―――― こうえん ――――

梓「いきますよー!」

紬「どんとこいでーす!」

ぽーん!

紬「…っっと、それ!」

ぽーん!

梓「なんの。それ!」

ぽーん!

紬「…!!そこね!」

ビュン!

梓「あっ!! …やられました」

紬「ふふ。また勝ちね!」

ムギ先輩はちょっと運動苦手って言うイメージがあったんですが以外にも強いです。
いや、私が弱いだけなんでしょうか?

はい。今公園でバトミントンしてます。
適度に広くて小奇麗にしてあるのに、休日でもあんまり人もいなくて。いいところです。
私たちがちょっとはしゃいじゃっても、全然大丈夫。

梓「もう一回行きましょう!」

紬「いいわよ~!」

そういえば、予定ではここで二人の仲が急接近するらしいです。
でも、バトミントンでどうやって急接近?よくわからない。

……まあ、こうやって小さい子供みたいにはしゃいでるだけでも。
十分ふたりの距離は縮まったような。そんな気がする。

私なんかは特に、あまり親しくない人の前でこんなにはしゃぐこともない。
ムギ先輩もなんというか、しっかりと場をわきまえる人だけど。

でもはしゃぐときはこんな感じで。自然と相手に気を遣わさないようにできる人なんだ。
すごいなぁ。私には真似できそうにない。

本当に無邪気にはしゃいでる先輩は、とっても輝いてて、可愛らしかった。



梓「あっ…」

やばっ!ぼーっとしてたら真上に上げちゃった。

紬「おおおお!」

梓「…って!えええ!」


ムギ先輩シャトルしか見てない。
つまりすごい勢いで私に突っ込んできてます。

あー。交通事故とかの時、景色が流れるのがゆっくりに見える。
って言うけど、きっとこんな感じなんだろうなー。


『どん』っていうより『むにゅ』っとか『もふっ』って感じでした。
なにがって、そりゃ……ぶつかった時ですよ。ええ。
当然そのままの勢いで、押し倒される形になったわけで。

梓「いったた……」

紬「ごめんなさい!大丈夫!?」

梓「はい、なんとか……」

その、押し倒されてること以外は。
おもに理性的な意味で。

紬「でも、顔真っ赤よ。どこか打ったんじゃ…!?」

梓「いえ、ほんとに大丈夫ですから!」

ドキドキしてるだけですから。
ああ!近い!近いです。いい匂いします!これはやばいです!

梓「ほら!大丈夫ですから!」

勢い良く立ち上がります。なんとか無事をアピールしてこの状況を脱しないと!


紬「そう…?」

梓「はい。もうそれは!むしろ元気でてきました!」

紬「?? ふふっ。変な梓ちゃん」

この急接近は予想外でした。


――――――――

紬「今日は楽しかったわね~!」

梓「そう言っていただけると、私も嬉しいです」

あの後は、ゆっくりお喋りでも、というお互いの希望で休憩がてら喫茶店に。

お茶してお喋り、なんて。言葉にするといつもの部活と変わらないけれど。
それも今日は二人っきりっていう、ちょっとした特別。
普段は話さないようなお互いのことも、色々知れました。

好きなこと。嫌いなこと。今までのこと。これからのこと。
思ってた以上に、私たちはお互いのことを知らなくて。

でも、こうやって知っていくことができる。
それからもっと。知りたいと思う。

お互いのことを知るっていうのは、とっても大切な事だよね。
……あとで純にちゃんとお礼を言っておこう。


紬「梓ちゃんはとってもエスコート上手だったし」

梓「そんなことないです。初めっからムギ先輩に助けられましたし」

紬「なんのことかしらね~」

梓「……ふふ。ほんと、なんのことでしょうかね」



紬「でもほんとに楽しかったから」

紬「ありがとう。ね」

梓「いえ、こちらこそ。今日は付き合ってもらってありがとうございました」

紬「私が一緒に遊びたいから来たのよ?」

紬「だから梓ちゃんががお礼を言うことなんて無いの」

なんか今日はこんなのばっかりだなぁ。
はしゃいでる時はすっごく子供みたいなのに
こういう時はどうあってもかなわないくらいお姉さんだ。
ほんとに不思議な人。

梓「はい。わかりました」

梓「でも。言わせてください。ありがとうございます、って」

梓「私は、そういう風に出来てるので」

梓「そしたら。ムギ先輩は今みたいに、いいのよ。って言ってください」

梓「そういうの、駄目ですか?」

紬「何だか大人ね~」

梓「先輩にはかないません」



紬「そういうのも、素敵ね」

紬「じゃあ、そうしよっか。これからも」

梓「はい。そうしましょう。これからも」



そういえば、『策に溺れる』なんていうのがあったけど
結局それだけ分かんなかったな。

まあそんなのは無いほうがいいんだけど。
何でもかんでもその通りになるわけじゃないしね。

そう考えれば、なんだかんだでデタラメに見えたプランも
終わってみれば十分な成功だ。

…だったら、最後までやってやるです。
いろんな偶然や、巡り合わせに、感謝を込めて。

梓「ねえムギ先輩。三本締めしましょう!」

紬「…唐突ね。ここで?」

梓「はい!いまここで!」

紬「……ふふっ。今日の梓ちゃんは本当に面白いね」

紬「いいよ。やろっか!」

梓「ありがとうございます!」

ぱんぱんぱん。と乾いた音が響く。
街灯も灯りきった街中で三本締めなんてしてる私たちは
さぞかし奇妙なんだろう。でも、そんなことは気にならなかった。

どちらからでもなく、私たちは笑いあった。
こんなことも、この人と一緒なら、こんなに楽しい。

一緒に笑うあなたも、同じ気持だと。思ってもいいですよね?

紬「さて。じゃあ今日はこのへんでお開きかしら」

お腹もすいてきちゃったしね。なんて可愛らしく言う先輩。
そう、事前に話していた予定では、今日のデートはこれでおしまい。

用意されていたレールはここまで。
あとは、私が自分で何とかしなきゃ。

梓「まってください」

紬「?」

梓「最後に少しだけ。お話があるんです」

紬「……大事なお話ね」

梓「…もう。本当に先輩には頭が上がりませんね」

紬「いっつも見てるもの。それくらいは分かるわ」

梓「すごいですよ。きっと私には無理です」

不思議なくらい、落ち着いてた。
だって、もう気持ちははっきりしてるから。

勘違いじゃなかったよ。この気持ち。
ううん。きっとはじめから分かってたんだ。認められなかっただけで。
それはきっと、どうしたらいいか、分からなかったから。

でももう大丈夫、ちゃんと受け止められるよ。

お姉ちゃんみたいで、それなのに妹みたいで。
甘えさせてくれるのに、自分もどこか甘えたがりで。
すごく大人っぽい一面を見せた途端に、子供みたいにはしゃいだりする。

ほんとに、不思議な人だ。
そんなこの先輩が。好きなんだ。私。

だからね。どうすればいいのかも。もう分かるんだ。

ゆっくり息を、すって。はいて。…うん。大丈夫。
でも。何から話せばいいのかな?

……そうだ。
こんな時にぴったりな歌を、私は知ってるんだ。
その歌ではね。この言葉から始めるんだ……


―――― またまたある日 ――――

梓「おっはよー」

憂「おはよ~梓ちゃん」

純「お~っす」



純「おー。その様子だと、上手く行ったみたいだね」

梓「……私ってそんなに分かりやすいのかな?」

純「うん。だいぶね!」

梓「気をつけよう…」

憂「でも梓ちゃんが元気になってよかったよ~」

梓「ありがとー憂」

純「私の言ったとおりだったでしょー!」

梓「うん」

純「…はれ?」

梓「ほんとに今回は純にお世話になった」

梓「ちゃんとお礼言わなきゃと思って」

梓「ありがとう」

純「そ、そう?…えへへ」


憂「あ~純ちゃん照れてる~」

純「なんか梓に素直にお礼言われるとねー。くすぐったい」

梓「もう、どーゆー意味よ?」

純「まあ、これからもなんかあったらこの純様に任せなさい」

梓「このボンバーはすぐにこうやって調子にのる…」

純「だれがボンバーだって!?」

憂「まあまあ…」

梓・純「……あははっ!」

憂「ふふっ」

純「まああれだ。元気になってなにより」

憂「ほんとだね。私も嬉しいよ」

梓「…ありがと。二人とも」

純「いいっていいって」

純「それよりさー!」

純「ねぇねぇ!相手の人、教えてよ!どんな人か」

梓「どーしようかなー?」

純「あーなによ。余裕こいちゃってー!」

純「私たち三人の協定を破って抜け駆けしたんだからいいじゃない!」

梓「いつそんな協定を結んだかわかりませーん」

純「まあ無いんだけどね!そんなの! でも聞きたいじゃん!」

梓「ほんとにこの子は……」

純「あ、今子供扱いしたよね。ねぇ?」

憂「私も聞きたいな~。もちろん、ムリならいいよ」

憂「話せる時で、ね」

梓「ほんとに憂は素晴らしい人だ」

純「無視した上にさりげなく非難しないでくださーい。泣きそうでーす」

そうだね。いつまでも黙っているつもりもなかったし
ここで話してしまおっか?

――「梓ちゃーん。なんか軽音部の先輩が来てるよー」


そうだ。約束してたっけ。お弁当、作ってきてくれるって。
朝来るのは予想外だったけど

恋人にお弁当作っていくの、夢だったの~。なんて。
すごく嬉しそうに言ってた。
それを思い出して、私も自然とにやけてしまう。

憂「あれ?紬さん」

純「紬先輩?」

紬「おはよう。二人とも」

紬「はい。梓ちゃん。お弁当」

梓「ありがとうございます。お昼に持ってきてくれても良かったのに…」

紬「いいのよ。梓ちゃんの顔見たかったし」

その言葉ひとつで、私の顔はふっと熱を帯びる。
こういう所では、やっぱりこの人にはかないそうもありません。

純「あのさー…聞いてもいい?」

梓「だめって言ったら?」

純「もう言ってるようなもんだけどねー」

そうなんだけどね。

あらあら、なんていってこの先輩はお姉さんの笑を浮かべてるし。
憂はわかってるよー。って言いたげに優しく微笑んでいて。
純は純で、ようやくかって感じで。
ちょっと呆れたように。それでも優しく笑ってて。

梓「うん。でも。ちゃんと言っておくね」

梓「私、ムギ先輩と付き合うことになりました!」


おしまい