梓「…ん?」

部活に向かう途中、普段は使われていない空き教室で話し声が聞こえ、立ち止まりました。

梓「なんだろ…誰か居るのかな?」ガラガラ

空き教室は基本的に用がないときは立ち入り禁止だったので、なんとなく中を確認しようとドアをあけました。

別に、校則違反だからどうこうとか、そういうのは全くなくて、本当にただなんとなく気になったので。

ドアを開けると、女子が3人。多分、隣のクラスの人だったような気がします。3人は慌てたようにこっちに振り向きました。

女子1「!な、中野さん…!」

女子2「あわわ…」

3人は慌てながら、机の上に広げた本のような物を、鞄の中に素早く仕舞いはじめました。

梓「あ、あのごめんなさい。別に先生に言ったりしないので…わあ!」

3人はしきりに慌てながら、突き飛ばすようにして私の横を走ってすり抜け、そのまま廊下を駆け抜けて行きました。

梓「な、なんだったの?…ん?」

3人を呆然と見送り、改めて教室を見渡すと…机の中に、一冊の本があるのが見えました。

梓「あ…忘れて行ったのかな?」

相当慌てているようだったので、多分机の中に入れた一冊を取り忘れたのでしょう。

届けてあげた方がいいかな、と思い、その本を机から出しました。

梓「え…な、なにこれ…?」

それは、B5サイズの、非常に薄い本でした。こんなのは、本屋さんで見た事がありませんでした。

しかも、その表紙が…なんだか、凄い事になっていたのです。

梓「え…これ、もしかして、唯先輩?!」

栗色のセミロングに、髪留め。桜ヶ丘高校の制服。ほにゃっとした柔らかな優しい表情。

絵ではありましたが、それは間違いなく、唯先輩をモチーフにしたものでした。

その唯先輩は、表紙の中で一人の女の子を抱きしめていました。

長い黒髪を頭の両側で結んだ、小柄な女の子。

その女の子は、顔を真っ赤にしながらも、しかしまんざらでもなさそうに唯先輩を見つめながら、ちょっと堅い笑顔を浮かべています。

自分の背中に回された腕に、ちょっと控えめに手を添えて、ぎりぎり抱き合っているようないないような、そんな感じの構図で。

そして、その少女は…

梓「わ、私?!これ私?!」

今まで感じた事の無いショックを受けました。どう表現したら良いのでしょうか?自分が勝手に、絵に描かれて、しかもそれが本になっているのです。

しかも、この構図は…!

梓「こ、こんなの勝手に!な、なんなのコレ?!」

心臓がどくどくと脈打って、手に変な汗をかいていました。そうだ、中身は。中身はどんな内容なんだろう。

梓「…ひっ!」

適当にバラバラとめくっていると、絵の中の唯先輩と私は、ベッドの中で抱き合いながら、…キスをしていました。

梓「なにこれ…なにこれ…!」

バラバラと、ページの最初から最後を行ったり来たりして、内容を把握しました。

私が、唯先輩に、こ、告白して、唯先輩が受け入れて…そのまま、ベッドでキスするという、それだけの内容。

だけど、絵とは言え、自分達をモチーフにした人物が、女同士でそんな事をすると言う内容は、非常に衝撃的で…!

梓「…はあ、はあ。なにこれ、なんなのこれ」

息が乱れ、心臓も乱れ、私は明らかに動転していました。だから、背後から声がかけられ、私は思わずその本を鞄の中に隠してしまったのです。

純「梓ー?」

梓「ひあっ!」

純「おーい梓ー、こんなところで何してんの?」

梓「な、なんでもないっ!なんでもないから!」

いそいそと、教室から出て、純と合流しました。立て続けにびっくりして、私の心臓はもうどうにかなってしまいそうなほどドキドキしていました。

純「あっそー?じゃー、私ジャズ研いくから。じゃあねー」

梓「う、うん。じゃあね」

追求されたらどうしようかと思いましたが、純はあっさりと解放してくれました。気を遣ってくれたのか、特に勘ぐる事がなかったのか…とにかく、見つかったのが純で助かりました。

梓「…どうしよう、これ」

流れで持って来てしまった、さっきの本。

しばらく悩んだ末、…結局、そのまま持って行く事にしました。明日、持ち主にあたってみて、返せそうなら返そうと思いました。

机に戻しておけばよかったのかもしれませんが、改めて机に戻すのも気後れしたし、それに…

なんとなく、なんとなくだけど、…この本を、ちょっと手放したくなくなっていたのです…。


じたく!

梓「はあ…」

今日の練習は散々でした。

唯先輩を意識するあまり、なんだか演奏が滅茶苦茶になってしまって、皆から心配されてしまった程です。

結局、ちょっと風邪気味だと嘘をついて、今日は早めに部活を切り上げさせてしまいました。

梓「はあ…なにやってるんだろう」

ベッドに倒れ込むように横になりながら…さっきから気になっているのが、あの本の事でした。

梓「…持ち主の、名前とか、書いてないかな」

書いてある訳ないと思いながらも、一応目を通す事にしました。…いや、これは口実でした。

私は、この本の内容が気になってしょうがなかったのです。

梓「…ありえないよ、こんなの。女の子同士で、こんなの…」

はあ、はあ。

梓「…だって、唯先輩が、こんな…私の事なんか、好きな訳ないもん…」

はあ、はあ。

梓「…唯先輩に…告白したって、きっと断られるもん…唯先輩が…こんな…ある訳ないもん…」

はあっ、はあっ。

梓「…唯先輩…唯先輩…!」

はあっ、はあっ…!


罪悪感で一杯でした。

私は、その本を使って…唯先輩にベッドに押し倒されて、抱きしめられながらキスされるシーンを使って、オナニーしてしまいました。


梓「…あー…」

枕に顔を埋め、自らの愚行をひとしきり悔いました。

梓「…でも、本当に唯先輩にああいう風にされたら…気持ちいいだろうな…」

枕をぎゅうっと抱きしめます。顔が火照って、多分耳まで真っ赤になっている事でしょう。足をバタバタさせて、気を紛らわせました。

ちらり、と、サイドボードに放ったあの本を見やります。あ…人に、見られるとまずいから、隠さないと…

本を手に取って、またパラパラとめくりました。

梓「ん…?」

奥付に、作者のものと思われるHPのURLがありました。

梓「HPあるんだ…!」

がばっと、ベッドから起き上がり、机のノートPCに向かいました。

梓「えーと、http…。うわ…!すごい…」

BLOG形式のHPで、記事ごとにCGが掲載されていました。そして、そのCGは…。

梓「これ、全部私たちなの…?」

黒髪のロングヘアー。これは多分澪先輩。カチューシャをつけているのは律先輩。金髪のロングヘアーはムギ先輩。

けいおん部のみんなが、抱き合ったり、キスしたり、しているCGが、たくさんありました。

梓「あ…なんか、違うのもあるんだ」

けいおん部以外のものもたくさんありました。知っている漫画のキャラクターのCGなどもあって、なるほど、これはいわゆる同人というやつなのだと、今更の様に思い至りました。

梓「あ!この本が売ってる…!」

サイドバーのリンクに、この本の表紙の絵があり、クリックすると別のECサイトにリンクしました。

梓「700円…うう、結構高いなあ」

他の本も何冊か見てみましたが、だいたいそのくらいの値段でした。

梓「どうしよう…これ、欲しい。他にも欲しいのが一杯ある」

…結局、その日、ネットを遅くまで物色していて、気づけば午前4時になっていました。寝不足確定…。


がっこう!

梓「…おはよー」

純「おはよー…って、梓。どうしたの?体調悪いの?」

憂「梓ちゃん、顔色悪いよ?大丈夫?」

梓「…うん、大丈夫…」

憂。純。

昨日のサイトから辿って、他のサイトにも行きました。他のサイトにはこの二人を扱った本もありました。

サンプルしか見てないけど、この二人が、…Hしたりとか…まあ、色々。

純「ははあ、さては深夜のエロサイト巡回で寝不足なんじゃないの?」

梓「なっ!ち、ちがっ!ばか純!」

あまりに図星で、無様に取り乱す私。

純「あはは、ごめん!でもなんか、一応元気そうだね?すごい顔色悪いからさあ」

3時間しか寝てないからね…

こんなに短い睡眠時間で学校に来るのは初めてでした。授業ちゃんと聞けるか心配です…


ほうかご!

結局、殆どの授業を寝て過ごしてしまい、何度も先生に怒られてしまいました。

休み時間の度に、純に茶化されて、今日は本当に失敗しました。

…さて。

今私は、ある所に向かっていました。

そのある所とは…

ガラッ

無人の教室。普段は使われていない、未使用教室。

梓「…別の本が、入ってる…」

昨日、この本が入っていた机に、また別の本が入っていました。今度は3冊も。

手に取って、表紙を確認すると…

梓「…こ、これは…」

一冊目。

私と憂が、唯先輩に首輪とリードを着けられ、犬の様に四つん這いでハイハイしているという、過激な表紙。

中身は更に過激で、唯先輩におしりを向けた私と憂が、うしろからオモチャで何度もイカされているような内容。

オモチャを入れられたままハイハイさせられたり、憂とちゅうしながら唯先輩の指で二人同時にイカされたり、唯先輩の足の指を憂と一緒にぺろぺろさせられたり…

私と憂は、唯先輩のペットになっていました。こんな、倒錯的な概念がある事を、今日初めて知りました。

今日のおかず、決定。


二冊目。

今度は、趣向を変えて、澪先輩と律先輩の本。

内容は、律先輩と澪先輩の恋愛話。お互いに好き合っているのに、結局お互いに打ち明けられず、二人は別々の大学に…そして、徐々に疎遠になっていって、それでもお互い、ずっと思い合っていて…

最後、澪先輩の結婚式の招待状に、律先輩が不参加に丸を付け、そしてポストに投函し、そこで二人の関係が、本当に終わる…。そんな内容。

さっと内容を読んだだけでしたが、切なくて涙が出そうになりました。


三冊目。

これは、昨日見つけた本でした。憂と純がHする内容。

ストレートに、純が憂に告白し、そのままHするというストーリー。ひねりが無い分、Hの描写が濃厚。超濃厚。

女の子同士って、こうやってHするんだ…。ごくり…。

はっ、と、我に返って周囲を警戒します。幸い人の気配はなかったので、私は昨日の本を机に戻し、新しい3冊を鞄に入れて、部活に向かいました。

家で、さっきの本を熟読出来ると思うと、今からわくわくしました。

梓「これ…借りても良いんだよね…?」

梓「…ん?」

本の間に、ルーズリーフが一枚、挟まれていました。

梓「なにこれ…リクエストシート…?」

本の名前がリストアップされて、横にチェックと、感想を入れる欄がありました。ああ、なるほど。

こうして、私と彼女達の、不思議なコミュニケーションが始まりました。


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