第七話 新型!

ア・バオア・クーに入港して2日後、ブオンケMS隊は新型MSで模擬戦の最中だった。

律「澪、梓、二人は両側から回りこめ。向こうは2機だ。確実に仕留めるぞ。」

澪梓「了解。」

紬と斉藤は、デブリに隠れて待ち伏せしている。

紬「来たわね。斉藤、りっちゃんをお願い。」

斉藤「了解しました。」

斉藤の機体が、律のそれに突っ込んでいく。

律「斉藤さんか…1機で来るとは、いい度胸だぜ!澪、梓、ムギをあぶり出せ!」

梓「見つけました!」

梓は、正面に捉えた機影にビームライフルを撃ちまくった

澪「わっ、あ…梓、私だ、わたし!」

澪は、味方からの射撃に面食らった。デブリに隠れていた紬が現れる。

紬「貰ったわ!」

純「ベース01、撃墜。帰艦してください。」

律「梓!!何やってんだバカ!!」

斉藤「隙あり!」

純「ドラムス01、撃墜。帰艦してください。」

梓も、すでに背中にライフルを突きつけられている。

紬「梓ちゃん、まだ続ける?」

梓「降参します…」


律と澪が、梓の部屋を訪れる。
要塞に到着してすぐに唯が転属し、一人部屋になっていた。

律「おい梓、ミーティングやるからブリーフィングルームに来いっていったの聞こえなかったのかよ。」

梓「ああ…そうでしたね…すみませんでした…」

梓がけだるそうに答える。ベッドに横たわったままだ。

律「おい中野!お前、なめてんのか!?」

律が梓の襟首を掴んで無理やり体を起こす。

澪「おい律、梓は唯がいなくなっちゃって落ち込んでるんだ。もう少し考えて…」

律「こいつは和が必死で調整してくれた貴重な実機での訓練時間を無駄にしたんだぞ!おら立て、修正してやる!!」

個室にビンタの音が響いた。

澪「律、やめろ!基礎訓練の時の教官みたいになってるぞ!」

律「しかもテメーは無傷のままで降参しますときやがった!連邦軍にも同じセリフをいうのかよ、おい!!なんとか言えよ!!」

澪「やめてくれ律!梓、律に謝れ!謝ってくれ!」

梓が面倒臭そうに口を開いた

梓「ごめんなさい、律先輩。」

律「くそっ…」

ビンタの音、ひときわ大きかった。

律「てめえは新型から下ろすからな!チームからも外す!この前技術本部が予備機に置いてった駆逐モビルポッドとか言うので、単機で囮やれ!」

律「澪、明日からは二人で訓練しなおしだ!行くぞ!」

澪「梓…」

律「澪!!そんな奴ほっとけよ!!!」


二人が部屋から出て行く。
梓の目から止めどなく涙が溢れてくる。
拭っても、拭っても止まらない。
次第に涙だけでは悲しみを排出しきれず、声までこみ上げてくる。

梓「うう…うわああああああん、えぐっ、唯先輩いいいいい…ひっ…」

気がついたら、泣きつかれて寝ていたようだ。
誰かが部屋に入ってくる気配がする。

唯「あずにゃん、ねてるの?」

その声に、梓は飛び起きた。夢だ、と思った。

梓「唯先輩!?」

唯だった。夢だと思っている梓は、迷わず唯に抱きついた。
現実の感触だった。

梓「唯先輩…唯先輩、唯先輩!!!」

唯「ど、どうしたのあずにゃん…!?」

梓「寂しかった…辛かったです…また逢えて良かった…唯先輩…もう離しません!」

落ち着くまで、ずっと抱き合っていた。
抱き合ったまま、梓は聞いた。もう夢だとは思っていなかった。

梓「唯先輩は、今までどこにいたんですか?」

唯「要塞内の、ニュータイプ研究施設ってとこだよ。でも、役に立たないって帰されちゃったんだ。」

梓「ニュータイプって・・・一体何してたんですか・・・?」

唯「頭に重い機械をのせて、脳波がどうとか言ったり、たくさんお薬飲まされたりしたよ。」

梓「なんか…怪しくないですか、それ?」

唯「すっごく頭が痛くなってね、そしたら失敗したって、役に立たないって言われて…私、駄目なんだ。一人になったら分かったよ。私本当に役に立たない人間だったんだね…ごめんね…」

梓は、明らかに唯がおかしくなったと感じていた。
いつもの唯なら、こんなことは言わない。
口調も、なんだか抑揚がなかった。

梓「唯先輩、何言ってるんですか、しっかりしてください!」

唯「私なりそこないなんだって、感応波が弱くて、サイコミュが使えない、ニュータイプのなりそこない。頑張ってお薬一杯飲んだけど、頭が痛くなって、耐えられなくて、駄目だったんだ…私…役立たずなんだよ…いらない子なんだよ…」

梓「唯先輩の才能は、ギターの才能です!音楽の才能なんです!戦争やる才能じゃありません!サイコミュだかなんだか分かりませんが、できなくて当たり前じゃないですか!出来なくていいんです!」

梓には分からない単語がいくつか出てきたが、唯の精神状態がまともでないことだけは理解できる。
唯はその研究施設に弄ばれた挙句、不良品として返品されたのだ、と梓は解釈した。
間違ってはいなかった。

唯「あずにゃん、私だめだよね…憂が居ないとなんにも出来ないし、和ちゃんには頼りっぱなしだし、みんなには迷惑掛け通しだし…」

突然、唯の口がふさがった。
梓の顔がすぐ近くにあった。目を閉じている。
唯の頬に、梓の小さな手が添えられる。少し、冷たかった。
梓の唇が、唯のそれと触れ合っている。
凝り固まった心が、少しほぐれてきたように思った。
梓が、名残惜しそうに離れる。

唯「ああああああああずにゃん…!??/////////」

梓「唯先輩があまりにもネガティブなことばかり言うから、口塞いじゃいましたよ…/////////変なこと言うの、もうやめてくださいね//////」

部屋の外では、紬が失血と戦っていた。

紬(ギリギリ…ティッシュ一箱で足りそうね…)ダラダラ


唯「うっ……頭が…痛い…」

突然、唯が頭を抱えて苦しみだした。

梓「唯先輩、大丈夫ですか?今憂のところに連れていきますから!」

唯「あずにゃん…お薬…カバンの中に…」

梓「えっと、このカバンですか?」

紬「私が唯ちゃんを医務室に担いでいくわね!」

梓「ムギ先輩、どうしてここに!?」

紬「今はそんな事どうでもいいわ!」

三人はすぐに医務室に到着する。

憂「お姉ちゃん!?」

唯が帰ってきたことを知らなかった憂は、少し驚いていたようだ。
しかし唯の尋常じゃない様子を見て、すぐに医療担当者の顔つきになる。

憂「お姉ちゃん!どうしたの!?頭痛いの?」

唯「お薬…お薬…みんなの役に立てるようになる…お薬…」

梓「このお薬ですか?一錠でいいですか?」

梓が唯のカバンから、大きなビンに入ったカプセル状の薬を取り出す。
それを見た憂の目付きが変わった。

憂「ちょっと見せて!!」

梓「憂、どうしたの?」

憂「お姉ちゃん…なんでこんな薬持ってるの…嘘でしょ…。」

紬「憂ちゃん…それって…」

憂「マットモニナールっていう心の発達が遅い人が飲む薬です…しかもかなり強いから、こんな量を患者さんに持たせることは無いはずなんです。」

唯「うーいー…お薬…」

憂「お姉ちゃん、このお薬はお姉ちゃんと相性が悪いんだから飲んじゃダメだからね!」

唯「うーいー…おーくーすーりー…」

憂「お姉ちゃん、この薬のんだら死んじゃうから絶対にダメ!!」

女医「マットモニナールは依存性とかは無いからしばらく飲まなければよくなると思うけど、何錠も飲んじゃってるみたいだから副作用って言うか、軽いフラッシュバックが起こるかもしれないね…」


その時、医務室に律と澪が入ってきた。

律「おい、唯が帰ってきたってホントかよ!?」

澪「唯どうしたんだよ、なんか顔色悪くないか?」

憂「みなさん、申し訳ないんですが、姉はちょっと体調が悪くて…」

女医「面会謝絶だよ!出ていきなさい!!」

澪「ヒッ!!」

律「ご…ごめんなさい…」

紬「みんな、行きましょ。」

梓「…」

四人が医務室から出る。
沈黙を破ったのは、律だった。

律「梓、さっきは悪かったな。私もどうかしてたよ。」

梓「…」

澪「律も、唯がいなくなって寂しかったんだよ。分かってやってくれ、梓。」

紬「梓ちゃんも悪かったんだし、これで仲直りにしましょ。」

梓「わかりました…律先輩…すみませんでした。」

律が満面の笑みを浮かべる。

律「唯が帰ってきたら、素直になったな。」

梓「り…律先輩!//////」


……

和が、緊張した面持ちで医務室に入っていく。

和「唯、居るんでしょ?」

憂「和さん…」

唯「あ…和ちゃん…」

女医「ニュータイプ研究所でマットモニナール漬けにされたんだよ。この子には猛毒だったんだ。休ませなきゃいけないから任務とか、そういう話はやめて欲しいね。」

和「そういう話をしに来ました。一刻を争います。」

女医「ダメだね!帰んな!」

唯「いいよ…」

憂「お姉ちゃん…」

女医「平沢軍曹…」

唯「私…和ちゃんとお話したい…憂…ふたりだけにしてくれる…?」

何も言わず、憂と女医は隣接する医療担当者用の事務室へ引き下がる。

和「唯、新型MSが配備されているわ。みんなはもうそれで訓練しているの。」

唯「私も…みんなと…戦うよ…」

和「今までのリックドムとは性能も段違いだけど、操縦の方法も全然違うのよ。今から訓練しても、連邦軍が攻めて来るまでに馴染めないかも知れないわ。」

唯「私…頑張るから…新型で…訓練させて…」

和「じゃあ、寝てる暇はないわね。起き上がりなさい。」

唯「うん…よいしょ…わっ!」

唯がベッドから落ちる。
その音で、憂と女医が医務室に入ってきた。

女医「何やってるの!!絶対安静よ!!」

憂「お姉ちゃん!!」

和「これから訓練です。平沢軍曹を連れていきます。」

和「唯、いつまで床にへたり込んでいるのよ、さっさと立ちなさい。」

唯「うん…ごめんね…よいしょ…」

憂「和さん、やめて!」

唯「憂、いいんだよ。私が…行くって決めたんだから。」

女医「艦長、病人に訓練させるなんて、あなたは戦争犯罪人ですよ。」

和「戦争が終わって、生きていればいくらでも罪は償うつもりよ。」

無機質な音と共に医務室のドアが作動する。
あとには泣き崩れる憂と、それをなだめる女医だけが残された。


MSデッキでは、律と澪、それに紬がMSの肩にマーキングをしていた。
律の機体の左肩には黄色い字で「け」と書かれている。
澪は水色のペイントで、紬は紫を使って何か書いている途中だが、和には何を書こうとしているのか大体想像ができた。
和は、ハンガーに固定された機体の前に、唯を連れてくる。
唯も、少しフラつくが動けるようだ。

和「これがあなたの新しいMS。MS-14A、ゲルググよ。」

唯「へえ…かわいいね。トンちゃんみたい。」

和「あんたのセンスって、ホントよく分からないわ。」

唯「ええ~かわいいじゃん。鼻にピーナッツ詰めたくなる可愛さだよお。」

和「…お願いだからホントに詰めたりしないでね。」

異変に気づいて、律と澪が流れて来る。

律「なんだよ唯、もういいのか?」

澪「心配したんたぞ。」

唯「みんなありがとう。もう大丈夫だよ。」

和「悪いけど、唯にゲルググの操縦を教えてやってくれないかしら?あとこれから訓練の時間を多めに取るようにするから、唯の慣熟訓練をメインにしてあげて欲しいの。」

律「慣熟訓練の話は言われなくてもそうするつもりだったけどな、今忙しいから操縦教えてやるのは無理だ。」

和「MSに落書きするのが忙しいのかしら?」

律「なにーっ!これは私等を識別する重要なマーキングなんだぞ!」

和「分かってるわよ。冗談。」

律「和の言うことは冗談でもそう聞こえないからな。今教官をつれて来るよ。澪、頼む。」

澪「私はまだ途中だから律が行ってこいよ。ほぼ完成してるじゃないか。」

律「私は唯の分もペイントするから忙しいんだよ。」

紬「じゃあ私は梓ちゃんの分もペイントする~」

澪「ひ…卑怯だぞ、二人共。…仕方ない、行ってくるか。」

律「唯は澪が梓を呼んでくるまで取りあえず操縦系の調整な。」

唯「あずにゃんが教官さん?」

律「梓の奴、お前がいなかったときスランプで散々だったからな、あいつに唯分を補給させてやるんだ。せいぜいイチャイチャしてくれ。」

紬「なんだかドキドキしてきたわあ。」

斉藤「お嬢様…何故そこでドキドキなさるのですか?」

唯「和ちゃん、操縦桿とペダルの調整、それぞれ20段階ずつあってね…」

和「そう、それじゃあ私、ブリッジに戻るわね。」

唯「和ちゃん!」

和「どうしたのよ?」

唯「ありがとう!」

和「フフ…どういたしまして。」

和は、モビルスーツデッキを出ると、こらえきれなくなってその場にうずくまった。
涙が、溢れる。

和「唯…無理させて…本当にごめんなさいね…」


第七話 新型! おわり



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