第六話 クリスマス!

唯「そろそろクリスマスだねえ。」

ミーティング中に唯が何気なくそういった。
他のメンバーはそれを聞いて、ハッとした。

律「私、忘れてた。」

澪「わ…私も。」

紬「唯ちゃんよく覚えてたわね。」

梓「緊張感が足りません。」

連邦軍が本格的にソロモンを攻めるという噂が現実味を帯び始め、哨戒任務も多くなり、その合間に訓練をし、まともに寝る時間がないこともしばしばだった。

唯「なんかたまにビスケットとかカ○リーメイトとか配給されるよね。」

律「最近は少なくなってきたけどなー」

唯「私ね、食べないでとってあるんだ。それでクリスマスパーティしよ!」

梓「そんな時間あるんですか?もう臨戦態勢ですよ。」

律「一時間半くらいなら無理やり時間作れるだろ。」

澪「見つからないようにやらないとな。」

紬「なんだかワクワクしてきたわ~」

唯「じゃあ24日、訓練早めに切り上げて、ムギちゃんの部屋ね。」

しかし、22日、状況は一変する。

和「連邦軍に動きがあったわ。24日に敵主力がソロモンに攻撃してくると見積もられるそうよ。」

和「ブオンケは、警戒監視部隊となってムサイ級巡洋艦トヨサトとともにA-3区域に展開。敵主力の接近を本隊に知らせるとともにこれを遅滞させるという任務が来ているわ。」

和「明日出航するから、急いで準備して。」

艦内は、一気に慌しくなった。

唯「お菓子、食べる時間なさそうだね。」

律「しっかし、クリスマスイブに攻めて来なくてもいいのになあ。」

澪「今までで最低のクリスマスイブだな。」

紬「唯ちゃんがとっておいてくれたお菓子を食べるために、みんな生き残りましょう!」

梓「そうですね。お菓子を食べるまで、死んでも死にきれません。」

ブオンケが出航するとき、要塞の周りではほかの艦艇やMSがせわしなく動き、メンバーには否応なく緊張を植えつける。
それと同時に、目に見えるたくさんの味方部隊は彼女たちに勝利への自信を付加させた。

出航してすぐに、また動きがあった。

和「敵主力の第二艦隊をロストしたそうよ。予想ルートから外れた第二艦隊がA区域から進行してくる可能性は減ったと見ていいわ。」

和「われわれの任務はおそらくロストした敵主力の捜索になるわね。後で命令が来ると思うけど、そのつもりでいて。」

律「またデブリ群の捜索か?」

和「今はまだ命令がきていないからなんともいえないわ。でもすぐに動けるように準備だけはしておいて。」

律「分かった。各チームシフトを組んで待機しようぜ。」

唯紬澪梓斉藤「了解!」


唯と梓は、当初仮眠室待機だった。
それぞれのベッドに寝転がりながら、話をする。

唯「小さな哨戒任務ばかりだったから、大きい作戦は初めてだね。」

梓「他の艦と一緒って言うのも初めてですもんね。和さん、調整で大変そうでした。」

唯「ミネバちゃん、大丈夫かな…」

梓「ソロモンは堕ちませんよ。」

梓「そういえば唯先輩・・・変わりましたね。」

唯「そう…?どこらへんが…?」

梓「わかりませんか?」

唯「…」

梓「唯先輩?」

唯は、眠っていた。悲しそうに梓がつぶやく。

梓「最近、抱きしめてくれなくなったじゃないですか…。」


……

敵主力の捜索命令がきてすぐに、戦端が開かれた。

純「要塞周りにビーム撹乱膜を展開されたそうです。要塞攻撃は主力ではなく第三艦隊が行っている模様!」

和「ビーム撹乱膜とは縁があるわね。要塞守備に回らなきゃいけないかしら?こちらの命令に変更は?」

純「ありません!引き続き、第二艦隊を捜索せよとの事です!」

和は考えを整理するためにソロモン周辺の宙域図を手元のホログラフィーで映しだした。

和「大きな艦隊が隠蔽できるほどのデブリ群はソロモン外周に5つ、うち、我々が捜索できる範囲にあるのは二つ…サイド1の残骸からなるデブリ群と、今捜索している隕石群。」

和「ここの捜索はトヨサトに任せて、まだ索敵されていないデブリ群であるサイド1の残骸に、単艦で急行すべきね。」

和「進路変更、目標、旧サイド1、暗礁宙域。」

律「単艦で敵主力と遭遇したらまずくないか?」

和「発見したらHQに連絡して、全力で逃げるのよ。任務は捜索であって、交戦ではないから。」

紬「その時は私たちが殿軍を務めるわ。」

律「ムギ、死に急ぐなよ!」

紬「唯ちゃんのお菓子を食べるまで、死ねないわ。」

MSを一旦格納し、ブオンケはサイド1の残骸からなるデブリ群を目指して前進した。

デブリ群に到着すると、全MSを射出して、捜索する。

唯「あそこ、何かへんだよ。」

梓「どこですか?」

唯「二時方向のコロニー残骸の左上、星の並び方が変。」

梓「あ…艦が見えました。ブオンケ!敵主力と思われる艦影を発見!!」

唯「和ちゃん、星が歪んでる!画像を送るからね!」

律「敵MS、接近!」

和「応戦しながら、後退するわ。鈴木伍長、平沢軍曹から送られてきた画像の解析結果は?」

純「えっと…確かに変です。え…こ…これって…」

和「何か分かった!?」

純「か…鏡です。巨大な鏡が何枚も…一体何に使うんだろ…?」

和「敵主力発見の知らせと、その鏡の画像をHQに送信して!」

純「了解!送信完了!!」

和は考えていた。鏡が兵器だとしたら…太陽の方向は…まさか!
湾曲した鏡で太陽光を収束し、巨大なエネルギーで要塞を焼く。
馬鹿げた、古典的な方法だと思った。
しかし背筋が凍りついた。

和「まずい…!!」

ソロモンの一部が太陽のように強烈な輝きを放っていた。
爆発も起こっているようだ。


紬「敵の数が多いわ!」

斉藤「お嬢様、下がってください!ここは私めが!」

敵の主力艦隊はソロモンに向けて前進を開始した。
ブオンケに割いている戦力はたかが知れている。
それでも数の圧力で殿軍のキーボードチームは必死だった。
なんとか、宙域を離脱する。

紬「斉藤、大丈夫?」

斉藤「はい、何発か食らいましたが、致命傷はありません。」

紬「その状態ではもう出られないわね。私はドラムスチームに加わるわ。」

斉藤「お嬢様!私は撃墜されるまでお嬢様の盾となって戦います!」

紬「認めません!その機体では、応急修理も間に合わないわ。帰艦して医務室!命令よ!!」

斉藤「はい…」

2機はかばい合うように着艦した。

和「琴吹軍曹、着艦したわね。」

紬「はい、キーボード02が中破、使用不可なので次から私はドラムスチームへ移動します。」

和「許可するわ。本艦はこれより主力と合流。敵第二艦隊とあの鏡を叩くわ。ドズル閣下も出陣されたそうよ。」

紬「ドズル閣下が…」

紬の胸に一抹の不安がよぎった。
ミネバは大丈夫だろうか、と思ったが、声には出さなかった。

和「とにかく合流前にギターチームと現ドラムスチームを射出するから、あなたはギリギリまで応急修理をしておいてね。」

紬「了解!」

合流すべき主力が近づいてきたので、ブオンケは4機を射出した。
そしてすぐに、唯がか細い声で呟いた。

唯「あ…だめだよ…そんな…」

律「唯、何か言ったか?」

澪「り…律…前見てみろ…」

梓「主力が…」

味方の主力艦隊が爆散していく。
あの鏡だろう。
もうソロモンに戦力らしきものは残っていないはずだ。
和に通信が入る。

和「て…撤退命令…ですか…?」

和はショックだった。
何もしていない。
何もできないうちに、あっという間に要塞が陥落したのだ。

和「たかが…鏡に…こんなに簡単にソロモンが堕とされるなんて…」

しかし落ち込んでいる暇はない。

和「ア・バオア・クーへの撤退命令が出たわ。ソロモンから脱出する艦隊に合流、これを支援する。」

唯梓律澪「了解!」

ブオンケは鏡の攻撃を生き残った艦隊と合流する。
満身創痍の艦隊に、連邦軍のMS隊が突っ込んできた。

律「きやがったな!行くぞ、澪!」

澪「ああ、艦隊をこれ以上をやらせるわけに行かない!」

唯「あずにゃんも行くよ!」

梓「やってやるです!」

チームでの訓練は、哨戒任務の合間になんどもやった。
連携が取れているので連邦のMSとは互角以上に戦える。
しかし数が違う。
しかも、MSとドッグファイトに持ち込もうとすると、弾が飛んでくる。

律「クソ、あの丸っこいのが邪魔だぜ。」

弾を撃っているのはボールと呼ばれるモビルポッドだ。
動きも鈍く、格闘戦も出来ないため単機ではリックドムの相手にならないが、こう敵が多いと相手にしきれない。向こうもそれが分かっているようで、ジムに接近戦をやらせ、自分たちは距離を置いて攻撃してくる。

律「澪、あの丸いのを何とかしてくれ!あんな情けないのに落とされたくない!」

澪「そんな事言ってもこっちにもジムが…」

梓「なんとかしないと…」

唯「う~…手が出せない…」

その時、バズーカの弾が何発かボールに命中する。

紬「お待たせ!」

律「ムギか!助かった!」

紬の参戦で形勢が逆転した。
5人は次々と連邦のMSを蹴散らしていく。
一つのきっかけで、戦いの趨勢はころりと変わるのだと、5人は思った。

気がつくと、殿軍で青いリックドムが戦っており。これに押された連邦の追撃が弱まっていた。

撃破したのか追い返したのか分からなかったが、ブオンケの周りの連邦軍はいなくなっている。

澪「なんとか…耐え切ったみたいだな。」

律「ああ…」

唯「もうクタクタだよ~」

梓「一度艦に戻って、機体のチェックと補給して、再出撃を…」

和「その必要はないみたいね。友軍よ。」

グラナダからの艦隊だった。

和「今頃増援ってのもよく分からないけど…もう敵はいないわ。みんな、戻って。」

着艦して、MSを降りる。

五人がデッキの真ん中に集まった。

唯梓律澪紬「メリー・クリスマス!」

みんな疲れているということで、少し休んでからお菓子を食べることになった。

紬は、医務室に向かった。

紬「失礼します。」

憂「あ、紬さん。無事だったんですね。」

紬「唯ちゃんも無事よ。疲れて寝てるみたい。」

憂「ありがとうございます。」

紬「それで…」

憂「斉藤さんなら、大丈夫ですよ。一応そこで寝ていますが、疲労が溜まっている以外、どこも問題ありません。」

紬が斉藤のベッドに近づく。

紬「斉藤…よかった。」

斉藤「お嬢様も・・・ご無事で何よりでございます。」

紬「みんなが頑張ってくれたから…」

紬の頭ががくん、と下がる。
疲れが限界に達しているようだ。

斉藤「お嬢様、帰ってお休みになられたほうが…」

紬「ううん…もう少し…こうして…る」

紬が斉藤のベッドに倒れ込む。
眠ってしまったようだった。

憂「大変!ベッドに寝かせなきゃ。よいしょ。」

斉藤の目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。
憂は見えないふりをして、紬を隣のベッドまで運んでいった。

久しぶりの、ティータイムだった。

唯「これしかないんだけど…」

澪「私も残ってた分、持ってきたぞ。」

律「配給品のビスケットに、チューブ飲料か…以前のティータイムが恋しいぜ…美味しいケーキに、ムギの紅茶…。」

紬「戦争が終わったら、またちゃんとしたティータイムもできるわよ。」

梓「ですね。」

唯「みんなで、演奏もしたいよね!」

律「そうだな、ブランクを解消したらすごくいい演奏になるとおもうぜ。生死を共にしたバンドなんて、結束力とか見るからにスゴそうじゃん!」

澪「さわ子先生もいたらな…」

部屋の中に、沈黙が訪れる。

澪「あ、ごめんごめん…つい…」

紬「ドズルさんも、亡くなったみたいね…和ちゃんから聞いたわ。」

紬「前向きに行きましょ…これからは、ひとりも欠けることが無いように、みんなで頑張るの…ね、そう考えましょ。」

唯「ムギちゃんすごくいいこと言った!」

紬「りっちゃんにおしえられたのよ~」

律「そ、そんな事言ったか…?///」

律が頭をかく。照れているようだ。

ひとりを除いた笑い声が、響き渡った。

梓「…」

ティータイムが終わった後、梓はひとりでベッドに寝転がっていた。
心から笑えなかった。
理由は考えたくなかった。
誰かが入ってくる。澪だった。

澪「梓、寝てるのか…?」

梓「どうしたんですか?」

梓はけだるそうに澪に顔を向けた。

澪「いや、なんか元気なかったな、と思って。」

梓「…」

澪「唯のことだろ。」

梓「違います!」

澪「唯、最近梓とスキンシップしてないもんな。今も憂ちゃんとこに行ってんだろ?」

梓「だから違うって言ってるじゃないですか!!」

澪「梓、もうちょっと素直になれよ。唯だって、こんな生活してるんだからいつものように振る舞えないだろ。次出撃したら帰ってこれないかも知れないし、たまには梓から唯のこと抱きしめてやったり…」

梓「私はいつも素直です!それに唯先輩は私が守ってるから死にません!死ぬとしたら、私が先です!!」

澪「梓…」

梓「澪先輩、唯先輩の未熟な戦い方見てないんですか?フラフラして、危なっかしくて、いつも私が見てあげてるから、やっと生き残っているんですよ!」

梓「私、未熟な唯先輩のフォローで疲れてますから、もう寝ます。出ていってください!」

澪「そ…そうか、疲れてるとこ、ごめんな。」

澪が、逃げるように部屋から出て行く。
しばらくして、唯が帰ってきた。

唯「あずにゃん寝てるの?おやすみ~。」

唯がベッドに潜り込む気配がする。
梓は小声で呟いた。

梓「せっかく生き残ったのに、また抱きしめてくれない…」


第六話 クリスマス! おわり



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