第二話 入隊!

ジリリリリリリリリリリリ

その音に、唯を除く全員がベッドから飛び起きる。

律「唯、起床だ!Bグループに負けちまうぞ!」

唯「う~ん…おかわり…」

紬「取りあえず、唯ちゃんは私が担いでいくから、澪ちゃんたちは、唯ちゃんのベッドをお願い。」

澪「分かった、律は毛布を頼む。」

律たちAグループが点呼に降りたとき、憂たちBグループは点呼を終えるところだった。

憂「Bグループ、総員3名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」

憂が敬礼し、教官が答礼する。

教官「Bグループ、点呼終わり。解散。」

憂(お姉ちゃん…大丈夫かな…)

律「Aグループ、総員4名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了!」

律が敬礼するが、教官は答礼しなかった。

教官「オイ、平沢姉二等兵。」

唯「ふえ…たくあん…」

教官「田井中二等兵、こいつも健康状態異常なしか?」

律「ええっと…そのう…」

教官「上官の質問には即答しろ!」

律「ハイ、すみません。平沢唯二等兵は半分寝てます!」

教官「秋山二等兵、そいつを殴って覚醒させろ!」

澪「え、ええっと…唯、起きろ。(教官…怖い…目がイッちゃってるじゃないか…)」

澪は唯を軽く叩く。もちろん唯は起きない。

教官「こうやるんだ、修正!!!」

ホールにビンタの音がこだまする。

唯「ぽへ」

教官「田井中二等兵、罰としてその場に腕立て伏せの姿勢を取れ!30回!」

紬「わ、私たちも…」

全員が腕立て伏せの姿勢をとろうとするが、教官がそれをさせなかった。

教官「俺は田井中に命令したんだ!他の奴は田井中がやり遂げるまで黙って見てろ!」

律「いち、に、さん…」

唯「りっちゃんごめんなさい……私のせいで…」

唯を始め、全員が泣きじゃくっていた。

教官「駄目だ、声が聞こえない!俺が数えてやる!」

教官「しい、ごお、ろく、ろく、ろーく、ろおおおおく…」

律「うへえ~」ペタ

回数が六から進まない。律が、たまらずその場にへたり込んだ。

教官「どうした、まだ5回しかできていないぞ。貴様は根性なしか!」

起床は6時だったが、点呼が終わると7時近くになっていた。
絶望にまみれた朝だった。
結局Aグループは朝食に間に合わなかった。

唯「みんなごめんね…おなかすいたよね…」

律「唯、気にすんな。それより午前は座学だ。寝ないように気をつけろよ。寝たら朝の悪夢がよみがえるぜ。」

紬「第一講堂で現代戦史よ。忘れ物は無い?」

唯「うん、大丈夫。」

澪「私は食べ物を買いに酒保に行ってくるから、カバン頼むな。」

紬「OKよ、時間に遅れないでね。」

全員が、聞きなれない戦史の授業を必死に聞いていた。

教官「ミノフスキー粒子の使用によって、それまで戦闘方法は一転し…」

教官「お…もうこんな時間か…よし、10分の休憩を与える。」

律「休憩、入ります。」

律「よし、手早く食うぞ。」

澪「カ○リーメイトだけどいいかな?」

紬「わあ、なにこれ。クッキーみたいで美味しそう!」

唯「食べれるならなんでもいいよ!いただきます!」

唯たちがカ○リーメイトを口に入れた瞬間、悪夢が蘇った。

教官「貴様ら、何を食っているのか?」

唯「ほえ?カ○リーメイトですけど…」

教官「朝食は?」

唯「点呼が遅くなって食べれませんでした~。えへへ…」

澪「あわわわわ…」ガクガク

講堂に、ビンタの音が響き渡った。

唯「ぺひゃ」

教官「食堂の飯を食うのも軍人の勤めだ!貴様らの食う飯は、同胞の血と汗と涙の結晶である!貴様らはそれを無駄にしたのだ!」

教官「おまけに朝食をとっていれば食わなくてよかったものまで買っているとは、無駄にも程がある!」

教官「酒保の商品も軍の物資である。貴様らはそれも無駄にしたのだ!金を払えば買えるとでも思ったんだろうが、前線でそれを言ってみろ!後ろから撃たれるぞ!!」

たまらず、唯が泣き崩れる。

唯「うええええええん!!」

教官「やかましい!琴吹、そいつを黙らせろ!!」

紬が唯の口を必死に塞ぐ。

紬「唯ちゃん、お願い、泣き止んで。」

唯「うう~ひっぐ…むぐ…」

しかしこれで教官の追求は終わりではなかった。
教官が続ける。

教官「で、この貴重な軍の物資を、貴様らの胃袋という名のゴミ入れに捨てるため、わざわざ酒保から買ってくるという愚かな行為をしたのはどいつだ?」

澪「わ、私です…ごめんなさい…」

教官「よし、田井中二等兵、腕立て伏せの姿勢を取れ!20回!」

律の腕は、朝の腕立てでパンパンに張っており、使い物にならなかった。

澪「私がやったことですし、私が…」

教官「俺は田井中と言ったはずだが。」

澪「ヒッ!!」

教官「秋山!貴様のヘマで貴様が死ぬだけで済むと思うな!貴様がヘマすることで田井中が死ぬことだってあるのだ!これはそういう事だと思え!!お前は腕立ての回数でも数えてろ!!」

澪「いち、にい、…頑張れ、律。」

澪「じゅうご…じゅうろく…もう少しだぞ、律。」

教官「腕の曲げ方が足りない。四回目からやり直せ!」

澪「そ…そんな…」

教官「早くしろ!休憩時間は終わってるんだぞ!講義の時間までむだにする気か?」

澪「うう…ひっく…よん…ごお…」


講義が終わって、四人はようやく食料にありつけた。

律「全く、たまんねーなあ。腕が太くなっちゃうぜ。」

昼食をとり終わり、律がいつものように笑いながら皆に語りかける。

唯「みんな…ごめんなさい…」

澪紬「私も…」

律が、制する。

律「ちょっと待った。ごめんとか、悪かったとかいうのは金輪際止めにしよう。」

律「一人のミスは、皆のミスだ。いちいち謝ってちゃ、キリがないしな。何があっても、恨みっこなしで行こうぜ。私たちはチームだからな。」

澪「律…」

紬唯「りっちゃん…」

律「さあ、次は体育だぞ!着替えなきゃいけないから、そろそろ居室に戻ろうぜ。」

体育は、本当の地獄だった。
四人はへとへとになって居室に帰ってきた。

唯「ほええええ。」

律「キツかったな~唯隊員。」

紬「みんな…こんなことに巻き込んでしまって、本当にg」

律「ムギ、ルール違反だぞ!」

紬は涙をこらえて、笑顔を作った。

紬「じゃあ、言い換えるね。私に付き合ってくれて、ありがとう…みんな。」

澪「明日からは、お互いに負担を掛けないよう、皆頑張ろうな。」

唯紬「おーーーーっ!!」

律は照れ隠しに頭を掻きながら、口を開いた。

律「ささ、今日の復習しとかないと、明日も腕立てで、みんなマッチョになっちゃうぞ!」

居室に、笑いが溢れた。
今日一日で、初めての笑い声だった。

リーダーは、日替り制である。
純は、慌しく朝を迎えた。

純「ええっと…こうして…」

憂「純ちゃん、点呼だよ。急いで。」

梓「ああもう、毛布は私たちでたたんであげるから、リーダーなんだから、しっかりして。」

純「うん、二人共、ありがと。」

ホールに降り、整列。点呼報告をする。

純「えっと…Bグループ、全員集合…だったっけ?」

教官「号令が違う!」

純「Bグループ…」

憂がすかさず、耳打ちする。

憂「総員三名、だよ、純ちゃん。」

そうこうしているうちに、Aグループが点呼をとってしまう。

紬「Aグループ、総員四名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」

教官「Aグループ、点呼終わり。解散。」

純「Bグループ、総員三名、欠なし。えっと…みんな元気です!」

教官「そんな号令はない!」

純「Bグループ、総員三名、欠なし…」

憂「健康状態異常なし。集合完了。だよ。」

純「健康状態異常なし。集合完了。」

教官「…点呼終わり。Bグループは居室点検!」

純「え…?」

教官がズケズケと居室に侵入する。
純は慌ててそれを追いかけたが、部屋に入ると教官が純の毛布を引っ張り出していた。

純「ちょ…ちょっと…」

教官「鈴木二等兵、何だこの毛布は!クンクン!」

純「えっと、琴吹繊維製…ウール100%…」

教官「誰が品質表示を読めと言った!ふざけるな!見ろ、この折り目はなんだ!汚すぎる!!クンカクンカ!!」

純「…すみません…」

教官「鈴木二等兵!腕立て伏せの姿勢を取れ。20回!」


朝食の時間はギリギリだった。
食べ終わったら重い装備を身につけて射撃訓練である。慌ただしかった。

純「はあ、はあ…」

憂「純ちゃん、大丈夫?」

梓「リーダーでしょ、へばんないでよ。」

純「へ、へばってないもん…」

武器庫に到着すると、教官が待っていた。

純「き・・・気をつけ。右へ倣え。」

純「Bグループ、総員三名、欠なし。健康状態異常なし。集合完了。」

教官「オイ、鈴木二等兵、昨日武器庫の開錠時間は何時だと教わった?」

純「8時20分です。」

教官「軍隊では時間をそのように表現すると教わったのか?」

純「すみません…マルハチフタマルです。」

教官「今、何時だ?」

純「ええっと…0840です。」

教官「遅い!!武器庫の開錠は部隊ごとに時間によって厳しく統制されている!貴様のヘマで、訓練施設全体の行動が遅延した!どうしてくれる!!」

純「す…すみません…」

教官「貴様の銃だ。受け取れ。」

純「はい!!」

教官「控え銃!駆け足、進め!営庭二周!」

純「はっ…はっ…」

教官が純の後ろにぴったりついて罵声を浴びせ続ける。

教官「速く走れ!貴様が走り終わるまで教育は一ミリも進まんのだぞ!」

三キロ以上ある小銃を抱え、純は死ぬ思いで走っていた。

純「ふう…はあ…おもい…」

教官「へばるな!もっと速く走れ!おら!!」

純のスピードが落ちると、教官が背中を無理やり押して、スピードを落とさない。

教官「歩調、数え!」

純「いち、いち、いちにい!」

純は、ヘトヘトになって武器庫に帰りついた。

純「ぜーっ…ぜーっ…」

教官「このクズのせいで、教育に遅延が生じている!急ぐぞ!射撃場まで駆け足!!」

純は一日、走り通しだった。

純「憂はスゴイね…昨日憂が問題なくこなしてたから、私リーダーって簡単なことだと思ってたよ。」

憂「いつもお姉ちゃんの世話で忙しいの慣れてるから…でも純ちゃん大変だったね。」

梓「明日はリーダー私か…憂鬱だな~。っていうか唯先輩、大丈夫かな?」

その一言で、憂の顔色が変わる。

憂「そうだ…お姉ちゃんも…きてるんだった…」

憂の目が、みるみるうちにうるんで来る。

憂「おねえちゃん…」

梓「だ…大丈夫だよ。他の先輩たちもいるし。」

純「そうだよ!な、なんとかなるって。」

純と梓が慰めたが、寝るまで憂が泣き止むことはなかった。


一週間は、すぐに過ぎた。
これからは、各職域に分かれて訓練する。
今日はその、職域が発表される。

教官「Aグループは、全員MSパイロット。Bグループは、中野二等兵、MSパイロット、平沢妹二等兵、医療班、鈴木二等兵は通信に配属される。これからそれぞれの訓練所に分かれて専門教育を受ける。移動は明日までだ。さっさと行け。」

各人は、慌しく準備を始めた。

律「引越ーし、引越ーし、とっとと引越ーし♪」

梓「久しぶりです、先輩。」

唯「おー、あずにゃん。放課後ティータイムはやっぱり見えない糸で結ばれてるんだね。」

梓「そんな事より唯先輩、私が先輩の荷物まとめてあげますから、憂のところに行ってあげてください。お姉ちゃんと一緒じゃないって、泣いてますよ。」

唯「わかった!行ってきます!!」

澪「それにしても、唯がMSパイロットとはな…」

律「唯は飲み込み早いからな。よいしょ。」

紬(唯ちゃんの適正…何かの間違いよね…)

実は、紬は適性検査の結果を斉藤から見せられていた。
唯の脳波測定記録には、N+ 微弱な感応波を観測 と書かれていた。
ニュータイプ適正である。
唯とは、もしかしたら最後まで一緒にいられないかも知れない。
紬はそう思っていた。

……

唯は、泣きながら荷物をまとめる憂に歩み寄った。

唯「うい…大丈夫?」

憂「お姉ちゃん…私…お姉ちゃんと一緒になれなかった…寂しいよ…」

唯は、しっかりと憂を抱きしめた。

唯「憂…私、毎日電話するよ。それに教育が終わって艦に配属になったら、毎日会えるよ。だから、寂しくないよ。」

憂「おねえちゃん…」

唯「憂、頑張ろうね!」

唯は抱きしめる手に、力を込めた。

憂「お姉ちゃん、苦しいよ。」

二人は、笑顔を作って離れた。

第二話 入隊!  おわり



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最終更新:2011年02月02日 04:37