第一話 戦争!

唯たちが大学を受験するあたりに、戦争が始まった。
それから10ヶ月を経たある日のこと。
それは、紬の一言から始まった。

紬「みんなには悪いんだけど、私、バンドを辞めなければならなくなったの…みんなにも…もう会えないかもしれないの…。」

紬の目には溢れんばかりの涙が溜まっている。辞めるのは望んでのことではないだろう。たまりかねた律が口を開く。

律「ムギ…何かあったのかよ。いきなりそう言ってもみんな納得できないぜ。」

澪「そうだぞ。今は世間も冷たいけど、いつかきっと平和な時代が来るから、それまで頑張ろうって、練習場所を提供してくれたのもムギじゃないか。」

唯「そうだよ、ムギちゃんがいないと練習さえできなくなっちゃうし、なによりムギちゃんのキーボードがないと、放課後ティータイムじゃないよ!そんなのいやだよ!」

梓「ムギ先輩、よかったら理由を話してください。」

時は宇宙世紀0079、後に一年戦争と呼ばれる戦いの真っ只中である。

大学内でも活動が制限されはじめ、なんとかコロニーの有力者である父を持つ紬を頼って、世間の冷たい視線を避けて練習する場所を確保し、安堵していたところであった。

紬「私の父が、スペースノイドの独立運動に関わっていることは知っているわよね…」

一同は、頷いて紬に視線を向け続ける。
思えば紬がこういう類の話をしたことはなかった。
重要なことが起こっているのだと、理解できる。

紬「でも父はジオン派だったから、ザビ家とは折り合いが悪いの。」

紬「色々あったんだけど、それが原因で、私軍隊に入ることになっちゃったの…人質みたいなものかしら。」

たまらず律が口をはさむ

律「ちょっと待てよ。なんでムギが軍隊なんか行くんだよ。」

紬「最近、ジオンは旗色が悪いわよね…」

唯「ほえ?テレビでは勝ってるって言ってたよ?」

澪「バカ、昨日だかにオデッサの鉱山を放棄しちゃったし、大きい声じゃ言えないけど、負けてんだよ。」

梓「そうですよ、連邦軍が宇宙への大反攻作戦を計画してるって話もありますし。これ、アングラの出版物がソースですけど。」

紬「それでね、軍は長期戦に備えて、学生の動員も視野に入れ始めたらしいの。そしてその先駆けを、私にやれってことなのよ。」

紬「艦もMSも、家のお金で用意させられたわ。だからみんなが練習に使っているこのスタジオも、もうすぐ人手に渡っちゃうの。」

紬「私がみんなに練習を続けようってわがまま言っておいて、みんなを裏切るようなことになっちゃって、本当に申し訳ないと思っているわ。」

紬は泣きながら頭を垂れた。
重い沈黙が響き渡る。
それを破ったのはまたしてもバンドリーダーの律だった。

律「ムギ、それさ、私も一緒に行けないか?」

一同の視線が律に集まる。紬も泣きはらした目をこすりながら律を見上げる。
律の表情は真剣そのものだった。

澪「おい律、お前何言ってるのかわかってるのか?死ぬかも知れないんだぞ?戦争なんだぞ!」

律「分かってるよ、分かってるから行きたいんだ。」

澪「お前は絶対わかってない!」

律「さっき唯も言ってたよな、放課後ティータイムはムギがいないと駄目なんだ。ムギをひとりで死なせたら、私は絶対後悔するし、このバンドも終わりだ。」

澪「りつぅ…」

最早泣き顔の澪は上手く声が出ず、反論ができない。さらに律が続ける。

律「ムギが言ってたことが本当なら、いずれ私らも徴兵されるだろうしな。そうなったらムギがひとりで死ぬどころか、みんなバラバラで、あの世でバンド組むにしても、探す手間が大変だ。」

律「だから私は、ムギと行きたい。一人でなんか、絶対に行かせないからな、ムギ。」

紬は、相談したことを深く後悔していた。

しかしそれに追い打ちをかけるように唯が続ける。

唯「私もつれてってよ、ムギちゃん。」

梓「唯先輩はダメです!邪魔になるだけです!」

唯「あずにゃんは黙ってて!」

梓の目にもあっという間に涙がたまって今にも溢れそうだ。
唯は続ける。

唯「ムギちゃん、わたしね、毎日家で練習してるんだけどね…」

梓「ゆい…せんぱい…」

唯「みんなと演奏してるのを思い浮かべながら弾くと、すごく楽しいし、練習も上手くいくんだよ。」

唯「でも、もし誰かが死んじゃったら、きっと想像の中でも、その誰かがいなくなっちゃって…私きっと…練習できなくなっちゃう…」

いつの間にか、その場の全員が泣いていた。

唯「そうしたら…私…和ちゃんがいうように…何もできないニートになっちゃうよ…」

和は、唯とは違う大学だったが、入って早々つまらないと言い残してどこかに消えていた。彼女なりの道を見つけたのだろうが、唯にとっては寂しい話だった。

紬「唯ちゃん、艦にギターは持ち込めないわよ・・・」

唯「ムギちゃんと一緒に居させて!ギー太は帰ってきたら弾くことができるけど、ムギちゃんは…わたし、そんなの嫌だよ!」

紬「りっちゃん…唯ちゃん…ダメよ…お願い…諦めて…」

紬「私も辛いけど…みんなを巻き込むのはもっと辛いの…」

律「巻き込むとか、そういう事言うな!」

唯「そうだよ、ムギちゃん!」

熱くなってきたその場の空気を、澪が静めるように、言った。

澪「もうさ、話し合いになってないぞ…今夜一晩頭を冷やして考えて、明日また話しあおう…な。」

それを聞いて律と唯が急いで帰り支度をはじめる。

律「私はもう決めたからな。これから家族を説得しなきゃならないから、先に帰るぞ、澪。」

唯「私も憂を説得しに帰るよ。あずにゃん、悪いけど先行くね。バイバイ。」

二人が帰ったあと、紬はか細い声で謝り続けた。

紬「ふたりとも…ごめんなさい…私が軽率に相談なんかしなければ…」

澪「…ムギは悪くないよ…だから心配しないで、今日は帰って休もう。」

梓「そうですね…明日また話し合いましょう。ムギ先輩、ひとりで消えたりしないでくださいね。唯先輩と律先輩、何するかわかりませんから。」

紬「うん…明日、必ずまたここに来るわ。」

澪と梓は、話し合いながら一緒に帰っていた。

澪「なあ、大変なことになったけど、梓はどうするんだ?」

梓「私は、唯先輩が行くなら、ついていこうと思います。」

澪「あ…梓、それって…やっぱり唯のこと…///」

梓「ち、違いますです!///あの人は私がいないと何もできないから心配なだけです//////」

澪(どうしてこう素直じゃないかな…私も律が心配でついていきたいけど…戦争……怖い…)


田井中家では家族会議が行われていた。

律「…というわけだから。私はもういないと思ってくれ。」

律父「…」

律母「…」

聡「姉ちゃん…なんでだよ。男の俺が行けばいいじゃないか!」

律「聡…お前は年齢制限に引っかかるから父ちゃんと母ちゃんを守る役だ。しっかりやれよ。」

律母「律…何も進んで志願することはないんじゃないの?」

律「さっきも言ったけどこれは私の仲間内の問題なんだ。ムギをひとりで行かせる訳にはいかない。」

律「私は荷物をまとめるから、もう部屋もどるぜ。」

律が逃げるように居間から出る。
話が長引けば、それだけ自分の決心がブレてしまいそうだったからである。
律も、怖かったのだ。
だが、紬を一人で戦場に送るという選択肢は律にはなかった。

聡「父ちゃんはどうして何も言わないんだよ!」

律父「どうせ一晩考えて、怖くなって明日にでも止めると言い出すに決まってる。愛国熱に浮かれてるだけだからほっとけ。」

律父の読みはほぼ当たっていた。
紬という仲間の命がかかっていなければの話であるが。


……

憂は、泣いていた。

憂「お姉ちゃん、断ってきてよ。今すぐ!」

唯「いやだ。私ムギちゃんと行くって決めたんだよ。」

憂「お父さんもお母さんも地球で戦闘に巻き込まれて死んじゃって、今度はお姉ちゃんも戦争に行くなんて、私そんなの嫌!!」

憂が突然立ち上がり、受話器のボタンを操作する。
琴吹家に電話して、唯の入隊を阻止するためだった。
唯がそれを止める。
琴吹家の番号が表示されたコードレスの受話器が床に転げ落ちた。

唯「私、ちゃんと帰ってくるから、憂はおとなしくお留守番してて!」

憂「嫌だ、お姉ちゃん!行かないで!」

姉妹喧嘩は、一晩中続いた。


次の日、紬がスタジオに入るとすでに何人かは荷物まで持ち込んでいた。
今すぐでも入隊可能なくらいである。

律「よう、ムギ。荷物はこんなもんでいいか?私のおやじったら、家出る時、口をあんぐり開けちゃって、傑作だったぜ。」

紬「そ、そう…って、憂ちゃんまで!?」

憂「私、お姉ちゃんについていきます。」

唯「ごめん…私が止めきれなかったの。」

澪「私も決めたよ。みんなバラバラは、嫌だからな。」

紬「梓ちゃんは?」

律「何か手間取ってるって唯の方に連絡があったってさ。受験生だし、こないんじゃないか?」

話している先からドアが開いて、梓が現れた。

梓「遅れてすみません…ちょっと言い辛いんですけど…」

純「やっほー。来ちゃったよ。やっぱり憂もいるね。」

憂「純ちゃん!どうして!?」

純「昨日電話したら、梓が学校辞めるって言い出してさあ、問い詰めたったわけ。憂は電話にすらでなかったし。」

純「私も憂みたいに両親死んじゃったし、軍隊はご飯困らないしね。」

紬が、観念したように口を開く。

紬「みんな、今日一日だけ良く考えて。明日の8時にうちで適正検査を行うわ。」

律「私はもう家出てきたからここに泊まるぜ。」

次の日、全員が琴吹家に集合していた。
適性検査は丸一日掛かり、次の日には結果が出た。
ただ、結果が知らされるのは一週間の基礎訓練の後になる。
適性検査の結果で大体の職域が振り分けられるが、基礎訓練でその絞り込みが行われる為である。
適性検査の次の日から、軍の施設で基礎訓練が始まった。

第一話 戦争!  おわり




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