第三話 パイロット!

MSパイロットの訓練は、座学、シミュレーター、実機と、順を追って行われる。
唯たちが座学を受けに教場に向かっていると、シミュレーター室の方でざわめきが起こっていた。

唯「なんか向こうが騒がしいよ。」

律「よ~し、時間に余裕もあるし、シミュレーター見学も含めて、行ってみようぜ。」

澪「怒られるかも知れないぞ。」

紬「その時はその時よ。行ってみましょ。」

梓「みなさん肝が大きくなりましたね。」

唯「はいよっと、ごめんなさいね。え~と、何があったんですか?」

パイロット候補生「教官が模擬戦で不死身のコーラサワコに負けたんだよ。」

唯「へえ、どんなひとだろ?」

パイロット候補生「模擬戦全勝の女だ。いま出てくるぜ。2番シミュレーター。」

「2」と記されたカプセルからパイロット候補生が出てくる。
ヘルメットを取ると、髪の長い女のようだった。

「ま、これが実力ってやつよねえ。」

唯は、その女に見覚えがあった。

唯「さわちゃん先生!?」

さわ子「あら…!唯ちゃん!?」

律「さわちゃんだって!?」

律を始め皆が人ごみをかき分けて出てくる。

さわ子「皆まで…どうして!?」

律「どうしてはこっちのセリフでもあるぜ。なんでさわちゃんが…」

澪「おい律、時間時間。」

律「おっと…私たち講義があるから後でだ。さわちゃん夕食後大丈夫?」

さわ子「ええ、大丈夫よ。夕食後ね。」


そして、夕食後。
六人は談話室に集まっていた。

さわ子「で、皆はなんでこんなところにいるの?」

律「実はムギが…かくかくしかじかで…」

さわ子「そうだったの…私も学校にいるときに学徒動員の話は何回か耳にしたけど、本当にやりだしたわけね。」

澪「さわ子先生は知ってたんですか?学徒動員の事?」

さわ子「教育委員会から通達が回ってきたのよ。学徒動員があるかも知れないから、スムーズな動員を助けるために、スペースノイドの独立論やニュータイプ論を教育に盛りこむようにってね。」

さわ子「うちは女子高だったからあまり気に留めなかったけど、まさかあんたたちが来ちゃうとはねえ…。」

紬「さわ子先生はどうしてMS訓練施設に来たんですか?」

さわ子「その愛国教育の一環ね。女子高の、女教師が志願したとなると、真面目な男の子なら黙っちゃいないでしょうから。今頃コロニーじゃプロパガンダに使われて私も有名人ねえ。」

梓「お互い大変なんですね。ていうか私さわ子先生が学校いなかったの気づきませんでした。」

さわ子「中野ォ!!オメーは顧問を何だと思ってんだあ!!」キシャア

梓「」

さわ子「…私はもうすぐ実機やって艦に配属になるけど。皆はこれからだから。頑張ってね。」

そう言ってさわ子は部屋に戻っていった。
悲しそうな、背中だった。


唯たちも、すぐにシミュレーター訓練に入り、今は実機を残すのみだ。
学徒兵は促成栽培である。
軍隊に入ったのが11月の始めで、今は11月の終わりである。
やってる最中は長く感じたが、あっという間の教育期間だった。
来月初めには、紬の家が買ったという軍艦に配属になる。
これでも短いというのに次の期からは年齢制限も低くなり、さらに教育期間を短縮するらしい。

澪「そろそろジャブローを攻めるらしい。」

律「ジャブローを落とせれば、私たちの出番は無いな。」

紬「そうなってくれればいいんだけど…」

唯「ジャブローって、月だっけ?」

梓「唯先輩は黙っててください。」

施設の職員が、呼びに来る。

職員「田井中候補生、秋山候補生、初飛行だ。1番デッキに15分後。ノーマルスーツの点検はしておけよ。」

律「じゃ、行ってくる。」

澪「またな。」

澪の手は、震えていた。
確実に、戦場に向かって前進しているという手応えがあった。

教官「カタパルトで射出後、ポイントC-5でカプセルを採取した後、2番ゲートに着陸する。シミュレーター通りだ。出来るな。」

澪「はい。」

教官「カタパルトは出力を絞ってあるから、感じるG自体はシミュレーターで経験したものと同じだ。君の前に田井中候補生が飛ぶから、それを見て落ち着いてやるように。」

その時、律がカタパルトに前進しているところが、サブモニターで確認できた。

律「T-04、MS-05、田井中律、いっくぜー!!」

T-04とは、練習機(trainer)104番という意味のコードネームである。
パイロット候補生は出撃時、コードネーム、機種名、パイロット名、出撃号令(行きます)を呼称することが義務付けられていた。

澪「教官、その…射出時の呼称なんですけど…」

教官「何だ、秋山候補生。」

澪「その…イク///とか…出る///…とかホントに言わなきゃいけないんですか?///」

教官「当たり前だ!君のタイミングで射出しないと、舌を噛んだり、Gで気絶したりするぞ!」

澪「は…はい…(人前でそんな事言うなんて…恥ずかしい///)」

教官「ほら、カタパルトまで前進して。機体を固定。」

澪「歩行モード、微速前進。…カタパルト装着完了。」

教官「出撃呼称。」

澪「T-05、MS-05、秋山澪、イ…イク…//////」

教官「声が小さい!」

澪「T-05、MS-ぜrあむっ!」

教官「出撃呼称で噛むな!」

澪「T-05、MS-05、秋山澪、イクッ!//////」

教官「もっと大きな声で!」

澪「イクゥっ!!/////////」


唯たちの居る待合室では、澪と教官のやり取りが放送で聞こえるようになっている。後から飛ぶ候補生が参考にできるようにである。

唯「澪ちゃん怒られてるね。」

梓「そ…そうみたいですね…//////(恥ずかしいならイク///じゃなくてもっと他の表現があると思うんだけど…)」

唯「ムギちゃん大丈夫?すごい鼻血だよ!!」

紬「唯ちゃん、悪いけどティッシュを貸してもらえるかしら。持ってる分じゃどうあがいても足りないわ。」ボタボタ

梓「ム…ムギ先輩…」

澪「イクゥーーーーーっ!!////////////」

教官「よし、出すぞ!!」

澪の体がシートに押し付けられる。
本物のGだ。
ゲートを抜けると、星の海だった。
教官の声が聞こえなかったら、ずっと見とれていただろう。


教官「AMBACを併用してサブスラスターで姿勢を制御。ポイントC-5をセンターに入れてみろ。」

澪は、訓練通りにやったが、上手く行かずにもたつく。

教官「落ち着け。スラスターを吹かし過ぎだ。」

澪「は、はい…」

スロットルとフットペダルを、優しく操作してやる。

教官「上手いじゃないか、次はメインスラスターも使ってポイントC-5まで行ってみろ。加速しすぎて、通りすぎるなよ。」

澪「はいっ…うっ!」

スロットルを開けていくと、澪の背中にGがかかる。
目標がみるみるうちに大きくなる。

教官「逆噴射。」

澪「ウウッ…」

逆噴射をすると、シートベルトが食い込み、頭が前に持って行かれる。
徐々に速度が落ちてくる。目標の目の前で澪のザクはそれとの相対速度を0とし、Gも止んだ。


教官「マニュピレーターをマニュアル起動、目標を掌握しろ。」

澪「はい。」

澪はザクの手で目標を優しく包み込んだ。
細かい作業は得意である。

教官「いいぞ。マニュピレーターをホールド。帰投する。着地は難しいから、気を抜くなよ。」

澪「はい。帰投します。」

澪のザクは、カプセルを抱えてスムーズに着地した。
また、戦場に向かって一歩を踏み込んだように思えた。

まもなく、五人は訓練施設を卒業した。
ジャブロー攻略戦は失敗した、という情報も入ってきた。

第三話 パイロット!  おわり



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