第九話 決戦!

作戦が近いというので、ブオンケは要塞から出航していた。
担当区域はSフィールド上、要塞守備隊である。
要塞戦では艦艇は大きく2種類に分けられる。
要塞付近に展開、布陣し、敵の要塞に対する侵攻を直接防ぐ要塞守備隊、
そして機動力を保持して敵と遭遇戦を行い、時に要塞守備隊を掩護する機動打撃部隊である。
前者は歩兵的、後者は騎兵的な運用と言える。
ミーティングが終わると、唯がまた苦しみだした。

唯「頭が…痛い…」

梓「唯先輩!大丈夫ですか?」

澪「唯、どうしたんだ?」

唯「人が、いっぱい死んじゃった…一瞬で…」

澪「何言ってるんだ?まだ敵は来てないぞ?」

律「何か私も頭が重いぞ。」

紬「大変、風邪かしら?」

澪「お前はデコの冷やし過ぎだっ!」

澪が律のデコを殴る。

律「いて~なあ。ちょっとは手加減してくれよ。」

梓「取りあえず唯先輩を部屋で休ませてくるです。」

唯「うう~あずにゃんありがとう…」

律「そうだな、出撃まで時間あるから解散にすっか。」

澪「お前も医務室行くか?」

律「いや、私は治った。さっきの一瞬だけだった。」

澪「なんだよ、それ?」

紬「じゃあ、出撃一時間前にMSデッキで。」

みんな、各々の部屋に戻っていく。


梓「唯先輩、もう大丈夫ですか?」

唯「うん、あずにゃん、ありがと。」

梓「さっきの…なんだったんですか?人が死んだとか…」

唯「よく分からないんだけど、そう感じたんだよ。上手く言えないんだけど…」

梓「私、信じます。きっともう戦いは始まっているんですね。」

唯「そうだと思う。」

梓「じゃあ、もうすぐ出撃ですね?」

唯「そうかも知れない。」

梓「あずにゃん分、補給しておかなくていいんですか?///」

唯は、無言で梓を抱き寄せた。
抱き合ったまま、話を続ける。

梓「戦争…どうなると思いますか?」

唯「分かんない。」

梓「先輩、ニュータイプなんでしょ?」

唯「それで未来のことが分かったら、テストで満点取ってたよ。」

梓「それもそうですね。」

唯「私は、ただの人だよ。」

梓「音楽の才能はあると思います。」

唯「演奏、したいね。」

梓「そうですね。唯先輩のギター、聞きたいです。」

唯「あずにゃんの方が、上手なのに…?」

梓「魅力が、あるんです。唯先輩の演奏は…」

少しの沈黙の後、梓が問いかけた。

梓「あずにゃん分、足りますか?」

唯「足りると思う。」

梓「嘘、足りませんよ。」

唯「そうかな?」

梓「戦場で足りなくなっても、知りませんよ。今絶対に足りてませんし。」

唯「どうすればいいの?」

梓は、ゆっくりと目を閉じた。
キスが欲しいのだと分かったが、唯は梓の唇を無視して、耳元に口を持って行き、息を吹きかけるようにささやいた。

唯「キスでも足りないかもね、どうしようか?」

二人は無言で、ベッドに倒れ込む。
程なくして演説が放送されたが、二人には全く聞こえなかった。


……

澪「こうして待っている時が、一番怖いな。」

律「ああ、絶対に慣れることはないだろうな。」

澪「私たち、生き残れるかな?」

律「全員生き残るよ。じゃないとみんなでここに来た意味が無い。」

澪「私、まだ一機も墜としてないんだ。墜とせる自信もない。人を殺してしまうのが、怖いんだ。」

律「その分私が倒してやるよ。澪、お前を絶対に守る。殺しもさせない。」

澪「律…///」

律「だから、私の側を絶対に離れるなよ。」

澪「ありがとう、律。なんだか元気が湧いてきた。」

その時、艦内放送のスイッチが入ったのが聞こえた。

『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ、今や地球連邦艦隊の半数が我がソーラ・レイによって宇宙に消えた・・・』

澪「聞いたか?半数が消えたって…」

律「ああ、唯が言ってた通りだ。」

二人は、息を呑んで演説を聞いていた。


……

紬「この戦いも、私たちも、どうなるのかしらね?」

斉藤「分かりかねます。」

斉藤「それはそうとお嬢様、私にご要件とは?」

紬「頼みが、あるの。あなたにしか頼めない…。」

斉藤「頼み…でございますか?」

斉藤が、どうぞ、と言いかけたとき、演説が始まった。

『我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ…』

紬の目付きが、鋭くなる。斉藤は背中に冷たいものを感じた。

紬「私、チャンスがあれば今演説してる奴を殺すわ。」

斉藤「…」

紬「私の家族をバラバラにして、お父様の会社もめちゃくちゃにして…」

紬「私の友達まで戦争に巻き込むことになった。絶対に許せない。」

斉藤「お嬢様…」

紬「今は運良く、奴の懐に潜り込んでるわ。」

紬「私一人では出来ないかも知れない…だからあなたにも手伝って欲しいの。こんなの、友達には頼めないでしょ。」

斉藤「…かしこまりました。」

紬は、無言で部屋から出た。
斉藤は、紬の口から殺す、という言葉が出たことが少し悲しかった。


ブオンケのMS隊が射出された。
当初は後衛である。

澪「前衛はもうきれいに展開しているな。」

律「戦闘はまだ始まらないみたいだな。」

梓「こんな静かな宇宙が戦場になるなんて、信じられませんね。しかも大晦日に。」

紬「ソロモンの時はクリスマスイブだったわね。本当、私たちなにをやってるのかしら…」

唯「みんな・・・来るよ!!」

前衛の方で爆発光が上がった。MSの活発なスラスター光も確認できる。
前衛の間を縫って、ミサイルが飛んでくる。

律「よっしゃ、前衛の撃ち漏らしで肩慣らしだ!」

しかし、前衛がしっかりと踏ん張っているため、撃ち漏らしはなかなか来ない。
何機か突撃艇や傷付いたMSが突破してきたが、律と紬がたやすく打ち落とした。

敵の第一波がしのげた頃、和から通信が入った。

和「前衛を補給と応急修理のため下げるわ。我々は、前衛艦オケブインの後退を援護、じ後前衛としてHQから別命があるまで戦闘を継続するわ。分かった?」

律「了解!」

和「前衛はもろに敵の攻撃を受けるわ。気を引き締めてね。」

律「任せとけ!」

前衛に出ると、すぐに敵の第二派が攻撃してきた。
律は、その圧力を前にして緊張している自分を感じていた。


……

戦端が開かれると、小隊長のザクは後ろに下がってがなり立てるだけの存在になった。
そのうちに声も聞こえなくなったので死んだのだろう、と聡は思った。
小隊は聡と姫子の二人きりになった。
二人とも練度が低いのでかなり旗色が悪い。
唯たちで二十日以上かかった訓練時間も、聡たちの頃には基礎訓練と合わせても2週間以下に短縮されていた。
あとは配属されてからシミュレーターで訓練しただけだ。

聡「姫子さん!援護します!」

姫子「お願い!」

聡の放ったシュツルムファウストがジムの脚部に命中する。
一機後退させた。
しかしまだ二機が姫子のゲルググに取り付いている。
聡は、少し間合いを詰めて装備されたザクマシンガンを連射した。

聡「くそっ!当たらない!!」

姫子「聡君!私のことはいいから下がって!その機体じゃジムの相手は無理だわ!」

聡「嫌です!下がりません!」

マシンガンの残弾がゼロになる。
聡がリロードをしようと操作したその時、機体に嫌な振動が伝わった。
何度試してもリロードが出来ない。
リロードする為のアームが壊れたらしい。

聡「このポンコツ…ちっくしょう!!」

姫子「聡君!もう私はいいから、あなただけでも生き残って!」

聡は二機のジムを睨みつけた。
自分の好きな女の子を襲う二人の暴漢…ジムに曹長の面影が重なった。
聡の中で、何かが吹っ切れた。
スロットルを力いっぱい押し込んだ。
シートに体が叩きつけられる。
こんな機体でも、フルパワーをかけると呼吸もまともに出来ないほどのGだ。

姫子「聡君!近づいちゃダメ!」

聡は一機のジムに向かって突っ込んでいく。
直線で勝負したら追いつけないが、ジムは姫子のゲルググを追って蛇行している。
見る見るうちにジムが近づく。

姫子「聡君!下がって!やられるわ!!」

聡「下がりません、俺、姫子さんを守る!」

姫子「お姉さんのいうことが聞けないの!?」

聡「俺は子供じゃない!!」

ジムがこちらに気づいたようだ。もう避けられないだろう。
怯えているようにも見える。
今の自分にならこれを言う資格くらい、あるはずだ。

聡「俺、姫子さんの事、好きだ!」

聡の心が、澄み渡った。
次の瞬間、衝撃と共に体が前につんのめり、シートベルトが食い込み、骨がボクッ、と鳴る音が聞こえた。
姫子の笑顔が、見えた気がした。

姫子「聡!!」

聡のオッゴが特攻してジムが一機爆発した。
その爆発に巻き込まれてひるんだジムを、姫子のゲルググが斬った。

姫子「どうして…あたしなんかの為に…」

姫子は、外見のせいか男運がなかった。
とにかく、軽い男しか寄って来なかったのだ。
しかし目の前で散ったこの男は、一途に姫子のことを想ってくれていた。
初めて自分に向けられた、純情。
終わったときに、ようやくそれに気がついた。

姫子「聡…聡君…ごめんなさい…私がバカだった…」

聡の自分への想いに、気付けなかった。
そればかりか、弟扱いして、聡はどれほど傷付いただろう。
姫子はここが戦場であることなど、すっかり忘れて、泣いた。
涙で何も見えない姫子に、迫り来る敵が見えるはずも無かった。

姫子「さとs」

姫子のゲルググは、宇宙を照らすひとつの光となって、消えた。


……

梓「すごい・・・」
初めて、敵を落とした。
梓は、驚愕していた。敵の攻撃が見えるのだ。
これなら、唯を守れる。そう感じていた。

梓「下!」

ゲルググのビームが、ジムの右手を飛ばしていた。
ジムが後退する。

唯「あずにゃん、私から離れないでね!私の目の届く範囲にいてね!」

梓「当たり前です!私が唯先輩を守るんですから!」

梓のシールドには、いくつかビームの焦げ跡が付いていたが、唯の機体は綺麗なままだった。

梓は、嬉しくなった。
自分が、唯を守っている。
そう信じて、疑わなかった。

ゲルググの性能か、自分の腕か、敵を追い詰めるのが楽になった。
律はそう思った。
ドッグファイト中は蝶が舞うようにめまぐるしく軌道が変わる。
全周からのGにシェイクされながら、同じような軌道で飛ぶ敵を追い詰めるのだ。
そしてめちゃくちゃに動きまわる敵機を、人差し指の先ほどのレティクルに重ねて、射撃する。
今まさに、律が射撃をしようとした瞬間だった。

律「えっ?何だって?」

律は、タイミングを逃してしまった。
その隙に狙っていたジムが背後に回ってくる。

澪「律!逃げろ!援護する!」

律「澪、聡が死んじまった!今声が聞こえたんだ!」

澪「何寝ぼけてんだ律!いいから逃げろ!そいつは私がやる!」

澪のゲルググのレティクルがジムに重なった。

澪「ひ…人が…乗ってるんだよな…」

一瞬、躊躇した。ジムの足に命中した。
すかさず律がそれを落とす。

律「聡が、ジムに突っ込みやがった…あいつ、来るなって言ったのに…」

澪「おい律、また来るぞ!前向け!!」

律「畜生!」

律は、怒りに任せて敵に突っ込んでいった。
澪は訳がわからないまま、それを追った。


……

もう、三度ほど斉藤に助けられた。
紬は戦うとき、突っ込みすぎるようになっていた。
そこを斉藤が上手くフォローしている。

斉藤「お嬢様、大丈夫でしょうか?」

紬「ありがとう。」

斉藤「戦は長くなります。もう少し自重されたほうが…」

紬「みんなが戦ってるの、私だけ楽をするわけには行かないわ!」

紬「私がこんな事に、みんなを巻き込んだのよ…私が…」

斉藤「新手です!」

ジム一個小隊が突っ込んでくる。
紬がビームを放ちながら突っ込んでいく。
それを斉藤が慌てて援護する。
敵にビームを命中させたのは、結局斉藤だけだった。


和は、勝てると思った。
ソロモンの時と違って、要塞の利点を潰されていない。
それにHQが高度に和たち要塞守備隊の前衛、後衛、補給を統制してくれるので、和は戦闘指揮に専念できるし、今のところ弾薬に不安もなかった。

純「前衛、交代です。」

和「後退準備!」

要塞守備隊の艦船は要塞への圧力を受け止める重石の役割をはたすので、常に敵の攻撃にさらされ、回避機動などはほとんど取ることが出来ない。
そのため、交代で応急修理と補給をする必要があったのだ。

連邦軍の攻撃の隙を突き、後衛が前に出る。
ブオンケは、要塞の援護も受けながらスペースゲートに入っていった。

整備兵「MSは全機盾とライフルを交換だ!応急修理は損傷度の高いものから三機までだぞ!」

唯たちは、デッキでチューブに入った栄養ドリンクを飲んでいた。

唯「戦闘の合間に補給が受けられるなんてすごいね。」

梓「出っぱなしの部隊もいるみたいです。まあそういう部隊も戦闘の合間に補給はするんですけど、艦の応急修理まで出来るのは要塞守備隊だけですね。」

唯「ムギちゃんとりっちゃん、ボロボロだったけど…どうしたの?」

澪「律さ、聡が死んだって言うんだ…それでめちゃくちゃに突っ込んでいって…」

律「確かにジムに突っ込む光景が頭の中に浮かんで、声が聞こえたんだ…唯、何か感じなかったか?」

唯「私…わからなかった…」

律「そっか…そうだよな…」

梓「ムギ先輩はどうしたんですか?」

紬「少しヘマをしちゃったのよ。気にしないで。」

すかさず斉藤が割って入る。

斉藤「お嬢様は少しご無理をなされて…」

紬「斉藤!!」

斉藤「言わせてもらいます!お嬢様は皆様を戦に連れ出したのは自分だと申されて、ご自分を責めて…」

紬「斉藤、黙りなさい!!」

律が、紬をたしなめる。

律「ムギ、それは禁止だって言ったろ。」

紬「でも…私やっぱり辛いの…」

律「ああもう、聡の事なんか考えてる場合じゃなかったな…」

律「いいか、ひとりも欠けることなく、戦争を終わらせるんだ!」

律「ムギは、つまらない事考えるの、やめろ。この中の誰も、ここに来たこと後悔してる奴なんかいないから。」

澪「そうだぞ、ムギ。」

唯「そうだよ。ムギちゃん。」

梓「そうですよ、ムギ先輩。」

律「私も、聡のことで悩むの、止める。あんなヤツ、もうどうでもいい!」

澪「あんなヤツって、お前…」

唯「そういえば、声が聞こえたって、なんて言ってたの?」

梓「気になりますね…」

律の顔が、見る間に赤くなっていく。

律「い…言いたくない///」

澪「教えてくれよ、もし死んだら、気になって成仏できそうにないぞ。」

律「ヤダ///」

紬「私、また無理しちゃおうかしら。」

律「わ…分かった、言うよ。///」

律「…姉ちゃん、俺、好きな人ができたって、聞こえた。///」

澪「…なんだよソレ…?」

唯「ほええ…」

梓「それは気になって戦い方も変わってしまいそうですね…」

紬「花嫁の父親の心境ね~」

斉藤「昔を思い出します。」

律「…コホン。そういう事だから…あいつはあの世で元気にやってるだろう。」

律「そろそろ時間だ、行くぞ。」

律も紬も、晴れやかな表情になっていた。
各々がコックピットに向かうとき、これが今生の別れになるとは、誰も思っていなかった。


第九話 決戦! おわり



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