなかった。

気がついたとしても、シャアにとってはどうでもいいことだった。


梓「唯先輩!唯先輩!」

梓は、混乱していた。
唯がいなくなった途端、何をしていいかわからなくなったのだ。

梓「純!唯先輩がはぐれちゃった!探してよ!!」

純は、唯の機体がもう存在しないことを知っていた。
しかし、梓にそれを伝えてはいけないことも知っていた。

純「梓、落ち着いて。後退して一度艦に合流して!」

梓「唯先輩がいないもん!唯先輩を置いて後退なんて出来ない!!」

梓は、敵の気配も感じ取れなくなっていた。
唯が、教えてくれていたのだ。
自分が唯を守っていたのではなく、実は唯に守られていたのだと、その時気づいた。
不安で、息が詰まる。
その時、梓の機体に衝撃が走った。

梓「きゃあっ!!」

ゲルググの左手が吹き飛んだ。
梓は、頭を抱えて震えだす。

梓「唯先輩…助けて…早く来て下さい…」

モニターに、サーベルを構えたジムが映り込んだ。
梓は、それを見てもまだ、何をすればいいのかわからなかった。


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