第四話 軍艦!

配属になる艦が見えてくる。チベ級の重巡洋艦だ。

唯「こ、これムギちゃんちで買ったの…?」

紬「別荘、なくなっちゃったけどね。会社も火の車らしいわ。」

梓「私はムサイ級だとばっかり思ってましたよ…すごい。」

澪「ああ…でかいな。」

律「とにかく荷物置きたいな。部屋はどこだ?」

斉藤「みなさんの居室は第2居住区にございます。こちらへ。」

新造艦の新しいペンキの匂いが5人の鼻をつく。
理由はよくわからないのだがなぜか誇らしい気持ちになってくる。
パイロットは個室が与えられるはずだが、五人は士官ではないということで二人部屋なのだそうだ。

斉藤「荷物を居室に置かれましたら、艦長への着任報告をしていただきます。」

律「いっそがしいねえ。一息つかせて欲しいんだけどなあ。」

梓「艦長は琴吹グループ関係の方ですか?」

斉藤「いえ、皆さんと同い年くらいで、非常に有能な方です。」

律「おいおい、艦長も若年兵かよ。大丈夫か?」

斉藤「史上最年少で大型航宙船舶の艦長資格を取られた方です。心配は無用かと。」

律「エリートじゃねーか、そんなのみすみす戦争に引っ張ってきていいのかよ。簡単に殺していい人材じゃないだろ?」

斉藤「本人たっての希望のようです。」

澪「変わり者なんだな…」

斉藤「到着いたしました。お嬢様は1号室、田井中様と秋山様は2号室、平沢様と中野様は3号室でございます。」

唯「あの…妹はどこですか?」

斉藤「憂様は隣の第1居住区にお住まいです。」

紬「取りあえず荷物を置いて艦長室に行きましょうか。」

居室の自動ドアが開く。
紬の部屋は酒臭かった。

紬「…うっ。」

さわ子「なによ~、だれ~?」

紬「さわ子先生!?」

斉藤「山中様、艦内はアルコール厳禁でございますが…」

さわ子「出航したら調達できなくなるんだし、今だけよ~」

さわ子「あらムギちゃん訓練施設以来ね。いらっしゃ~い。」

ドアが閉まる。

唯「ムギちゃん前途多難だね。」

梓「私だって前途多難です///。唯先輩と一緒なんて…//////。」

唯「ほえ?じゃあ澪ちゃんと変わってもらおうかな?」

梓「だだだダメです。律先輩に迷惑掛けないでください///」

律と澪が荷物を置いて出てくる。

律「じゃあ艦長室に行くか。斉藤さん、案内よろしく。」

斉藤「かしこまりました。」

艦長室はそう遠くはなかった。
これならば憂の居室もそう苦もなく行けそうだ。
通路はどこも似たようなつくりだが、壁に案内の矢印が付いているので初めてのものでも艦内のどこへでもアクセスできそうである。


律が艦長室のドアをノックする。

「どうぞ」

自動ドアが開くと、そこには見知った人物が座っていた。

律「の…和!」

唯「和ちゃん!?」

和「驚くのはわかるけど、着任報告をして頂戴。話はそれからよ。」

律が、ぎこちなく敬礼する。

律「宇宙軍軍曹、田井中律他4名、MSパイロットとして着任いたします。」

和「着任を許可します。私は艦を任されている真鍋和少佐よ。この艦はチベ級重巡洋艦ブオンケ。艦名の由来は東北地方に生息する妖怪だそうだけど、そんな話必要ないわね。」

和「ちなみに今後の予定は本コロニーを明日0600出航、明後日1130には宇宙要塞ソロモンの第6スペースゲートに入港。じ後宇宙攻撃軍の指揮下に編入されるわ。」

和「あなた達は出航までに受領したMSの初期点検を済ませておくこと。あとのことは山中曹長に一任してあるから、彼女に聞いて。」

律「了解。…ってなんで和がここにいるんだよ?」

和「うーん、どこから話せばいいのかしら?」

唯「和ちゃんが大学やめたとこからだよ。」

和「私は大学を辞めて、木星船団へ志願したの。木星のプレッシャーを体感してみたかったし、社会の根底を支えるやりがいのある仕事だと思ったから。」

木星船団とは、核融合エネルギー源のヘリウム3を、木星から採取し、地球圏まで運搬することを主な業務としている。
地球圏を離れての航行は長期にわたり、過酷である。

和「試験さえ通れば私みたいな大学中退の若輩者でも別け隔てなく採用してくれるし、艦長職の資格も取らせてもらったわ。でも祖国が戦争してる時に、木星だのなんだのとロマンを求めているのもどうかと思ってた。」

和「そんな時に会社づてでこの部隊が発足することを知ったのよ。木星船団は、琴吹グループとも関わりがあったから。」

澪「そうだったのか…」

和「木星には行けなかったけど、また戦争が終わったら船団に戻りたいと思っているわ。木星行きも諦めきれないしね。」

唯「すごいね和ちゃん、木星帰りの女って呼んでいい?」

和「……だからまだ行ってないって…。」

梓「唯先輩は口を開かない方がいいです。」

和「さ、話はまたあとで聞くから、MSの点検の方をお願いね。」

律「わかった。要件終わり、退出します。」

部屋を出ると、律は唯の方に体を寄せた。

律「唯、お前は憂ちゃんのとこへ行ってやれ。起動チェックと初期点検は私たちがやってやるから。」

唯「え…いいの?」

律「あとから合流して、お前に合わせてペダルや操縦桿なんかを調整をすりゃいいだけにしとくからさ。憂ちゃんとずっと離れ離れだったから会いたいだろ。」

唯「うん…りっちゃんありがと!」

紬「憂ちゃんよろこぶわねえ」

澪「そうだな、早く行ってやれよ。」

梓「ですね。」

第1居住区はすぐに見つかった。
憂は純と同室らしい。部屋をノックすると純の間延びした声が聴こえる。

純「どうぞ~」

唯「あ、純ちゃん。憂は?」

純「唯先輩、憂なら医務室ですけど。今日は当直らしいんで。」

唯「えっと…医務室は…」

純「私が案内しますよ。今暇ですし。」

純は手際よく部屋から出て、リフトグリップをつかんだ。
唯もそれに続く。

純「唯先輩、MSパイロットなんですよね。カッコいいなあ。」

唯「乗っている時は洗濯機の中に居るみたいだよ。Gがすごいんだあ。」

唯「まだ訓練施設でザクにしか乗ったこと無いんだけどね。」

純「ここにはリックドムが配備されているみたいですよ。」

唯「へえ、すごいね。新型だよ。」

純「医務室はここです。じゃ、私はこれで。」

純がリフトグリップに引っ張られて戻っていく。
唯はなんだか久しぶりに妹に会うのが気恥ずかしいような気持ちだった。

唯「失礼します…」

医務室に入って初めて目を合わせたのは中年くらいの女医だった。
その女医が目を丸くしている。

女医「ひ…平沢伍長!?今そこに…」

唯「ええっと…私は平沢軍曹だよ。」

憂「先生、呼びましたか?」

女医「ひ…平沢伍長が二人…!?」

憂「おねえちゃん!!」

唯「うい~、元気にしてた?」

二人が抱きあう。女医もようやく事態が飲み込めたようだ。


女医「ああ、いつも平沢伍長が喋っている、MSパイロットになったお姉さんだったのかい…あまり似てるもんだからびっくりしたわ。」

憂「はい、姉の唯です。」

憂の目は嬉し涙で濡れていた。涙はみるみるうちに溜まって、今にもこぼれ落ちそうである。
それをぬぐいながら憂は続ける。

憂「お姉ちゃん、ちゃんと食べてた?具合悪くない?ケガとかしてない?」

唯「みんな一緒だったから大丈夫だよ。」

憂「私、看護師になったから、何かあったらいつでも来てね。」

唯「うん。それじゃあ私、自機の点検に行ってくるね。」

憂「頑張ってね、お姉ちゃん。」

医務室の扉を出ると、唯はMSデッキを目指した。

その時、MSデッキでは驚嘆の声が上がっていた。

律「しかしすげーな、ザクとは段違いじゃねーか。」

実際に乗ってみなくても、モニター越しに性能に関するデータを拾うだけで。MSがどれほどのものなのかが、想像できる。
リックドムは、訓練施設で使った旧式のザクとはまるで別物だった。

梓「ちょっと動かしてみたいですね。」

さわ子「出航が近いからダメよ。出航したら、警戒態勢になるから各チームシフトを組んで待機ね。その時に敵襲があれば処女飛行できるわよ。それまではシミュレーターで我慢しなさい。」

梓「敵が来たときに処女飛行なんて、初期不良とかメカニカルトラブルが起こったらどうするんですか?」

さわ子「冗談よ。私と斉藤さんのドムが飛行試験まで終わってるから、それで出ることになるわね。私の機体に傷をつけたら許さないけど。」

さわ子「まあ敵が出るような宙域ではないから安心して。」

さわ子「取りあえずチーム分けをするわ。私と斉藤さんとムギちゃんがキーボードチーム。りっちゃんと澪ちゃんがドラムスチーム、唯ちゃんと梓ちゃんがギターチームよ。コードネームは、チーム名の後ろに番号をつけて。」

紬「私はキーボード03がコードネームね。」

澪「嫌だ。」

さわ子「ああん!!?なんだってえ!?」

澪「ヒッ!!!!」

さわ子の顔が優しそうないつもの表情に戻る。

さわ子「何か言いたいことがあったら言いなさいね。」

澪「ええっと、コードネームはベース01がいいです…」

さわ子「澪ちゃんはどうでもいいことにこだわるわねえ…」

澪「ど、どうでもよくなんかありません!」

その時、唯が医務室から帰ってきた。

唯「みんなお待たせ~」

律「よう、ギター01、憂ちゃんはどうだった?」

唯「ほえ?なにそれ?」

梓「唯先輩のコードネームですよ。私がギター02で、二人でチームです。」

さわ子「シフトは6時間交代で、最初はドラムスチーム、次にギターチーム、キーボードチームの順で行くわ。待機場所はデッキ横の仮眠室ね。」

律「私はシミュレーターやりながら待機しとくよ。唯、操縦系の硬さと位置の調整しとけよ。」

唯「ほいさ。」

さわ子「熱心なのはいいけど、ちゃんと休息も取りなさいよ。」

さわ子の言う通り、ソロモンまで敵影はなかった。
ブオンケの緑の船体は、静かにソロモンの第6スペースゲートに入港した。

和に、呼び出された。
唯がブリーフィングルームに到着すると、もうすでに主だったメンバーが揃っていた。

和「着任報告に行くわよ。」

唯「和ちゃんにりっちゃんがしたじゃん。」

和「ソロモンの司令に私が着任報告に行くのよ。あなた達も来るの。」

唯「ほええ。」

梓「唯先輩はしゃべらない方がいいです。」

律「そういえば、ここの司令はザビ家だろ。ムギ、大丈夫か?」

紬「ドズルさんは優しいから大丈夫よ。上の二人はちょっと苦手だけど…。」

澪「それなら問題ないな。」

紬「澪ちゃんにはちょっと刺激が強すぎるかも…」

澪「え、なんだって?」

紬「なんでもないわ~」

7人は艦から降り、司令室を目指す。
途中で何人かの兵士が奇異の目を向けてくる。
若すぎると思っているのだろう。特に和は階級と年齢があっていない。
通り過ぎる兵士たちは、ほとんどが和より低い階級だったが、和に敬礼をすることはなかった。
和は気にせず進んだ。

気まずい空気を何とかしようと、唯が話題をふる。

唯「私たちで、みんなのあだ名を考えようか。ソロモンのゴキブリ、なかのあずにゃん、とか。」

梓「なんで私がゴキブリなんですか?」

唯「すばしっこくて攻撃が当たんないし、出てくるだけでみんな恐れおののくんだよ!」フンス

梓「そんなの嫌です!唯先輩ろくな事言いませんね!」

澪「光速のベーシスト、秋山澪…」ボソ

律「みおちゅわん、なんだって~?」

澪「ヒッ!!何も言ってない…」

紬「きこえたわよ~」

澪「ムッ…ムギィ~っ///」

笑いが起こる。
最近は入隊した当初に比べてみんなよく笑うようになった。
この状況に、慣れてきているのだろうか。
澪は、自分が普通の人間じゃなくなったように感じ、少し寂しい気持ちになった。

司令室のドアが開け放たれたとき、澪は震え上がった。
司令の机に収まっているのは、澪が見たこともないくらい恐ろしい形相の大男だったからだ。

和「重巡洋艦ブオンケ艦長、兼、在学徴集兵運用実験隊隊長、宇宙軍少佐、真鍋和以下7名。着任報告に上がりました。」

ドズル「ご苦労。楽にしてくれ。」

司令室には7人分の椅子が用意されていた。腰掛けろということなのだろうが、澪だけ立ったまま動かなかった。

紬「澪ちゃん、座って。」

紬が力まかせに椅子に押し付け、ようやく形ばかりは椅子に収まった。
澪は気絶しているようだ。

ポツリポツリと、ドズルが語りだす。

ドズル「琴吹殿には大変申し訳無く思っている。」

紬「閣下がそのように思う必要はありません。父もそう言うでしょう。」

ドズル「いや、言いだしっぺは俺なのだ。俺が、戦いは数だと言いすぎたせいで兄上か姉上が学徒動員の話を進めてしまった。」

話が長くなりそうだと踏んだ和が切り出す。

和「すみません、今後の任務に関する仕事があるので、私はこれで失礼したいと思います。」

ドズル「おう、艦長は行ってくれ。気づかんで悪かったな。」

ドズル「琴吹殿、ミネバに会っていかんか?他の者も。」

紬「ミネバ様にお会いしてもよろしいのですか?」

ドズル「かまわん。ミネバも喜ぶ。付いてきてくれ。」

ミネバのいる部屋までは結構な距離を歩いた。
公私をくっきりと区別しなくては他の兵に対して示しが付かないというドズルの配慮だろうと紬は思った。
ザビ家の中で、政治や権力に毒されていなかったのは、ドズルだけだった。
そのため、ドズルは人望も厚く、紬の父もドズルとだけは交友があった。
紬が背中におぶった澪を重たいと感じ始めた頃に、ミネバのいる部屋へ到着した。

唯「わあ、ちっちゃい。ムギちゃん、この子すっごくかわいいよ!」

梓「まさしく玉のようですね。」

律「わっ、ちっちゃい手で指をつかんだぞ!!」

動かない澪を部屋の隅において、紬もミネバのベッドに近づく。

紬「ミネバちゃ~ん、ほ~ら、マンボウのマネ~」

ミネバ「キャッキャッ」

唯「笑ったよ!ミネバちゃん笑った!!ミネバちゃ~ん!」

さわ子「ミ~ネ~バ~ちゃ~ん。ほんと、かわいいわねえ。」

律「反則だろこれ…つ…連れて帰りたいな…。」

梓「ダメですよ!」

律「わーってるよ!冗談、冗談。」

紬「私たちも仕事があるし、これでおいとましましょうか。」

唯「ええ~、もっとミネバちゃんとあそびたいよ~」

さわ子「遊びに来たんじゃないわよ。」


帰りの道中、紬は始終俯き加減だった。

律「ムギ、どうしたんだ?澪をおぶるの代わろうか?」

紬「違うの…ミネバちゃんのことでね…」

律「…」

紬「あの子、ザビ家の娘だって言うことが一生ついて回るんだろうなって考えると…何か複雑な気分なの。」

紬「まだちっちゃいのに…あんなにかわいいのに…彼女の未来は、ザビ家の色に染められてる…私たちみたいに普通の高校にいって、部活やって…そんな未来がないなんて思うと、とても人事とは思えないの。」

律「気持ちは分かるけど、そんなに心配するほどじゃないと思うぞ。」

紬「え…?」

律「私たちだって、急に軍隊入って色々やらされて、今度は明日にでも死ぬかも知れないってのに、今日あの子を見て可愛がって、みんなで笑って、すごく楽しかったろ。」

律「人は、どんな状況でも、笑顔くらい作れるんだよ。楽しい気持ちになることだってできる。」

紬「りっちゃん…」

律「今私たちにできることは、ソロモンが堕ちないように、あの子に危害が及ばないようにしっかり任務をこなすことだ。」

紬「やっぱりりっちゃんてすごいわ…私じゃ思いもよらないことを、考えることができるんだもの。」

律「そう言われるとなんか照れるな…///。」

律「とにかく、燃えてきたぜ。早く艦に帰って、仕事だ!」

軽い、足取りだった。
澪は艦に帰りつくまで起きなかった。

第四話 軍艦!  おわり



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