こんにちは。中野梓です。
いきなりですが、今、私にはとある重大な計画があります。

ガチャ

紬「あら、梓ちゃん一人?」

梓「は、はい。今日は皆さんまだ来ないみたいで」

紬「そういえばみんな用事があるとか言ってたような…」

そうでしょう。他の先輩がたに用事があるのを確認した上で
二人っきりになれるタイミングを計りましたので。

紬「せっかくだからお茶飲んでいく?」

梓「はい!いただきます!」

紬「ふふ。じゃあちょっと待っててね~」


琴吹紬先輩。通称ムギ先輩。
軽音部のキーボード担当。作曲もできちゃいます。

おっとりぽわぽわで、優しくてとっても綺麗で
しっかりしてるのに、すごく子供っぽいところもあって。
いつも抱きついてくる唯先輩と並んで、軽音部のマスコット的な人、とでも言いましょうか。
とても皆に愛されています。当然私もその中の一人。


紬「はい。おまたせ。熱いから気をつけてね」

梓「ありがとうございます!」

紬「あらあら。なんだか今日の梓ちゃんは元気いっぱいね」

梓「へ!? そ、そうでしょうか?」

多分緊張してるだけだと思います。
そう、これからしようとしてることを考えれば緊張しないわけがありません。
こんなこと、今までなかったし……ましてや相手が先輩で、……女の子なんだもん。

いや、これはそう言うのじゃなくって、うん。
もっと単純な、普通の女子高生がするようなこと。
憂や純とだって、よくしていること。何も緊張することないよ。

そう言い聞かせないと、心臓が破裂しそう。
それはきっと、その行為に特別な気持ちがこもってるから。…だと思う。

それを、はっきりさせなきゃいけないから。だから。

梓「あ、あの!ムギ先輩!」

紬「はい?なにかしら?」

梓「え~と、あの、その~」

紬「??」

梓(ええい。もう! やれるよ私!今言わないでどうするの!?)

梓(そのためにこうやって二人っきりになったのに!)

紬「梓ちゃん?」

梓「あのですね!!」

紬「は、はい!」

梓「今度の休みの日、お暇ですか!?」

紬「え?……うん。特に予定はないわよ」

梓「じ、じゃあ……」



梓「その、もしよかったら……二人で、遊びに行きませんか?」


―――― すうじつまえ ――――

梓「はぁ~……」

純「どうしたの、梓。朝からため息なんかついちゃって」

梓「ん~……。なんでもない~」

憂「なんか最近元気ないように見えるけど……ほんとに大丈夫?」

梓「うん。体調悪いとかじゃないから……ありがとね」

純「ハイテンションでいろとは言わないけどさ~」

純「なんかそんな風にしてるのも、梓らしくないよ」

梓「私らしいって何さ~…」

純「ああ!もう!なんか調子狂うなぁ」

憂「純ちゃんたら…」

朝っぱらからダウナーな私を心配してくれる仲良し二人組。
純粋に嬉しい。こんな友達を持った私は幸せものだろう。

人付き合いが上手い方ではないのは分かってる。
そんな私ともここまで仲良くしてくれるんだ。ほんと、二人には感謝してる。
恥ずかしいから面と向かっては言えないけど……

でも、そんな二人にさえ、今の私が沈んでいるその理由を明かすのはためらわれる。

純「あー!分かったかもー!」

梓「なによもう。いきなり大声出して……」

純「梓さー」

純「好きな人でもできたんでしょ!?」


なんでこのモップはこう変なところで妙に鋭いのか……


純「…今心のなかで私のこと馬鹿にしたでしょ!?」

梓「……してないよ」(嘘だけど)

憂「まあまあ純ちゃん落ち着いて」

憂「でもでも、そうなの?梓ちゃん!?」

梓「なんで憂はちょっと嬉しそうなのよ……」

憂「いや~、なんか今までそういう話したことなかったな~って思って」

梓「憂がそういう話に興味あるのも…ちょっと意外かも」

憂「え~そうかな~?」

純「お姉ちゃん一筋って感じだもんねー」

憂「それはそうなんだけど」

梓・純(否定はしないんだ)

憂「でも、やっぱり恋のお話は興味あるよ」

憂「他ならぬ梓ちゃんのだし。ね?」

純「たしかに!あの梓がね~。ニヤニヤ」

梓「ニヤニヤ言うな。それにそんなんじゃ……」


……でも、はっきりと否定もできなくて。

ここ数日、寝ても覚めても思い浮かぶのはムギ先輩のことばかりで。

ムギ先輩のことばっかり考えてる。
キッカケはなんだったのか、なんて考えてたのも随分前のことのような気がする。
要するに分からなかったわけだけど。

この気持がなんなのか、今の私ははっきりとした答えを出せていない。
だけど、たぶん。そうなんじゃないかって、思っていることはある。
でも、勘違いかもしれない。いや、はっきり認められないだけなのかな。

考えれば考えるほどわからなくなってきて
はじめはちょっと浮き足立ってた私も、今はこんな風に沈んでばっかりだ。

だから……ひょっとしたら、何か分かるんじゃないかと思って。
変わるんじゃないかと思って。


梓「……もし、そうだって言ったら?どうする?」


純「うゎお!ホントに!?」

憂「梓ちゃんおめでと~!」

梓「何がおめでたいのよー。…付き合ったりしたわけじゃないっって」

純「でもさ!好きな人できたのはホントなんでしょ?」

梓「よく分かんないんだよ。実際」

純「はい?どゆこと?」

梓「……その人のこと、すっごい気になるんだけど」

梓「ず~っと考えてるんだけど。でも、それが好きって気持ちなのかどうか」

梓「ハッキリとしなくて、さ」

梓「はぁ~……」

純(こんな物憂げな表情でそんなこと言われてもな~…)

憂(これはどう見ても恋だと思うんだけど…)

純(あ、やっぱり憂もそう思う?)

憂(うんうん。きっとそうだよ!)

純(ほんと、思ったよりも食いつきがいいね…)



純「……よし!じゃあ私がいい案を授けてあげよう!」

梓「なんか純が自信満々だと逆に不安なのはなんで…」

純「今日の梓さりげにひどいよね。私泣くよ?」

梓「はいはいごめんねー」

純「ひどいよね!?」

梓「それで……どうしたらいいの?」

純「ふっふっふ。聞いて驚くなかれ」

梓「大丈夫。多分驚かないから」

純「あー、なんかイラつくわ」

憂「もう、梓ちゃん!」

梓「ごめんごめん。ちゃんと聞くから」

純「もう!……じゃあ、気をとりなおして。ズバリ言うけど」



純「デートしなさい!」


…………

梓「は、はいいいぃ!?」

純「あ、驚いた」

憂「驚いたね。すっごく」


梓「え!なんで!?どっからデート出てきたの!?」

純「まあまあ落ち着きなよ梓」

梓「これが落ち着いていられるか~!」

憂「まあまあまあまあまあまあ」

純(6回…)

純「ただ思いつきで言ってるわけじゃないって」

梓「…ほんとに?」

純「ほんとほんと。まあ聞きなさいよ」


純「要するに二人っきりで遊びにでも行きなさいってこと」

純「梓、多分その人と二人っきりになったこととかほとんど無いんじゃない?」

梓「まあ、たしかに。全くないわけじゃないけど…‥」

純「でしょ? で、たぶんお互いのことについてしっかり話したこととかもないでしょ?」

梓「…なんかこうも当てられると悔しいけど、おっしゃるとおりです」

純「だからデート。ふたりだけでいろんなとこ行って。いろんなことして。いろんな話して」

純「相手のことがもっとよくわかるし。自分をもっと知ってもらえるし」

純「そのおかげで分かる新しい一面とかも、きっとあると思うんだ」

純「なにより相手と一緒にいるときの自分の気持ちともしっかり向き合えるし」

純「そうすればきっと、分かるんじゃないかな?梓自身の気持ちがさ」



純「要はさ、もっとお互いのこと知るのが必要なんじゃないかな」

純「そこまで思ってるのに気持ちが固まらないってのは、それが足りないからかなー、と」

純「そこで手っ取り早いのがデートってわけ」


梓「……」

憂「……」

純「え、なに?どうしたの?ふたりとも黙っちゃって…?」



梓「純すごい」

憂「純ちゃんすごいね」

純「へ?」

梓「なんかすごい真面目なこと言ってる。色々考えてるんだね」

憂「すごいよ~。私ちょっと感動しちゃった」

純「え?あれ?そう/// なんか照れるな~」


梓「モップなんて思ってごめんなさい」

純「いまさらかい。もうアドバイスしないぞあずにゃん」

梓「だからごめんって。…でさ、物は相談なんだけど」

純「はいはい。もうここまで言ったしなんでも聞きますよ」



梓「当然ながら、私、デートとかしたことないんだけど」

純「そこかー。まあ無さそうだもんね」

梓「それ怒っていいとこ?」

純「さっきの仕返しだ。まあそれは置いといて」

純「普段私たちと遊んでんじゃん。あんな感じでいいんだよ」

梓「実はさ…」

純「ん?なんだい子猫ちゃん?」

梓「ごめん。イラッとする。謝るからやめて」

純「あははは!いやいや、こっちこそごめんね。 それで?」



梓「私たちが遊びにいく時ってさ…」

梓「私から何かしたいって言ったことあんまりないんだよね」

憂「えーそうかなー?」

純「こないだ憂の家に泊まった時とかいろいろ言ってたじゃん」

梓「あの時は…ちょっと、まあ色々あってね」

純「うーん。でもそう言われてみるとたしかにそんな気もする」

梓「というわけで、デートともなると尚更なんだけど」

梓「プランなんて分かんないわけですよ」

憂「今まで私たちと行ったことある所とかは?」

梓「うーん。それでいいのかなー?」



純「もう、それじゃあもう一つ私が助け舟を出してあげよう!」

梓「なんか純がすごい頼もしく見える」

純「いつもそれくらいの眼差しを向けてくれてもいいのよ!」

梓「そういう所が良くないんだって…」

純「梓パソコン持ってたよね。はいこれ」

梓「アドレス?どっかのホームページの?」

純「そ。ここに行って、自分の名前と相手の名前を入れるとね」

純「なんと驚き!デートプランを自動で考えてくれるって寸法よ!」

梓「うわ、胡散臭」

純「えー。でも結構しっかりとしたプラン出してくれるって最近評判なんだよ」

梓「ほんとかな~…」

純「ありきたりなとこだけじゃなくて、意外なコースも出てきたりして」

純「そこがまた刺激があるとか、マンネリ打破!とかで人気なんだ」

梓「普通のところがいいんだけどな」

梓「まあ…自分じゃ決められそうもないし、やってみようかな」

純「でしょでしょ!やってみなって」

梓「…なんか遊んでない?私で」

純「何をおっしゃる。これも梓を思ってだよ」



憂「そういえばさ」

梓・純「?」

憂「いつの間にかデートしてみようって話で進んでたけど、大丈夫なの」

梓「……うん。まあ」

梓「私一人で考えてても、どうにもなりそうにないし」

梓「思い切ってやってみるよ」

純「おっ!なんか吹っ切れたみたいだね。よかったよかった」

憂「よかったね~!」

梓「ありがとね。二人とも」

憂「私は何もしてないから」

梓「いや、話聞いてもらっただけでも気が晴れたからさ」

純「まあ何かあったらこの純様に任せておきなさいって!」

梓「このモップには憂の爪の垢でも飲ませたい」

純「なんだとー!!」

梓「冗談冗談。純にも感謝してるって」

純「もうちょっと敬意を表してほしいなぁ!」

純「…ま、あれだ。元気になったみたいで何より」


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