唯の慣熟訓練は、すぐに終わった。
訓練二日目には実機で飛び、梓と模擬戦もこなした。

梓「唯先輩、もう完璧ですね。」

唯「あずにゃんが付きっきりで教えてくれたおかげだよ。」

梓「えへへ…///」

唯「でもゲルググはスゴイね。これなら負ける気がしないよ。」

梓「今度は負けませんよ。ソロモン戦の雪辱を晴らすです!」

唯「じゃあ、帰ろっか。帰ってあずにゃん分補給しなきゃ。」

梓「唯先輩…//////」 

MSデッキに戻ると、メンバー全員が待っていた。

律「ようお二人さん、モノになったようだな。」

澪「これでみんなで戦えるな。」

紬「唯ちゃん頑張ったものねえ。」

唯「みんなも、ありがとう。一緒にご飯食べに行こうよ。」

律「おう、まずい飯でも食いに行くか!」

艦が駐留している間は要塞内の食堂を使う。
要塞内にいくつもあるうちの一つだが、かなりの広さで、入っている人数もかなりものだ。

唯「広い食堂だね。体育館より広いんじゃない?」

澪「一体この要塞に何人居るんだろうな?」

律「ていうかさ、見てみろよ。」

唯「何?りっちゃん。」

律「子供みたいな兵士、日に日に多くなってないか?」

紬「そういえば若年兵の数が多いわね。」

律の顔色が、すぐれない。

澪「律、どうした?」

律「いや、聡が心配でな。あいつ私が志願したとき、付いて行くって言って聞かなかったからさ。」

澪「そういえば私たちの時より制限年齢も低くなってるみたいだな。訓練時間もずいぶん少なくなったって、和が言ってたぞ。」

律「来るなって言っといたんだけど、何か最近あいつを身近に感じるんだよなあ。」

紬「きっと気のせいよ。戦いが近いから、少し神経質になっているだけなんじゃない?」

律「そうならいいんだけど…」

律は、食堂を出たとき、何を食べたかすら覚えていなかった。


……

聡は、嫌な予感がしていた。
いつもは一緒に食事をする姫子が、今日に限って訓練後に居なくなっていた。
姫子との一時がなければ、食堂に行く意味が無い。
それ位、飯は不味かった。
艦の中を、くまなく探してみる。特に、人気のないところを。
礼装など、普段は使わないものを収納しておく倉庫から、言い合うような声が聞こえてきた。
聡は、気付かれないように倉庫に入る。

姫子「やめて下さい、小隊長!」

曹長「いいじゃねえか、減るもんでもねえし。」

あの曹長と、姫子だった。
聡の全身の血が沸騰する。

曹長「お前が悪いんじゃねえか、こんなイイ体見せつけやがって。」

姫子「嫌、触らないで!誰か!」

聡が、二人の前に躍り出る。

聡「やめろよ!!嫌がってるじゃないか!!」

曹長「なんだよ、補充兵のガキか?お楽しみを邪魔するんじゃねえ!」

姫子「さ…聡君!」

聡「あんた、軍人として恥ずかしくないのかよ!部下の女の子に乱暴しようとするなんて、最低じゃないか!!」

曹長「軍人なんてのはな、最低な奴がなるもんなんだよ!オメーだって訓練生だったとき、週末息抜きに女抱きに行ったんじゃねーのか?」

聡「そんな時間あるかよ!!毎日訓練だったんだよ!!訓練だって一週間くらいで終わっちまったんだ!!週末ってなんだよ!?」

曹長「じゃあ俺の後にこいつとヤラせてやるから、ちょっと待ってろ。」

聡は、何も考えられなかった。
気がついたら、手が出ていた。

聡「ふざけんな、このやろおおおお!」

曹長「イテーな、このガキ!」

曹長の拳が、容赦なく聡に振りかかる。

聡「ぐはっ!うぐっ!」

姫子「小隊長、やめて下さい!」

曹長「うるせえな、このアマ!テメーが大人しくヤラせてくれりゃ、こいつがこんな目に合うことも無かったんだろうが!!」

曹長が姫子を蹴り飛ばした。

姫子「キャッ!!」

聡「女の子を…蹴ったな…この屑野郎!」

曹長「まだやんのかよ、ガキ!」

闘争は、部屋の戸を激しくノックする音に中断された。

士官「その部屋で何をしているのか?」

曹長「へへ…若年兵がいうことを聞かないもんで、ちょっと修正してたんでさあ。」

士官「そうか、曹長、艦長が呼んでいる。行くぞ。」

曹長「へえ…了解。」

薄暗い部屋の中に、聡と姫子が残された。

姫子「ごめんね、痛かったでしょ。」

聡「こんな事くらいで…大丈夫です。」

姫子「医務室に連れて行くから。」

聡「必要ありません!」

姫子「でも、手当しないと・・・」

聡「自分で出来ますから。俺はこれで…」

姫子「待って、聡君。お姉さんにも、お礼させて。助けてくれたお礼。」

姫子「医務室が嫌ならお姉さんの部屋に来て!手当てするから!!」

聡は、ドキリとした。
姫子の、部屋。その単語に、抗いきれなかった。
結局ふらふらと、付いて行ってしまった。

姫子「傷口、しみる?」

聡「い…いえ…///」

姫子「助けてくれて、ありがとう。」

聡「と…当然のことです。///」

聡は、目のやり場に困った。
手当てをしてくれているので、姫子が近い。
姫子の顔を見ると、クラクラと正気が保てなくなりそうだった。
たまらず下を向くと、ノーマルスーツであらわになった姫子のボディーラインが眼に入り、ドキリとする。

姫子をいやらしい目で見ている。
これでは、あの曹長と同じだ、と思った。
見るばかりか、気がつくとその躰に触れてみたくなっている自分が嫌になる。

聡は、欲望と必死に戦っていた。

姫子「あたし、怖かった。」

姫子が手を聡のそれに重ねた。

姫子「ね…震えてるでしょ?」

聡「え…ええ///」

姫子「聡君が居ると、なんだか安心出来る。」

聡「あ…ありがとうございます…///」

聡は嬉しかったが、次の言葉に、期待を裏切られた。

姫子「ホントに弟ができたみたい。律から、取っちゃおうかな。」

聡「い…いやです…」

姫子「ごめんごめん、冗談だって…」

聡は、消え入りそうな声で呟いた。

聡「弟なんかじゃ…嫌です。//////」

姫子「え?何か言った?」

聡「…手当て…ありがとうございましたって、言ったんです。//////」

姫子「うん、どういたしまして。」

聡「じゃあ、俺はこれで…」

部屋からでると、聡は俯きながら自室に向かった。

聡「くそっ…俺…駄目だ…。」

聡は、その気持を伝えることが出来なかった。
姫子に拒絶されて、距離が離れるのが怖かった。

気がついたら、姫子をいやらしい目で見ている。あいつと同じように。
自分は、あの曹長と同じ。
だから拒絶されるに決まっている。好きだと言える資格もない。

若い聡には、そう考えることしか、出来なかった。
聡は、自分の欲望を心から憎んだ。


第八話 弟! おわり



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